孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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五章 魔女亡き国マレウス

103.孤独の魔女とそれは未だ見ぬ探求

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『それでは達者で、拙者はこれから主と定めた者の為に刀を振って路銀を稼ぎ剣の道を生きるでござる』

ヤゴロウさんと別れを告げ、エリス達はマレウスの中央都市サイディリアルを発つ、再び二人に戻った旅路、二年ほど続けたマレウスでの修行は幕を閉じエリス達が向かうのは次なる魔女国家 学術国家コルスコルピだ

この、東西に大きく縦に伸びるカストリア大陸の最東端の国…同じくカストリア大陸の最南端の国であるアジメクから旅に出たエリス達が、このカストリア大陸横断の旅で訪れる最後の国、それがコルスコルピだ

目的地が定まればあとはそこ向けて一直線、二年間過ごしたマレウスに別れを告げながらエリス達はマレウスの東側に向けて真っ直ぐ進んでいく マレウスの街をいくつも超えて たどり着くのはマレウスとコルスコルピの国境 …

…魔女大国の前にはいつも広大な壁や要塞が築かれ不法入国者を取り締まり 侵入を阻んでいた、…きっと魔女大国コルスコルピの前にも似たような壁が築かれいるものと思っていたが

…あったものは…なかった、これじゃ分からないな…うん、たどり着いた国境付近の街プッピスの前に築かれた魔女大国の国境には『何もなかった』のだ

だが誰も国境を許可なく超えることはできない、何故か?…壁はないが隔てる物があるからだ

その名も『ギャラクシア運河』、カストリア大陸を真っ二つに両断する世界最大の超巨大運河がマレウスとコルスコルピの間に国境の代わりに跨っているのだ

巨大運河ったって川だろ所詮、そう思いもしたが こうして目にして理解する…こりゃ超えるの無理だわ、だって向こう岸が見えないんだもん、潮風がしない以外もう海だもん

一応この運河の街プッピスから向こう岸に渡る船が出ているから それが関所代わりらしい、この船は船長だけが知り得る特殊な航路を辿って向こう側に向かうらしく

それ以外の航路で向こう側に渡ろうとすると魔獣に襲われたり 座礁したりしてたどり着けないようになっているらしい

じゃあ川ではなく海側から…も無理らしい、なんでもこの近辺の海は 『海魔』ジャック・リヴァイアなる大海賊の縄張りらしく、勝手に忍び込むと今度その海賊に攻撃される

よくできたシステムだ


ともあれこの船に乗る以外向こう側に行く方法はない、一応エリスと師匠なら旋風圏跳で向こう側に迎えるが、それをしたら不法入国だ、法を犯すと分かっていながらやるほど切迫詰まってないし 普通に船に乗るつもりだ

ただ、この船 一度に乗れる数が限られている為 乗船するには半年程この街で待たねばならないらしい、なのでエリス達はその半年の間 この運河の街プッピスで一時の休息を取ることになった

…とはいえエリスにゆっくりする暇はない、エリスはこの街で待つ間勉強をしなくてはならない、なんの勉強?決まってる コルスコルピに存在するディオスクロア大学園に入学する為の入試勉強だ…

「はぁ、何故こんなことに…」

そう、エリスは学園へ入学することになってしまったのだ…、というのもあの日サイディリアルで師匠が唐突に語った話が起因だ

『エリス、お前には三年間ディオスクロア大学園で勉学を積んでもらう』

…と、師匠以外の人間に何かを教えて貰う必要なんかあるのか?魔術でもなんでも師匠から教えて貰えばいいと思ってたのだが、師匠曰くそうではないらしい

確かに師匠の下でならどんな勉学でも積むことが出来るが、それでも学べないことがある…それは『集団行動』、誰かと一緒に行動する為のノウハウとでも言おうか、師匠とマンツーマンだからこそ 大人数の中で動く方法をエリスは学べない

故に、大学園で大勢の中で生きる方法を学べというのだ…、レグルス師匠もかつて他の魔女と共に学園で学び多くの物を得たというし、エリスもまた多くを学べというのだ

師匠に言われては仕方ない 三年も長い間学園に所属する必要性は感じないが、それでもだ

故にこうして本屋で参考書を揃えて向かい合っているのだ…、学園に入学するには相応の教養がいるディオスクロア大学園は格式高い学園だ、バカを輩出したとあっては名門の恥、だからこそ 入学する時点で試験を行う、今エリスは試験対策の勉強中だ

問われるのは一般的な教養と魔術の腕 そして知識…、どれも既にエリスが持ち合わせている知識だ、だがだからと言って勉強しないわけにはいかない 慢心して試験に落ちました…は論外だからだ

