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臆病者でも恋をする
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「五十嵐さんの、俺は良い事してる自己満足感にも困ったものですよね」
「そうね。けど、私はああいうがむしゃらな性格、嫌いじゃないわよ」
「え? だって、告白されたのを三回も断ったんじゃ……」
「お互いのことを知らないのにいきなり告白されて、じゃあ付き合いますって言える人が世の中に何人くらいいるのかしら?」
「それって……逆に、時間をかけてお互いのことを知っていけば……その、付き合える可能性があるって意味に取れますよ!」
「どう取るのかは本人次第じゃないの? 諦めて新しい恋を探すのも、いつまでも待つのも、そこに正解は無いわ」
コーヒーカップに口を付ける。左手を添えて飲むのがいつもの癖だった。
「思わせ振りな返事をしたのですか? 五十嵐さんは、桜井さんには会いたいけどわざわざお店に行ってまで会わす顔が無いとも言ってましたよ」
「……そう?」
「だから昨日、偶然会った時は、本人嬉しかったんじゃないかと思いますよ」
桜井さんは何も言わずに窓の外を眺めていた。
俺は、言った後で後悔をした。なんだか五十嵐さんを応援している様な言葉選びになったことを。
これは、二人の問題であって俺は部外者なのだ。五十嵐さんからはもう脈が無いと聞いていたので、キッパリ断られたものだと思っていた。そりゃ三回も告白して断られているのだからよっぽどなんだろうと。だけど、当の本人から出た口振りに二人の微妙なズレの様なものを感じた。
どうしてこんなことになったのだろうか。彩乃ちゃんの件で話を進めるはずだったのに、いつの間にか桜井さんと五十嵐さんの話になり、その内容によって俺の心の中になにかモヤモヤとしたものが引っ掛かってしまった。
同性の俺からすれば、お山の大将的な行動にうんざりなのだが、異性からすればそれが男らしいと目に写る場合があるというのか。物事を決断する時に計画を立て、状況判断等からリスクを抑えて決定する。それが正しい決断だったかは結果で評価される。仕事に限らず世の中の色々な場面での当たり前の行動である。ただ、当たり前と決めつけているのは男性であって、女性からすればそれが当たり前とは限らないということなのかもしれない。
ラーメンにするかパスタにするか、と問われた時に、近くて空いてる方の店はどっちだとか、評価の高い店を探したりお互い最近食べたのはどっちでいつなのか思い出し合ったりと、なるべく満足感が満たされる判断をしようと脳を働かさす。それが結果的に満足のいく判断だったとしても、決定するまでに要した時間でうんざりするパターンが異性にあるということ。時には瞬時に判断と決断をした方が正解ということがある。
結局、何を食べるのかが問題ではなくて、誰と何をいつ食べるというセットが答えなのだ。悲しくも、男性は気になる女性の満足度を高める為に日々奮闘しなければならないということなのだろう。近年の目立つ結婚願望の低い独身男性は、その努力に疲れやがて女性との交際よりも一人の方が楽ということに気付き、女性から得られる快楽や幸福よりも、孤独という名の自由を手に入れた。
一度手に入れた楽さに慣れると自分自身にも無気力になり、やがて恋をする気持ちに対して臆病になる。それが今の俺であることは言うまでもない。
一度臆病者になった身体は、細やかな幸せで満足してしまい、全てを手に入れたいという欲求が閉ざされている。その扉を時間をかけてゆっくりと開けようとしている時に少しでも障害物があれば、完全に開く前に再び閉ざすことを選択してしまう……。
「そうね。けど、私はああいうがむしゃらな性格、嫌いじゃないわよ」
「え? だって、告白されたのを三回も断ったんじゃ……」
「お互いのことを知らないのにいきなり告白されて、じゃあ付き合いますって言える人が世の中に何人くらいいるのかしら?」
「それって……逆に、時間をかけてお互いのことを知っていけば……その、付き合える可能性があるって意味に取れますよ!」
「どう取るのかは本人次第じゃないの? 諦めて新しい恋を探すのも、いつまでも待つのも、そこに正解は無いわ」
コーヒーカップに口を付ける。左手を添えて飲むのがいつもの癖だった。
「思わせ振りな返事をしたのですか? 五十嵐さんは、桜井さんには会いたいけどわざわざお店に行ってまで会わす顔が無いとも言ってましたよ」
「……そう?」
「だから昨日、偶然会った時は、本人嬉しかったんじゃないかと思いますよ」
桜井さんは何も言わずに窓の外を眺めていた。
俺は、言った後で後悔をした。なんだか五十嵐さんを応援している様な言葉選びになったことを。
これは、二人の問題であって俺は部外者なのだ。五十嵐さんからはもう脈が無いと聞いていたので、キッパリ断られたものだと思っていた。そりゃ三回も告白して断られているのだからよっぽどなんだろうと。だけど、当の本人から出た口振りに二人の微妙なズレの様なものを感じた。
どうしてこんなことになったのだろうか。彩乃ちゃんの件で話を進めるはずだったのに、いつの間にか桜井さんと五十嵐さんの話になり、その内容によって俺の心の中になにかモヤモヤとしたものが引っ掛かってしまった。
同性の俺からすれば、お山の大将的な行動にうんざりなのだが、異性からすればそれが男らしいと目に写る場合があるというのか。物事を決断する時に計画を立て、状況判断等からリスクを抑えて決定する。それが正しい決断だったかは結果で評価される。仕事に限らず世の中の色々な場面での当たり前の行動である。ただ、当たり前と決めつけているのは男性であって、女性からすればそれが当たり前とは限らないということなのかもしれない。
ラーメンにするかパスタにするか、と問われた時に、近くて空いてる方の店はどっちだとか、評価の高い店を探したりお互い最近食べたのはどっちでいつなのか思い出し合ったりと、なるべく満足感が満たされる判断をしようと脳を働かさす。それが結果的に満足のいく判断だったとしても、決定するまでに要した時間でうんざりするパターンが異性にあるということ。時には瞬時に判断と決断をした方が正解ということがある。
結局、何を食べるのかが問題ではなくて、誰と何をいつ食べるというセットが答えなのだ。悲しくも、男性は気になる女性の満足度を高める為に日々奮闘しなければならないということなのだろう。近年の目立つ結婚願望の低い独身男性は、その努力に疲れやがて女性との交際よりも一人の方が楽ということに気付き、女性から得られる快楽や幸福よりも、孤独という名の自由を手に入れた。
一度手に入れた楽さに慣れると自分自身にも無気力になり、やがて恋をする気持ちに対して臆病になる。それが今の俺であることは言うまでもない。
一度臆病者になった身体は、細やかな幸せで満足してしまい、全てを手に入れたいという欲求が閉ざされている。その扉を時間をかけてゆっくりと開けようとしている時に少しでも障害物があれば、完全に開く前に再び閉ざすことを選択してしまう……。
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