カテキミ ~if 家庭教師は正義と君の味方~

つきの麻友

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第二章 此が有れば彼が有り、此が無ければ彼が無い

19 仲良く

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 立ち込める湯気に包まれて俺は至福のひとときを過ごしていた。

 どんなに忙しくても、気分が滅入っていても、風呂に漬かれば落ち着くのは日本人の祖先からのDNAなのだろうか。

 それとも忙しすぎたり気分が絶望な時は風呂に入る余裕がないからだろうか。

 風呂に入れるということは幸せの証拠か。

 夜に入れば一日の疲れを落とし、朝に入ればこれからの活力にもなる。

 風呂はいい。一糸まとわぬ姿で全てをさらけ出し全てを洗い流す。風呂は本当にいい。

「ちょっと今私の身体見たでしょ?いやらしいわねホント。変態ウタル丸」

「……」

「ちょっと今私の身体で変な妄想してたでしょ?ホント信じらんない」

 ……所長にはあの日曜子と仲良くなっておけと言われたけど、同じ湯船に浸かっているいるなんて信じられないだろうな。俺も信じられないけど。

 今すぐ風呂から出ろと言われても出れないのは、曜子は信じてくれるだろうか。





「お疲れさん。ウタル良くやったぞ」

「所長ー!所長から出た“W”と全然違うじゃないですか。危うく死ぬところだったんですよ」

「初っ端から強烈な“W”だったな。けどお前ならなんとかすると思っていたよ。梓ちゃんは死んだ方に賭けてたみたいだけど」

 所長は笑っていた。さっきまでの死闘がなかったかのように笑っている。

「悪運の強いやつめ」

「いや梓さん、シャレになってないですよ。ホント死ぬかと思ったんですから」

「所長がいるのに死なすわけないでしょ」

「え?所長ピンチなったら助けてくれてたんですか?」

「当たり前じゃん。有望な新入社員を簡単に見捨てはしないよ」

「じゃあもっと早くに助けてくださいよ。もっと小さな“W”退治かと思ってたのにあんなオトナコモドドラゴンみたいな“W”聞いてないですよ」

「大丈夫、俺の初めての時はもっと巨大で狂暴だったから」

「そうなんですか?じゃあ所長も初めてで強大な“W”を倒したんだ?」

「いや、速攻逃げたよ」

 恥ずかしむこともなくあっけらかんと笑いながら言う所が所長の良さなんだろう。

「あの……」

 曜子のことを忘れていた俺は所長と梓さんを曜子に紹介した。

 所長はからし屋マタジの名刺を曜子に渡した。こんな時はからし屋という表向きの職業が役に立つ気がした。

 しかし曜子にはあの“W”の姿が見えていたからからし屋の誤魔化しは通用しないだろ。

「宿敵わさび屋の手先だったんですね、ホント酷い!」

 所長の言い訳に共感している?曜子、冗談だろ?そもそも所長の言い訳が子供レベルすぎる。小学生でも信じない言い訳ですよ。

「じゃあそういうわけで曜子ちゃんを怖い思いさせたお礼に、ウタル君が美味しいものを何でもご馳走してくれるから。遠慮しないでなんでも言って頂戴」

 結局俺に丸投げですね、所長。領収書切ったら経費で出るのだろうか不安だ。

「じゃあ私、〇〇駅ビルの最上階にある創作料理のコースに出てくるシフォンケーキが食べたい!」

「いーよーいーよー。サフォンでもゴフォンケーキでもなんでも注文しちゃってください」

 所長は陽気である。

「いーなー。私も連れてけ」

 梓さんは仕事そっちのけである。

「ところであそこに寝てる犯人はどうなるのですか?」

「大丈夫。後はおじさん達が処理しとくから曜子ちゃんは気にしないでウタル君に思いっきり奢ってもらうと良いから」

 所長は俺たちの背中を軽く押しながらこの場を離れるように促す。

 足りないといけないからと言いながら所長は小声で俺に

「彼女と仲良くなっておけ」

 とだけ言って胸のポケットにお金を忍ばせてくれた。

 

 

 千円だった。

「少なっ」
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