孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

126.孤独の魔女と笑う道化

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長かった夏の長期休暇は終わり、今日から学校です とベッドの上のデティに言えば クシャアと顔を歪めたが、ダメです 休暇ボケは許しません

エリスもラグナもメルクさんも既に制服に着替えている、今日から学園が再開する 長く休んでいると感覚が狂いそうになるが、それも今日まで 感覚を戻し健全な学園生活を送りましょう皆さん!

「この制服に袖を通すのも久し振りな気がするな」

「一か月半を久し振りと見るか否かは意見が分かれそうですね」

「休み明けというのはどうにも気が抜けるな、まぁ 我等の本分は学業 そこを違えてはならん、…デティ いい加減シャキッとしたらどうだ」

「うう、あと三日くらい休みたい」

それは悪足掻きですよデティ、なんて話をしながらエリス達は街の大通りを歩きみんなで登校をしている、今日から学園が再始動することもあり 学生のための街でもあるこの学園都市も今日から慌ただしい

通行人も多く、エリス達と同じ格好をした人間が多くいる 、この光景を見るだけで 学園だなぁって気がしてくる、曖昧な心地だが

「そういや聞き及んだ話なんだが、長期休暇明けから俺たちの授業も変わる…って話聞いたんだが、知ってるか?エリス」

ラグナは頭の後ろに腕を組みながら器用に鞄を持って問う、休み明けから授業が変わる、ああ その通りだ

「はい、長期休暇が始まる前の期間は飽くまで入学したての生徒達に学園生活に慣れてもらうための期間、今日からは他期生の先輩達に混じってエリス達も勉強することになります」

「なるほど、いつもの授業に先輩も加わるということか」

謂わば今まではお試し期間 魔術薬学や魔獣学と言った座学がメインだったが、今日からはより多く より幅広くの授業を行うらしい、中には実戦形式の魔術訓練もあるようだ、…実戦か やり過ぎないように注意しなければ

「先輩達かぁ、どんな人たちがいるのかなぁ」

「さぁ、それは知りませんが…」

「ま なんでもいいけどさ、俺としては実戦形式の…」

と、ラグナが口にした瞬間…それは唐突に起こった

ブレる、ラグナの体 いや頭が、唐突な出来事でエリス達はなんの反応も出来なかったが この目は確かに捉えていた、いや捉える事しかできなかった

いきなり、そう本当にいきなり なんの前触れもなく降ってきたのだラグナの頭目掛けて、見るからに重厚な陶器の水瓶が 一縷の狂いもなく狙ったようにラグナの頭目掛けて降ってきた

重く 硬い水瓶は人間の頭蓋骨よりも遥かに固く分厚い そんなものが頭の上に激突・命中すれば普通の人間ならば死は免れない

…ラグナも気を抜いていたのか、視界外から降ってきたそれに反応できる素振りもなく、頭でそれを受け止め、体は衝撃でブレ…

「…っと!」

た瞬間、ラグナは咄嗟にクルリと縦に体を一回転させ水瓶の衝撃を受け流すと共に、手で受け止め…着地する

反応ではない 反射だ、咄嗟に体が動いたとしか思えない反応速度、アレに体が反応して受け流したのか、ラグナは何食わぬ顔でやってのけたが 完全な不意打ちでしかも視界外、相変わらず化け物だな 彼は、エリスも極限集中を使ってもアレには反応出来ないぞ

「なんだこれ、降ってきたんだけど」

「み 水瓶!?なんでそんなものが…」

ふと、エリス達は揃って上を見れば、エリス達の頭上にある建物が見える、彼処から落ちてきたのか?よく見れば サッと建物の奥へ隠れるように移動する影が見える、アレが水瓶を落としたのか?

…謝りもせず隠れたところを見るに、事故ではなく故意…ラグナを傷つけるために誰かが水瓶を落としたんだ

「…誰かが水瓶を落としたみたいですね」

「しかもワザとな、何モンだアイツら」

「殺す気か?、ラグナでなければ死んでいたぞ」

「って!みんな何落ち着き払ってんの!?追わなくていいの!?」

デティは騒ぐが、無理だろうな これが故意ならば奴らもエリス達が追ってくるのは承知の上、追ってきても大丈夫な準備を整え初めて奇襲は形を成す

どうせ逃走経路は用意してあるだろうし、今更追っても無駄だ 掻き乱されるだけだ

「無駄だ追っても、もう逃げてる…それに怒る程の事じゃない」

「怒る程の事だよ!死ぬとこだったんだよ!」

「死なないよこんなモンじゃ、それよりもこれ…多分アイツらの仕業だな」

「ええ、きっとノーブルズ…恐らくは中心メンバーに追従する下部組織の仕業でしょう」

あのガニメデにも部下がいたんだ、イオは言わずもがな カリストやエウロパに居てもおかしくはない、それが攻撃を仕掛けてきたと考えるのが自然だろう、誰の差し金かはまだ分からないが

「ったく、初日から精力的だな、感心するな」

「ガニメデが倒されたんです、奴らももう手を抜く気は無いんでしょうね…」

「上等、やっと面白くなってきやがった、みんなも気を抜くなよ またいつこんなモンが降ってくるかわからねぇからな」

というとラグナ愉快そうに笑うと水瓶を片手で握り潰し捨てる、面白いって …いやこういう危険を楽しめる胆力も必要か、いや必要ないよ ラグナがおかしいだけだ

ラグナの言う通り 今までみたいな子供のイタズラ程度じゃ済まないレベルに悪化している、もはや襲撃 もしくは暗殺といってもいいレベルだ、気は抜けない 

気は抜けなくとも学園には行かなくてはいけないのだが


ともあれ、エリス達の学園生活は相変わらず危険なものになりそうですね

………………………………………………………………

長期休暇明け一発目最初の授業…今日の授業は 魔術実践学、つまり実際に魔術を使ってみよう というシンプルな授業だ、いくら…魔術の知識があり 詠唱を知っていても、使えなければ意味がない、流石にこの中に魔術を使えない人間はいないだろうが…

まぁそれはそれとして、エリス達は学園に着くなり そのまま教室には入らず荷物をまとめ動きやすい服装に着替えた後慌ただしくまた移動

向かうは魔術棟の外 広大な原っぱの広がる平地 、何もないが一応魔術訓練場と名付けられた青空教室へとやってきた、一応学園の中らしいが 相変わらず凄まじく広い学園だ

今日はこの魔術訓練場にて、エリス達972期生は集合している、どうやら今日は魔術実践をすると共に 今日から共に学ぶ先輩達と顔見せすることになるようだ

「広い原っぱぁ、ここで寝そべったら気持ち良さそうだよね」

「そうですね、みんなとピクニックするならこんなところがいいですね」

「いいねぇ、なら今度の長期休暇はみんなでピクニックに行くか?」

「次の長期休暇は真冬のど真ん中だぞ、寒くて凍えてしまう」

「冬かぁ、俺冬初めてなんだよなぁ」

「そういえばアルクカースには冬がありませんものね」

エリス達は魔術訓練場に集合する、当然他の生徒も一緒だが エリス達とはやや距離を取っている、まぁ それもそうか、エリス達は爪弾き物だものな、距離は取られて当然も当然か

ふと、キョロキョロ見渡すが 見ない顔はない、つまり先輩方はまだ来てない様子だ、後輩たるエリス達が出迎える形になるのもまた当然か

「おやおや、これから授業だというのにピクニックの話かい?呑気だね 君達」

すると、エリス達に近づいてくる影がある 特徴的な七三分けの髪型、ナメくさったような上から目線の口調、クライスだ デティによって粉砕された彼が全くと呆れながらこちらに近づいてくる

