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ダノンと兄王

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 キースがミラルカに愛をささやいている頃、城ではダノンが憤慨していた。彼にはミラルカを逃がしたのがキースだと知らされていた。さっさとミラルカを処刑しなかったのが悔やまれる。腹心の部下と信じていたキースの裏切りが憎らしかった。しかし表だってキースを責める事は出来ない。もしこの事が国王に知れれば候爵の地位はおろか国外追放になるだろう。
「キースめ、生意気な。しかしすぐに面白い物を見せてやるぞ。ナス魔道師を呼べ」
 ダノンは側近にいらつきながら言った。
「恐れながら、ナス魔道師様は御自分の部屋にて誰も立ち入る事を禁じられております」 ナスは手に入れた五つの石によって、残りの石のありかを探していた。
「そうか」
 別の侍従が王の来室を告げた。
 にこやかな笑顔で国王はダノンの部屋を訪れた。他国の王とそう年は違わないが、フレンザ-国王に野心や欲はなく、他国との領土争奪に関心を示さない。むしろ芸術や歴史、自然を愛する心が大きかった。よってぎらぎらした権力欲や王座へ固執する怨念などは皆無であった。性質は人の風貌に大きく影響するもので、国王は暖かなまなざしをもってダノンを見た。国王の前ではダノンはいつも居心地が悪い。国王のいたわりや優しい言葉はダノンをいじけさせるのだ。
「これは国王陛下にあられましては御機嫌うるわしゅうございます」
ダノンは自ら国王を招き入れ、うやうやしく礼をした。
「ダノンよ。この度ナスの予言に従い、西妖魔より来たる魔法人はぜひ王の側近に加えたいがよいかな」
 ダノンは絶句した。何も彼に断る必要はなく王が望めばそれをはばむ者はいないのだ。国王は彼の企みを知っているのか。しかしこれでカ-タには手がだせない。
「それはよいお考えでございます。ナスの予言どおり、魔法人は必ずやジユダ国の発展の為に役立つでしょう」
「そうか、お主が賛成してくれればそれでよい」
国王は出て行きかけたがふと立ち止まり、
「おお、そうじゃ。のうダノンよ。キースは誰を主君と誓った」
と言った。
「そ、それはもちろんこの私とて同じ、フレンザ-・ドッケンⅢ世国王陛下にてございます。我々はジユダと国王に永遠の忠誠を誓いましてございます」
そう言ってダノンは剣をとり、ひざまずいて柄の方を国王へ差し出した。
国王は大袈裟な動作でそれを返すと、きつい口調で言った。
「今の言葉忘れるなよ。ダノン、お前の忠誠に期待しておる」
国王は退出し、ダノンは苦々しい顔でつぶやいた。
「おいぼれめ、今に見ておれ」
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