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第三章 嘘の幸せと真実の絶望と
66 隠密刺客04
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「王の復活で、この国をどうするつもりだ!」
「破滅にするってさっきから言ってるじゃないですか」
本気なのか天然なのか、この状況で一番恐ろしいのは所長なんじゃないかと思った。
「色々教えてくれたがお前らの情報が古いんでこっちも一つ教えといてやるよ」
「なんだと!?」
所長は後ろに身を隠すようにしていた俺の頭の上に手を乗せて前に押し出した。
「お前らが本気出す頃には五大明王になっている。四人だけかと思って挑んで来たら、逆にうちのウタルに全滅させられているんじゃないのか?」
「このガキが、だと!?」
前に出された俺は、三人の鋭い視線を浴びた。蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかるように、奴等三人の目は冷たい感じがした。怯《ひる》んではいけないと自分に言い聞かせ、グッと相手を見ながら歯を食いしばっていた。
『落ち着け、落ち着け……』俺は頭の中で必死に繰り返していた。
「四大明王の審査基準がお前らなら、今すぐお前を倒して基準クリアしてもいいんだぜ」
「このガキャァ!!」
とうとう我慢できず、こちらに突っ込みながら腰に差した剣を抜くセルフィーオが勢いよく斬りかかってきた。
その時、俺は心が落ち着いたのか、周りの雑音が聞こえなくなった。無の状態という表現が正しいのだろうか確かに所長やセルフィーオの声は聞こえるのだが、心の中は不思議な感覚だった。
周りの景色も真っ暗になり、人物だけがハッキリと見えていた。
斬りかかってくるセルフィーオの動きが手に取るようにスローに見える。そんな中でも自分の心は落ち着いていて、ゆっくりブラックソードを構える。
それは『慌てなくても良い』と自分が自分に教えるようだった。
構えたブラックソードからは炎が出てきてソード全体にまとわりつく。
セルフィーオの剣と炎のソードが交差してぶつかり合う。その瞬間双方の力比べになったのだが、俺は即座に押し返した。
「ぐおぉぉぉぉ!」
ダンパーの手が飛ぶ。切断まではしてないが大量の血が吹きあがる。
セルフィーオの剣とぶつかり合った時に、後ろにいるダンパーが手をひも状にするのがわかったからだ。麻薬組織の連中を串刺しにした技でセルフィーオを援護をするつもりだったのだろう。
押し返したセルフィーオが怯んだ瞬間にソードを振り、炎状の攻撃をダンパーに与えていた。
だが、意識は確実にあったのだが、自分の中に別の自分が無意識に表れて戦っていたのだろうか、ダンパーの叫び声によって無意識の自分が消えて行った気がした。
周りの雑音に意識がかき乱され、敵の動きも先程のスローの状態ではなく目で追うのがやっとだった。
三人目の男がセルフィーオを制御するように俺との間に立ち塞がり、投げつけてきた煙幕で俺達の視界を奪う。
「くそっ!」
死角のどこからかの攻撃に備え周りに気を配る。それはこの視界でダンパーの攻撃が来たら交わせないと思ったからだったが、所長に軽く肩をたたかれた。
「奴等はもういないから安心しろ」
「所長……追いかけましょう!追って捕まえないと、あんなのを野放しにしていたら大変ですよ!」
「いや、死に物狂いで逃げる者ほど怖いものはないんだぞ。それに鮮やかな引き際だった。セルフィ―オとダンパーの二人を抱えて一瞬で俺達の前から姿をくらましたあの三人目の奴、ひょっとしたら只者ではないのかもしれないな。喋り口調からしてあいつらよりランクは下のように感じたがそれも演技か、考えすぎかもしれないが仲間内でものし上がるのに騙し合いをしている非情な連中なのかもしれんな」
一気に力が抜けた俺は立っていることもできず膝を落とした。炎を纏《まと》っていたブラックソードはいつの間にか元に戻っていて、床に転がった。