「あ!クライス君!よっす!」

「ぐっ、で デティフローア様…ま まぁ今は同じ学友、畏るのは止しましょう」

デティを見るなり身構えるクライス、対するデティはあんまり気にしてない様子だが

あの日以来クライスはデティに苦手意識を持っているらしい、今まで自分よりも魔術に詳しい人間がいなかったからこそ、自分の上位互換たるデティにはどう足掻いても敵わないと 今まで避けていたんだが…、今日は違う

「どういう風の吹き回しですか?、貴方の方から寄ってくるなんて」

今まで、エリス達に寄ってくる人間は少なからず悪意を秘めていた だというのに彼からはそれを感じない…、そんなエリスの言葉を受けるとクライスはフッと笑い

「いや何、例の食堂放火事件の件で 礼を言いたくてね」

「お礼…ですか?」

「覚えてないのかい?、あの唐突な悲劇…燃え盛る火炎に取り残され窮地に立たされた生徒…、そこを君達に助けられた数多の生徒の中私も居たんだよ僕もね、そこの赤髪の彼 ラグナ様に助けられた生徒の一人さ、僕は」

そうだったのか、エリスは火を抑えるのでいっぱいいっぱいで、助けた生徒の顔なんて確認してなかったが

とラグナを見るとラグナも口を一文字にして首を傾げている、彼も誰を助けたかは確認していないか…或いは忘れたか、ラグナも必死だっだろうな

にしても良かった、見た所酷いやけども無いし 無事らしい、しかし クライスさんの顔つきは沈痛で 悔しさに塗れている

「…僕は、誰よりも魔術について詳しく 腕もあると思っていた あの瞬間までね、けれど 実際火が舞い上がって目の前に降りかかった時、果敢に炎に立ち向かう勇気はなかった 、水魔術でも使えばなんとでも出来たというのに…怯える他の生徒と共に、叫び 竦み…あの場に及んで誰かの助けを求めていた、情けない話だ…傲慢であった自分が恥ずかしいよ」

彼は言う いくら魔術が使えても それを使う勇気がなければ何の意味もなかったんだと

悪いことじゃ無い 怯えるのも恐れるのも、火は怖いものだ 命の危機は恐ろしいものだ、それに直面すれば誰だってパニックになり正常な判断なんか出来ない、エリスも驚いてすぐには動けなかったんだから

全部ラグナがその場で指揮を取ってくれたからだ、彼はあの場で誰よりも冷静に動き 生徒達をエリス達を動かし、誰一人として死なせなかった、立派なのはラグナだよ

「本当に 本当にありがとう、君達のおかげで助けられた…命だけじゃない、あの経験がなければ僕は己の傲慢さに気がつけなかった、命の危機にあって己を振り返り 鑑みたとしても無駄になるところだった、やり直す その機会を与えてくれて …本当にありがとう」

頭を下げる、あれだけプライド高かった彼が 姿勢を正し綺麗に直角を描きながら、礼を言う…

クライスさんは己を改めた、口だけでないのはエリスにも分かる程 今の彼は真摯だ、口先だけじゃああもならない、本当に炎を前にして今までの自分の行いを反省したんだ

己を改める、簡単なことじゃない エリスも中々出来てない…それを彼は自分の中でまとめて整理して呑み込んで、自分の糧とした すごい事だとエリスも素直に思います

「礼を言われる程の…事だな、俺お前の命助けたわけだし」

「ラグナ雰囲気もクソもないです」

「君が無事なら私達もそれでいいさ」

「全く君達は…、だが 感謝しているのは僕だけではないんだよ?」

するとクライスは頭をあげると乱れた髪をピッチリ整えると、その目を背後に向ける

「君達はノーブルズと敵対している不良生徒、裏じゃあ怪しい事に手を染めこの学園を支配し虐げ学園をぶち壊そうとしている 、はっきり言えばそれが君達の今の評価だ」

「何それー!エリスちゃんもラグナもメルクさんも私も!そんなことしようとしてないよ!」

「分かっているさ これノーブルズ達が勝手に広めた吹けば飛ぶような悪評…デマだ、少なくともあの火災から助けられた生徒達は君達のことをそんな風には思ってない、学園全体から見ればまだまだ少数だが それでも確実に君達に恩義を感じ密かに応援している生徒はいるんだ、僕のようにね」

そうか…、あの火災から助けだした生徒達は エリス達のことをそんな風には思ってないのか、あそこで助けてくれたのはノーブルズじゃない ラグナだ、彼が命をかけた だから多くの人が助かった、それを分かってくれてるんだ

…味方して欲しいから助けたとか ガニメデとの戦いに勝ちたいから助けたとか、そんな打算は あの瞬間頭になかった、ただ助ける その一心だった

…みんな、少しづつ評価を改めてくれているのか、ラグナが当初口にしたエリス達の評価の改善、それも着実に進んでるんだ

「聞けばあの火災はノーブルズによって引き起こされたものなんだろ?、流石にもうあのような暴挙を僕達も許すつもりはない…表立っては味方出来ないが、私も他の生徒も 君達に味方するつもりだ、僕達もノーブルズを糾弾するつもりだ」

「本当か?…大丈夫か?」

「目立つように味方出来ないが僕はその助けられた生徒達を纏め君達の為に裏で動くつもりだ、頼りにはならんだろうが 役には立ってみせる、僕は恩を恩のまま放置はしない主義なんだ、優秀な僕が 確実に何かしらの成果をあげてみせよう」

クククと顎に指を当てきらりと目を光らせる、ナルシスト気味なところ変わらないんだな、だがクライスやあの火災でエリス達が助けたみんなが エリス達に味方しノーブルズとの対立を援護してくれると言うのだ

予期せぬ味方の誕生に呆気取られていると…

「エリス、アルクカースの時を覚えているか?」

「え?ラグナ…そりゃ覚えてますけど」

「あの時と同じだ、味方をこうやって増やしていけば 盤面だってひっくり返せる」

ラグナは笑う、味方を増やしていけばどんな状況でも勝てると、…そうだ あの時もこんな感じだった、結果として味方にしたバードランドさん達のおかげで必敗の戦いはひっくり返せた

今回も同じだ、学園を支配するノーブルズ達にも こうすれば対抗できるんだ、エリス達だけでは出来ないことも これからは出来る、クライスさんがどこまでやってくれるか分からんけど

「おーい、お前達ー? 無駄話もいい加減にしろ~?、そろそろ先輩達と合流するからなぁ~」

すると大柄で髭面の男性…この魔術実践学の担当先生 ボルフ先生が魔術杖をついて現れる、大柄で魔術師にあるまじき筋肉質な体…それもその筈 この人は元冒険者、それも三ツ字の実力者なんだ

実戦で培われた実力の高さを買われてこのように魔術実践学の教師を任されているんだ、その経験は確かなものだ、…だが一つ注意しなければならないことがある

ボルフ先生、彼は親ノーブルズ派…ノーブルズにかなり優遇してもらっており、彼自身ノーブルズに媚びへつらう立場にいる人間だ、ノーブルズに従う人間には甘く 逆らう人間にはとことん厳しい、立場で生徒を区別する人間なんだ

当然、エリス達のことも目の敵にしている…、事実ほら あの温厚そうな目の奥で エリス達を蔑むような目を向けている、まぁ慣れたけどさ あんな視線

「注意したまえよ君達、教師の殆どはノーブルズに従う者か 逆らわない者しかいない、教師に君達の味方はいないと思いたまえ」

「分かってるよクライス」

「本当かい?、授業中もノーブルズの嫌がらせがある可能性があるんだ、旗手である君達が折れるなよ」

クライスはそう忠告する、まぁ 教師に味方がいるとは最初から思ってない、味方がいるならこんなことにはなってないしね

唯一分け隔てないのはリリアーナ先生だけだが、彼女も彼女で忙しいらしく エリス達はまだ彼女の授業を受けたことがない、彼女は教師である前に魔術界を代表する知恵者 七魔賢なのだから

