生徒会長閣下は多忙につき、令嬢の私とはなかなか会ってくれませんが......

尋近

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必ずそばに

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放課後の廊下は、昼間の賑わいが嘘のように静かだった。
期末試験を終えた安堵感が漂い、残っていた生徒たちも次々と下校している。

私は両腕に抱えきれないほどの書類を胸に抱き、生徒会から預かったものを職員室へ届けようと歩いていた。
だが視界はほとんど紙束に遮られ、足元さえおぼつかない。

そのとき――。

角から飛び出してきた生徒と肩がぶつかり、私は大きくよろめいた。

「きゃっ……!」

書類が宙に舞い、白い紙が雪のようにひらひらと散っていく。
慌ててかがみ込んだが、多すぎて手が追いつかない。

「大丈夫ですか?」

低く、落ち着いた声が耳に届く。
顔を上げると――そこに立っていたのは、生徒会長ユリウスだった。

「会、長……!」

驚きに言葉を詰まらせる私をよそに、彼は迷いなく屈み込み、散らばった書類を一枚ずつ拾い集めていく。
その仕草は実に落ち着いていて、私の動揺まで鎮めてしまうほどだった。

「ありがとうございます……」
なんとか礼を口にすると、ユリウスは小さく首を振った。

「気にしないでください。僕が代わりに職員室へ届けます」

「えっ……そんな、会長にそんなことを……」

「大したことではありません。それより、あなたが怪我をしなくてよかった」

簡潔で、それでも温かい声音。
すでに腕に収められた書類の束を抱え直す姿に、胸の奥が不思議と熱くなる。

――思わず、口から言葉がこぼれた。

「……会長って、いつも忙しそうですね」

ユリウスは立ち止まり、一瞬だけ目を細めた。
そして柔らかく微笑み、低く落ち着いた声で告げる。

「それでも――必要な時は必ずそばにいます」

静かな廊下に、その言葉だけが深く響いた。
返事をするより早く、彼は歩き出し、書類を抱えて職員室の方へと向かっていった。

私はその背中を見送るしかなかった。
残された心には、彼の言葉が幾度も繰り返し木霊する。

* * *

校門の前。
私を待っていたカミルが、にやにやとした笑みを浮かべて手を振ってくる。

「お嬢様~、会長と一緒でしたね? 職員室まで付き添ってもらったとか?」

「……少し手を貸していただいただけよ」

「“必要な時は必ずそばにいます”なんて言われたんでしょう? それ、会長なりの口説き文句じゃないですか?」

わざとらしく眉を上げて冷やかすカミルに、私はむっとして唇を尖らせる。

「そんなわけないでしょう。あなた、見てたなら手伝いなさいよ」

そう否定しながらも、胸の奥では――あの言葉が離れてくれなかった。

「必要な時は必ずそばに……」

耳に残るその声音が、何度も何度も甘く心を揺さぶる。
それがただの気遣いなのか、それとも――。
分からないまま、私は頬の熱を隠すことができなかった。
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