余命百日の僕は庭で死ぬ

つきの麻友

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臆病者でも恋をする

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「だったら丁度良い働き口があるって、彩乃を連れて来たんだよ。良いタイミングだよなぁ」

 だからこの娘は最初に、よろしくお願いしますって元気に言ったのか。本人は既に話が通っていると思っているのだろう。俺が求人募集をしてると思っていたなら働くことに何の迷いも無いくお互い、願ったり叶ったりか。五十嵐さんも悪い人ではないのだろうが、こういう状況になると一人走りが過ぎる傾向にある。

 そもそも俺の人手が足りないって話題だって、恐らくもっと客を廻して稼ぎに走れっていつもの説教的な会話に尾鰭が付いた程度だろう。ただ、言った本人は良い事言ったって思い自己完結しているのが厄介なだけで。

「良かったじゃない、若い子が入ってくれて。それじゃ私、仕事があるから」

 結局、軽蔑をした様に取れる瞳を戻すことなく店の扉から桜井さんは帰って行った。丁度、扉を開けた所に立っていた二人は邪魔にならない様に桜井さんを避ける形で店内に入ってきた。

「早速、明日からでも入れるよな?」

「はい!」

「おい夜神、何時から入ればいいんだ? 早朝は寮の掃除してるからダメだぞ」

 俺の知らないところで話は勝手に進んで行く。まるで雇うのが確定したかの様に。この田舎町にどれだけの人がこの状況で五十嵐さんの提案を拒否できる同世代がいるのだろうか。勿論五十嵐さんだって、毎日閑古鳥が鳴いている経営者にはこんな無茶な押し付けはしないだろうが、俺には言い易いというのもあるのだろう。実際、勝手に話が進んでも絶対無理と拒否的な発言をしていないのは事実。

 人を雇うことによってのメリットとデメリットは以前から考えていたが、こうも急にしかも自分の判断以外の所で話が進むとどうするのが正解なのか既にわからなくなっている。

 間違いなく言えることは、桜井さんが俺を軽蔑したまま立ち去ったことである。

 桜井さんはどう思っていたのかわからないが、少なくとも嫌で一秒でも早く立ち去りたいと思っていたら、毎朝俺と二人でコーヒーを飲んではくれなかった筈だと。そこを俺は信じたい。

 俺の様に、一日の中で一番の至福な一時ではないとは思うが。今日に限って言えば俺も、至福の一時を邪魔された方なのだが、軽蔑な眼差しはそれが理由ではない。

 雇うなら若い子がいいなって発言、それが本当かどうかとかどんな流れで言ったとかはあまり気にしていないのかもしれない。

 一番の理由は、鈴木彩乃が可愛らしいことの事実ではないかと俺は思っている。

 第一印象は大事で、雇い主である俺に最初から不愛想では話にならない。だから今日の愛想が作ったものなのか素の状態なのかわからないが、好印象だったのは間違いない事実。

 その上で整った顔立ちで可愛らしく、しかも若いときたら、三十手前の桜井さんからしたら面白くなかったのかもしれない。

 勝手な憶測で色々考えたけど、結局自分の中途半端な立ち位置が招いた結果なのだろうか。

 本当は一緒に働けたらいいなって思ってたなんて、今更言ったって遅く、白々しく思われたらそれこそ逆効果にもなる。

 それに、桜井さんの気持ちも考えずに言ったところで、キモイなんて思われたりしたら店を閉めて旅立たねば顔も合わせられない。

 いつまでもずっと続くと思っていた、幸せな時間。

 この町に住みだしてから異性とも縁が無く、平平凡凡と過ごしてきた中で芽生えた幸せな気持ち。

 毎朝、二人だけの至高の時間が麻痺をお越し、まるで桜井さんも幸せで喜んでくれていると錯覚を起こす。


      ※
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