「えーっと、これは…」

エリスは参考書を見ながらペンを走らせる、分からないところはない 全部記憶してある範囲だ、真新しい話はこの参考書には書かれていないな…

「はぁ、…学園ですか どんなところなんでしょうか」

ペンを置いて頬杖をつく、今エリスはカフェの一席を占領してコーヒー一杯で粘りながらジッと勉強しているのだ、師匠は今買い出しの最中…宿で勉強してもいいが 落ち着かないのでこうしてカフェで勉強しているのだが…

カフェは繁盛している、人が多い…落ち着かないことに変わりはないかな、内心ちょっと失敗したと思いながらコーヒーの注がれたカップを持ち上げ啜る

…苦い、…苦いけどこの苦味がエリスの頭を『集中しろ!集中!』と叩き直してくれる、…よし 勉強を続けるか、そう思い 既に知っていることが書かれた参考書を睨みつける、さて…ここは……

「相席、よろしいですか?」

ふと、参考書に向かい合っていると頭の上から女性の声がする、ああ 相席か…繁盛してるもんな、コーヒー一杯だけで席を独占するエリスは優良な客とは呼べまい、ここで拒否して店員さんから嫌な目を向けられるのは勘弁願いたいし 

「ああ、どうぞ」

そう返事しながら相席を希望する方に声をかけながら頭をあげると

「ありがとうございます、私も彼女と同じ物を一つ」

「な…っ!?」

エリスの目の前に座ってきたその人物に思わず声を上ずらせる、座ってきたのは女性 絵画からそのまま飛び出てきたような美しい女性、だが別にエリスはその美しさに驚いたわけではない

その人物に見覚えがあったからだ

「あ 貴方は…ウルキさん!?」

「やっほ、久しぶり」

ウルキだ、ウルキさん…ソレイユ村でエリスを助けてくれた女性にして、このマレウスで何度か顔を合わせた顔馴染み…、そう 少し前までのエリスなら思ったろう

だが今はこう呼ぶべきか、大いなる厄災シリウスの配下にして 共に世界崩壊を推し進めた人物、師匠の敵 羅睺十悪星の一人、ウルキ・ヤルダバオートと…

「な なんでここに」

ウルキさんはエリスを騙し シリウスとのパスを繋ぎ、シリウス復活にエリスを利用しようとした人間だ、親切にするフリをしてエリスを騙し弄び…結果的にエリスは師匠を殺しかけ世界破滅の為の引き金を引くところだったんだ

あの事件からパッタリと消え、もうエリスの前に姿を現さない物と思ってたのに…こうもあっさり

「知ってる顔が見えたから、…何?勉強してるの?」

ウルキさんは微笑みながらエリスの参考書を覗き見る、が 警戒する…この人は腹の中では何を考えているか分からないタイプの人間だ、慌てて参考書を隠して睨みつける

「…エリス、学校に通うことになったんです、その為の勉強です」

「ふーん、コルスコルピに行くって言ってたから、ディオスクロア大学院に行くのかしら」

「ディオスクロア大学『園』です、それとも…八千年前はそう呼ばれていたのですか?」

睨みつけるエリスの視線を受けてウルキさんは観念したように肩を竦めて、運ばれてきたコーヒーを優雅に一つ仰ぐ

「はぁ、その様子じゃ私のことは師匠から聞いたみたいね」

「はい、あなたの正体と…目的を」

「ふぅん、じゃあもう騙せないか」

騙すつもりだったのか?、いやそれも嘘か?分からない、この人の考えること言うことはどれが裏でどれが狙いなのか、さっぱり分からない

「もう、騙されません…何をしにきたんですか?、またエリスを騙すつもりで?」

「ん?、んー…お別れを言いにきた…かな?」

「エリスを殺すつもりですか?」

「違う違う、そう言う荒っぽいんじゃなくて…また旅に出るなら、暫く会うことはなさそうだし?、可愛い妹弟子が旅路に出るなら 見送るのが姉弟子の役目でしょ?」

「姉弟子…、何を言ってるんですか、師匠やエリスを裏切っておいて」

「まぁね、まぁそれはそれ これはこれって事で…ズズッ、って苦ーっ!?これブラックじゃん!豆の煎汁じゃん!ちょっとー?店員さーん?お砂糖とミルクお願いしまーす!」

どれがどれだ、この人が信用ならないことに関しては変わりはあるまい、……だが やはり疑う心や警戒心は湧いてくるが、それは騙された経験からで エリスはどうにもまだこの人のことを敵として認識しきれないところがある

ミルクとお砂糖をがばがばとコーヒーに入れるウルキさんを見つめる…というか、そんなに入れたらもうミルクとお砂糖の味しかしませんよ

「…ウルキさん」

「何かしら?」

「ウルキさんは、何者なんですか?」

「師匠から聞いた通りの人だと思うけれど?」

「考古学者っていうのは嘘なんですか?」

「んん?、まぁ 嘘かな…貴方を信用させるため用意した偽りの身分、あの村に近づく時丁度女の哲学者がいたのでね、魔獣に襲わせて殺しました」

「殺し…っ!?」

あれか、ソレイユ村の近くで見つけたあの女性の腕、あれは 本来ソレイユ村に訪れる予定だった考古学者、エリスと話をするためだけに なんの疑いもなく村に入るために、考古学者という立場を手に入れるためだけに…殺されたんだ あの腕の持ち主は…

