『最後の王女』が生きた世界

なごまる

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第2章

不死の竜の死

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 ネメシスを倒す為になぜ『イデア』や『朝露』が必要だったのだろうか。それは単純にネメシスの精神力(=魂が肉体から離れない力)を前にして、どれだけ修練を積んでもルミナ王女の魔法では魂を引き剥がす力が足りなかったからだ。
 けれども王女は『心のイデア』と『朝露』によってネメシスの魂を滅ぼしたのであろう。私たちはそう思っていた。私たちのこの時代にネメシスはもちろん存在しないが、ネメシスに本当の死をもたらしたのはルミナ王女ではなかったのである。調べれば調べるほど、全く彼らの話説と真実は異なることが分かってきたのだ。

 王女がジーザの住む天の国、ネベに辿り着くと間も無くネメシスは全勢力をもって来襲した。ネベを覆う厚い雲に穴を開け王女一行を受け入れることは、つまりネメシス軍の侵入をも許してしまうことであると、ジーザは承知の上であった。この時点で、ジーザは既にネメシスを倒す策を講じていた。

 心の精霊の元で常に魂の行方を見ているジーザは、魔法では強制的に魂を心の精霊の元へ還すことはできないことを知っていた。『イデア』も強力とはいえただの魔法であり、肉体から魂を離すことはできてもネメシスの意思でまた肉体へ戻ってしまうのである。
 そこで『心のイデア』によってゼニス中の獣に一斉に魔法を発動させ、精霊の対となる存在、業を食う巨獣を呼び出す。これがジーザの最終手段である。この巨獣は、ネメシスの生前の時代にも出現したものだ。巨獣とはゼニスの全ての獣が最も恐れ、いかなる魔法や武器を使おうと傷付けることのできない神の化身。ゼニス全域で魔法が急激に使われると、精霊がこの巨獣を作り出すのである。巨獣に食われた獣は、巨獣の自然消滅と共に精霊の元へ行く。
 巨獣は強い魔法を操っている獣を食いに現れると伝えられている。その性質を利用して、ネメシスを食わせることがジーザたちの狙いだった。散々探して各地を巡った王女には『心のイデア』は与えられず、先に選ばれていたジーザの精霊大巫女ホスティアがこれを利用してホスティアの意識から全ての獣の魔法を発動させることになる。この時の王女は精々『朝露』を一滴飲んで、ネメシスが増やした魔物を消滅させてネベの街を守ることしかできなかった。

 少し話を整理する。ヤルダバオート王家はネメシスを『心のイデア』と『朝露』によって倒そうと目論んでいた。ルミナ王女もそのつもりで旅に出たのだ。しかし『心のイデア』を使うだけではネメシスを倒せないことが分かった。巨獣を呼び出せば魂を還元できるが、『心のイデア』は既に所有者がいて、王女に選ばれる余地はなかった。
 現代にネメシスがいないということは、この時無事に消滅したということだ。ヤルダバオートへの帰路、王女の胸中はどんなものだっただろう。いかなる文献で語られる彼女の心情も、真実には程遠いものではないだろうか。まさに想像を絶するものである。
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