19 / 75
第二章 此が有れば彼が有り、此が無ければ彼が無い
19 仲良く
しおりを挟む
立ち込める湯気に包まれて俺は至福のひとときを過ごしていた。
どんなに忙しくても、気分が滅入っていても、風呂に漬かれば落ち着くのは日本人の祖先からのDNAなのだろうか。
それとも忙しすぎたり気分が絶望な時は風呂に入る余裕がないからだろうか。
風呂に入れるということは幸せの証拠か。
夜に入れば一日の疲れを落とし、朝に入ればこれからの活力にもなる。
風呂はいい。一糸まとわぬ姿で全てをさらけ出し全てを洗い流す。風呂は本当にいい。
「ちょっと今私の身体見たでしょ?いやらしいわねホント。変態ウタル丸」
「……」
「ちょっと今私の身体で変な妄想してたでしょ?ホント信じらんない」
……所長にはあの日曜子と仲良くなっておけと言われたけど、同じ湯船に浸かっているいるなんて信じられないだろうな。俺も信じられないけど。
今すぐ風呂から出ろと言われても出れないのは、曜子は信じてくれるだろうか。
※
「お疲れさん。ウタル良くやったぞ」
「所長ー!所長から出た“W”と全然違うじゃないですか。危うく死ぬところだったんですよ」
「初っ端から強烈な“W”だったな。けどお前ならなんとかすると思っていたよ。梓ちゃんは死んだ方に賭けてたみたいだけど」
所長は笑っていた。さっきまでの死闘がなかったかのように笑っている。
「悪運の強いやつめ」
「いや梓さん、シャレになってないですよ。ホント死ぬかと思ったんですから」
「所長がいるのに死なすわけないでしょ」
「え?所長ピンチなったら助けてくれてたんですか?」
「当たり前じゃん。有望な新入社員を簡単に見捨てはしないよ」
「じゃあもっと早くに助けてくださいよ。もっと小さな“W”退治かと思ってたのにあんなオトナコモドドラゴンみたいな“W”聞いてないですよ」
「大丈夫、俺の初めての時はもっと巨大で狂暴だったから」
「そうなんですか?じゃあ所長も初めてで強大な“W”を倒したんだ?」
「いや、速攻逃げたよ」
恥ずかしむこともなくあっけらかんと笑いながら言う所が所長の良さなんだろう。
「あの……」
曜子のことを忘れていた俺は所長と梓さんを曜子に紹介した。
所長はからし屋マタジの名刺を曜子に渡した。こんな時はからし屋という表向きの職業が役に立つ気がした。
しかし曜子にはあの“W”の姿が見えていたからからし屋の誤魔化しは通用しないだろ。
「宿敵わさび屋の手先だったんですね、ホント酷い!」
所長の言い訳に共感している?曜子、冗談だろ?そもそも所長の言い訳が子供レベルすぎる。小学生でも信じない言い訳ですよ。
「じゃあそういうわけで曜子ちゃんを怖い思いさせたお礼に、ウタル君が美味しいものを何でもご馳走してくれるから。遠慮しないでなんでも言って頂戴」
結局俺に丸投げですね、所長。領収書切ったら経費で出るのだろうか不安だ。
「じゃあ私、〇〇駅ビルの最上階にある創作料理のコースに出てくるシフォンケーキが食べたい!」
「いーよーいーよー。サフォンでもゴフォンケーキでもなんでも注文しちゃってください」
所長は陽気である。
「いーなー。私も連れてけ」
梓さんは仕事そっちのけである。
「ところであそこに寝てる犯人はどうなるのですか?」
「大丈夫。後はおじさん達が処理しとくから曜子ちゃんは気にしないでウタル君に思いっきり奢ってもらうと良いから」
所長は俺たちの背中を軽く押しながらこの場を離れるように促す。
足りないといけないからと言いながら所長は小声で俺に
「彼女と仲良くなっておけ」
とだけ言って胸のポケットにお金を忍ばせてくれた。