「……ウルキさんは師匠の、魔女達の弟子だったんですよね」

「ええ、だから私は…エリスちゃんだけじゃなく、他のみんなの姉弟子ってことになるわね」

「じゃあなんで師匠を裏切ったんですか?」

「…………ズズッ」

ウルキさんはエリスの問いに答えず、静かにコーヒーを啜り瞑目している …、この人はレグルス師匠達魔女を裏切って 敵対しているシリウスに着いた、意味もなくそんなことするだろうか、何か理由があったんじゃないか

…そんなこと、今エリスが聞いたって意味はないんだろうけど

「…実は私は裏切ってなくて、魔女のみんなを裏から助けるためにシリウスの側に着いたフリをしてる、って言ったら信じる?」

「信じません」

「まぁ嘘だし?そんな安っぽい嘘に騙されて欲しくないな、ズズッ…うん ようやく飲める味になったかな」

「ウルキさん、真面目に答えてください」

「ん~?真面目に…答えても、いぃ~んですかぁ~?」

ニィッと歯を見せ笑う…エリスには見せたことない、凶暴な笑みに思わず肩を撥ね上げる、そこでエリスはようやく自覚した、この状況の危うさを… もしここでウルキさんが本気を出せばエリスは抵抗すらできずに殺されるかもしれないんだ、聞けばウルキさんは既に魔女に対抗できるほどの力を持っているようだし…エリスでは到底

「ああ、そんなに怯えないで、エリスちゃんにそんな顔されると悲しい」

「…それは嘘ですか?本心ですか?」

「…虚実を疑ぐるのはいいけれど、それに囚われては実も虚に見え虚も実に見える、世の中そこそこに考えて、捉えたいように捉えるのが一番楽ですよ」

「じゃあ今のは本心として捉えますね…で、なんで裏切ったんですか?」

「し…しつこいですね、そんなこと聞いても意味なんかないと思うれけど、…まぁ 魔女も私も…みんな…お互いを見ていなかった、だからすれ違っていたんです、師弟だからって何もかも分かり合えるわけじゃないんですよ」

…すれ違っていたか、きっと裏切ったウルキさんも悪かったのかもしれないけれど、悪かったのはもしかしたらウルキさんだけじゃないのかもしれない、師匠達はあの時必死だったのだろう、少しでも戦況を良くしようとウルキさんを魔女に匹敵する存在にだけ育てようとしていた

だから、きっと ウルキさんと師匠達の関係は、エリスとレグルス師匠のような温かなものではなかったのかもしれない、だからぶつかった だから恨みあっている、…なんて その場にいなかったエリスには、あくまで想像しかできないのだが

「エリスちゃんはレグルス師匠から愛されていますね」

「はい、愛されています、エリスも愛してますから」

「はは…愛を疑ってもないか、…分かんないなぁ」

そういうとウルキさんは黙り込んでしまい、静かにコーヒーを飲み続ける、エリスも分かりませんよ ウルキさんのことが

するとウルキさんは何を思い至ったのか、閉じた目を開きエリスの方を見ると

「ねぇ、エリスちゃん…私と勝負しない?」

「勝負?、ここで殴り合うんですか?」

「意外に脳筋なのね、でも違うわ ここで物理的に戦っても勝負は見えてるし、勝負ってのはもっと大局的なもの」

そういうとウルキさんはコップの底に砂糖の固まったそれを机の上に置き、身を乗り出すと

「私はシリウス様を復活させ この世界を壊す、エリスちゃんはシリウス様の復活を阻止してこの世界を守る、世界の行く末を賭けた流れが 最終的にどちらに向かうかの勝負、私とエリスちゃんの…レグルスの教えを受けた者同士の勝負、ねぇ受けてくれる?」

ウルキさんはこの世界を壊したい、エリスはこの世界を守りたい…のか?、まだはっきりとは言えないが、この世界には守りたいものが沢山ある、ならば守ろう この人から シリウスから、それを勝負だというのなら 受けて立つ

「はい、勝負です」

「よし、じゃあ賭けよっか、お互いの勝敗に」

「何をですか?命ですか?」

「そんな物騒なのじゃないよ、負けた方が勝った方の言うことなんでも聞く とかどう?」

そんな子供の遊びじゃないんだから、世界の行く末のかかった勝負の賭けの結果がそんなのでいいのか?、というかその場合ウルキさんが勝ったらエリス言うこと聞くとかそんな状態じゃない気もするが、まぁいいか

