わけあり乙女と純情山賊

猫又

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女達の戦い

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「へえ、よく考えて作ってあるんだ。ね、あたし、外の様子を見てくるから。あんた達は岩でここをふさいで隠れててね」
「だめだよ! お母さんにリリカちゃんと一緒にって言われてるもん!」
「でも、あたしだけ隠れてるわけにはいかないし、ね?」
 リリカは子供達が岩戸を動かすのを見届けて、弓を手にまた元来た道を走りだした。
 谷の入り口ではウルミラ達が苦戦中だった。入り組んだ谷はそう簡単に攻略される事はなかったが、敵は人海戦術で谷を大捜査している様子だった。
 ウルミラの指示で、あちこちに身を隠した女達が様々なトラップを始動する。
「困ったね、これじゃあ、隠れ家を見つけられるのも時間の問題だ」
「ウルミラさん!」
 ウルミラは走りよってきたリリカをしかった。
「あんた! どうして隠れてないのさ! 子供達と一緒にと言ったはずだよ!」
「そうかっかしないでよ。あたしも何か手伝うからさ」
「……全く!」
「何か手立てはないの?」
 リリカをライカが睨んだ。
「あったら、ここでのんびり観戦してるわけないわ。今はとりあえず、仕掛けた罠で奴らを少しづつでも減らしていくしか……」
「敵は何人?」
「五十人くらいかねえ。スリーキングの偵察部隊だろうと思うよ。だが、もし本隊が隠れてるなら……」
 ウルミラが絶望的な声でつぶやいた。
「ウルミラ! 谷の下の沼地へ奴らをおびき寄せる事ができたら……あの沼は底無しだから……」
 ライカはふと思いついて叫んだ。
「それは分かってるよ。だが、どうやっておびき寄せる? 誰かがおとりになるとしても、危険すぎるから賛成はできない。それに五十人もの相手を一度に罠にかけるなんて無理だよ」
「五十人も相手にする必要はないわ」
 とそれまで黙っていたリリカが言った。
「何だって?」
 ウルミラとライカがリリカを見た。
「とにかく、敵の中心をたたけばいいのよ。指令系統が崩れればきっと慌てて部隊も乱れると思う。そのうちにガイツも帰ってくるでしょ。ウルミラさん、敵の中心が誰か分かるの?」
「分かってるわ。偵察部隊の頭は氷のヤルーという男よ」
 ライカが先に答えた。
「氷の……ヤルー?」
「そう。蛇みたいな目をした嫌な奴。ひょろ高い醜男さ。人を切り刻むのが好きな変態野郎よ!」
 吐き捨てるようにライカが言った。
「そう……じゃあ、そいつだけをたたきましょう。後は放っておけばいい。あたし達がいっぺんに敵を相手にできるわけないもの」
 冷静にそう言ったリリカをライカとウルミラが驚いた様子で見入った。
「でも、どうやって?」
 リリカはにこっと笑った。
「あたしが奴らの前に出るわ。そうしたら……」
 リリカはウルミラとライカに耳打ちをし、何かを伝えた。
「あんた!」
「いいアイデアでしょ? 問題はタイミングなのよ。信用してるから、頼むわ。あたしまで火だるまにするのは勘弁ね」
 くすくすと笑うリリカを二人の女は呆然と見ていた。

 リリカは馬に乗った。心配そうに見送る女達に笑顔で手を振ると、
「頼んだわよ!」
 そう言って馬に一喝し、走りだした。
 目標は氷のヤルー、ただ一人。後の雑魚は考えない方がいい。
 リリカの馬は谷を一目散に駆け抜けた。
「いたいた」
 リリカは谷の中腹からヤルーをみつけた。なるほど、ライカの言った通りに蛇みたいな目をした、油断もすきもない男だ。二人の部下とともに、仲間からの報告を待っているのだろう。
「よっしゃ、いくか!」
 リリカは勢いよくがけを駆け降りた。
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