「では、先立の生徒として我が魔術科を代表する者に挨拶してもらおう、ほら エドワルド挨拶を」

「はぁい、せんせぇ」

するとボルフ先生が合図をし 見慣れ一団を連れてくる、その人数はエリス達972期生よりも多い…口振り的にあれがエリスの先輩方なのだろう

思考も置き去りにし、ボルフ先生に呼ばれたエドワルドなる人物が前に出る、そりゃあもう優雅な足取りで

「こんにちはぁ?可愛い可愛い後輩諸君、ご紹介に預かりましたエドワルド・ヴァラーハミヒラでございますぅ、気軽エドワルド先輩と呼んでほしいなぁ、まぁ よろしく頼むよぉ?」

エドワルドと名乗る男、制服の上着を肩から掛け お洒落な帽子を被った糸目の男が手を広げ恭しく一礼する、その様は道化 或いは化け狐…というか 胡散臭い空気がプンプンする

嘘をつきそうな見た目と信用してください?って態度がなおのこと怪しい、彼がエリスに金銭に関するお話を持ちかけてきたら多くの人間は一も二もなく断るだろう

「エドワルド…、なんか怪しい男ですね」

「なんだいエリス君知らないのかい?、この学園と生徒として彼を知らないのは恥ずべき事だよ」

フフフとクライスがエリスの隙を見つけたように笑う、味方にはなるけどマウントは取るんだな…、まぁ人が変わったわけではないからな うん

「そういうクライスは知ってんのか?」

「まあね、というより知っている方が普通と言える…エドワルド・ヴァラーハミヒラ、数年前学園に彗星のように現れ瞬く間に魔術科の頂点に立った男さ、学園内での彼の評価は正しく『稀代の天才』、その才気はかのグロリアーナにも類すると言われているほどだ」

グロリアーナさんに匹敵?、それは凄い…しかも凄いのはそれが多分大袈裟ではないという事だ、彼の体が溢れる魔力…学生レベルじゃない 宮廷魔術師さえも軽く凌駕している

クライスさんのいうことに偽りなし、噂に違いなし、エドワルドという怪しい男はあれでも正しく学園最強の魔術師なのだろう

「あの飄々とした態度の裏に隠された実力の高さから、『道化』或いは『化け狐』の二つ名を持つ男、ノーブルズに恭順の姿勢こそ見せていないが、味方にするのはオススメしないよ」

「それはその通りだ、何考えてるかわからない奴を手元に置くのは、どんな強力な敵を目の前にするより恐ろしいからな、腹の底が割れないうちは そんなこと考えないさ」

メルクさんの言う通りだ、何を考えているか分からないということは自分の考えを明かさないという事、背中見せたらサックリやられる可能性もあるんだ

そんな奴と協力体制なんか結べない…、ノーブルズの味方じゃないってだけでエリス達の味方でもないんだから、誰でも彼でも信用していいわけじゃない

「では、これから授業の説明を執り行う」

なんてエリス達が話している間に先輩達の話は終わってしまったようで、ボルフ先生が授業の説明を始める

魔術実践学…魔術を使って様々な事を経験するこの授業では一つのことに留まらず多くのことを学ぶ、魔術の使い道が幅広いように この授業の幅もまた広い

色々やるようだが 取り敢えず今日やることは決まってる、当然だが魔術を使った実戦形式の授業だ、訓練場出てきてんだから当たり前だ 青空の下座学をやる意味はあまりないしね

「実戦形式での授業だ、魔術は基本 今の世の中では戦闘に用いられることも多い、研究者も自分の研究成果や身を守る為に戦闘術を心得ている場合が多い、それ故 お前達には魔術による戦闘に慣れてもらう」

魔術師とは言え職業は山とある、戦闘を行う職以外もたくさん、でも 自分のやりたい事をやりたいようにやるにはある程度の危険も伴う物、死んでしまっては元も子も身も蓋もない だから生きていけるように 戦えるようにする、そういう話だ

「基本的な戦闘法は私が見て教える、…そうだな 私が 振り分ける通りに二人一組を組め、その二人で戦闘訓練を行う、大丈夫 同じレベルのを割り当てる」

どうやらボルフ先生が見て 同じレベルの生徒同士に戦ってもらい、まずは戦闘の空気を感じてもらうらしい、エリス達は既にある程度の修羅場は潜っているが、みんながみんなそう ってわけじゃないしね

「では呼ばれた順にこちらに来い、まずは…」

そこで先生の点呼が始まる、結構な量の生徒がいるから 振り分けだけで時間がかかりそうだ、呼ばれるまで時間があるな…

「おいラグナ、やりすぎるなよ」

「分かってるよ、メルクさんこそ 銃ぶっ放すなよ」

「うぅーん、…この授業効率悪いなぁ」

ラグナとメルクさんは肩を叩き合い とりあえず手加減はしろよと言い合い、デティはこの授業のやり方にいささか不満があるようだ、仕方ないよ ボルフ先生は元々冒険者、こう言ってはなんだが学がある人間はそもそも冒険者をやらない、つまり冒険者上がりという事はそういうことだ

すると

「おやぁ、そこにおわすは学園の有名人達じゃ~ありませんかぁ」

「む、エドワルド…」

狐のような お面のような、そんな張り付いた笑顔の帽子を軽く上げ挨拶をするエドワルドが こちらに仰々しい身振り手振りで喜びを表しながら寄ってくる、それを見てクライスは取り敢えず目をつけられないように移動をする、エリス達を見捨てたわけじゃない ただエリス達とクライスが繋がっていることがバレたら彼も後々動きづらいから 仕方ないことだ

対するエリス達はエドワルドと向かい合い

「何か…用ですか?エドワルド先輩」

「いやいや、用はないんだよ?ただ用がなければ話しちゃダメかなぁ?、君達の国にアポとった方がいいぃ?」

半笑い…ともすれば小馬鹿にするような態度に些か苦笑いが出る、道化のエドワルドか…まぁ その名の通りの人物といったところか

相手すると疲れるタイプだこれ

「聞いたよぉ、ノーブルズ相手にバチバチやり合ってるってねぇ、気合入ってるねぇ~凄いね~」

「いえ、…先輩もノーブルズには従う素振りを見せていないと聞きますが」

「まぁねぇ、僕はほら 上とか下とかそう言う縦の階級に興味ないから、寧ろ圧政者が愚民を踏みつけにする構図を横から見てる観客…って立ち位置が好きなのさぁ」

いい趣味とは言えないな、彼はこんな感じでのらりくらりとこの学園を渡り歩いているんだろう

そういう中立的な立ち位置は雑魚や馬鹿には出来ない…それをこなせる頭脳と才覚と他を黙らせる実力を持ち合わせて初めて傍観という地位は得られる、しかし

それだけの力と行動力がありながら、あの圧政を黙認しているなら、彼はノーブルズとなんら変わりはない、行動すること全てではないが それを娯楽と斬って捨てるなら相入れることはない