「いいですよ、負けませんから」

「ははは、生意気な妹弟子だこと…じゃ、そういうことで、今のままじゃ勝負にならないし、今はしっかり力をつけて ちゃんと修行すること、いい?」

そういうとウルキさんは椅子を立ち、軽く手を振りエリスに背を向けると…

「…次は私の前に、立てるだけの力をちゃんとつけておいてね、でなきゃ本当に…世界 滅んじゃうから」

姉弟子は ウルキは…ただそれだけ伝えると、人混みの中へと消えていく…世界の行く末を賭けての勝負だけを申し込んで、きっと彼女はこれを伝えにきたのだ、闇に隠れ暗躍し人を騙す彼女が見せた ほんの一抹の誠意、それがこの宣戦布告なんだ…

今のままじゃ、エリスとウルキさんでは勝負にもならないから、だからエリスに頑張れと伝えに来た…、その事実に身が引き締まる、もはやエリスの修行は単なる自己研鑽では済まなくなった、エリスは強くならないといけない 世界を守るために

ただひとつ心配なことがあるとしたら、…ウルキさん ちゃんと支払いしたのかな、このコーヒーの支払いエリスに押し付けたとかじゃないよな、そう カラになったコップを眺める

すると

「エリス、ここにいたか すまんな、待たせた」

「レグルス師匠」

ウルキさんと入れ替わるようにカフェに現れるのはレグルス師匠だ、腕には紙袋を抱え 中には食料品がぎっしり詰まっている、真面目に勉強しているエリスを見てやや顔を綻ばせるが 直ぐにその手前に置かれたカラのコップ…さっきまでウルキさんが飲んでいたそれに気がつき、顔をしかめる

「…誰かいたのか?」

「はい、さっきまでウルキさんと話していました」

「ウルキが?、大胆なやつだな…奴はなんと?」

「世界の行く末を賭けて、勝負しようと」

「…そうか」

師匠は動かない、ウルキを追いかけようとはしない、ウルキがここに姿を現し そして師匠と入れ替わりになって消えた以上、今更追いかけても見つけることはできないだろう、彼女は無警戒なようでいて周到だ…むしろ誘いに乗って探し回るのは得策ではない

それを師匠もエリスも理解しているのだ…

「それで?勉強の方は進んでいるか?」

「この街で買える参考書で勉強できる範囲はもう理解しているので…」

「なら問題あるまい、お前にはもう読み書き算術はある程度教えてある その教養があれば試験に落ちるなんてことはあるまいよ」

そう言いながら師匠はさっきまでウルキさんが座っていた椅子に座りながらエリスの参考書を見る、試験に落ちることはないか…だといいのだが

「それで、エリスが学園にいる間師匠はどうするんですか?、師匠も学園に入学するんですか?」

「そんなわけあるか、これでも一応卒業生だ…名前が残ってるかはわからんがな、それにディオスクロア大学園周辺の学園都市には学園関係者しか入ることができない、つまり私は学園に近づけないんだ」

「え!?、ちょちょ!?ちょっと待ってくださいよ、つまり何ですか?師匠は三年間学園に近づけないってことは…」

「ああ、会えない時間が増えるな、何 修行はどのみち魔響櫃が開けられなければ次の段階には進めんし、私がつきっきりで見る必要もないだろう、少し寂しいかもしれないが…」

「少しじゃありません!すごく寂しいです!」

エリスの言葉を聞いて師匠がため息を吐く、呆れたような…というよりは全くこいつは仕方がないなという嬉しさ込み込みのため息だ、でもエリスからしたら死活問題、だって三年も師匠と会えないなんて考えられない

「一応、年に数度は会えるだろうから安心しろ」

「安心できません!、…どうしても行かなきゃダメですか?」

「そうだな、出来れば行って欲しい…以前も言ったがその魔響櫃を開けるには心の成長が必要だ、コフとの戦いで幾らかは心のなんたるかを掴んだようだが まだ足りん、学園生活で己を見つめ直すんだ」

「見つめ直せなかったら…」

「直せ 師匠の命令だ」

うう、とんでもないことになってしまった…学園生活、楽しみ半分 不安半分、エリスはうまくやれるだろうか、集団の中で生きる…特定の誰かと仲良くするのはできるがみんなと となると些か難しいな

まぁどの道やるしかない、未知の領域だからこそ 未だ知らぬ物が掴めるはずだ、…そうだ エリスはもっと強く慣れねばならない

今後立ちはだかる敵は多い、まずアルカナ…力を隠した状態 つまりNo.10の実力を発揮したコフでさえ今のエリスと互角だった、アルカナ幹部全部で二十二人 つまりエリスより確実に強い奴が後十人はいる、そして魔力覚醒をしたコフでさえ一番強いとは言わなかった

