『最後の王女』が生きた世界

なごまる

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第1章

従者たち

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 王女の旅に付き添った従者もまた、王女と親しかった。彼らは全員が宮殿の家臣や騎士という訳ではない。そのほとんどが旅の期間のみの契約の「傭兵」としてお供をしていた。
 ヤルダバオートの助言機関である老師会が、旅には老師会の指定した騎士のみを連れて行くように助言するが、宮殿の使用人たちが猛烈に反発し、王女が指名した者を共に連れていくこととなる。

 王女が最初に指名したのは、レザエルという龍の若者。何を隠そう彼こそが、王女が森で出会った初めての人物にして、初めて生まれ育った境遇を嘆きその苦しみを吐露した相手である。彼もまた、境遇への苦しみを抱えていたが、王女との話をきっかけに前向きな生き方を模索するようになる。この時に生まれた、不思議な絆が決め手となった。

 さて、「忌獣」という概念について詳しい方は、彼が選ばれたことに驚いたかもしれない。ゼニス史上最も悪しき風習である「忌獣」とは、特定の獣にはけがれた人間の魂が入っていて、いつかその魂が人間の本性として表れる……と、誰もがその認識を間違っていないものだと信じていた概念。全く根拠のない迷信で、数え切れない程の命がこれによって軽んじられ、奪われた。この忌獣と呼ばれる獣の中に、龍が含まれていた。
 第一にレザエルを傭兵として指名した王女に、宮殿の半数以上の使用人が反対した。身分を偽るとはいえ、王族の従者に忌獣を選ぶのは体裁が悪い、という理由から、そもそもの忌獣に対する嫌悪感による反対意見もあった。だが既に王女の意志は強く、周囲の反対を押し切って彼に直接傭兵の契約を申し込み、彼もその場で受諾すると同時に、他にも傭兵として雇う場合に彼の親友であるムシュフシュを推薦した。

 ムシュフシュもレザエルと同じく龍の若者で、彼らは同じ組織に所属していた。忌獣の権利保護を目的とした団体、名をアークという。組織を立ち上げる際に影で王女の手助けがあったとの噂もあり、忌獣嫌悪者からの悪質な嫌がらせも多発していた一方、忌獣からの信頼は絶大で、忌獣たちは困った時は役所よりもアークへ相談や依頼に来ていた。ムシュフシュとレザエルは、このアークの創設者である。
 彼らは忌獣であるという理由で、生涯のうち最も輝かしい時期を檻の中で過ごした。世間の忌獣への惨い扱いを食い止めるという目的の為、王女からの申し出は世間への訴えかけとしてまたとない機会でもあったのである。推薦を受けて後日、ムシュフシュも王女からの申し出を受けると快諾した。

 上記二名は一般の傭兵として迎えられたが、ルミナ王女の従者として王室専属近衛軍団から一人だけ選ばれたのが軍団の中で最年少の竜の少年アノール。膜型の竜でありながら翼膜が無い、空を飛べない竜である。彼の素性は当時、宮殿内でも誰もが詳しく知らなかった。彼は特殊な魔法を扱うことで有名で、重い鎧を着ていても俊敏に動く事ができたり、自分よりも大きな獣を浮かせる事ができるなど、その力は他の獣にはないものであった。本人は自分の魔法を良いものとは思っていなかったようで、称賛されると否定する事が多かったらしい。
 当時のハンゼルの北東にひっそりと建っていた研究施設には、驚くべきことに獣を作り出す装置が存在した。恐らく大昔の人間たちが建てたものだが、ずらりと並ぶポッドの気味の悪い液体の中には、翼膜の無い小さな竜もいたという。これは彼の正体に関連性があるとするのが通説である。

 実はもう一人旅に同行した者がいるが、途中からの同行の為宮殿内で正式に契約された傭兵ではなく、あまり知られていない。ツィンズィという放浪の民の集団で、踊りをする竜の娘である。イーゼスと呼ばれる彼女は、宝石を作り出す魔法を持つ故に、それを狙う悪党からツィンズィに匿ってもらうことで生活をしていた。しかしツィンズィが奇襲に合う度に、彼女は自分のせいで住処を変えなければならないので心苦しく思っていた。そんな折に王女一行と出会い、王女の旅に同行することでツィンズィの仲間から離れる決意をする。王女たちはそんな彼女を快く受け入れた。
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