「それよりもさぁ!、君達全員魔女の弟子なんだろうぅ?、凄いなぁ凄いなぁ、まさか魔女のお弟子さんとこうやってお話しできるなんて光栄だなぁ、握手してもいいかなぁ」

「へ?え?いや、あ…はい」

ズイズイと寄ってくるエドワルドに押し切られ、差し出された手を掴み握手をすることに…、なんだこの人は、本当に何を考えているか読めないな

そう思い、その手を取ろうとした瞬間

「待て、エリス」

「え?、メルクさん?」

メルクさんがエリスの腕を掴み、止める 握手を

「なんだよぉ、握手もダメなのかぁい?」

「そうだな、それはこれがなんなのかの説明を受けてからだな」

そういうとメルクさんはエドワルドの手…いや その袖に手を当て 引っ張ると

奥から 鋭利な鉄針が顔を覗かせキラリと鋭く光る、って は 針!?袖の奥にこんなもの仕込んで…あのまま握手していたら あの針がエリスの指に刺さっていただろう、全然気がつかなかった

「この針はなんだ?」

「ちょっとしたイタズラさぁ、お茶目な先輩のねぇ?」

「何か塗ってあるように見えるが?」

「見えるだけだろう?」

「…………」

「怖い顔しないでさぁ、ほら 仲直りの握手 どうだい?」

何か 先端に塗られた袖のそれを隠そうともせずその手をメルクさんに向け握手を求める

凄い人だなこの人 エリス達を騙して楽しむというよりは、困惑するその顔を見て楽しんでいるようだ、この針も見抜かれるのを前提で それにエリス達がビビるのを見て楽しんでいるように見える

こんな人が魔術科最強というのだから分からない…天才とはこういうものなのか?

「嫌われてしまったかなぁ」

「好かれる要素があったのなら驚きだ」

「フフフ、いやいや…悪かったねぇ、まぁ冗談はともかくさ?もし僕の力が借りたくなったら言ってくれよ、迷える後輩を助けるのも 先輩の役目だからさ」

それでは とまた帽子のつばを上げ挨拶をすると踵を返す、頼る?あれを?、よほど切羽詰まらないとあれに話しかけるって選択肢も浮かんできそうにないな

「ありゃ、味方云々以前の問題だな」

「ああ、曲者だ」

ラグナとメルクさんは辟易しながら立ち去るエドワルドの背中を見守る、きっとみんな同じことを考えていたんだろうな

 するとデティは一人 首をかしげ

「あの人、…何を考えてるか読めなかった」

「え?」

魔力からその人間の感情かを読み取れる筈のデティが エドワルドを読み切れなかったというのだ、少なくともそんな人間 見たことはない

「考えが読めなかったんですか?」

「うーん、魔力自体は読めたんだけど…それがどういう感情かよく分からないというか、気持ち悪い人だなぁって、魔力も人柄も」

そうか、飽くまでデティが読んでいるとは魔力だ 頭の中を覗いているわけじゃない、魔力が読めてもそこからどういう感情か分かるかは別問題

今まで見たことのない物なら 読み切ることは難しいのか、…デティの能力も万能ではないんだな

「次!、エリス!…お前はこいつと戦闘を行え」

「あ!エリス呼ばれたんで行ってきますね」

「おう、頑張れよ」

「負けないでねー!、って負けるわけか」

「油断するなよ?エリス」

ボルフ先生に呼び出されれば慌てて駆け出し呼ばれた方へ向かう、エリスと戦う生徒が決まったようだ、戦闘か 魔女の弟子として負けるわけには行かないな、気合いを入れよう

そう両頬を叩きながら駆け足で指定された場所に赴けば…エリスを待つ一人の生徒がいた

「………………」

伸びきった黒い髪は胸元まで伸びていた、まるでお化けか幽霊か…そんな不気味な女生徒 が立っている

顔にかかった髪の隙間から覗く目はホラーだ、制服を着てなければ不審者と思ってしまうような恐ろしい生徒

それが…エリスを待っていた、まさかこの人が?

「エリス、お前の相手は970期生のホリーだ」

ボルフ先生が言う、彼女の名前はホリーと言うらしい、ホラーな見た目のホリー…いや人の名前で遊ぶのはよそう

それより970期生…と言うことはエリスより二つ上級生か、となると先輩と言うとになる、先輩後輩という立場にある以上敬わねばならない、エドワルド相手には不思議とそんな気持ちにはならなかったが

「ホリー先輩 、エリスはエリスです よろしくお願いします」

お辞儀をしながら握手を求める、普通は後輩から先んじて挨拶するもの、故に手を差し出し軽く礼をする…するとホリー先輩は

「………………」

無視、身動ぎひとつしない こちらを見るとか会釈するとか、最悪 舌打ち一つもしない、え?模型?人形?と思うほどに反応がない、まるでエリスの存在そのものを認識していないようだ

というか意識あります?おーい?

「あのぁ~、ホリー先輩~?」

伺う、下から 顔を覗き込むように、そろ~っとその長い髪の向こうに見える顔を覗こうとすると

「敵…」

「っ!?」

咄嗟に後ろへ跳ね飛ぶ、髪の向こう 隠された目を見た瞬間悟る、この人普通の生徒じゃない、いや 普通の人ではない、だってその目 赤く充血し敵意に満ちていたのだから、こわ…

「よし、では皆!模擬戦を始める前にルールを説明する、流石に体に魔術を当てるのはご法度だ 怪我をするからな、故にお前達にはこれを付ける」

ボルフ先生がそう説明しながら何やら箱のような物を開ける、その中から紫色のオーブのようなものがフワリと浮き飛び立ち、二人一組に分かれる生徒たちの頭の上に、エリスとホリー先輩の頭の上で静止する

何これ、と思い頭を動かすと、エリスの頭のやや上に固定されたかのようについてくる、頭を振り回すとその通りに動き走るとぴったり追従する、なるほどなるほど

面白いなこれ 首振ったら一緒に動くよ、まぁ見上げるとオーブも後ろに行っちゃうからよく見えないんだけど

「それは追従の魔術を付与したマジックオーブ、お前たちの頭の上に追従するようにしてある、今からみんなにはそのオーブを狙いあって攻撃し合って貰う、当然ながら先に壊された方の負けだ」

このオーブ、コツンと指で弾くとその感触から材質自体はただのガラスであることがわかる、つまり 魔術でオーブを壊し合う、それがこの戦いの趣旨か 確かにそれなら体を狙わず勝敗を決められる、怪我をしないのならそれが一番だ

「ルールは二つ 体は狙うな 他の組の邪魔をするな、これを犯した場合即刻負けだ、勝敗は成績にも影響する なるべく勝ちを狙うように」

勝てば良い成績に 負ければ悪い成績に、師匠の弟子として ここで悪い成績を得るわけにはいかない、故にたとえ先輩といえど遠慮して勝ちを譲るつもりはない ということだ

ルールは体を狙うなか…まぁエリスも率先して傷つけたいわけじゃない、狙うなと言われりゃ狙わない、戦いとは言え授業だ 怪我をさせたら後味が悪い

一定間隔でこの広い訓練場に広がった二人一組、見回せば遠くにラグナやメルクさん デティの姿が見える、そしてその相手はどれも先輩、実力を見て振り分けたらそうなるのか

つまり、ボルフ先生から見て エリスとこのホリーさんは同格…ということか、なら油断しないほうがよさそうだ

「では始めるぞ…」

そう言ってボルフ先生はゆっくり杖を振り上げ、開始の合図を…その瞬間今までピクリとも動かなかったホリー先輩が動き

「『アイスエッジ』…」

「始めっ!!!」

「ちょっ!?」

ボルフ先生が杖を振り下ろし開始の合図を告げる一瞬前に、ホリー先輩は氷の刃をエリスに向けて放ってくる、いや いいのか!?それ!