あれより強いのが一人二人はいると見ていい…今のままじゃどれも勝ち目がない、そしてその先にいるウルキさんにはもっと勝ち目がない

強くならないと、ようやく心のなんたるかを…心の強さ 即ち誇りをつかんだのだ、それを学園で確たるものにする

そのためにエリスは、ディオスクロア大学園に向かう …新たなる何かを掴むために、カストリア大陸最後の国 コルスコルピへ

上手く行くかな…、コーヒーの黒に映るエリスの顔は、なんとも不安そうだ



…………………………………………

「エリスちゃん、相変わらず真面目で純粋で、可愛らしいですね」

灰色の髪を靡かせ街の大通りを歩くウルキ、つい先程 私の妹弟子たるエリスちゃんに宣戦布告を仕掛けてきたところだ、まだまだか弱く 私の鼻息一つで消し飛ぶような雑魚だけれど、あの子はまだまだ強くなる 強くなってもらわねば困る

その発破をかける意味合いも込めて、後ほんの少しの愛情も散りばめての挨拶…、妹弟子 …ただそれだけでなんだか少し可愛らしく思えてしまうのだから不思議だ、私にもまだ何かを愛でる心があったとは…

ふふふ、なんて…愛ではするが愛しはしない 愛しく思えど逃しはしない、彼女はその骨の髄まで私に捧げる運命なのだから、その為にももっと強くなってね?じゃないと勝負にもならないし 私の役にも立たないから

そう軽く笑いながら大通りの人混みを脇道に逸れて、人目のない裏通りに入る こういう人目のつかない闇こそ心地いい、…一応レグルスが追ってくる可能性も考慮したが、やはり追ってこないか

奴とてこの街のど真ん中を戦場にする気は無いようだ…まぁそりゃそうか、私とレグルスがぶつかれば この街一つ軽く更地になるのだから

「さぁて、どこに行きましょうか、これから忙しくなりますしね あちらに行こうかこちらに行こうか、それとも…」

「あの世…なんてどうかしら」

ふと、人目のない裏通りに立つウルキの前に人影が現れる、…いや 現れるというより、ここにいると分かっていたから誘いに乗っただけだが…

「誰ですか?貴方は」

なんて嘘をついてみるが、私はこいつを知っている…何処ぞへ消えたと思っていたが、まさかここにくるとは バカな奴、そのまま消えてりゃ見逃してやったのに

「大いなるアルカナ…No.6 恋人のザインと言えば分かるかしら、アンタに捨て石にされかかった…負け犬よ」

大いなるアルカナ…マレウス・マレフィカルムで今現在最も精力的に動いている別名実働組織、実力者も多く在籍し マレウス・マレフィカルム内でも最近頭角を現しつつある組織、今のまま成長し規模を拡大し続ければいずれマレフィカルムのトップ 三大組織にも匹敵する程に強くなれるだろう

が、こいつはその木っ端だ 幹部なんて呼ばれてるが、アルカナで強いのは上位五人 『アリエ』と呼ばれる者達だけ、こいつは暴走したエリスちゃんに殺されかかり敵前逃亡したゴミクズだよ

「捨て石?なんのことですか?」

「調べはついてんのよ、アンタでしょう あの計画を立てて私たちを動かした黒幕は!、マレウス・マレフィカルム本部の構成員ってところかしら?」

おやまぁ、よく調べましたこと、たしかにあれは私がマレフィカルムを通じて立案した計画だ、アルカナ本部を舞台にエリスちゃんを暴走 暴れさせ識の力を引き出させ、序でにエリスちゃんが人でも殺せば後戻り出来なくなると思い 彼女達には捨て石になってもらうつもりだった、失敗しましたがね 結局死者はゼロでしたし

うう~ん、その通りぃ…ですが残念 肝心なところが抜けてますね

「私が?マレウス・マレフィカルム本部の構成員?」

「そうよ、あれは本部からの命令だった…ならその命令を出させたアンタも本部の人間ってことでしょ?」

「なるほど、名推理 概ね合ってますよ、で?そのアルカナのザインさん…いいえ?捨て石捨て駒の無様な生き残りが私に何の用ですか?」

「分かってんでしょ、お礼参りよ…アンタのおかげでこちとら酷い目にあってるの、悪いけど 死んで…、先に弓引いたのはそっちだからね」

そう言いながらザインが天に手を掲げると私の周囲に魔術陣が光り輝き現れる、なるほど 魔術陣の使い手でしたか、ここに私を誘い込み、魔術陣で迎え撃つ作戦…ってとこか

「なっ!?魔術陣!?」

なんて態とらしく驚いてみる、当然ここに魔術陣があるのは織り込み済み、こんな浅く下手くそな隠蔽など見なくとも分かる

「私の書き込める最大限の魔術陣を凡そ十二人な用意したわ、ここに迷い込んだことを後悔しながらしなさい」

「じゅ 十二!?」

それだけ!?、…浅いなぁ 己の強さに満足した人間とはかくも浅いものか…、力とは求め続けてこそ開花するもの、エリスちゃんはこんな風にならないで欲しいな

「さぁ、骨もの残さず消え去りなさい、私達を利用しようとした報いを 受けなさい!」

このまま魔術陣を受けてやってもいいが、騒ぎは起こしたくない…ので

「はぁ…甘いですよ」

ため息混じりに指を鳴らせば 私の周囲に浮かび上がる陣形が全てかき消え、後に残るは無音と闇…そして間抜けな顔を見せる間抜けのみか

「なっ…わ 私の陣が…」

「三つ 間違いを指摘しましょう」

「な 何を…」

「まず、魔術陣で敵を迎え撃つつもりなら、相手に気づかれないように使用すること 陣形は傷一つつくだけで発動しなくなるほどにデリケートなもの、浮かれて敵に発動する魔術陣を見せつけるなど、愚か者のすることですよ」

