わけあり乙女と純情山賊

猫又

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再会

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 カーラは三人の娘と水をくみに沢にきていた。のんびりと水に浸かったり、野菜を洗ったり、ぺちゃくちゃとおしゃべりに興じていた。
 その時、ざざっと繁みが動いたかと思うとにやにやと嫌な笑みを浮かべた浮浪者が三人ほど顔を出した。
「こいつはラッキーだ! 高く売れそうな娘が四人もいやがる!」
「な、何よ! あんた達! あたし達は黒い疾風の身内だよ! あたし達に手を出したらただではすまないからね!」
「うるせえな、遠くの街にでも売りゃあ、害はあるめえ。二度としゃべれないようにして、目も潰しちまやあ、いいだろうよ。女は穴さえ無事なら売れるからな!」
「な!」
 カーラは立ち上がった。だが、武器など持っていなかった。この辺りはガイツの縄張りで、よそ者は敬遠するからと安心していたのだ。
「きゃああ! カーラ!」
「リザ!」
 男達がいっせいにつかみかかってきた。カーラは仲間を助けようとしたが、男に頬を殴り飛ばされて倒れた。
「よくも!」
 なおもカーラは立ち上がって、男につかみかかった。
「うるっせえ! てめえの相手は後だ! おとなしくしてやがれ!」
 男がカーラの胸倉をつかんでまた殴ろうとした瞬間、ヒュン! とするどい音がして、
「ぎゃあああ」
 男が悲鳴を上げた。カーラをつかんだ男の右手に矢がささっている。続いて、また矢の音がして、二人、三人と矢を腕や足に受けてうめいた。
「う……だ、誰だ!」
 カポカポと馬の足音がして、馬に乗った娘が一人顔を出した。
 娘は弓に矢をつがえたまま、
「心の臓を一突きにされたいか? 目を潰して欲しいか? 好きな方を選べ」
 と言った。
「あんた……リリカ! リリカでしょ!」
 カーラが大声で叫んだ。
「カーラさん、無沙汰の詑びは後で……先にこいつらを始末してからゆっくりとね」
「このあまぁ!」
 男が腰の剣を引き抜いた。その手にリリカの放った矢が突き刺さる。
「うう」
 リリカはゆっくりとした動作で弓をしまうと、馬から飛び下りた。
 腰から剣を引き抜く。
「女を力ずくでどうこうする男って奴が一番嫌いなんだ……死にな!」
 リリカは剣を手に男に切りかかっていった。こうなると男も剣を手に応戦する。
 だが、リリカの剣の腕は二年前から格段に上達したようだった。
 一合、二合と打ち合い、男を真っ向から切り捨てた。
 それを見ていた残りの二人はリリカの剣技に恐れをなしたのか、大慌てで繁みの中へ飛び込んだ。
「わ、何だ、てめえら!」
 不幸にも繁みに逃げ込んだ男達は、カーラを迎えにきた仲間にぶち当たり捕まってしまった。
「おい、カーラ、こいつら一体何だよ……泡食って逃げようと……」
「ラム! 大変だったんだよ! あんた、何を今ごろのこのことやって来てるのさ! もう少しで売り飛ばされるとこだったんだから!」
 ひょいと顔を出したのは、リリカにも見覚えのある若者だった。たしかシンの弟分だった男だ。大男のラムは逃げようとした男二人の首根っこを捕まえている。
「そいつは悪いな……ああ!」
 ラムがリリカを見て、あ然となった。
「お久しぶり」
 リリカは剣を腰にしまうと、カーラとラムにほほ笑んだ。
「そうなんだよ、ラム、リリカに助けてもらったのさ」
 カーラが嬉しそうに言った。そして、リリカに向かって、
「リリカ! あんた……今までどこにいたのさ! あんたがいなくなって大騒ぎだったんだよ!」
 と責めるように叫んだ。
「いろいろと……ね。でも会えてよかった。一度しか来た事がないから、うろ覚えで、なかなか分からなかったんだ。ここももう引っ越したかなとも思ったぐらいに探した」
「そう……まあ、ここで立ち話もなんだから、来てよ。頭もライカも喜ぶよ」
「でも……」
 リリカは渋った。今更会わせる顔もないではないか。
「いいから! あんたに会ってただで行かせたんじゃ、後で皆に怒られるよ!」
 カーラの申し出にリリカはうなずいた。
「じゃあ、ちょっとだけ。ガイツに返す物があって来たから」
 そう言ってリリカはカーラの後について歩きだした。
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