幾重にも…数にして十数の蒼刃が光を反射しながら音を切り裂きエリスに向かって射出される、鋭い刃だ…と言うかこの刃

「っとと!」

体を捻り刃を避ける、そう 体を捻って避けたんだ、つまりエリスの体に向けて放たれている

いやいや、それはルール違反じゃないのか!?初手から狙っていいものじゃないだろ、牽制でも脅しでもないキメの攻撃、今のであわよくば殺してやろう そんな攻撃だった!

「ちょっとホリー先輩!今体を狙いましたよね!?」

「…………」

無視だ、変わらずぬらりと構えを取っている、つい狙いが逸れましたってんならまぁわかるが、今のはどう見ても体を狙っていた その上謝罪もない、確信犯だ

「ボルフ先生!!」

「…………」

先生の方を見ると、何も見ていませんと言わんばかりに他の生徒の方を見ている

そこで…ようやく理解する、ああなるほどそう言うことかと

「なるほど、…なるほどねぇ!」

つまり この授業でエリス達をぶっ潰そうとしているわけだ ボルフ先生やホリー先輩は、おそらく二人はノーブルズ派の人間、ホリー先輩は分からないがボルフ先生は確定している

そして この実践学でノーブルズ派の実力者とエリス達を戦わせ、模擬戦に託けて怪我でも負わせようって魂胆なんだろう

ここでエリスが応戦し もしホリー先輩の体を狙えば、ボルフ先生は目敏くエリスに違反を言い渡し物笑い、そしてホリー先輩はエリスの本体は狙い放題で攻撃し放題、抵抗出来ないからサンドバッグ状態だ

恐らくラグナ達が組まされた相手も同じ、そう言うことだったんだ…これはノーブルズの攻撃なんだ、朝の水瓶と同じ!

「…なんともまぁ、ノーブルズの為 自ずとしたのか 或いは直々に指示されてかは知りませんが、容赦ないんですね」

「…………」

ガニメデを打ち倒し 完全に弓を引いた時からある程度の覚悟はしていたが、今朝のラグナといい もう敵意剥き出し、殺意すら感じるほどだ、ノーブルズの権威を落とされては困る人間は山といる だから…こうして亡き者にしようとしているのだろうな

「分かりました、乗りますよ」

構えを取る、エリス達とて引けるなら引いてる だが引けないからこうして対立しているんだ、ノーブルズ達の暴挙は理解している、ピエールのような横暴を働く人間はノーブルズ内にも他にいるし ガニメデに迫害されていた生徒達のような人間も多くいる

せっかく夢を見て学園に入学してきた生徒達を踏みつけにする行為は、許し難い…このまま容認すれば またバーバラさんのような被害者を生みかねない

だからこそ、戦うのだ ノーブルズと…あれはもう放置できないんだ

「…『フレイムインパクト』」

「っ…!」

放たれる炎、これもまたエリスの体を狙っての攻撃、こんなものいつもなら風を纏って突き抜けるのだが…

(頭の上のオーブがありますからね、下手な防御は出来ないか)

エリスの体は風で守られても、頭の上のオーブはそうはいかない、これが壊れればエリスは敗北、ボルフ先生は嬉しく高笑い それは嫌だ、腹が立つ…やるなら勝利、それしかありえない

故に、回避 それしか出来る行動がない!

「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を  『旋風圏跳』!」

風を纏う、横へ飛び立ち炎を迂回 ホリー先輩の魔術の威力はさっき見たから理解した

…強い、飽くまで学生の範疇だが いつぞやの大いなるアルカナの幹部 魔術師のベートが連れていたベート魔術師団とか言うやつらより余程強い、流石は大学園のエリート!だが

(コフやヘットと比べたら、全然です!)

強者とは その一手一手に無駄がない、エリスが相手取った強者達…レオナヒルドから始まりコフに至るまで皆 須らく攻防を両立させていた

攻めながら守るか或いは防御が攻撃も兼任するか、どちらにせよそう言う戦い方をしてくるやつは強い

対するホリーさんは攻めの一点張り、攻撃力は高いが 相手はどうせ体を狙ってこないと言う自信からか、防御がおざなりだ 殴ってくれと言わんばかりだ

「っ…!、古式魔術!…『サンダースプレッド』!」

変わったな 顔色、見るのは初めてか古式魔術を、乱れ飛ぶ雷撃 散らばる電撃 中頃で縛った藁のように広がる伝来をオーブを気にしながら旋回 後方へ向け飛び射程外へ回避する、しかし厄介なのは頭の上のオーブ…

これがある限り攻めきれないのは事実、さて如何にしたものか

…うん、今まで慣れていない魔術は付け焼き刃同然と忌避し、使ってこなかったが…そろそろ使ってもいいだろう、マレウス 二年間の修行で得た新たな魔術を!

ちょうどいい魔術を一つ知っている、それを使う!、そう決意しエリスは大きく息を吸い

「すぅ、降り注ぐ陽光は万物に齎される光の祝福、我が手の内より出ずる飛輪の寵児よ!今その祝福の光の一端を 刃と変え我が眼前を走れ!『金鳥明束刃』」

師匠は言った この魔術は古式魔術の中でも上位に入る 扱い難さを持つと…

エリスはその手を天に掲げ詠唱を紡げば、手より現れる来光 まるで太陽の子供のような小さな球体が現れ 周囲に光を齎す、師匠より授かった光魔術だ

「チッ…目眩し…」

ホリー先輩は煩わしそうに手で目を覆う、目眩しか そうとも取れる、だがそれは飽くまでただの副次的作用、そんな目眩しのためだけに仰々しく詠唱などしない

本番はここから、光の玉から幾多も伸びる輝きの蔓、これもまた魔術の一部である…故に魔力制御で如何様にも操作ができる

この光自体は単なる無害な暖かな光でしかない、これをぶつけたって眩しいだけだ…だが

「集え!光よ!束ねて刃となれ!」

光は火や水と違う特性を持つ、それは 幾らでも重ねることが出来るという事、重ねれば重なるほど 光は力を増していく、それは時として武器にもなるのだ

ただの暖かな光がエリスの声に反応しホリー先輩…否 その頭の上のオーブへと伸び照射される

「…?、なにを…」

光は幾多の方向からオーブを照らす 十の方向から照らし始めた時 光は 、照らされるオーブは熱を持つ、いくつもいくつも重なった光 濃く只管に濃い光の一斉掃射…

「まさか…」

拡大鏡で光を集めると、時として神を燃やす熱を持つというのは有名な話だが、これはそれと同じ原理、幾多の方向から照らし 狙ったただ一点だけに、莫大な熱を齎すのだ

それがこの魔術、光を武器とする魔術の真なる姿

「爆ぜろ 陽光!」

光の玉から出ずる輝きの全てがオーブを照らしたその瞬間、生まれる灼熱 まるで太陽に投げ込まれたが如き熱にオーブは耐えれ切れず発火 後に融解…その後、僅かな音を立てて一瞬にして蒸発

光を操り熱を生み、硝子程度なら瞬く間に空気に変える熱を作る、これがこの魔術の真意、難点は光を操る難易度 それこそ百をも超える光の蔓を同時に しかも正確に操らなければ これは単なる光にしかならない

故に上位の難易度、ただしそれをこなせば 狙ったただ一点だけを消し去れる光の極技となるのだ、人に使おうもんなら偉いことになるがな

「あ…オーブが」

「なっ、…首席候補のホリーが敗れただと」

煙となって消えたオーブを見上げるホリー先輩とその光景に唖然とするボルフ先生、首席候補 なるほど通りで強いわけだ、これが試合ではなく 本気の殺し合いならば戦いの内容も違っただろうに、まぁ 結果は変わらないだろうが

