余命百日の僕は庭で死ぬ

つきの麻友

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付き合ってる人はいないのですか?

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「ねぇねぇ、今度あるお祭り、夜神君も出店するんでしょ?」

「あぁ、今年は出さないつもりなんだ」

「えぇ? そうなの? 皆出すものだと思ってた」

「一応参加するのが当然っていう風潮だけどね。ウチみたいにコーヒー店を出しても、お祭りでコーヒーってあまり売れないし、同じ様な店もあるから尚更ね」

 桜井さんの言っている祭りというのは、町民が集まって参加する運動会と文化祭を合わせたとても不思議な、この町特有の変わったお祭りのことである。

「そうなんだぁ。ちょっと残念」

「桜井さんは出店するんでしょ?  桜井さんの作るクッキーとか洋菓子は美味しいから人気出ると思うよ」

「じゃあさ、私の店のクッキーとセット販売したらどうかな?」

 いつもの朝、いつものソファに座りテーブルを挟んだ目の前には桜井さんが座っていた。話題が町内祭りのせいか、二人のテンションには天と地程の差があるように感じた。

 以前、最初に出店した時に慣れないお菓子作りでセット販売して繁盛した経験はあった。だけどそれはお祭りという雰囲気で誤魔化しているのであって、家に持ち帰ったりして食べた人が言うには、評判は宜しくなかったらしい。それ以来、お祭りではコーヒーのみの出店と決めている。案の定、ジュースやお酒を飲む雰囲気の時にコーヒーのみというのはやや肩身が狭かった。

「焼くのも限りがあるんだから、ウチに卸すより自分で販売した方が儲かるし、良い店の宣伝にもなるんだよ」

 あの出店以降、美味しいコーヒーの店という宣伝にはなったが、同時にあまり美味しくない洋菓子も販売してる店としても名が売れてしまったのだ。洋菓子作りの試行錯誤を繰り返してきたが、回復は緩やかに時間が解決してくれたのだろう。とても俺の腕が上がったとは思えなかった。その分、良心的な価格設定だったのが、客足を稼いだのだろう。

 ただ、今年から桜井さんから卸してもらってる洋菓子のお陰で、瞬く間に評判が良くなるだろう。その代わり、どのタイミングでどの様に値上げをするのかがポイントだった。

「じゃあさ、隣同士で出店すればいいんじゃない?  それでさ、コラボ商品ですーってセット販売したり限定販売とかさ。駄目かなぁ?」

「駄目じゃないけど……、そりゃ、う……光栄な提案だけど……」

 思わず、「嬉しい」と本音を言うところだった。

 いつもと変わらないトーンで喋ってはいるが、本当に上手く喋れているのか疑問だった。時たま思い描く、桜井さんと一緒に働く光景。桜井さんが焼いてくれたお菓子と、俺が煎れたコーヒー。今でもその組み合わせなのだが、当の本人と一緒にだなんて、例えお祭りの期間限定だったとしても、夢が叶った様なものじゃないか。

 夢?  心踊る気持ちが一旦平常運転に戻った。

 俺は、桜井さんと一緒に働くのが夢なのか?  スタッフを雇えたら楽出来る時期もあるし、その分売り上げも見込めるだろうとは常々頭に描いているけど。その相談というか話を聞いたのが、たまたま夫婦だったから、自然と桜井さんを思い浮かべてしまったのか……?

「夜神君、聞いてる?」

「え?  あ、聞いてるよ」

 慌てて俺はコーヒーを飲んで落ち着かせようとした。しかし、まだ熱を持っていたコーヒーを勢い良く口に含んでしまい、噎せながらもなんとかこぼさずに済み、急いでコップに入った水を飲み干した。
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