煙が晴れた倉庫の中には、大量の麻薬と血痕が飛び散っていた。
「破滅にするってさっきから言ってるじゃないですか」
本気なのか天然なのか、この状況で一番恐ろしいのは所長なんじゃないかと思った。
「色々教えてくれたがお前らの情報が古いんでこっちも一つ教えといてやるよ」
「なんだと!?」
所長は後ろに身を隠すようにしていた俺の頭の上に手を乗せて前に押し出した。
「お前らが本気出す頃には五大明王になっている。四人だけかと思って挑んで来たら、逆にうちのウタルに全滅させられているんじゃないのか?」
「このガキが、だと!?」
前に出された俺は、三人の鋭い視線を浴びた。蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかるように、奴等三人の目は冷たい感じがした。怯《ひる》んではいけないと自分に言い聞かせ、グッと相手を見ながら歯を食いしばっていた。
『落ち着け、落ち着け……』俺は頭の中で必死に繰り返していた。
「四大明王の審査基準がお前らなら、今すぐお前を倒して基準クリアしてもいいんだぜ」
「このガキャァ!!」
とうとう我慢できず、こちらに突っ込みながら腰に差した剣を抜くセルフィーオが勢いよく斬りかかってきた。
その時、俺は心が落ち着いたのか、周りの雑音が聞こえなくなった。無の状態という表現が正しいのだろうか確かに所長やセルフィーオの声は聞こえるのだが、心の中は不思議な感覚だった。
周りの景色も真っ暗になり、人物だけがハッキリと見えていた。
斬りかかってくるセルフィーオの動きが手に取るようにスローに見える。そんな中でも自分の心は落ち着いていて、ゆっくりブラックソードを構える。
それは『慌てなくても良い』と自分が自分に教えるようだった。
構えたブラックソードからは炎が出てきてソード全体にまとわりつく。
セルフィーオの剣と炎のソードが交差してぶつかり合う。その瞬間双方の力比べになったのだが、俺は即座に押し返した。
「ぐおぉぉぉぉ!」
ダンパーの手が飛ぶ。切断まではしてないが大量の血が吹きあがる。
セルフィーオの剣とぶつかり合った時に、後ろにいるダンパーが手をひも状にするのがわかったからだ。麻薬組織の連中を串刺しにした技でセルフィーオを援護をするつもりだったのだろう。
押し返したセルフィーオが怯んだ瞬間にソードを振り、炎状の攻撃をダンパーに与えていた。
だが、意識は確実にあったのだが、自分の中に別の自分が無意識に表れて戦っていたのだろうか、ダンパーの叫び声によって無意識の自分が消えて行った気がした。
周りの雑音に意識がかき乱され、敵の動きも先程のスローの状態ではなく目で追うのがやっとだった。
三人目の男がセルフィーオを制御するように俺との間に立ち塞がり、投げつけてきた煙幕で俺達の視界を奪う。
「くそっ!」
死角のどこからかの攻撃に備え周りに気を配る。それはこの視界でダンパーの攻撃が来たら交わせないと思ったからだったが、所長に軽く肩をたたかれた。
「奴等はもういないから安心しろ」
「所長……追いかけましょう!追って捕まえないと、あんなのを野放しにしていたら大変ですよ!」
「いや、死に物狂いで逃げる者ほど怖いものはないんだぞ。それに鮮やかな引き際だった。セルフィ―オとダンパーの二人を抱えて一瞬で俺達の前から姿をくらましたあの三人目の奴、ひょっとしたら只者ではないのかもしれないな。喋り口調からしてあいつらよりランクは下のように感じたがそれも演技か、考えすぎかもしれないが仲間内でものし上がるのに騙し合いをしている非情な連中なのかもしれんな」
一気に力が抜けた俺は立っていることもできず膝を落とした。炎を纏《まと》っていたブラックソードはいつの間にか元に戻っていて、床に転がった。
煙が晴れた倉庫の中には、大量の麻薬と血痕が飛び散っていた。
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