赱馬燈

文字の大きさ
13 / 20
side:B

11

しおりを挟む
 転移後に判明した俺の能力は煉丹術だった。薬剤師免許は持っていないが、薬学部卒で知識はある。適性があると言われればそうかと思える。
 毒薬という言葉があるように、毒と薬は同じ物質として定義されている。よい影響を及ぼす物を薬と呼んで区別しているだけの、生体に影響を及ぼす性質を持つ化合物。過去に魔が差して一服盛ったことも適性に影響したのかもしれない。
 異世界に永住すれば警察を気にせずに生きられる。人生をやり直す機会と考えれば悪くない誘いだった。

 当初は無作為に集められたと思い込んでいた俺たちだが、異世界で過ごす内に嬉しくない共通点が判明した。
 鈴木は見た目通りの凶悪犯だった。強盗殺人で指名手配されていたらしい。佐藤はボンボンではなく、ホスト崩れの詐欺師。どちらも偽名でご同類だった。
 三人の犯罪者が異世界で勇者になった。そんな偶然もあるのかもしれないが、滅多にないだろう。恐らく故意に選んだのだ。だが、目的がわからない。何故そんなことを……?



 あの白い部屋で俺たちに提示された選択肢は選択の余地が無いも同然で、死にたくなければ異世界転移しろという極端なものだった。まさかこの世界は、あのぼさ神が要らない人間を棄てる場所なのだろうか?
 いや、それはあまりにも荒唐無稽な発想だ。ここが人間の処分場として使われているのなら、この世界は犯罪者だらけになってしまう。神殿や神官の存在はこの世界にも神がいることを示唆している。犯罪者を不法投棄すればこの世界の神が黙ってはいないだろう。



(魔の森に百年周期で魔王が誕生して災厄を振り撒くのです)
(勇者様はいずれかの国の中央神殿に顕れて世界を救ってくださると伝えられています)
(先代勇者様の御来訪から百年後に顕れた異邦人だからです)



 ……百年? 魔王の誕生には周期がある。そして魔王は勇者が……。
 これが事実なら、魔王と勇者は同じ周期で定期的に出現していることになる。この世界の神が盆暗だとしても、千年も前から不法投棄が続いていればさすがに気づくだろう。
 恐らく魔王と勇者はこの世界の神の管理下にある存在だ。そうでなければ魔王と勇者の出現周期が一致しているわけがない。

 そもそも魔王とは何なのだろうか。魔物は動物の姿をしているのに魔王は魚人だった。明らかに種族が違い、森の中での生活には向かないように思える。
 そしてあの魔王は、この世界の人間とは違う魔法を使った。この世界には存在しないはずの、攻撃手段となり得る威力の魔法を使っていた。まるでお伽噺で語られている初代勇者のように。
 まさか……勇者だけではなく、魔王も異世界からの転移者なのか?

 管理されているのなら不法投棄ではなく合法処理だ。だが不用意に犯罪者を受け入れれば治安は悪化する。気軽に許可を出せることではなく、実行する意味もない。
 リスクに見合うだけの見返りがあれば実行する理由にはなるが、よほどの利点がなければそんなことはしないだろう。
 犯罪者を受け入れることで何らかの対価を得ている世界。核廃棄物の処理を外国に依頼することがあるが、似たような感覚で地球や異世界の神がこの世界の神と取引をして悪人を押し付けているなどということがあり得るのだろうか?



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...