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誘惑に打ち勝てますか?

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「どないした? 急に大声出して叫んだりして」

「俺の中で理性と欲望が葛藤しているんだ」

「プププ」

 セリカが手を口に当てて笑いをこらえているのが目に入った。ひょっとして?

「ウタル君。死ぬ言うてんのに、目の前の誘惑に乗ったら命ナンボあっても足らんで」

「えー!?」

「見た目は普通でも、性欲は人並み以上なんだな。それとも僕の魅力に本能が逆らえなかったのかな?」

「えーー!?」

 言葉にはならないが、状況は理解した。理解しているのだが言葉がでなかった。

 性行為をすれば、魔王の呪いによって命を落とすと説明した直後に俺を誘惑してきた。なんて奴等なんだ。悪魔のような奴等だとこの時思った。

 純粋な童貞の気持ちを弄びやがって。しかもお前ら二人とも未経験バージンのくせに。世間の立場的には俺と同等ではないか。いや、そうでもないのか? いやいや経験値だけでいえば同等だ。

「お前等ひどいじゃないか! これで間違ってたら俺は命を落とすところだったんだぞ!」

「間違いなんて起こるわけないじゃん。僕の初めては、いや最初で最後の男性はカイト様と運命で決まっているのだから」

 両手を拝むように組んで、天を仰ぐセリカ。いやいや、馬車の荷台の屋根が見えるだけだし。

「私はウタルのこと、嫌いじゃないけどな。だからといって好きって意味ちゃうで。顔も普通だし。けど財産ないしなぁ。これからバリバリ稼いでくれるんなら話は別やけど」

 結局、金持ってたら自分がやりたいことできるからってだけじゃねーか。

「けどウタル、三人でしよっかって言ったとき、顔真っ赤にして相当本気で悩んでたな」

「な、なにバカなこと言ってんだよ。悩むわけないだろ。速攻却下に決まってんだろ!」

「ホンマかなー?」

 悩みに悩んだのを見透かされている気がしたが、ここは悩んでいないの一点張りで押し通すしかない。

「まぁ、今回のことで甘い話はないってことを肝に銘じときなよ。スパイなんか送り込まれてきたらウタル、速攻で死んじゃうで。今回は私のオッパイを触れたことで満足しとくんやで」

「一理ある」

 万理あると自分に言い聞かせて反省をした。しかし、あの胸の感触はしばらく忘れたくないと素直に思ってしまった。言えないけど。

「ところでウタル。その魔王の呪いの件だけど、性行為ってどこまでのことを言ってんのだろうかね?」

「どこまでって、どこまでだろうか? どこまでだと思う?」

「知らんがな。その万葉子にはこれから契りを交わしまーす、って書かれてその後、続きが書かれてないんやろ? 最後までしたかそれとも最初の段階で?」

「最初って……?」

 確かに、どの段階までしてから死んだのか。即死なのかどうなのか。万葉子が後世に継がれているということは、信頼できる相手か国など保管が厳重なところで管理していて、そこに続きを書きに行こうとしてたが途中で息絶えた? だとしたら怖すぎる。

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