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第十一章 夜明けのホワイトクリスマス

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「本当にいいのか?」

「何度も言わないの。美味しいでしょ?」

「いや、滅茶苦茶美味しいんだけどな。クリスマスくらい食べに行っても良かったのに」

「無駄遣いしていいほどの家計じゃないでしょ」

 事実、外食で何万も使える程余裕はなかった。食事の買い出しなどで家計簿を付けたいと言い出したので家計を雪実に一任していた。

「お酒買わなくて良かったの?」

「お、おぉ。お酒はちょっと控えておこう」

「昨日のが残ってるの?」

「いや、そんなんじゃないんだけどな。お酒は程々に」

「ふぅん。シャンパンっての飲んで見たかったな」

「雪実は子供用のシャンパンで我慢しろ」

 折角前進した詩織さんとの関係を自ら辞退する羽目になりそうな危険があるので、雪実との晩酌はご法度になりそうだ。

 折角のクリスマスの夜だが、俺達は子供用のシャンパンで乾杯した。

 雰囲気だけでも聖なるクリスマスを過ごした。

 俺の部屋で迎えた雪実と二人っきりのクリスマスは、今夜が最初で最後になるなんてこの時は不思議と実感が無かった。

「本当に料理だけは上手いな」

「お掃除もきっちり頑張ってるんですけどぉ」

 雪実と同棲を始めてから、帰宅後に部屋が散らかっていることは一日も無かった。

 日中部屋にいるのだから掃除は当たり前って思いそうだが、実際汚れてもいないのに毎日掃除をするのはやる気が削がれるものだ。それでも手を抜かずに綺麗にしてくれていることは感謝をしていたが、直接伝えるのも照れるので言ったことはないのだが。

 しかし料理は本当に美味しかったので頻繁に褒めてしまうのは本音が漏れるからだろうか。

 専門でないにしても、長年味見と目で盗んだレシピやテクニックに年季が入っているのは正直凄かった。

 満腹になり、後でまったりと借りてきた映画を観ながらケーキを食べる為に先に風呂に入った。

 身体と髪を洗い終え、真っ白になった入浴剤入りの浴槽に浸かると少し経った頃に電気が消えた。

「停電?」

 と思った瞬間に風呂場の扉が勢いよく開いた。

「とうっ!」

「えぇ?」

 狭く真っ白な湯船に雪実は勢いよく飛び込んできた。

「アハハ。ホワイトクリスマスだね」

「びっくりしたぁ。急に暗くなって前が見えないけどな」

「見えたら困るもん。アハハ」

 輪郭だけがぼんやりとわかる雪実が素っ裸で目の前に一緒に浸かっている。

 折角アルコールを飲まないで過ごしているのに、間違いを起こしそうなイベントを発生させないでくれよ。

 こっちがシラフなので、身体は反応しても精神的に我慢すればなんとかなるだろうが、見えないんだけど目の毒だ。

「急にお兄ちゃんと一緒にお風呂入りたくなったんだから仕方ないよね」

「なんだよ急に」

「兄妹だから一緒に入っても詩織さんも許してくれるよ」

「絶対に言うなよ!」

 本当の兄妹でも理解してくれないかもしれないのに、実は違いますって言えばどうなることやら。あやかしだからって信じてもくれないだろうしな。

 テンション高めではしゃいでいる雪実が段々と見えてくるようになったので、振り向いて背を向けた。
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