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第3章
女官の手記
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ヤルダバオートの宮廷使用人の手記で一冊、マニアの間でとても有名なものがある。とある女官の生い立ちの話の後に、ルミナ王女への懺悔を綴っている手記である。手記に書かれた告白をここに引用しよう。
「——私はヤルダバオートの宮殿で働く為に、一生懸命勉強して、ようやく宮殿の使用人として住み込みで働けるようになりましたが、家族に会いたくて休暇を取ろうとしても許されないのです。使用人は宮殿に住んでいる貴族の方々やお泊まりのお客様のお世話で仕事がたんまりあるからです。私たちはいつも疲れていました。
だからと言って辞めたいと思ったことはありませんでしたが、王女殿下がいらっしゃってからというもの、もう限界だと感じることが増えました。こんなに心を痛めて疲れるまで殿下を欺きたくありません。私は殿下が旅立たれる前に辞職することを決意しました。お許しください殿下、私は貴女の顔を見ると胸が詰まり、もういたたまれないのです。
あの時、国王陛下が王女として一家に迎えようと仰せられなければ、と毎晩思います。お子に恵まれなかった不幸はどうしようもありませんし、両陛下は久々に神獣都の海岸をお散歩されてさぞお楽しみあそばされたのでしょう。雷に打たれたように運命的な出会いだったかもしれません。ご帰国時、王妃陛下がお抱えなさっていた子供にはヒレがありました。地上の生き物ではない上、拾い子をお世継ぎにするなんて。なんということだ、私を含め誰もがそう思いました。まるで先の見えないヤルダバオート王統の終わりを告げられたようでした。
国王陛下は、この子はいずれ足を得て、私たちと同じ暮らしができるようになると仰いました。命名式は宮殿の聖堂ではなく、ご体調の優れない王妃陛下のお部屋で内々に行われ、光をもたらすという意味を込めて『ルミナ』様というお名前を授かられました。両陛下は私たち使用人に、王女殿下は実子であるという振りをして接するよう仰せられました。私たちの地獄が始まったのです。——」
この手記が本物であるなら、とんでもない代物だ。実際に旅の最中ルミナ王女が一度国へ帰省した時に、他の女官にこの事実を知ったように仄めかしたそうだ。女官がどんな対応をしたのかは分からないが、どう返されても王女は堪えがたかった事だろう。
彼女はネメシス討伐の為に、心を穏やかに保つことを何よりも大切にしてきた。王女は数日宮殿にて休息したというが、精神の乱れを自覚して、自己嫌悪に陥ったかもしれない。旅の仲間たちはどんなにこの時の彼女を支えようと努めただろうか。
「——私はヤルダバオートの宮殿で働く為に、一生懸命勉強して、ようやく宮殿の使用人として住み込みで働けるようになりましたが、家族に会いたくて休暇を取ろうとしても許されないのです。使用人は宮殿に住んでいる貴族の方々やお泊まりのお客様のお世話で仕事がたんまりあるからです。私たちはいつも疲れていました。
だからと言って辞めたいと思ったことはありませんでしたが、王女殿下がいらっしゃってからというもの、もう限界だと感じることが増えました。こんなに心を痛めて疲れるまで殿下を欺きたくありません。私は殿下が旅立たれる前に辞職することを決意しました。お許しください殿下、私は貴女の顔を見ると胸が詰まり、もういたたまれないのです。
あの時、国王陛下が王女として一家に迎えようと仰せられなければ、と毎晩思います。お子に恵まれなかった不幸はどうしようもありませんし、両陛下は久々に神獣都の海岸をお散歩されてさぞお楽しみあそばされたのでしょう。雷に打たれたように運命的な出会いだったかもしれません。ご帰国時、王妃陛下がお抱えなさっていた子供にはヒレがありました。地上の生き物ではない上、拾い子をお世継ぎにするなんて。なんということだ、私を含め誰もがそう思いました。まるで先の見えないヤルダバオート王統の終わりを告げられたようでした。
国王陛下は、この子はいずれ足を得て、私たちと同じ暮らしができるようになると仰いました。命名式は宮殿の聖堂ではなく、ご体調の優れない王妃陛下のお部屋で内々に行われ、光をもたらすという意味を込めて『ルミナ』様というお名前を授かられました。両陛下は私たち使用人に、王女殿下は実子であるという振りをして接するよう仰せられました。私たちの地獄が始まったのです。——」
この手記が本物であるなら、とんでもない代物だ。実際に旅の最中ルミナ王女が一度国へ帰省した時に、他の女官にこの事実を知ったように仄めかしたそうだ。女官がどんな対応をしたのかは分からないが、どう返されても王女は堪えがたかった事だろう。
彼女はネメシス討伐の為に、心を穏やかに保つことを何よりも大切にしてきた。王女は数日宮殿にて休息したというが、精神の乱れを自覚して、自己嫌悪に陥ったかもしれない。旅の仲間たちはどんなにこの時の彼女を支えようと努めただろうか。
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