きまじめ騎士団長とおてんば山賊の娘

猫又

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最悪の出会い

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「よくも若い娘の顔に傷をつけたね!」
 ファラが空いている方の手に鞭をつかんで突進した。鞭は空を切り、キースの腕めがけて飛んだ。それはキースの腕にするすると絡まりついたが、キースはうるさそうにそれをなぎ払った。そしてファラの胴に一太刀いれると、ファラは気を失い地面に落ちた。
 片目を潰されたミラルカは一気に怒りが爆発した。
「おい、大丈夫か」
 キースがミラルカに声をかけたが、ミラルカは物も言わずキースに打ってかかる。
 一合、二合と打ってくるミラルカに手かげんをしながら、キースは言った。
「降参しろ。早く手当をしないと失明するぞ」
 ミラルカは絶え間なく剣を繰り出し、キースを追う。仕方なくキースは一撃でミラルカの剣を遠くへ跳ね飛ばしミラルカの喉を狙って撃つ。グエッと苦し気な声がしてミラルカもまた馬から落ちた。
「早く女の傷の手当をしてやれ」
 ぎゃあぎゃあ騒ぐミラルカを、従者達が押さえ付けて薬を塗ってやる。
「見えにくいだろうが当分はこのままでいろ。包帯は薬を代える時しか取るなよ」
 キース自ら包帯を巻いてやりながら言った。
 片目を包帯でふさがれたミラルカは不機嫌な顔で言った。
「あたしらをどうするつもりさ」
「そうだな、とりあえずここで野宿でもするさ。日が暮れてきた」
 砂漠に夜の帳が降りてきて、黄砂が灰色に変わりつつある。冷たい砂風がほほをたたくようになり、なんともいえない寂しい気持ちになる。
「ダノン王弟、よろしいかな。今夜はここで休みましょう。砂漠は夜に動くのは危険ですし、方向を見失うと困るので」
「分かった」
「よし、サソリ避けの薬草を炊け。火を絶やさずにいろ。馬と我らの幕をはれ」
 言いながらもキースはせっせと自分で働く。従者はあたふたとキースに続き、デニスでさえ重い腰を上げた。
 ミラルカとまだ気を失っているファラは張られた幕の一つに、縛られ転がされた。
 サソリ避けの薬草の香が漂う中で一行は腹こしらえをした。携帯食や水筒の中までいつの間にか砂が入っている。ダノンは始終文句を言い、キースにあたり始めた。
「キース、お前の目算ではいつアレゾの財宝が手に入るのじゃ」
「さあ、あの女達が協力すればすぐにでも」
「いい女じゃのう。ファラとか申す女、艶やかでよいと思わぬか。宝と一緒に連れて帰れぬかのう」
「……」
 ダノンは二人が入っている幕を除いてファラの体をなめるように見た。素晴らしい凹凸が体の線を作っている。張りのある肌は黄金色に焼け、締まった筋肉が躍動して美しい。 きりりとした口元に猫のような瞳、ふさふさしたブロンドの髪、まるで火の女神を思わせるようだ。キースが嗜め、ダノンは渋々幕を閉じた。
 キースは二人にも食事をさせるように従者にいいつけた。
「伯爵様、だめです。食べようとしません。自分の荷物を返せと、自分達の食糧しか口にはしないと」
 従者が困った顔で告げにきた。
「やれやれ、まあいい。返してやれ。武器と馬は押さえてからな。俺はそこら辺りを見てくる」
 キースは馬に乗って砂漠を走り出した。昼は猛暑、夜は冷寒が砂漠の特徴である。馬で走るキースの体に冷たい砂風があたる。砂で出来た岩の塊があちこちに見える。その陰に岩サソリに食われた人骨がちらばっていた。ここの岩サソリは肉食である。岩オオカミでさえ警戒し岩サソリには手を出さない。砂風がキースの体臭を運んだのか、闇に黄色く光る目が現れた。
