59 / 59
永遠の愛に効く薬毒2
しおりを挟む
「早く……」
男は最初の一本目を浴槽に開けた。次々蓋を開けて、逆さまにする。
何本かのペットボトルから水が流れでる。
美しい妻の死体は手足を折り曲げて浴槽に横たわらせてあった。
水が妻の死体を濡らし水嵩を増やしていくのを見ながら男はほっと座り込んだ。
浴槽の縁に腕を置いてもたれかかる。
歓迎会でやたらに飲まされた上に、重い水を運ぶという重労働をしたのだ。
疲労が全身を包んだ。
水が貯まる間、少しだけ休もう。
ほうっと息をついて、目を閉じた。
「あ!」
目を開いた瞬間に浴槽の中の妻の死体と、それがまだ浸かりきっていない水量が目に入った。
「やばいじゃないか! 何をやってるんだ!」
男は自分の頬をぴしゃぴしゃと叩いてから眠気を追い払うと、慌てて新しいペットボトルの蓋を取り次々に浴槽の中に水をぶちまけた。
全てのペットボトルの蓋を開けるのにそこから三十分ほど費やした。
「薬を……取ってこないと。早く、早く」
寝室に置いてある大切な薬毒を取りに行く為に男は立ち上がった。
酒も残っているし、足もガクガクしており身体中が痛かった。
その為、足がもつれてひっくり返ってしまった。
浴槽の中に手をついてしまい、慌てて手を引き上げた。
妻の身体と何十個ものペットボトルで浴槽の中はごちゃごちゃしていたので、男は自分の犯した致命的なミスに気がつかなかった。
足を引き摺るようにバスルームリビン出る出る。
「え!」
リビングは明るかった。チュンチュンという鳥の声さえ聞こえる。
「まさか……」
振り返った男の目には掛け時計が朝の五時を示したいた。
慌てて寝室に駆け込み、薬毒を手にした。
バスルームへとって返し、薬包を開いて浴槽の中に粉末を溶かし込む。
一晩というのは八時間であると男は認識していた。
初日、男は夜の八時に妻を水につけ、朝の六時に引き上げた。
それが成功だったので、翌日も同じ時間にした。
三日目で時間に狂いは生じたが、こうなったら今から八時間とするしかない、と男は考えた。昼の一時に引き上げなければならないので、男は会社を休む事にした。
一時に目覚ましをかけて、男はベッドに横になった。
腐らない妻が完成したら、綺麗な下着を洋服を着せて置いて置こう。
そうだ、世の中、人形や二次元に本気で恋をする人間もいくらでもいる。
自分も妻に綺麗な服を着せて彼女の好きだった宝石類で飾ってあげよう。
ずっと二人で楽しく過ごそう、と男は思った。
もう浮気もしないし、罵詈雑言も言わない、綺麗で完璧な妻だ。
そして人形や二次元とは違い、妻は暖かくて柔らかい。
美しい身体は自分だけの物だ。
あの白い肌も乳房も尻も。
そして結婚してから一度しか自分を受け入れなかった彼女の柔らかく湿ったあの箇所も。
男は淫靡な夢を見ながら夢うつつに落ちていった。
目覚まし時計が鳴り、男は目を覚ました。時計はちょうど一時だった。
男は妻を自ら引き上げにバスルームへと向かった。
「え!」
浴槽の中に水は少しも貯まっていなかった。
空のペットボトルと妻の死体が窮屈そうにあるだけだった。
「嘘だろ!」
ペットボトルを浴槽の中からどけようとして目に入ったのは外れた浴槽の栓だった。
外れた隙間から水は全て流れ出している。
「そんな……嘘だ……」
男は栓を入れ直して、蛇口を捻った。
回復した蛇口からは水が勢いよく流れ出した。
「薬を買いにいかなければ……もう一回……もう一回……」
だが、勢いよく流れ出した水流が妻の死体に当たった瞬間、妻の皮膚が破れ、そこから崩れ始めた。
「あ、ああ……止めて、止めてくれ……」
男は妻の腕を掴んだが、ポキリと折れた。
みるみるうちに妻の身体が崩れ、僅かに貯まった水に溶けて排水溝から妻の破片が流れ出す。
男は急いで蛇口を止めたが、始まった崩壊は止められなかった
発作的に男はキッチンへ走り包丁を手にした。
バスルームへ取って返し、妻の美しい死体が崩れきってしまう前に、包丁で自分の首をかき切った。
大量の血しぶきが妻の死体の上に降り注いだが、妻の腐った目玉には何の感情も映らなかった。
「ニャーオ」
と猫の鳴く声が遠くの方で聞こえ、クスクスと笑う少女の声もした。
「どうして失敗するかなぁ。あと一回で成功だったのに、ほんと、人間て使えない! この人間どうするの?」
「ただの人間の死体だ。役に立つまい」
男の最後の視界には恐ろしげな大きな鬼とセーラー服の少女が見えて、消えた。
了
男は最初の一本目を浴槽に開けた。次々蓋を開けて、逆さまにする。
何本かのペットボトルから水が流れでる。
美しい妻の死体は手足を折り曲げて浴槽に横たわらせてあった。
水が妻の死体を濡らし水嵩を増やしていくのを見ながら男はほっと座り込んだ。
浴槽の縁に腕を置いてもたれかかる。
歓迎会でやたらに飲まされた上に、重い水を運ぶという重労働をしたのだ。
疲労が全身を包んだ。
水が貯まる間、少しだけ休もう。