一歩 私が踏み出せば ザインが一歩引く、顔を青くし手が震えている、ようやく己が手を出した相手が格上と気がついたか

「二つ、私は構成員ではありません もっと言えばマレウス・マレフィカルムに属してすらいません」

「は…はぁ?、じゃあなんでアンタが本部を通じて私達に命令できたのよ」

「三つ…、貴方達は捨て石でも捨て駒でもありません、生贄です 死ぬのが仕事です」

無視して進む 二歩三歩、ザインは私の顔を見て 訝しげにしながらも同じ数だけ後ろに下がる、私はマレウス・マレフィカルムには属していない だが…本部を動かす力はある、分からないかな お前が相手をしているのは、マレウス・マレフィカルムなんてちっぽけなものではないことに

「アンタ誰なのよ!、本部の人間じゃないなら何者!、なんで本部を通じてアンタの言うことを私達に命令出来たのよ!」

「…仲良しなんです、貴方達の所のボスと…私は」

「総帥と…!?」

そう、マレウス・マレフィカルム全体の指揮をとりながりも姿を見せることのない謎の存在、通称『総帥』それと私は仲良しなんだ …仲良しというよりは、もっと一方的な関係といってもいいかもしれないが、それをわざわざ教えてやるつもりはない

「だからね、私に手を出すと怒るんですよ…アレが、貴方達の総帥が怒って 私の敵対者を殺しにくるんです」

「総帥が!?…ど どこだ!」

ザインは慌てふためき周囲を見回す、右か?左か?それとも上?前?後ろ?、首と目をあちらこちらに向けて必死に自分を殺しにくる死神を探している、その姿は滑稽だな…でも違う違う、探す場所が違うよ、貴方の総帥がいる場所は

「下ですよ、下」

「下…」

私の指につられてザインが下を見た瞬間…

「ぐぎゃぶぁっ!?!?」

貫かれた、地面から突如 石畳を貫き現れた漆黒の枯れ枝によって真下から肩口めがけ一撃で貫かれる、バカだなぁ 探すまでもなく 貴方達の総帥はずっと ずっと ずーっと…マレウスという国の地下にいたじゃないですか

「あ…がっ…な…に、これ…これが…マレウス・マレフィカルムの…総帥の…力?」

「違います、それが総帥自身です、指先とでも言いましょうか?」

「な…に、それ…総帥は人間じゃ…ぎっ!?ぐっ!?ぎゃぁぁぁあ!?」

ザインが悲鳴をあげる、それもそのはず 地面から生えた枯れ枝が突如蠢き ザインの中身を吸い始めたのだから、血だけではない 肉も骨も内臓も魔力も魂も、ザインを構成する要素全てを枯れ枝が吸引し始めたのだ

全く、殺すついでに食事ですか…注意しないといけませんね、テーブルマナーは守れと

「バカですねぇ、アレの前で私に手を出すなんて…この国全域に根を張る奴の手に逃げ場所はないんですよ」

「ぐっ…ぎゃぶ……」

その一片も残すことなく枯れ枝に食われ消えるザインを見て笑う、その血肉もまたアレを彩る力の一部になるのだ…、私達のシリウス復活計画…その際たる物 私達の計画の切り札 それこそが彼女達が総帥と崇める存在だと

「魔女排斥組織の総帥が、まさか普通の人間だとでも思いましたか?甘いですね アレはもう五百年ほど前から人の形を捨ててるんですよ、魔女を殺すために魔女になる為に…」

だから総帥なんで野暮な呼び方はやめてほしい、この子を呼ぶなら最も適切なものは…そう

原初の魔女シリウスから始まり レグルス達この世を統べる魔女達…、その九人の魔女に続く最も新しき十人目の魔女

その名も『生命の魔女』このマレウスを支配する裏の魔女…、いずれ魔女に至る芽吹にして やがてシリウスを産み落とす大樹、それがこの子の名前

皮肉なもんです、魔女を殺し魔女を排斥しようとする者達の親玉が魔女になろうとする者だなんてね 、そう笑いながら地面から生えた枝を軽く撫でる…、

セフィロトの大樹はやがて芽吹く、魔女シリウスとなって…ね

……………………………………………………

「はぁっ!やぁっ!」

「おーう、スティクスー!、あと素振り100回 フォームを崩すなよ!」

「はいッ!師匠ッ!」

遠くで木剣を振りながら風を起こすスティクスの姿を木影に座り眺めるように指示を飛ばすステュクスの師 ヴェルト、こうして眺めていてよく分かる…

スティクスは例の一件で強くなった、体が鍛えられたわけじゃない まだまだ未熟、技が冴えたわけじゃないまだまだひ弱、だが…心のなんたるかを得た、心に据える一本筋があの時確かに通った

姉との離別、今まで助けようと努力していた姉は既に魔女と共に行動しており、魔女の弟子としてスティクスを否定した、相入れなかったんだ 二人は

ただスティクスはそれでは諦めなかった、それでも姉の為 家族の為に筋を通そうとしている、姉を助けるんだと…何から助けるかは分からないが 奴の心が叫んでいるんならそうすりゃいいと俺は思っている

…誰かを助ける為の一本筋、俺が通せなかった筋を通したいって弟子の頼みは断れない

「ですが、スティクス君には剣を振り続けた先にあるビジョンが見えてるんですかね、私にはどうにもあの姉がスティクスに助けを欲する場面が想像できませんが」

俺の隣に立つメイド服…いやエセメイドが同じようにスティクスを眺めている、先にあるビジョンか

「見えてねぇだろうな、あいつは予知ができるわけじゃねぇ ある程度自分の都合のいいように先のことを考えている、だが今はそれでいいじゃねぇか、目的や目標ってのは時間とともに少しづつ変わるもんだ、あいつが力を得る頃には今とは少し違う形に目的も変わってるだろうさ」

「それでいいんですか?、スティクスは若い 剣を振り続けた結果人生まで棒に振っちゃいましたなんて笑い話にもなりませんよ」

「それはスティクスが決めることだ、俺は何も強制してるわけじゃねぇ」

スティクスがどこかで挫折するなら止めまい、やっぱり意味がないことだと思い至るならば咎めはしない、只今は闇雲に力を欲したいなら 与えるだけだ、もし…スティクスの意思が十年経っても変わらず 、もし…この十年後姉がスティクスの手を借りなければ死んでしまうような場面に直面した時 彼が後悔しないように

「…スティクスの姉は、もう完全に魔女側の人間、スティクスの力を借りるまでもないと思うのですが」

「黙ってろ、…あいつがやりたいようにやればいい、未来のビジョンなんか後から引っ張ってくればいいんだ」

「そんなもんですかね」

「そんなもんだよ、特にああいう時期はな」

「分かりませんね、私にそういう時期がなかったので…」

そうかい、そう軽く言い流す…こいつの過去には興味がない、…そうだ 一つ言いたいことがあったんだ、こいつに

「なぁ、トリンキュロー」

「なんですか?ヴェルト」 

「お前最近どこと連絡とってんだ」

「…………」

トリンキュローの様子がここ数週間おかしい、これでもこいつとはもう数年の付き合いだ、挙動不審…いやこいつは決して表には出さないな、なんというか不自然な程に何もない為 そう感じるのだ

まるで俺になんの疑問も抱かせないように日常生活を送っているというか…そんな変なところが痒いみたいな感覚がここ数週間続いている

「気づいていましたか」

「勘だかな、今ので確信したが…やっぱお前どこかと連絡とってるだろ」 

「勘ですか…、はぁ…そうですね、スティクスには内緒にしてください」

「わーったよ」

こいつが態々俺に隠れて連絡取る相手ってのにあんまり心当たりがねぇ、あるとしたらアジメクを出るとき言っていた魔女と戦う組織か?それとも実家とやらか

「…連絡を取っていたのは実家です」

実家か、確かこいつの姓…そして以前名乗っていた

「ハーシェル家ってやつか?」

「…あまりその言葉を口に出さないほうがいいと以前言いましたよね?、我が父の目は遍くどこにでも届きます、父はその言葉を他人が口にするのが嫌いなのです」

以前こいつがオルクスに雇われた時言っていた、『ハーシェル家』…聞いたこともない家だが、オルクスはまるでハーシェルの家の人間だからという理由でトリンキュローを特別扱いしていたようにも思える

とすると そのハーシェル家は余程…

「そのホニャララ家ってのはなんなんだよ」

「なんですかその呼び方…、いいですか?絶対他言しないでくださいよ?」

「分かってるよ」

「ハーシェル家というのはこの世界最大の暗殺組織の名です」

「ほーん」

だと思ってたよ、だってこいつ暗殺者だもん 、実家実家なんて呼んだって片田舎でジャガイモ作ってるような牧歌的な雰囲気を纏わないほどにハーシェルの名を口にするトリンキュローの顔は剣呑だ

おそらく、オルクスはハーシェル家のことを知っていて パイプを持っていたから、そこの構成員だったトリンキュローを雇い入れることができた、そしてハーシェルは トリンキュローはきっとオルクスが持ち得る力で雇える最大の殺し屋だったのだ、魔女大国一の貴族であるオルクスが…だ

