きまじめ騎士団長とおてんば山賊の娘

猫又

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ジユダ国王軍騎士団長 キース・キャラバン伯爵

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「今度くる魔法人はどんな奴だ。まさか我々の邪魔にはなるまいな」
「心配なさるな。ダノン卿、我ら魔法人の中でも最低にして最高の役たたずじゃ。王は我の予言に心酔しておる。ロブ伯爵に我の言うた通りの依頼をしおったわい」
 しわしわの顔に醜い笑みを称えて宮廷魔道師はつぶやいた。
「本当の予言の意味が読み取れぬがまあ、いいだろう」
「ナス魔道師殿、我らが国王の為に多くの予言をするのだ。愛すべき国王がその予言にかかわっているうちにやらねばならぬ事があるのでな」
 ダノン・ドッケン王弟は低く笑った。
「ところでナス魔道師殿、頼んでおいた事は出来ておるかな?」
「もちろんじゃ、いいか心して聞けよ。『臨める玉、三方にありて安らげる主を待ち、七色に光る石、この方向を指し示すなり』どうじゃ、まずは七色に光る石を探さねばなるまいな」
「臨める玉を手に入れれば偉大なる妖魔王、ギルオンを支配する事ができ、この世の総ての権力が私の物になるのだな」
「おおせのとうり。だがまずは七色の」
 ダノン王弟は魔道師の言う事など耳には入らない様子で既に世界の王になったような気分だった。
「よし早速七色の石を探すのだ」
 そこでちょっとずるそうな顔になって
「その石の居所は分からぬのか」
 と聞いた。
「楽をしようとなさるな。苦汁をなめ努力するのじゃ」
「分かった。お前の望もきっとかなえてやるぞ。待っておれ」
 マントをひるがえしてダノンは意気揚々と出ていった。

「キースを呼べ」
 ダノン王弟は自室へ帰ると火酒を飲みながらキース・キャラバン伯爵を待った。室は持ち主に似ていた。床には羊毛が敷き詰められ、大枚はたいて買いいれた調度品が所せましと並んでいる。季節を問わず花が生けられ、一方には麝香の香りがする。
「お召しにより参上いたしました」
「おお待っておった。キース、かねてからの計画を実行するぞ。ナス魔道師の予言によると我らは七色の石を探さねばならん。そしてそれらの導きにより、臨める石を手に入れるのじゃ」
 キース伯爵は無表情な様子で考えこんだ。黒髪に切れ長の漆黒の瞳、彫りの深い端正な顔立ちは非常に美しいがなんとも皮肉げで人を寄せ付けない風である。黒の着衣にマントが彼を闇の人に思わせる。
 正式な役職は国王軍騎士団の団長でジユダ軍を指揮する立場だが、こうして王弟に呼び出されては無理難題を持ちかけられていた。
 政に関わるでもなく日がな一日贅沢と道楽に明け暮れるダノン王弟はぶよぶよと太り、弛んだ皮膚とぶつぶつした顔、そしてそのだらしない肢体を金銀財宝で着飾っていた。
 砂糖菓子でべとべとになった指でキースを指さし、
「キース、なんとか申せ。我らの願いは目の前まで来ておるのじゃぞ」
 と甘ったるい声で言った。 
「その七色の石の手掛かりは……?」
「ない」
 キースは落胆もせずにうなずいた。
「それが問題なのだ。どうにかならぬか」
 あくまでも気楽にダノン王弟は言う。いつもの事だとキースは思った。いつも王弟はくだらない問題を持ってきてはキースに委ねる。
「では北妖魔へ行かれればきっと手掛かりはありましょう」
「き、北妖魔と申すか」
 ダノンはおののいた。四つの妖魔地帯の一つ北妖魔は一風変わった土地である。読んで字のごとく、妖精と魔族の掛け合わせの種族が住んでいる。青紫の羽を持ちスノ-シルクの衣に身を包んだ妖精達や、銀青の鱗に強靭な爪を持つドラゴン、何千年の歴史を持ち、ロ-ランドの地が出来るよりもずっと古い幻の大邦を知っているノ-ムが住んでいる。統治者は特にないし、司るべき術もない。彼らの武器は知っている事。いにしえの邦の王宮のしきたりから、伝説の竜の宝物やどんな病でも治す薬草のありかなど。あのロブ伯爵も彼らの知識を借りる事がざらにある。しかしなんと言っても妖魔の土地、危険や厄難はまぬがれぬであろう。
「さよう。ノ-ムの知恵をかりれば七色の石を見付けるなど造作もない事」
「し、しかし、妖魔地帯に行って帰った者はおらぬと」
「それ以外にお考えはありますかな」
 冷たく言いはなすキースを怖々見ながらダノンはうなずいた。

 ジユダ国は平原の国。領土はそう広くはないが貿易や通商に栄え、特にこの国の頑丈で耐久力のある馬や。、柔らかく光沢のある毛皮を持ち濃い栄養のある乳と肉がとれる羊は特産物で各国から多く求められる。その為国資はうるおい、歴史の浅いジユダ国もいまやロ-ランドの大国になりつつある。国王はフレイザ-・ドッケン二世、温和な人柄で大衆的な考えを政治に用いるので大層国民には人気がある。国が潤っても税はいっこうに変わらないので民衆の生活は富める。その上国民の要望に答え、橋の修理や国道の整備、教会の増築なども国の費用で施工するので少しも国民の腹は傷まないのである。国王は民の愛され国もますます栄えるはずだが、そんな国王の善良さを苦々しく思っているのがダノン王弟一派であった。
 国王が民の生活向上にばかり力を入れるので一部の貴族達は面白くない。
「王が栄えての民衆だろうに、我らの暮らしはことによると街の富豪より劣る。何故我らが冬の暖の心配をせねばならぬ」
「そうだ。先日、私の屋敷へ商品を納入した宝石商などは全身金銀でうまっていたぞ」
「なに、ダノン様がなんとかして下さるさ。あの方は我々貴族の味方だからな。あの方についていれば間違いはない」
 など、王弟派は増えるばかりである。お人好しの国王はそんな事は露知らず、庭園で自ら土を耕していた。
 誰もダノン王弟の企みをまだ知る者はいなかった。
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