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誘惑に打ち勝てますか?

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 とにかく即死かどうかは置いといて、どの段階かわからないのだから、特に注意する必要があるな。

「魔王の呪いも、はいここからーってきっちり決まってるわけでもないかもしれないし、子孫を作る行為そのものなのかわからないけど、万が一を考えて慎重にするのなら、キスも止めといたほうが無難だね」

「最初って、そこ!?」

「そりゃそうだろ。最初はキスから始まるもんだろ? なに考えているんだ?」

 お互い未経験者が想像で語っていても何一つ答えは見つからないのである。

「まぁ、油断してキスくらいはええかな? って思わんことやな。ミゼルちゃんにせがまれてもするなよ?」

「す、するわけないだろ!」

「ホンマかなぁ? なんなら私で試してみる?」

 ルーチェが四つん這いになって、前かがみで近づいてきた。胸の谷間が強調され、目のやり場に困りながらも見ごたえのある谷間についつい目が行ってしまうのは本能だろうか。それとも本性なのか。

 その胸に気を取られすぎていると、ルーチェの唇が目の前に迫ってきて奪われそうになる。

 上目遣いで見られると、大抵の男は油断というか、心を少なからず許してしまいそうになる。はずだ。そう思うのは女の武器の一つであると、女自身がわかっているからである。

「ストップ! ストップ! 可能性がある限り、魔王の呪いを解くまでキスも我慢するんだから」

「そっかぁ、残念やったなぁ」

「そうやって、俺をおちょくるばかりしやがって。俺が純粋だからいいものを、欲望のままだったらお前の初めても奪われるところなんだぞ」

「それでもええよって言うたらどうする?」

 ルーチェは上目遣いのまま俺を見つめて、また返事に困るようなことを言った。しかし、こう立て続けにおちょくってきたら、流石の俺でも騙されはしない。

「ヤレヤレ」

 とんだドタバタ騒ぎの帰り道になってしまった。

 呆れた俺は少し顔を外に出して景色を見ながら大きく息を吸った。

 さっきまでの慌ただしさが嘘のように、三人は静かに揺れる馬車に身を任せていた。ルーチェは口を尖らせてどこか不満そうな顔に見えた。どうせいたずらに引っ掛からず、呆れた俺の反応が気にいらなかったのだろう。その横でセリカはニヤけた顔でルーチェを見ていた。

 また何かのきっかけで二人が言い合いをしたり騒がしくなっても困るので、俺は目をつむって、このまま静かな時間が続いてくれることを願いながら少しだけつまらない考え事をした。

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