「ハーシェルは『父』の元集められた子供達により構成された組織、史上最強とも名高き父の技を受け継ぎ継承された子供達…それこそが私たちなのです」

「なるほどね、だから実家…かい、剣呑だことで、それで?そのおっかない実家さんとなんで急に連絡を取り始めたんだよ」

「…私が魔女と接触したことがバレたようです」

「バレたって?レグルスのちょっと話した奴がか?、一体どうやって どこから見てたんだよ」

あんな一瞬 数度言葉を交わしたアレがバレるわけがない、そう思っているとトリンキュローを上を指差し

「上から見ていたのですよ…」

「あの世からってこと?」

「違います、父は…空魔ジズ・ハーシェルの目は天空から遍く大地を見下ろしているのです、きっとこの瞬間さえ」

「空魔…」

その名前言ってよかったのか?、そう思いながら上を見るが…相変わらずのお日様サンサンの青天井、精々どデカイ入道雲が見える程度だ、本当に見てるのか?手ェ振ったら振り返してくれるかな

「あまり見ないでください、父が睨んでいます」

「ヒェ…睨んでたのか」

「冗談です、…ですが 見られていました、…ハーシェル家は一応魔女抹殺を掲げる組織なので、魔女に接触した私を黙って見ているわけにはいかなかったのでしょう」

「なんて声かけてきたんだよ」

「…手を貸せと、いずれ来る決戦…マレウス・マレフィカルムと八人の魔女の戦争に」

…戦争、そのマレウスなんたらが何かはしらねぇが、八人の魔女相手に戦争ふっかけられるようなやべえもんだってのはトリンキュローの顔を見りゃ分かる、しかし戦争か…それも全世界に向けて

俺はもう魔女の騎士じゃない、関わる義理はないが…

「で?、なんて答えたんだよ、手を貸すのか?」

「私がここでまだ生きているのが答えです」

「……そうか」

黙って前を見る、スティクスの顔を…出来ればスティクスには戦争を経験させたくない、だがきっと トリンキュローに救援の申し立てがあったってことは、もう近いうちにそれが起こるのは確定なんだろうな

「…もし、その時が来たら スティクスはどうするんでしょうね」

「は?」

「魔女と人の戦争、きっと姉は魔女の側につきます…ですがスティクスは…、姉の側につくのでしょうか それとも人の側に…」

「分からん、…だが……」

ヴェルトは目を伏せる、トリンキュローはその戦争を『魔女』か『人』でしか語ってないが、俺は思う その戦争はきっと選択肢は二つじゃない

ステュクスはきっとその第三の選択肢を選ぶ筈だ、きっと…


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エリス スティクス…魔女 魔女殺し 闇に生きる者 、数多くの因縁と数多くの存在を残したこの国 マレウスの時は、エリスがマレウスを出ることにより一旦止まることとなる

まだ何も解決していない まだ何も終わっていない、この国の決着はまだ時期が早かったのだ、エリスはまだ弱い 芽吹いた目も未だ地の底…

だが、いずれ来る その時が、エリスが力を得て再来する時 花開くその意思が地を破る時、その時が…真なるマレウスでの戦いが始まるのだ

その時まで、ただ一人 スティクスは剣を振るう…その時が来るまで、ただ一人

その時まで……

「ふぅ…」

一人、闇の中で本を閉じる…、ランプの放つ仄かな光が彼女の顔と 周囲に並びたてられた本の山を僅かに照らす

「ついに来ますか待ちくたびれましたよレグルスさぁん…」

苔生した古岩のような汚い緑色の髪をゆっくり持ち上げ彼女は見る 

「ようやく運命が収束しただ一点を目指し始めました…こんなにも長い数年はこの八千年間で初めてですよ」

低い声 口を開くのも億劫そうな声 あまり普段から大声を出してないことが見て取れるようなか細い声を響かせながら彼女は立ち上がる

「さてと…ようやくですこの探求の魔女アンタレスのところにあなたが来るのを待ちに待ち続けましたよレグルスさぁん…寄り道せずまっすぐここに来てくれればよかったのに」

探求の魔女アンタレス、…原初の魔女シリウスより最も深く 叡智を授けられた彼女は、数十年ぶりに腰をあげる、久しく現れる魔女レグルス…我が朋友、彼女の目を見て確かめねばならないことがある

しかしレグルスさぁん、とんでもない爆弾抱えてやって来るみたいですねぇ…

識の使い手、未だ目覚めぬ未完の阿頼耶識、彼女は中心ではないが いずれあの力も必要になる、…それまで闇に落ちなければいいのですが

アンタレスは一人憂げに息を吐く、ああ面倒だ…全てが面倒

でもこれだけはやらないと、これは我々魔女の最後の仕事なのだがら…





……………………第五章 終

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