ほうっと息をついて、目を閉じた。
「あ!」
目を開いた瞬間に浴槽の中の妻の死体と、それがまだ浸かりきっていない水量が目に入った。
「やばいじゃないか! 何をやってるんだ!」
男は自分の頬をぴしゃぴしゃと叩いてから眠気を追い払うと、慌てて新しいペットボトルの蓋を取り次々に浴槽の中に水をぶちまけた。
全てのペットボトルの蓋を開けるのにそこから三十分ほど費やした。
「薬を……取ってこないと。早く、早く」
寝室に置いてある大切な薬毒を取りに行く為に男は立ち上がった。
酒も残っているし、足もガクガクしており身体中が痛かった。
その為、足がもつれてひっくり返ってしまった。
浴槽の中に手をついてしまい、慌てて手を引き上げた。
妻の身体と何十個ものペットボトルで浴槽の中はごちゃごちゃしていたので、男は自分の犯した致命的なミスに気がつかなかった。
足を引き摺るようにバスルームリビン出る出る。
「え!」
リビングは明るかった。チュンチュンという鳥の声さえ聞こえる。
「まさか……」
振り返った男の目には掛け時計が朝の五時を示したいた。
慌てて寝室に駆け込み、薬毒を手にした。
バスルームへとって返し、薬包を開いて浴槽の中に粉末を溶かし込む。
一晩というのは八時間であると男は認識していた。
初日、男は夜の八時に妻を水につけ、朝の六時に引き上げた。
それが成功だったので、翌日も同じ時間にした。
三日目で時間に狂いは生じたが、こうなったら今から八時間とするしかない、と男は考えた。昼の一時に引き上げなければならないので、男は会社を休む事にした。
一時に目覚ましをかけて、男はベッドに横になった。
腐らない妻が完成したら、綺麗な下着を洋服を着せて置いて置こう。
そうだ、世の中、人形や二次元に本気で恋をする人間もいくらでもいる。
自分も妻に綺麗な服を着せて彼女の好きだった宝石類で飾ってあげよう。
ずっと二人で楽しく過ごそう、と男は思った。
もう浮気もしないし、罵詈雑言も言わない、綺麗で完璧な妻だ。
そして人形や二次元とは違い、妻は暖かくて柔らかい。
美しい身体は自分だけの物だ。
あの白い肌も乳房も尻も。
そして結婚してから一度しか自分を受け入れなかった彼女の柔らかく湿ったあの箇所も。
男は淫靡な夢を見ながら夢うつつに落ちていった。
目覚まし時計が鳴り、男は目を覚ました。時計はちょうど一時だった。
男は妻を自ら引き上げにバスルームへと向かった。
「え!」
浴槽の中に水は少しも貯まっていなかった。
空のペットボトルと妻の死体が窮屈そうにあるだけだった。
「嘘だろ!」
ペットボトルを浴槽の中からどけようとして目に入ったのは外れた浴槽の栓だった。
外れた隙間から水は全て流れ出している。
「そんな……嘘だ……」
男は栓を入れ直して、蛇口を捻った。
回復した蛇口からは水が勢いよく流れ出した。
「薬を買いにいかなければ……もう一回……もう一回……」
だが、勢いよく流れ出した水流が妻の死体に当たった瞬間、妻の皮膚が破れ、そこから崩れ始めた。
「あ、ああ……止めて、止めてくれ……」
男は妻の腕を掴んだが、ポキリと折れた。
みるみるうちに妻の身体が崩れ、僅かに貯まった水に溶けて排水溝から妻の破片が流れ出す。
男は急いで蛇口を止めたが、始まった崩壊は止められなかった
発作的に男はキッチンへ走り包丁を手にした。
バスルームへ取って返し、妻の美しい死体が崩れきってしまう前に、包丁で自分の首をかき切った。
大量の血しぶきが妻の死体の上に降り注いだが、妻の腐った目玉には何の感情も映らなかった。
「ニャーオ」
と猫の鳴く声が遠くの方で聞こえ、クスクスと笑う少女の声もした。
「どうして失敗するかなぁ。あと一回で成功だったのに、ほんと、人間て使えない! この人間どうするの?」
「ただの人間の死体だ。役に立つまい」
男の最後の視界には恐ろしげな大きな鬼とセーラー服の少女が見えて、消えた。
了
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
隣人意識調査の結果について
三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」
隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。
一部、確認の必要な点がございます。
今後も引き続き、調査をお願いいたします。
伊佐鷺裏市役所 防犯推進課
※
・モキュメンタリー調を意識しています。
書体や口調が話によって異なる場合があります。
・この話は、別サイトでも公開しています。
※
【更新について】
既に完結済みのお話を、
・投稿初日は5話
・翌日から一週間毎日1話
・その後は二日に一回1話
の更新予定で進めていきます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる