『最後の王女』が生きた世界

なごまる

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第1章

王女の愛した者たち

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 これまでの話では『最後の王女』の概略を説明しただけなので、何故マニアたちがここまで夢中になるのか、まだその理由が掴めていない筈。何故なら『最後の王女』の魅力は登場人物がどうなったかではなく、彼らがその旅の中で何を思い、何をしてきたかに考えを巡らせることが至高の楽しみ方だからである。
 そして彼らの道程についてを掘り下げれば掘り下げるほど、このゼニスという星のことも分かってくる。我々がいかに自分の住む世界について知らないかを、知る事ができるのである。

 例えば、かように過酷な運命を背負ったルミナ王女は一体どんな性格だったのか。旅に連れていた従者たちは何者だったのか。完璧に答えられる者はもうこの世にいないが、私は極力真実に近い回答をしよう。

 幼少の時から、ルミナ王女は特別な修練を積んでいた。魔法を使うのに耐え得る精神力を鍛える為である。彼女が積んできたものは、誰もが通る魔法訓練学校のような一般化された方法ではなく、王家の為に代々受け継がれてきた所定の修練。これが彼女の心に大きく影響を与えた。
 ある時は雪山を登りながら、またある時は煮えたぎる熱湯の中で行われたとも噂される。数ある苦行の中でも有名なのは、王家の魔法に反応して光を発する花を用いたもので、胸に付けて常に持ち歩き、眠っている時以外は光らせておく。つまり起きている間はずっと大なり小なり魔法を使い続けていることになる。これは普通の魔獣には到底成し得ない業である。精神的疲労の為、王女が修練を始めたばかりの頃は半日以上眠っていたこともあったそうだ。

 更に特殊なことに、この王女は国王になる為の教育を受けなかった。旅立つまでの時間から逆算しても、ネメシスを倒しうるまで魔法の力を付けるには時間が足りないと判断されたのであろう。彼女は異様なまでにその責任と時間に追われていた。

 そう聞くと、ルミナ王女はきっと荒んでいたのだ、と思うだろう。荒んだルミナ王女を主役とした文学作品も一部では人気がある。彼女を心の病んだ聖女として描きたい作家にはとても好まれているようだ。
 実際の彼女は極めて温厚で、怒ることもほとんどなかった。優しい笑顔の彼女ばかりしか知られていないのだ。ただ、勿論全ての時間に穏やかな微笑みを見せることはできなかった。だからその背後にいる、彼女を支えた者たちの功績はとてつもなく大きい。

 彼女の心の支えとなった人物たちを順に紹介しよう。旅に連れていた従者たちや、姉役という王女の精神面の世話係、宮殿の掃除婦も彼女と親しかった。彼らは日常においてルミナ王女と時間を共有し、あるいは心の底から共感し、労った。

 まず姉役の話から始めることにする。幼い王子・王女が父も母も亡くし、乳母のような存在が必要な時、ヤルダバオート王家では「姉役」といういわゆる義理の家族を宮殿に迎えるしきたりがある。ヤルダバオート王家代々の魔法教育の為には心の拠り所が必要で、大いなる愛を持って王女の理解者となれる人物を「姉役」として王子・王女に従けることになる。それに選ばれたのが、オリアナという獣人の娘だ。
 両親を亡くしたルミナ王女の元へやってきた姉役オリアナは、王女の就寝時以外は常に王女に付き添っていた。それだけで王女の支えになったというと不思議かもしれない。少ししか歳の離れていないオリアナは、事あれば王女の気持ちに即座に気づくことができた。王女に共感できる者が宮殿には少なすぎたのかもしれない。

 勉強と修練に追われ、一度だけルミナ王女が飛び出したことがある。王女が帰ってきた日、待っていたオリアナが真っ先に駆け寄り心配したことを伝えると、王女は涙を流して抱きついた。ちなみにこの家出中に王女はある人物と出会い、これを境に王女が弱音を吐くことはなくなる。森に初めて出たその興奮や森でどんなことしたかを、瞳を輝かせながら王女はオリアナに語った。オリアナは仲の良い掃除婦も呼び、一晩中王女の話に耳を傾けたという。

 掃除婦については会話の内容が書かれている書籍の数が乏しいが、もう百年以上の年を生きた白毛の婆竜で、宮殿内で王女を見かければ掃除婦の方から話をしていたらしい。宮殿の外の世界に王女は憧れていたようで、その話が中心だったようだ。一番好きな海の話をすれば、掃除婦がオリアナや他の教育係から注意される程、長時間話を聞いていた。王女はこうして話を聞くと、好奇心からよく書斎で本を漁り、読み耽っていた。掃除婦の話を聞き、本を読むのは王女の楽しみの一つとしても現在知られている。
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