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故郷
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そして、大移動が始まった。ガイツの仲間は総勢で二百名。だが、今旅出った者はその半分にも満たなかった。
リリカの問いに、隣で馬を走らせているライカが答えた。
「一カ所に固まってるわけじゃないの。そんなに大所帯で動き回るわけにはいかないわよ。ここが一番大きな所帯よ。あとは二、三十人づつで行動してるわ。分隊は分隊で独自に仕事をして、後でお頭に報告にくるの。あたし達も仲間の全てを見知ってるわけじゃないのよね。それに今はお頭も暇だから一緒にいるけど、仕事になったら滅多に帰ってこないしね」
「ふうん。大所帯も大変だねえ」
「そうねえ。でも、いくらでも仲間になりたいって奴がやってくるわ。そう簡単には仲間にしないけどね」
「へえ」
「女子供をのけて、ここには六十人くらいの男達がいるでしょ。それをシンとブルが二つに分けて仕切ってるの」
「へえ、シンさんって若いのに凄腕なんだ。ブルさんは怖そうで、納得がいくけど」
「どうだかね」
ライカは肩をすくめた。
長い移動の間、リリカは故郷の事をずっと考えていた。
リリカは狩人の娘で、幼いころから弓をおもちゃに遊んでいた。
弓の腕がいいのはそれが理由である。リリカが敵討ちの旅に出る時にその事が随分と力になったのだ。だが、リリカはごく普通の村娘だった。優しい母親と逞しい父親、おせっかいだが、自分の娘のように接してくれる村人達にかこまれて幸せに暮らしていたのである。
ゴードレン地方は山賊時代といわれるほどに危ない時代に突入し、平凡な暮らしが脅かされるようになり、どこの村も山賊対策をしていたが、凶悪で残虐な剣に村人が立ち向かえるはずもなく、あちこちの村が全滅の危機をむかえていた。思いあぐねて山賊に金品を贈り配下に加わる村もある。一定の山賊の配下に加われば、他の賊からは守ってもらえるのである。村の全財産を投げ出し武装した村もある。そして、田畑を耕すよりも略奪の味を覚え、村自体が山賊となってしまった村もある。
リリカの村はゴードレンのすみっこの小さな村だった。あまりに端っこすぎて山賊もそう出没する事はなかった。だが、スリーキングに襲われた。
生き残った者もいる。リリカのように両親が命懸けで守った子供達や運よく凶悪な刃から逃れられた者が何人かいた。しかし、あまりの恐怖にリリカのように敵討ちに出る意志などはまったくなく、今も細々と村で暮らしている。
楽しく幸せだった時代はもう戻らないだろう。両親も、村人ももう帰らない。
「……リリカ……リリカ!」
急に大声で呼ばれてリリカははっと我に返った。
「ん? 何? 呼んだ?」
「ああ、さっきから百回くらいな」
ガイツが笑いながら言った。
いつの間にかガイツが馬をリリカの隣に並べている。
「何?」
「スリーキングが早速動いた。どうあってもヤルーの敵を打つ気だ。仲間を二つに分けて、シンはこのまま隠れ家へ行くが、お前はどうする?」
ガイツは自分でも答えが分かっている問いをリリカに仕向けた。
「迎え撃つ?」
「ああ」
「それなら、そっちに行く」
「そうか」
ガイツにしてみればリリカにおとなしくしていて欲しいのだが、そんな女ではない。
「あまり急くなよ。お前の命を一番に考えろ。何度でもやり直しはきくんだからな」
「分かってる」
リリカが笑って答えた。
「よし、シン! 予定通りに動け! ブル、スリーキングを皆殺しだ!」
ガイツはため息とともに号令を下した。
リリカの問いに、隣で馬を走らせているライカが答えた。
「一カ所に固まってるわけじゃないの。そんなに大所帯で動き回るわけにはいかないわよ。ここが一番大きな所帯よ。あとは二、三十人づつで行動してるわ。分隊は分隊で独自に仕事をして、後でお頭に報告にくるの。あたし達も仲間の全てを見知ってるわけじゃないのよね。それに今はお頭も暇だから一緒にいるけど、仕事になったら滅多に帰ってこないしね」
「ふうん。大所帯も大変だねえ」
「そうねえ。でも、いくらでも仲間になりたいって奴がやってくるわ。そう簡単には仲間にしないけどね」
「へえ」
「女子供をのけて、ここには六十人くらいの男達がいるでしょ。それをシンとブルが二つに分けて仕切ってるの」
「へえ、シンさんって若いのに凄腕なんだ。ブルさんは怖そうで、納得がいくけど」
「どうだかね」
ライカは肩をすくめた。
長い移動の間、リリカは故郷の事をずっと考えていた。
リリカは狩人の娘で、幼いころから弓をおもちゃに遊んでいた。
弓の腕がいいのはそれが理由である。リリカが敵討ちの旅に出る時にその事が随分と力になったのだ。だが、リリカはごく普通の村娘だった。優しい母親と逞しい父親、おせっかいだが、自分の娘のように接してくれる村人達にかこまれて幸せに暮らしていたのである。
ゴードレン地方は山賊時代といわれるほどに危ない時代に突入し、平凡な暮らしが脅かされるようになり、どこの村も山賊対策をしていたが、凶悪で残虐な剣に村人が立ち向かえるはずもなく、あちこちの村が全滅の危機をむかえていた。思いあぐねて山賊に金品を贈り配下に加わる村もある。一定の山賊の配下に加われば、他の賊からは守ってもらえるのである。村の全財産を投げ出し武装した村もある。そして、田畑を耕すよりも略奪の味を覚え、村自体が山賊となってしまった村もある。
リリカの村はゴードレンのすみっこの小さな村だった。あまりに端っこすぎて山賊もそう出没する事はなかった。だが、スリーキングに襲われた。
生き残った者もいる。リリカのように両親が命懸けで守った子供達や運よく凶悪な刃から逃れられた者が何人かいた。しかし、あまりの恐怖にリリカのように敵討ちに出る意志などはまったくなく、今も細々と村で暮らしている。
楽しく幸せだった時代はもう戻らないだろう。両親も、村人ももう帰らない。
「……リリカ……リリカ!」
急に大声で呼ばれてリリカははっと我に返った。
「ん? 何? 呼んだ?」
「ああ、さっきから百回くらいな」
ガイツが笑いながら言った。
いつの間にかガイツが馬をリリカの隣に並べている。
「何?」
「スリーキングが早速動いた。どうあってもヤルーの敵を打つ気だ。仲間を二つに分けて、シンはこのまま隠れ家へ行くが、お前はどうする?」
ガイツは自分でも答えが分かっている問いをリリカに仕向けた。
「迎え撃つ?」
「ああ」
「それなら、そっちに行く」
「そうか」
ガイツにしてみればリリカにおとなしくしていて欲しいのだが、そんな女ではない。
「あまり急くなよ。お前の命を一番に考えろ。何度でもやり直しはきくんだからな」
「分かってる」
リリカが笑って答えた。
「よし、シン! 予定通りに動け! ブル、スリーキングを皆殺しだ!」
ガイツはため息とともに号令を下した。
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