底辺Dランクのおっさんが拾った剣が女子っぽいんだが、魔剣で悪役だった。

猫又

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疑われるおっさん

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 元の街はグルタールと言って、王都センダックから三日の場所にある。
 王都に近く、人や物資の流通も多い。 
 王都が近いという事は街道には結構人出があり、わりかし安全な道でもある。
 ダンジョンがあった近くの村はグルタールからさらに北に三日歩いたキリと言う名の村だった。
 炎獄と名付けられたダンジョンが発生したのは最近だった。
 ダンジョン攻略まで時間がかかるほど村や近くの街が栄える。
 冒険者達や商人が出入りし、金が行き交うからだ。
 つまり、夕べのように最短で攻略してしまえば村の実入りが全てパア。
 さらにダンジョン内の宝や出現する魔獣、魔素の研究に専任のギルドパーティが存在しており、こんな風に早々に攻略してしまばそれも中断される。
 だから実はダンジョンの完全攻略はあんまりやっちゃいけないのだ。
 研究が終われば有名なSSランクパーティとかが攻略に出かける仕組みってわけだ。 
 ダンジョンは魔物が生まれ出る凄く危険な場所だがそれと同時に魔石や宝箱、ダンジョンが生成する素晴らしい鉱物、なるべく長引かせてそれらの宝やレベル上げをそて経験値を搾取するわけだ。
 
 そして攻略した者は例の水晶玉を持って行き、ギルドへ報告せねばならない。
 それをするのはたいてい有名な上級パーティだ。 
 水晶玉があるかぎり疑われる事はないが俺みたいな低ランクがたまたま攻略してしまうと嫌味言われるんだろうなぁ。
 グルタールのギルドには顔を出しにくいから、王都まで行くつもりだが一度街によるつもりだった。
 デッドリーベアを解体して牙と皮を持っているのでそれを売るつもりだった。
 巨大ベアの牙に皮だ。荷物に場所を取って仕方がない。
 しかも拾った宝剣がやたらとでかくて、背中に背負っている。
 綺麗で立派な宝剣だからな。
 人目につくとやっかいだから布に包んで背負っている。
「こんな臭いボロで包んで!」
 と剣は怒っていたが、こんな上等な剣を俺みたいな低ランクが持ってたらすぐに狙われる。剣の腕に自信が無いわけじゃないが、余計なトラブルはご免だ。
                           