「先生 これでいいんですよね、エリスの勝ちで」

「う…あ…ああ、よくやった やはり凄まじいな」

と視線を逸らしながら言われても褒められている気にはなれないな、ノーブルズに恩恵を受ける先生からしたら、逆らうエリス達がボコボコにされるのを見たかったのだろうが

まぁいい、ラグナ達は無事かな… そう心配しつつ周囲に目を配れば

「こんなもんまで持ち出して 勝ちを望む姿勢は好きだが、ルールは守れよ」

「う…ぐぅ…」

少し離れたところにはラグナが、ラグナの足元で膝をつく先輩は悔しそうに地面を叩いている…どうやらあちらも終わったよう…って!先輩 手にナイフ持ってないか!?、中頃から折れてはいるが あれは間違いなくナイフ、じゃあ刃は何処に

と思ったらラグナの手の中で丸められていた、そう言えば筋肉だけで刃を弾くだ何だ言ってたな…彼にはあんなナイフ オモチャみたいなもんなのか

「エリスもラグナも終わったようだな、二人ともやり過ぎていないようで結構結構」

どうやらメルクさんも終わったようだ、彼女の目の前には力なく尻餅をつく先輩…銃なしでどうやって勝ったかは分からないが、錬金術さえ使えるなら この空間にある全てが武器となる彼女にとっては、丸腰もあまり意味のある状態ではないのだろう

後はデティだが… と、デティの方に目を向けようとした瞬間

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

悲鳴が轟く、デティの方だ…まさかデティの身に何か、焦り 慌てて目を動かす、デティは確かあちらに…

そこで思い至るデティはエリス達の中で一番戦闘能力が低い、出来ることは多いそもそも戦う事を得意としていないのだ、あの合宿の時も一番体力がなくヘロヘロで 少なくとも彼女が戦うところをエリスは想像できない

もしや まさか もしかしたら、そう言ったこと最悪の不測の事態が一番起こり得るのは彼女だ

ルール違反 ナイフ持ち出し上等で殺しにくる相手と相対したら…まずい!、デティに何かあれば エリスはまた冷静ではいられない!今度こそ人を殺すかもしれない!

「デティ!」

冷や汗が頬を伝い叫ぶ 頼むから無事でと祈りながらデティの方を慌てて向けば、そこに広がっていた光景は…


「叫ばないでよ、ほら まだオーブ残ってるよ?、続けようよ」

「もう分かった!分かったから!俺の負けでいいから!」

立ち 目の前で跪く先輩を悠然と見下ろすデティの姿があった、勝ったのか? いやまだ先輩の頭の上にはオーブがある、戦いは終わってない…だと言うのに相手は既に戦意喪失し喚き散らしている

「なんだよその魔術!なんだよそれ!、反則じゃないか!そんな魔術があるなんて聞いた事ないぞ!」

「私が作ったからね、知ってるでしょ 私魔術導皇だから…、ほら さっきみたいにいっぱい魔術撃ってみてよ、さっき言ってたよね 取得している魔術の数には自信があるって、ちゃんと全部私に見せて?全部受け止めるから」

「やめろ…やめてくれ!、これ以上俺の尊厳を…今までの努力を否定しないでくれ!」

頼む!と先輩は小さなデティよりなお小さく丸まり蹲り頭を地につけ謝る、悪かったと もうしないと、…デティ一体何をしたんだ

しかし思ってみれば彼女は決して弱くはない、むしろ強い部類に入る 恐らく取得している魔術の幅はエリス達の中で、いや 世界でもトップクラス 下手したら世界一ということもある、そんな彼女と現代魔術で撃ち合いをして 勝てる人間か果たしてこの世にいるのか?

現代魔術を髄まで知り尽くした彼女を相手に、現代魔術で戦う…人が大地と殴り合うようなものだ

「でも…まだオーブあるし、じゃあ次は私から攻めるね?『アブソリュート…』

「わかった!こ これでどうだ!」

そういうと先輩は自ら頭の上のオーブを掴み叩き割る…、勝敗はデティが手を下す前についてしまった、相手の降伏という形で…完全勝利だ

「デティ…」

いつもはあんなに愛らしいデティが、この時ばかりは大きく見えた 神の如き威容と言ってもいい、…やはり 彼女もまた魔女の弟子なのだ、そこを違えては きっといけない、エリスがデティの認識を改めると共に 全体の模擬戦も凡そ終了するのだった…


それから、数回 ボルフ先生によって割り振られ 模擬戦を行うこととなったが、その全員がやはりノーブルズの刺客だった

まぁ 負けることはなかった 当然ながら全員返り討ち エリスもラグナも寧ろ逆にいい鍛錬になったと大満足、ただボルフ先生はもう最後の方はげっそりして『どうすりゃいいんだよ』と呟いていたが今はどうでもいい

今気になったのはデティだ

デティと戦った相手はいつも 戦いが終わると茫然自失となり、中にはデティに対する恐怖のあまり 叫び出し授業を放棄し逃げる者もいた、その戦いを確認することは出来なかったが、一つ言えることがある

…デティを怒らせては、いけないんだ

その後模擬戦も終わり、残りの時間で戦闘での反省点を考えさせ、どこかやつれたボルフ先生による戦いの講座を受け、午前の授業は終わることとなるが、戦闘が終わり エリス達と合流したデティは、いつもと同じ 可愛らしい物に戻っていた

デティの恐ろしい一面を見たが、やはり この子はエリス達のよく知るデティだ、…可愛しいところも恐ろしいところも 含めて、この子はデティなんだろう

……………………………………………………

「やっぱ戦いってのはいいなぁ!ワクワクする!」

午前の授業が終わり、昼の大休憩の時間 エリス達は中庭でシートを囲みながら談笑する、ラグナは戦いの興奮冷めやらぬと言った様子で まだ興奮している、アルクカース人らしい感性だ 

「ワクワクするのはいいが、…やはり ノーブルズの侵攻が著しいな、長期休暇前に比べ 明らかに質が悪くなっている、もはや殺しにきていると言ってもいい」

メルクさんは懸念する、あの模擬戦 どう考えても一線を超えている 嫌がらせとかそんな可愛らしいものじゃない、エリス達を害し 見せしめにするつもりなのだろう

「エリス達は完全に学園の敵 って感じですね」

「実際そうだろう、幾らノーブルズのやり方が悪辣でも、あれもこの学園の支配体系の一つさ、それを崩そうってんなら 俺達は学園の叛逆者…即ち敵って認識で相違ないさ」

美味しそうに厚切りのベーコンを頬張りながら何を呑気な、いや 命のやり取りに関してラグナは鈍感だ

挨拶代わりに白刃と殺意飛び交うアルクカースに住まう彼にとっては あのくらい屁でもないのだろうが、エリス達にはとっては違う 由々しき事態なのだ

「というかデティ、君…模擬戦の最中何をしたんだ?相手の先輩方が 異様に君を恐れていたが」

「はむはむ……んぁ?、何って…普通に戦っただけだけれど」

サンドイッチを食べるデティはなんでもなさそうに首をかしげるが、あの怖がり方は異常だ、ビビリを相手にしたってんなら分かるけど 彼女は何人もあいつにし、そのどれもを怯えさせた …それはきっと彼女が恐ろしいから