千円だった。
「少なっ」
どんなに忙しくても、気分が滅入っていても、風呂に漬かれば落ち着くのは日本人の祖先からのDNAなのだろうか。
それとも忙しすぎたり気分が絶望な時は風呂に入る余裕がないからだろうか。
風呂に入れるということは幸せの証拠か。
夜に入れば一日の疲れを落とし、朝に入ればこれからの活力にもなる。
風呂はいい。一糸まとわぬ姿で全てをさらけ出し全てを洗い流す。風呂は本当にいい。
「ちょっと今私の身体見たでしょ?いやらしいわねホント。変態ウタル丸」
「……」
「ちょっと今私の身体で変な妄想してたでしょ?ホント信じらんない」
……所長にはあの日曜子と仲良くなっておけと言われたけど、同じ湯船に浸かっているいるなんて信じられないだろうな。俺も信じられないけど。
今すぐ風呂から出ろと言われても出れないのは、曜子は信じてくれるだろうか。
※
「お疲れさん。ウタル良くやったぞ」
「所長ー!所長から出た“W”と全然違うじゃないですか。危うく死ぬところだったんですよ」
「初っ端から強烈な“W”だったな。けどお前ならなんとかすると思っていたよ。梓ちゃんは死んだ方に賭けてたみたいだけど」
所長は笑っていた。さっきまでの死闘がなかったかのように笑っている。
「悪運の強いやつめ」
「いや梓さん、シャレになってないですよ。ホント死ぬかと思ったんですから」
「所長がいるのに死なすわけないでしょ」
「え?所長ピンチなったら助けてくれてたんですか?」
「当たり前じゃん。有望な新入社員を簡単に見捨てはしないよ」
「じゃあもっと早くに助けてくださいよ。もっと小さな“W”退治かと思ってたのにあんなオトナコモドドラゴンみたいな“W”聞いてないですよ」
「大丈夫、俺の初めての時はもっと巨大で狂暴だったから」
「そうなんですか?じゃあ所長も初めてで強大な“W”を倒したんだ?」
「いや、速攻逃げたよ」
恥ずかしむこともなくあっけらかんと笑いながら言う所が所長の良さなんだろう。
「あの……」
曜子のことを忘れていた俺は所長と梓さんを曜子に紹介した。
所長はからし屋マタジの名刺を曜子に渡した。こんな時はからし屋という表向きの職業が役に立つ気がした。
しかし曜子にはあの“W”の姿が見えていたからからし屋の誤魔化しは通用しないだろ。
「宿敵わさび屋の手先だったんですね、ホント酷い!」
所長の言い訳に共感している?曜子、冗談だろ?そもそも所長の言い訳が子供レベルすぎる。小学生でも信じない言い訳ですよ。
「じゃあそういうわけで曜子ちゃんを怖い思いさせたお礼に、ウタル君が美味しいものを何でもご馳走してくれるから。遠慮しないでなんでも言って頂戴」
結局俺に丸投げですね、所長。領収書切ったら経費で出るのだろうか不安だ。
「じゃあ私、〇〇駅ビルの最上階にある創作料理のコースに出てくるシフォンケーキが食べたい!」
「いーよーいーよー。サフォンでもゴフォンケーキでもなんでも注文しちゃってください」
所長は陽気である。
「いーなー。私も連れてけ」
梓さんは仕事そっちのけである。
「ところであそこに寝てる犯人はどうなるのですか?」
「大丈夫。後はおじさん達が処理しとくから曜子ちゃんは気にしないでウタル君に思いっきり奢ってもらうと良いから」
所長は俺たちの背中を軽く押しながらこの場を離れるように促す。
足りないといけないからと言いながら所長は小声で俺に
「彼女と仲良くなっておけ」
とだけ言って胸のポケットにお金を忍ばせてくれた。
千円だった。
「少なっ」
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる