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砂漠のオアシス
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翌日、ダノンの一行は馬をオアシスに向けた。デニスの情報は正確で、アレゾのオアシスまでの足取りをつかんでいたのだ。
ミラルカはキースの顔を見ようともせず、またキースもミラルカに声をかけられずにいた。
砂漠は昨日よりも日ざしが強く、灼熱の地獄であった。双子太陽が久し振りの獲物を焼きつくそうとじりじり責めたてる。ダノンは何度も水を飲み、ますます汗をかいて苦しそうであった。
「まだか、キース。まだオアシスには着かないのか」
とっくにダノンの水筒はからになり、キースは自分の水筒を少しも口にしないうちにダノンへ譲ってやった。
ミラルカは憂鬱だった。初めての口づけを見知らぬ粗野な男に奪われた。そして忘れたい過去を思い出した。そんな男に財宝も奪われてしまう。
「大丈夫か、ミラルカ。傷の具合はどうだ。つらくないか」
キースはやっとの思いで言ったが、ミラルカは冷たく横を向いた。
「うわあ、こりゃあ凄い」
先頭を走っていたデニスが感嘆の声を上げた。
彼らの前方には砂虫の大群が、いやな羽音を立てて飛び交っていた。
「困ったな」
砂虫は吸血虫である。音や臭いを素早く察知し飛んでくる。
「迂回して行けばよいではないか」
ダノンがのんきに言った。
「それは無理です。奴らに出会った時は息をひそめてじっとしているしかありませぬ。奴らは馬の臭いを嗅いでやってくるでしょう。逃げきれません。ここからは動けませぬ」
「そうか、しかし私はもう喉がからからだ。私の身体は繊細なのだ。早くオアシスにたどり着かぬと死んでしまう」
ダノンは哀れな泣き声で言った。
キースはそれを無視した。キースこそ一滴の水も口に入れていなかった。
「ミラルカ、炊き草を出しな」
ファラが軽蔑の瞳でダノンを見て言った。
「いやだね。あたしはここにいつまでいてもいいんだよ」
「何だ炊き草とは」
キースの問いにミラルカは答えない。代わりにファラが言った。
「知らないんですか。砂虫に一番効く薬草ですよ。ミラルカ。あたしは暑いのが苦手だよ。こんな所で渇き死ぬのはごめんだ」
「……」
「早くおし」
「いやだね」
押し問答をしている間に、暑さでばて気味の馬が甲高くいなないた。あっと言う間に砂虫の大群がわあんと方向を変えてこちらに飛んできた。
「逃げろ!」
一行は慌ててきびすを返して逆方向に逃げ出した。
つながれたままのファラとダノンの馬が反対に引っ張り合ってうまく走れない。そして砂虫は馬よりも速く飛ぶ。最初の獲物に砂虫は大喜びで群がった。
「ダノン王弟!」
「ファラ。ちくしょう、なんてこった」
砂虫の大群の中で二人はもがき、噛まれた箇所から血が流れるのが見える。その血へまた何匹もが群れる。ダノンがだだっこのように体を振った。キースは剣を構え、砂虫の方へ走り出そうとした。
「まちなよ。剣なんかでやれるはずないだろう」
ミラルカはキースを止めると、懐から炊き草を取り出した。それに火をつけ、馬の尻めがけ弓矢を引いた。片目でもミラルカの弓の手練は素晴らしく、見事に馬に命中し、馬は熱さに大きく飛び上がったが、炊き草は煙を発した。きのこみたいな形に煙は大きく広がり、二人と砂虫の大群を包み込んだ。
「おい二人は大丈夫なのか」
「ああ。あの煙は人や馬には無害なのさ」
しばらくして煙は薄くなり、砂虫はほぼ全滅していた。
二人の姿が見えてきた。キースが駆け寄ると二人は咳きこみ体中噛み傷ができていたが、異常はなさそうであった。
「キース、私はもう駄目だ。苦しい、死ぬかもしれん」
ダノンは泣きながら言い、馬にぐったり寄りかかった。
「元気そうじゃないか」
ミラルカが冷たく言う。
「誰のせいでこうなったんだい。全く、この傷、どうしてくれるのさ、ミラルカ」