でも思ってみれば彼女が一人で戦うところは見たことないな、一体どういう風に戦うんだろう

「デティ 一体何をしたのか聞かせてもらってもいいですか?」

「え?、いいよ?…って言っても普通に」

「やっと見つけた、君達訓練場を離れるの早すぎないかな?」

「ほえ?」

エリス達の会話を遮り現れる声、嫌味ったらしく傲慢な声音…クライスだ、彼がやや慌てた様子でエリス達の前に立つ

「なんだクライスじゃないか、どうしたんだ」

「いや、先ほどの授業の話は覚えているかな?」

授業の…いや内容ではないな、クライスさんが授業の前に話していたエリス達を支援してくれる という話か、詳しく言わないのは あまり口にしたくないからだろう

「ええ、勿論」

「その話を詰めに来たのさ、…先日の食堂の大火災 表向きにはノーブルズのガニメデが収めた事になっているって話は聞いたかな?」

「いえ…ってあれガニメデの手柄になってるんですか?」

確かに思ってみれば、火災の被害拡大を抑えたのに、お褒めの言葉の一つももらってない、褒めて欲しくてやったわけじゃないが、そりゃあんまりだろう ラグナは命をかけたってのに

「あの場にいた大多数の生徒も 君達はガニメデの指示で動いたと思っているようだ、調べたら どうやらイオがそのように情報を操作したらしい、ノーブルズの威厳を保つためにね」

「まぁ、罷り間違ってもノーブルズの下部組織が放火しましたなんて、言えるわけがないものな、権力者とは権威を保つためなら真実さえ塗り替える」

メルクさんは当然のことのように語るが、些か頭にくる話だ ガニメデは結果としてあの火災を受けて反省はしたが、イオはそんなガニメデの心意気さえも踏み躙り ノーブルズの手柄に変えた、…面白くない話だ

ちょっとむすっとする

「今のノーブルズは明らかにその権威を保つ為に力を振るい過ぎている、生徒に敬うことを強要し 踏みつけにしている、僕が言えたことじゃないかもしれないがこんな横暴 如何に僕とて許せん、…幸いなことに あの火災でラグナに助けられた人間は皆 真相を理解している、僕達を助けてくれたのはガニメデじゃなくラグナ…君であることを」

「よせやい、照れる」

「照れろ、…だからこそ我々は立ち上がる ノーブルズ達にも反省という灸が必要だ、間違った王を正すのはいつだって民の役目、故に我らは反逆する ノーブルズ達に立ち向かう君達を支援することによって」

するとクライスは一つ 手を鳴らす、するとあちこちからワラワラと生徒が現れる、科目や期生 性別国籍何もかもがバラバラで取り留めのない集団 数にして五十人…、だが分かる 彼らの共通点

これはみんな、ラグナが助けた人達だ…

「ノーブルズに打撃を与え、この学園をあるべき平和に戻す、その為に戦う 我等『アコンプリス』は、君達に味方しよう」

「アコンプリス…?」

「ああ、あの火災で助けられた人間全員に僕から声をかけたのさ、皆 命を助けてくれた君達の為ならと潔く引き受けてくれたよ」

おお、こんなにたくさんの人達が…、しかもその組織を作る為にクライスさん自ら長期休暇の間に動き回ってくれたという、エリートを名乗るだけある手際の良さ、やや自慢げな顔も今は頼もしく見える

「すごいな、この人数が全員我々に味方してくれるのか」

「ああ、…だが はっきり言って我等五十人程度ではノーブルズから見れば烏合の衆だろうし、実際 この程度の人数では全く歯が立たん、向こうは多くの下部組織を率いて教師さえも味方につける、これじゃあ小競り合いにもならんだろう、悔しいがな」

「ま、そうだろうな」

…まぁ、クライスさんの評価は正しい、この人数は凄いが 相手は学園全体を支配する存在、下部組織を入れてもかなりの数だし 何より全校生徒数万人が今ノーブルズの味方をしている、この人数で決起しても一日も経たず壊滅させられるだろう

「故に我等は裏方に回る、目立たぬよう影で動き 情報を集め 君達に流す、ノーブルズの情勢を探る それくらいしかできん」

「いや十分だ、俺たち四人じゃ大局を見ることにさえ事欠く、クライス達がその役目を担ってくれるなら、ありがたい限りだ」

「そう言ってくれると助かる、…僕達も夢を持って学園に学びに来たんだ、その夢への学びの数年を ノーブルズに踏みつけられ、台無しにはされたくない」

師匠は言った、学園とは学びだけの場所にあらず、思い出を作り友を作る場であると、イオ達ノーブルズはその立場から生徒達を食い物にしている…、エリスのように辛い思いをしそのまま卒業すれば この学園には暗い記憶しか残らない、夢を思い抱いて入学したのにだ

夢を踏みつけにし傷つける外道、それは…許されざる行為だ

「だからこそ、我々にも協力させてくれ ラグナ」

「こちらこそお願いします…ってな、協力痛み入る」

ラグナは抱拳礼にて答える、…アコンプリスか まだ小規模だが、頼りになる 彼らが味方してくれている以上、彼らの学園生活を守る為 エリス達も戦わねば、負けられない理由がまた増えた

「差し当たって、手土産に情報を持ってきたぞ?」

「何?もうか?まだ休暇明け初日だぞ?、さては君 有能か?」

情報収集とは簡単ではない、情報を集めるのも当然のことながら集めた情報を纏めること、必要なものか否か選択すること、どれも賢くなければできない、メルクさんではないが クライスさんさては有能だな?

「優秀さ、組織運営は初めてだが 優秀なエリートの僕にかかればお茶の子さいさい…さてと、まずは」

というとクライスは手際よくまとめてきた資料をパラパラとめくると、軽く咳払いをする

「もう分かってると思うが、ノーブルズは遂に君たちの排除に本腰を入れ始めた、君達を完全にノーブルズの治世を脅かす敵として排除にかかっている、ノーブルズ中心メンバー以外の末端達も 君達を排除するのに躍起になっている、それこそ生死を問わないほどの勢いでね」

ノーブルズとて一枚岩ではない、イオ達五人の中心メンバー以外にも その周りを囲む小国の王やこの国の貴族 その子息達が大勢いる、彼等にとってノーブルズの権威は自分の選民意識を満たすのにうってつけ

その有無は死活問題だ、それを脅かすなら容赦はしないだろう

それこそ中心メンバー以上に本気になるはずだ、おそらくあの授業での一幕も ノーブルズの末端メンバーの誰かが命じたんだろうな

「俺たちも既に何度か命を狙われている、しかしめちゃくちゃな奴等だな」

「今動いているのはノーブルズの過激派達さ、彼等はノーブルズの恩恵を特に受けているからね 権威を使って迫害された生徒は星の数ほどいる…そんな彼等だ ノーブルズの権威が地に落ちては困るからね 必死にもなる、そして今そういう過激な彼等を先導している旗本となる存在がいる、それがカリスト・ケプラーさ」

カリスト…あの美しい女の…、エリスあの人苦手なんだよなぁ、顔は綺麗でグイグイくる感じが、あの人に睨まれるとエリスはどうにもうまく動けない

「あまり、過激というイメージはないな、美しい麗人 という印象しかない」

どうやらメルクさんも同じ意見らしい、ただラグナとデティは首を傾げているが…

「彼女の女子生徒人気は凄まじいからな、中には神の如き信仰を捧げる者もいる程に、そのカリストはガニメデが敗れて以降、急激に勢力を伸ばしている、この学園の女子生徒全てを飲み込む勢いだ」

女子生徒全て…簡単な見方をすればこの学園の半分ということだ、数万人いる全校生徒の半分を、自分の虜に変えている…それも凄まじい勢いで…

「カリストは女子生徒には優しい反面 極度の男嫌いで知られていて、彼女が勢力を伸ばせば伸ばす程 男子の居場所がなくなるんだ、今日も女子が結託し カリストの為男子を学園から追い出そうとする動きも見られたらしい、このままではこの学園から男が全員追い出されるかも知れん」