  剣を背負ってグルタールへ戻ったはいいが、素材を売りに寄ったギルドで早速絡まれる。あー面倒くせえ。
「誰かと思ったらケビンじゃないか。まだこの辺りをうろうろしてんのか」
 と言ったのはギルドの中で買い取りの受付にいる男だった。
「ああ、そうだ。買い取ってもらいたいもんがあってな」
 俺はそう言って荷物から牙と毛皮を取り出し、カウンターへ置いた。
「デッドリーベアーキングの牙と毛皮だ。買い取ってくれ」
 俺はそれだけ言った。
 買い取り員は目を大きく見開いて、酷く驚いたような顔をした。
「デッドリーベアだと? お、お前! 何処で盗んで来たんだ!」
 その一言でギルド中の視線がこちらへ向いた。
 ヒソヒソ、ザワザワして、俺を誹謗しているのは間違いない。
 やっぱり王都まで行くべだったな。
「盗んでねえよ。早く査定してくれよ」
「おいおい、おっさん。盗っ人にまで身を落としたのかよ」
 人混みをかき分けて前に出てきたのは、ケントとニールとミント、それにもう一人知らない顔は新しいメンバーなのだろう。
「Dランクでデッドリーベアなんか狩れるわけないだろ!?」
 ケントはニヤニヤしている。
「お前らに関係ないだろ? 査定するのかしないのか? しないのなら他所に売りに行くけど?」
 カウンターの上の素材を手に取ろうとしたが、買い取り員がそれを押さえた。
「盗んだ物なんか買い取れねえし、これを返すわけにいかねえな。ギルド長と憲兵を呼ぶ」 マジか。役立たずと追い出された後は盗っ人扱いか。
「盗んでねえよ。俺が倒したんだ。それとも何か、どっかで盗まれたって被害届でも出てんのか?」 
「そうよ! それはこの男が私達のパーティを抜けるときに盗んでいったのよ! これは我々、金虎の砦の品よ!」
 と叫んだのはミントだった。
「おいおい、マジか。そこまでするか」
 咄嗟に俺に盗みを押しつけて素材を横取りしよとする頭の回転に感心すらするな。
「こんな盗っ人、冒険者の資格を取り上げて、追い出すべきよ!」
 とミントが叫んだ。
 ケントとニールもニヤニヤしながらミントの案に全力で乗っかろうとしている。
 デッドリーベアの牙と毛皮だから結構な値が付くだろう。
 憲兵が入ってくるのと、奥からギルド長が出て来るのが同時くらいだった。
 ギルド長は俺を見て、首をかしげた。
「一体、どうしたって?」
 買い取りの男が説明し、ミントやケントもわあわあと騒いだ。
 ギルド長は俺よりも年上のカタイがいい武闘家の元冒険者だ。
 この人なら俺の言い分も聞いてくれるだろうと思った。
「ケビンがそんなことをするとは思えないな」
 とギルド長はしかめっ面で言ってくれた。
「疑うの? 私達はAランクのパーティなのよ! この年でDランクの程度の低い奴の方を信じるって言うの?」
 とミントが言った。
「盗みなんかやってない。これは俺が倒したデッドリーベアキングの素材だ。そもそも金虎は普通のデッドリーベアでも倒した事ないだろ」
「ふざけんな! この盗っ人が! てめえ、背中に背負ってるその大剣もどうせどっかから盗んで来たんだろう!」
 とケントが言って、背中の剣に手をかけた。
「あー、触んない方がいいかもよ」
 バシッと音がして、衝撃でケントの身体が吹き飛んだ。
 もちろん剣の仕業だ。
 この剣、ヴァレーリオさん、相当な魔力持ちで頭がいい。
 気に入らない者には触られたくないらしく、俺の背中の大剣を見て寄ってきた人間は全て吹き飛ばしながらここまで来た。
「な、なんだ? 今の」
 見物していた連中はあっけにとられ、吹っ飛ばされたケントは頭を押さえて起き上がってきた。魔道士のニールが、
「まさか……そんな」 
 と呟いた。
「どうしても信じられないならこれを見てくれ。王都のギルドまで行って提出しようと思ってたんだが、まあここでもいいか」
 俺は荷物の中から水晶玉を出して、ギルド長に差し出した。
「こいつは?」
「キリの村付近の炎獄と名付けられたダンジョンを攻略したんだ。これはその証拠だ」
 見物人はぎょぎょっとなってザワザワしだし、ケント達も目を見開いた。
 ギルド長はそれを受け取った。
「これを見てもらえば分かる」
「分かった。預かるから少し待っててくれ」
 ギルド長はそう言って水晶を手にしてカウンターの奥の部屋に入って行った。
「ケッ」
 とケントが言った。
「大きな嘘ついて、恥かくだけだぞ、おっさん。炎獄は最近出来たダンジョンだぞ。最下層まで調査が行ってないのに、いきなりダンジョンマスターをやれるわけねえだろ!」
 こういうのは相手にするから余計に面倒になる。
 俺は腕組みをして無視を決めこんだ。
「だけど、その牙と毛皮、普通のデッドリーベアと色が違わないか?」
 と声がした。
「俺もそんな気がするんだ。デッドリーベアの毛皮はこんな色じゃなかったし、牙も普通二本だろ? 何で四本もあるんだ? デッドリーベアキングてのマジかよ?」
 という声もする。
「だーかーらー、このおっさんが嘘を言ってるだけで、実際はデッドリーベアでもなかったって事じゃねえの?」
 とケントが言った。ミントもクスクスと笑っている。
 だったら俺がお前らからデッドリーベアを盗んだ、っていうミントの証言だって怪しいって事になるじゃねえか。全く。

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