わけあり乙女と純情山賊

猫又

文字の大きさ
14 / 30

故郷

しおりを挟む
 そして、大移動が始まった。ガイツの仲間は総勢で二百名。だが、今旅出った者はその半分にも満たなかった。
 リリカの問いに、隣で馬を走らせているライカが答えた。
「一カ所に固まってるわけじゃないの。そんなに大所帯で動き回るわけにはいかないわよ。ここが一番大きな所帯よ。あとは二、三十人づつで行動してるわ。分隊は分隊で独自に仕事をして、後でお頭に報告にくるの。あたし達も仲間の全てを見知ってるわけじゃないのよね。それに今はお頭も暇だから一緒にいるけど、仕事になったら滅多に帰ってこないしね」
「ふうん。大所帯も大変だねえ」
「そうねえ。でも、いくらでも仲間になりたいって奴がやってくるわ。そう簡単には仲間にしないけどね」
「へえ」
「女子供をのけて、ここには六十人くらいの男達がいるでしょ。それをシンとブルが二つに分けて仕切ってるの」
「へえ、シンさんって若いのに凄腕なんだ。ブルさんは怖そうで、納得がいくけど」
「どうだかね」
 ライカは肩をすくめた。
 長い移動の間、リリカは故郷の事をずっと考えていた。
 リリカは狩人の娘で、幼いころから弓をおもちゃに遊んでいた。
 弓の腕がいいのはそれが理由である。リリカが敵討ちの旅に出る時にその事が随分と力になったのだ。だが、リリカはごく普通の村娘だった。優しい母親と逞しい父親、おせっかいだが、自分の娘のように接してくれる村人達にかこまれて幸せに暮らしていたのである。
 ゴードレン地方は山賊時代といわれるほどに危ない時代に突入し、平凡な暮らしが脅かされるようになり、どこの村も山賊対策をしていたが、凶悪で残虐な剣に村人が立ち向かえるはずもなく、あちこちの村が全滅の危機をむかえていた。思いあぐねて山賊に金品を贈り配下に加わる村もある。一定の山賊の配下に加われば、他の賊からは守ってもらえるのである。村の全財産を投げ出し武装した村もある。そして、田畑を耕すよりも略奪の味を覚え、村自体が山賊となってしまった村もある。
 リリカの村はゴードレンのすみっこの小さな村だった。あまりに端っこすぎて山賊もそう出没する事はなかった。だが、スリーキングに襲われた。
 生き残った者もいる。リリカのように両親が命懸けで守った子供達や運よく凶悪な刃から逃れられた者が何人かいた。しかし、あまりの恐怖にリリカのように敵討ちに出る意志などはまったくなく、今も細々と村で暮らしている。
 楽しく幸せだった時代はもう戻らないだろう。両親も、村人ももう帰らない。
「……リリカ……リリカ!」
 急に大声で呼ばれてリリカははっと我に返った。
「ん? 何? 呼んだ?」
「ああ、さっきから百回くらいな」
 ガイツが笑いながら言った。
 いつの間にかガイツが馬をリリカの隣に並べている。
「何?」
「スリーキングが早速動いた。どうあってもヤルーの敵を打つ気だ。仲間を二つに分けて、シンはこのまま隠れ家へ行くが、お前はどうする?」
 ガイツは自分でも答えが分かっている問いをリリカに仕向けた。
「迎え撃つ?」
「ああ」
「それなら、そっちに行く」
「そうか」
 ガイツにしてみればリリカにおとなしくしていて欲しいのだが、そんな女ではない。
「あまり急くなよ。お前の命を一番に考えろ。何度でもやり直しはきくんだからな」
「分かってる」
 リリカが笑って答えた。
「よし、シン! 予定通りに動け! ブル、スリーキングを皆殺しだ!」
 ガイツはため息とともに号令を下した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で追放された王女は、腹黒幼馴染王子から逃げられない