「そりゃ怖いな、俺も他人事じゃない」

女子を使って男子全体を迫害か、ガニメデ以上に広範囲かつ悪質だ、しかも女子はノーブルズ中心カリストという後ろ盾もある、逆らおうにも逆らえまい…

「このまま運動が激化すれば…ディオスクロア大学園が女子校化するかもしれない、だが我らには逆らう力はない 、行き着く先はカリストのためだけの楽園…それに 奴等が完全に力をつければ真っ先に狙うのは 君達だろうからね」

「だな、学園の半分を掌握すりゃ 思いのままだ、流石に全校生徒の半分に狙われて俺達も無事でいられるとは思えねぇ、数ってのはそれだけで怖いからな」

「ましてや相手は目下のところ勢力を伸ばす存在だ、所謂イケイケ状態の奴らはなんでも出来るしなんでもしてくる、どこかで我等も手を打ちたいな」

カリストの好きにさせれば 行き着く先はエリス達の破滅、ならカリストを止めなければならない、それに エリス達の命を狙う末端ノーブルズもカリストを名代に動いているようだし、カリストさえ止めることができれば一先ずは安心だろう

だが

「止める…さて、どうやって止めるかね」

ガニメデの時は はっきり言ってありがたいくらいの状況だった、何せ向こうから戦いを挑んできたのだ、エリス達はそれに応じるだけでよかった、だが今回は違う 相手を土俵に降ろさねばならない、しかしどうやって…難しい話だな

止めてって言って止まる奴なら苦労はしないんだが

「まぁその辺は君達に任せるよ、僕達 アコンプリスは裏方でカリストの動向を探る、変に動けば実働隊である君たちの邪魔をしかねないし、何より情報はいざという時役に立つからね」

「お前分かってるな、卒業後アルクカースで働くか?文官の椅子空いてんだけど」

「ははははは!御免被るね!」

高らかに笑うが、クライスさん 本当に味方にすると頼もしい、むしろ教室でマウント取ってるのが勿体無いくらいだ、多分彼は何か目的があり立場があると輝くタイプなんだろう、もともと勤勉で文字通り優秀でもある

本当にいい人が味方になってくれた

「おほん、まぁ我々は裏方で動くとして 注意点があるとするなら、君達もまたカリストの魔の手に引っかからないようにしてくれよ、彼女の魅力は凄まじい…我等の旗手である君達が籠絡されては意味がないからね」

君達 とはエリスとメルクさん そしてデティのことだ、エリス達もまた女性 カリストは女性を虜にして引き連れる、ならばエリス達もターゲットになり得るということだ

「私達は大丈夫さ、生半可な鍛え方はしていない、私から言わせれば 君達アコンプリスの面々の方が不安だ、君達も女性メンバーを抱えているだろう…それを落されれば君達は一気に握り潰されるぞ」

「そこについては…まぁ、僕がなんとか考えておくよ、何せ優秀だからね うん」

イマイチ不安だ、エリス達も彼等のことを気にかけた方がいいかもしれない、せっかく出来た味方なのだから、大切にしていきたい

「まぁ、そういうことだ…言いたい事は言い終えた、君達も明日からは気をつけろよ、君達が敗れればノーブルズはより一層勢いづく、ノーブルズが人間に馬車引かせるような絵面が平気で横行する世界になるやもしれん、…我等弱者を守ってほしい」

「頼まれなくてもそのつもりだよ、俺達もあの横暴っぷりには辟易してたんだ」

「そうか、ありがとう…ではな、また明日情報を纏めて報告する、頼んだぞ」

それだけ言うとクライスさんはアコンプリスを引き連れ霧のように消えていく、測らずして味方を得てしまった、だが それもこれもエリス達の行いを支持してくれているからこそ、エリス達の行いが正しかった証左なんだ

このままエリス達はノーブルズの支配と戦い続けよう、そして 正当性を示して アコンプリスを大きくして…それで……………

(……?……)

ふと、何か引っかかる 何か…こう、喉に小骨が引っかかったような、違和感 しかも気持ちの悪い部類の

何かにエリスの直感が気づきかけて、それに無意識に蓋をしたような…重大な事実から目を背けたような、そんな違和感

なんだろう、物凄く気持ちが悪い…こう、不安を掻き立てるようにお腹のあたりがぞわぞわする、なんだこれ…

エリスは今、何かを間違えた?いや…間違えている?

「おい、どうした?エリス」

「え?、ああいえ なんでもありません」

みんなはその違和感に気がついている素振りはない、エリスだけが気づいたのか?それともエリスの勘違い?、…まぁ 思い過ごしならそれはそれでいいか

エリスは違和感そのものからも目を背け、一旦考えることを放棄する、今は目の前のことに集中しよう

「クライスの奴、思ったよりも優秀な奴だったな、ラグナではないが 私も彼が我が同盟にも欲しいくらいだ」

「ああ、あの手の自分の弱さを自覚した秀才ってのは頼りになるぞ、俺の仲間にもいるんだ、そう言う奴」

サイラスさんのことか、彼は戦闘面では檄弱な雑魚だが…人間的にはとても強い、腹を据えた彼はとても頼りになった、ラグナが一目を置くほどに

「それよりもさー、どうするの?カリストが今女子を取り込んで勢力を大きくしてるんでしょ?、絶対狙いは私達じゃん!、人数揃ったら絶対仕掛けてくるよ!」

「そうですね、ですがそれを止めるにしても止めようがないのも事実、…ラグナ 何かいい手は思い浮かびませんか?」

「んん?、んー…」

はっきり言って打つ手なしに近い状態、されど手を打たねばカリストは準備万端で攻めてくる、それが物理的な侵攻ならいい…だが、人数がいれば何でも出来る、もしかしたらエリス達が知らぬ間になにもかも事が済んでチェックメイトの可能性もある

なにをしてくるかも分からないが、それでもこのタイミングで勢力を大きくしているのには意味があるはずなんだ

だから問いかける、ラグナに…彼なら何かいい手が浮かぶかもしれない

「奴らの狙いが分からん、まだなんとも言えないな…」

そしてラグナは首を振る、彼だって神様じゃない 求められた答えをすぐに出せるわけじゃない、彼は指揮官だ エリス達の、だからこそ簡単に答えは出せない

曖昧な答えはなくキチンと分からないと言ってくれたのはありがたい

「女子生徒達を飲み込んで…その果てに何をしようとしているのか、さっぱりだ」

「普通に勢力整えて攻めてくるんじゃないの?」

「そう決めつけるのもまだ早いんだ、今やれることって言ったら 相手の手の内を探ることぐらいだろう」

相手の手札を知らなければ こちらも手札を出せない、言ってしまえばこの勝負の種目さえわからない状態なんだ、攻めようがないどころか何をすれば攻めたことになるのかさえわからない

ガニメデの時と違って真っ向から勝負を仕掛けてくるわけじゃないものな、なら 今度はエリス達の方から動いて探すしかあるまい、カリストの狙いを

「クライス達も探ってくれるが、彼等にも限度があるし 何より影で動くことをメインにしている彼等に負担をかけたくない、自分達でできることは自分達でやろう」

「そうですね、もしカリストがこのままエリス達に何かを仕掛けて来ようとしているなら、黙って見ているわけにはいきませんもんね」

「ああそうだ、カリストが何をしようとして 何を狙い 何を成そうとしているか、制限時間はあるのか 出来ることはあるのか、諸々含めて調べながら考えをまとめていこう」

ラグナにより取り敢えず今後の指針は決まった、長期休暇が終わり早速巻き起こるノーブルズとの戦い、エリス達の学園生活に 安息はない
 
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