全くだと言う風にダノンが頷く。
「知らないね。誰のせいってもとはと言えばこの年くった王子様のせいだろうが。文句は鏡に言っておくれ」
うまい事逃げた従者とデニスがラクダを連れて戻ってきた。
「この先に何かありますよ。オアシスじゃないかねえ。伯爵様」
「そうか」
傷の手当をし、一行はまた馬を進ませた。
「オアシスだ」
この砂漠には信じられないほど青々とした、大きな葉をつけた大木が生い茂っている。その根元には数十メートルに及ぶ湖があり、水面はきらきら輝いている。
オアシスはちょっとした森になっていた。
急に世界が変わったように空気は澄み、ひんやりとしている。我先に駆け込んだダノンが馬から飛び降り、湖に顔ごとつっこんだ。
ずるずると下品な音をたてて水を飲む。
「うわあ」
ダノンが絶叫をし、嘔吐した。
「こ、これは水じゃない。キース、助けろ。く、苦しい」
「の、呪いだあ。オアシスの番人が俺達を殺そうとしている。海神ポセラよ、お前の息子を守りたまえ」
デニスが恐ろしそうに言った。
「馬鹿な」
「行いが悪い奴は罰があたるのさ」
「黙れ。財宝まではと思っていたが、もう我慢ならん。叩き切ってやる」
砂虫にはさんざん噛まれ、やっとたどり着いたオアシスではこんな目に合い、ダノンは もう半狂乱だった。鈍い動作で腰の剣を取るとミラルカの方に振り回した。
「落ち着きなさい、ダノン王弟。ここで争っても仕方ありますまい。早く財宝を手に入れさっさと引き返すのが賢明ですぞ」
とキースに諫められダノンは、
「うむ、分かった」
と渋々剣を引っ込めたが、ミラルカを憎しみ込めて睨んだ。
「どうします。入っていきますか」
デニスは気味悪そうに言った。
「ここまできて帰るわけにはいかん」
キースはゆっくりと森の中へ馬を進めた。ひんやりとした空気が心地よく、皆の汗を引かせた。大地は柔らかく、水みずしい。
砂漠では生きていけないはずの動物が時折姿を見せ、鳥や蝶が美しい羽根を広げ飛んでいる。
「不思議ですなあ。こんな砂漠の真ん中にこんな場所があるなんて」
デニスが首を傾げて言った。
ミラルカはキースの顔を見ようともせず、またキースもミラルカに声をかけられずにいた。
砂漠は昨日よりも日ざしが強く、灼熱の地獄であった。双子太陽が久し振りの獲物を焼きつくそうとじりじり責めたてる。ダノンは何度も水を飲み、ますます汗をかいて苦しそうであった。
「まだか、キース。まだオアシスには着かないのか」
とっくにダノンの水筒はからになり、キースは自分の水筒を少しも口にしないうちにダノンへ譲ってやった。
ミラルカは憂鬱だった。初めての口づけを見知らぬ粗野な男に奪われた。そして忘れたい過去を思い出した。そんな男に財宝も奪われてしまう。
「大丈夫か、ミラルカ。傷の具合はどうだ。つらくないか」
キースはやっとの思いで言ったが、ミラルカは冷たく横を向いた。
「うわあ、こりゃあ凄い」
先頭を走っていたデニスが感嘆の声を上げた。
彼らの前方には砂虫の大群が、いやな羽音を立てて飛び交っていた。
「困ったな」
砂虫は吸血虫である。音や臭いを素早く察知し飛んでくる。
「迂回して行けばよいではないか」
ダノンがのんきに言った。
「それは無理です。奴らに出会った時は息をひそめてじっとしているしかありませぬ。奴らは馬の臭いを嗅いでやってくるでしょう。逃げきれません。ここからは動けませぬ」
「そうか、しかし私はもう喉がからからだ。私の身体は繊細なのだ。早くオアシスにたどり着かぬと死んでしまう」
ダノンは哀れな泣き声で言った。
キースはそれを無視した。キースこそ一滴の水も口に入れていなかった。
「ミラルカ、炊き草を出しな」
ファラが軽蔑の瞳でダノンを見て言った。
「いやだね。あたしはここにいつまでいてもいいんだよ」
「何だ炊き草とは」
キースの問いにミラルカは答えない。代わりにファラが言った。
「知らないんですか。砂虫に一番効く薬草ですよ。ミラルカ。あたしは暑いのが苦手だよ。こんな所で渇き死ぬのはごめんだ」
「……」
「早くおし」
「いやだね」
押し問答をしている間に、暑さでばて気味の馬が甲高くいなないた。あっと言う間に砂虫の大群がわあんと方向を変えてこちらに飛んできた。
「逃げろ!」
一行は慌ててきびすを返して逆方向に逃げ出した。
つながれたままのファラとダノンの馬が反対に引っ張り合ってうまく走れない。そして砂虫は馬よりも速く飛ぶ。最初の獲物に砂虫は大喜びで群がった。
「ダノン王弟!」
「ファラ。ちくしょう、なんてこった」
砂虫の大群の中で二人はもがき、噛まれた箇所から血が流れるのが見える。その血へまた何匹もが群れる。ダノンがだだっこのように体を振った。キースは剣を構え、砂虫の方へ走り出そうとした。
「まちなよ。剣なんかでやれるはずないだろう」
ミラルカはキースを止めると、懐から炊き草を取り出した。それに火をつけ、馬の尻めがけ弓矢を引いた。片目でもミラルカの弓の手練は素晴らしく、見事に馬に命中し、馬は熱さに大きく飛び上がったが、炊き草は煙を発した。きのこみたいな形に煙は大きく広がり、二人と砂虫の大群を包み込んだ。
「おい二人は大丈夫なのか」
「ああ。あの煙は人や馬には無害なのさ」
しばらくして煙は薄くなり、砂虫はほぼ全滅していた。
二人の姿が見えてきた。キースが駆け寄ると二人は咳きこみ体中噛み傷ができていたが、異常はなさそうであった。
「キース、私はもう駄目だ。苦しい、死ぬかもしれん」
ダノンは泣きながら言い、馬にぐったり寄りかかった。
「元気そうじゃないか」
ミラルカが冷たく言う。
「誰のせいでこうなったんだい。全く、この傷、どうしてくれるのさ、ミラルカ」
全くだと言う風にダノンが頷く。
「知らないね。誰のせいってもとはと言えばこの年くった王子様のせいだろうが。文句は鏡に言っておくれ」
うまい事逃げた従者とデニスがラクダを連れて戻ってきた。
「この先に何かありますよ。オアシスじゃないかねえ。伯爵様」
「そうか」
傷の手当をし、一行はまた馬を進ませた。
「オアシスだ」
この砂漠には信じられないほど青々とした、大きな葉をつけた大木が生い茂っている。その根元には数十メートルに及ぶ湖があり、水面はきらきら輝いている。
オアシスはちょっとした森になっていた。
急に世界が変わったように空気は澄み、ひんやりとしている。我先に駆け込んだダノンが馬から飛び降り、湖に顔ごとつっこんだ。
ずるずると下品な音をたてて水を飲む。
「うわあ」
ダノンが絶叫をし、嘔吐した。
「こ、これは水じゃない。キース、助けろ。く、苦しい」
「の、呪いだあ。オアシスの番人が俺達を殺そうとしている。海神ポセラよ、お前の息子を守りたまえ」
デニスが恐ろしそうに言った。
「馬鹿な」
「行いが悪い奴は罰があたるのさ」
「黙れ。財宝まではと思っていたが、もう我慢ならん。叩き切ってやる」
砂虫にはさんざん噛まれ、やっとたどり着いたオアシスではこんな目に合い、ダノンは もう半狂乱だった。鈍い動作で腰の剣を取るとミラルカの方に振り回した。
「落ち着きなさい、ダノン王弟。ここで争っても仕方ありますまい。早く財宝を手に入れさっさと引き返すのが賢明ですぞ」
とキースに諫められダノンは、
「うむ、分かった」
と渋々剣を引っ込めたが、ミラルカを憎しみ込めて睨んだ。
「どうします。入っていきますか」
デニスは気味悪そうに言った。
「ここまできて帰るわけにはいかん」
キースはゆっくりと森の中へ馬を進めた。ひんやりとした空気が心地よく、皆の汗を引かせた。大地は柔らかく、水みずしい。
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2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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