「岩オオカミか、おとなしく寝ていればいいものを」
 キースはむしゃくしゃしていた。生まれて初めて女に怪我をさせたのが、彼の気を重くさせる。いらいらは彼を殺気だたせ、哀れな岩オオカミの体を閃光のように切り裂いた。 後に残った岩オオカミの死体には早速岩サソリが群がっていた。
 キースは馬を幕の方へ走らせた。
「傷の具合はどうだ」
 キースはミラルカの幕に入っていった。ミラルカは顔を背けるばかりで口をきかない。ファラの姿はなかった。
「もう一人はどうした」
 キースはミラルカの横に座った
「あんたの親分が連れていった」
「そうか……その、傷むか? そんなに深い傷ではないから」
「なんだい、そりゃあ目は見えるようになるだろうよ。けど傷は残る。まったくあたしらが何をしたって言うのさ。ジユダ国の何様か知らないが、ああ、いい様だ」
 きっと言い切り、キースを睨んだ瞳が憎しみに揺れている。キースはそんなミラルカを美しいなと思った。
「すまない、どう詫びればいい」
「へ、今更何言ってもらってもね。すまないと思うならあたしらを離しなよ」
「それは出来ぬ。お前達は大事な道案内だ。明日になればアレゾの財宝へ案内してもらわねばならぬ」
「お断りだよ。一体どういうつもりさ。ジユダ国っていやあ豊かな国じゃないか。山賊の宝など横取りしなくても」
「わけはいえぬ。俺もただの犬さ、飼い主について行くだけさ」
「そうかねえ、どっちかというとあんたが連れてきてやってるんじゃないかねえ」
 嘲笑しミラルカは言った。
「奇麗な石だな。それは」
 キースは返事に困り、ミラルカの胸にかかったペンダントを指した。
「ああ、助けた礼に貰ったのさ。時々光るんだよ。暖かくなったり、冷たくなったりもするのさ。不思議な石だよ」
 ふとミラルカの瞳が優しくなった。サラはいい娘だったな。
「お前、ジユダ国へ来ぬか」
「はあ?」
 まじまじと見るミラルカに照れて、キースは口ごもった。 
「いや、お前の傷は俺の責任だ。その傷では妻に貰ってくれる男も。十分暮らせるだけの面倒は見る」
「冗談じゃないわ。全く大きなお世話よ。男など結構だね。あたしにこんな傷をつけたあんたなんかに世話になりたくない。一生許さない。あたしは貴族なんて大嫌いだ。いいかげんで、ずるくって、自分の事しか考えない」
 ミラルカは激しく言い放した。
「俺は貴族ではないが、何かわけでもあるのか。どうしてそう貴族を嫌うのだ」
「あたしをこんな目に合わせてよく言うね。教えてやろうか。あたしが貴族の腹から生まれたからさ」
 ミラルカはヒステリックに笑い叫んだ。
「な、なんだと。お前はアレゾの娘ではないのか」
「ああ、そうさ。あたしはアレゾの愛娘さ。育ててくれたのはあの人だからね。どっかの貴族の淫欲娘がさ、馬番とできちまって、生まれたのがこのあたしさ。二人で出奔したはいいが、山ん中であたしを産んで女は死に、男は乳飲み子をかかえてうろうろしてる所をアレゾに拾われたってわけさ。男もすぐに死んだそうよ」
「そうか」
「そうよ」
 キースは咄嗟にミラルカを抱き抱え、唇を奪った。一生懸命に虚勢をはって生きているミラルカをいじらしいと思った。
 ぱしっと派手な音がして、ミラルカの手はキースの頬を打った。
「同情なんかいらない。あたしは幸せだから」
「同情ではない」
「出ていってよ。あんたなんか大嫌いだ」 
 キースはそっと幕を出た。哀れんだわけではない。
 本当に彼女を守ってやりたいと思ったのだ。
「まいったな、こんな節操のない男だったかな。これではダノン殿を笑えん」
 キースは溜め息をついて夜空を仰いだ。
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