ria_alphapolis
恋愛
前世、王宮を追放された王女エリシアは、 幼馴染である王太子ルシアンに見捨てられた―― そう思ったまま、静かに命を落とした。 そして目を覚ますと、なぜか追放される前の日。 人生、まさかの二周目である。 「今度こそ関わらない。目立たず、静かに生きる」 そう決意したはずなのに、前世では冷酷無比だった幼馴染王子の様子がおかしい。 距離、近い。 護衛、多い。 視線、重い。 挙げ句の果てに告げられたのは、彼との政略結婚。 しかもそれが――彼自身の手で仕組まれたものだと知ってしまう。 どうやらこの幼馴染王子、 前世で何かを盛大に後悔したらしく、 二度目の人生では王女を逃がす気が一切ない。 「愛されていなかった」と思い込む王女と、 「二度と手放さない」と決めた腹黒王子の、 少し物騒で、わりと甘い執着政略結婚ラブストーリー。

契約婚のはずが、腹黒王太子様に溺愛されているようです

星月りあ
恋愛
「契約結婚しませんか? 愛を求めたりいたしませんので」 そう告げられた王太子は面白そうに笑った。 目が覚めると公爵令嬢リリカ・エバルディに転生していた主人公。ファンタジー好きの彼女は喜んだが、この国には一つ大きな問題があった。それは紅茶しかないということ。日本茶好きの彼女からしたら大問題である。 そんな中、王宮で日本茶に似た茶葉を育てているらしいとの情報を得る。そして、リリカは美味しいお茶を求め、王太子に契約結婚を申し出た。王太子はこれまで数多くの婚約を断ってきたため女性嫌いとも言われる人物。 そう、これはそのためだけのただの契約結婚だった。 それなのに 「君は面白いね」「僕から逃げられるとでも?」 なぜか興味をもたれて、いつしか溺愛ムードに突入していく……。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

愛のない契約結婚~絶対に離婚するつもりだったのに、年下CEOに愛されすぎておかしくなりそう~

cheeery
恋愛
「絶対に離婚してみせる」 大手商社で最年少課長を務める桐谷美和は、過去の裏切りにより心を閉ざし仕事に生きてきた。 周囲から「氷の女」と恐れられる彼女だったが、ある日実家の会社が倒産の危機に瀕してしまう。 必要な額は八千万円。絶望する美和に救いの手を差し伸べたのは、新人部下の四宮怜だった。 「8000万、すぐに用意する代わりに結婚してください」 彼の実の正体は財閥の御曹司であり、うちの新社長!? 父を救うため、契約結婚をしたのだけれど……。 「借金を返済したら即離婚よ」 望まない男との結婚なんて必要ない。 愛なんて、そんな不確かなものを信じる気はこれっぽっちもないの。 私の目標はこの男と離婚すること、だけ──。 「離婚?それは無理でしょうね」 「借金のことなら私がどうにか……」 「そうじゃない。断言しよう、キミは必ず僕を好きになるよ」 ふざけんな。 絶対に好きになんてなるもんか。 そう誓う美和だったが、始まった新婚生活は予想外の連続で……。 家での四宮は甘い言葉を囁く溺愛夫で……!? 「あなたが可愛すぎてダメだ」 隙あらば触れてくる彼に、頑なだった美和の心も次第に乱されていく。 絶対に離婚したい妻VS絶対に逃がさない夫。 契約から始まった二人の恋の行方は──。

堅物御曹司は真面目女子に秘密の恋をしている

花野未季
恋愛
真面目女子が、やはり真面目で堅物な御曹司と知り合う純愛もの。 サラッと読める短編です♪

奏でる甘い日々に溺れてほしい

恋文春奈
恋愛
私は真夜中にお屋敷を抜け出した 奏音と執事の律に溺愛される日々 抜け出さなかったら出会えなかった運命の人に… あなたと秘密で真夜中に出会えた関係から始まる…! 「俺は有咲の王子様」 「有咲、大好きだよ…結婚を前提に俺と付き合ってください」 二階堂奏音 イケメン隠れピアニスト×藤原有咲 素直な美人お嬢様

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...