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新しい命
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「お頭 生まれましたよ!」
ウルミラが息せききってガイツの小屋に走り込んできた。
「そうか!」
ベッドに寝転んでいたガイツは嬉しそうな顔で起き上がった。
「どっちだ?」
「ライカに似て、可愛い顔の男の子ですよ」
「そうか、そりゃ、よかったな!」
「ええ、見てやってくださいな」
「おお」
ガイツはにこにことしながら立ち上がると、ライカの元へと行ってやった。
ライカは真っ赤な顔をしてベッドに横になっていた。
「ライカ! よくやったな!」
「お頭……」
ライカの隣で、シンが心配そうな顔をしていた。
「何だ、シン、てめえも父親になるってえのに、不安そうな顔をしやがって! しっかりしろ!」
「はあ」
子供どころか女房さえいないガイツに言われる筋合いはないが、シンはうろたえていた。「信じられないっすよ。俺のガキだなんて……」
「ちょっと! どういう意味よ!」
たった今、子供を生むという大仕事を終えたばかりなのに、ライカはぎゃうっと叫んだ。「いや……そういう意味じゃなくて……俺が父親になるってえのがよ、俺自身、親の顔なんぞ見た事がねえしよお」
「でも、あたし達の家族よ」
ライカはすでに母親の顔になっている。
「誰が何と言っても、この子はあたしとあんたの血を受け継いだ子供なのよ。あたしにはそれが嬉しいわ」
「そ、そうだな……俺の血のつながったガキだ」
シンが嬉しそうにつぶやいた。
「お頭もそろそろ身を固めたらどうですかねえ」
ウルミラがここぞとばかりに話の矛先をガイツに向けた。
「あ?」
ガイツはまたその話か、と顔をしかめた。この所、ウルミラは世話焼きばばあになっている。仲間の娘の中からガイツの女房を選ぼうとやっきになっているのだ。
「早くお頭の子供を見たいですよ」
「俺の事はほっとけ!」
ガイツはむっとした顔でライカの元を去った。
(女房……か)
ガイツはため息をついた。足音がして、振り返るとまたウルミラがガイツを追ってやってきたので、ガイツは早足で立ち去ろうとした。
「お頭! そう逃げないで! あの話じゃないですよ。カーラ達が水をくみに行ったんですが、帰りが遅いので、誰かを迎えにやりますよ」
「ああ」
ガイツはばたばたと走り回るウルミラをうらやましそうに見た。
(元気だな)
この所、ガイツの回りにはめでたい話が転がっている。シンとライカに子供ができたのもそうだし、部下の若い者達も所帯を持つとガイツに報告にくる者がやたらといるのだ。
「春だからな」
リリカがガイツの元から去って二年が過ぎていた。ガイツはまだリリカを忘れていない。 もう誰もリリカの事を言う者もいないし、ガイツもあれからリリカの名前を出す事はなかったが、リリカはガイツの中でまだ笑っているのだ。リリカを忘れるのにはまだ時間がかかりそうだし、そうしなければ他の女など受け入れられない。
ガイツはまたため息をついた。
ウルミラが息せききってガイツの小屋に走り込んできた。
「そうか!」
ベッドに寝転んでいたガイツは嬉しそうな顔で起き上がった。
「どっちだ?」
「ライカに似て、可愛い顔の男の子ですよ」
「そうか、そりゃ、よかったな!」
「ええ、見てやってくださいな」
「おお」
ガイツはにこにことしながら立ち上がると、ライカの元へと行ってやった。
ライカは真っ赤な顔をしてベッドに横になっていた。
「ライカ! よくやったな!」
「お頭……」
ライカの隣で、シンが心配そうな顔をしていた。
「何だ、シン、てめえも父親になるってえのに、不安そうな顔をしやがって! しっかりしろ!」
「はあ」
子供どころか女房さえいないガイツに言われる筋合いはないが、シンはうろたえていた。「信じられないっすよ。俺のガキだなんて……」
「ちょっと! どういう意味よ!」
たった今、子供を生むという大仕事を終えたばかりなのに、ライカはぎゃうっと叫んだ。「いや……そういう意味じゃなくて……俺が父親になるってえのがよ、俺自身、親の顔なんぞ見た事がねえしよお」
「でも、あたし達の家族よ」
ライカはすでに母親の顔になっている。
「誰が何と言っても、この子はあたしとあんたの血を受け継いだ子供なのよ。あたしにはそれが嬉しいわ」
「そ、そうだな……俺の血のつながったガキだ」
シンが嬉しそうにつぶやいた。
「お頭もそろそろ身を固めたらどうですかねえ」
ウルミラがここぞとばかりに話の矛先をガイツに向けた。
「あ?」
ガイツはまたその話か、と顔をしかめた。この所、ウルミラは世話焼きばばあになっている。仲間の娘の中からガイツの女房を選ぼうとやっきになっているのだ。
「早くお頭の子供を見たいですよ」
「俺の事はほっとけ!」
ガイツはむっとした顔でライカの元を去った。
(女房……か)
ガイツはため息をついた。足音がして、振り返るとまたウルミラがガイツを追ってやってきたので、ガイツは早足で立ち去ろうとした。
「お頭! そう逃げないで! あの話じゃないですよ。カーラ達が水をくみに行ったんですが、帰りが遅いので、誰かを迎えにやりますよ」
「ああ」
ガイツはばたばたと走り回るウルミラをうらやましそうに見た。
(元気だな)
この所、ガイツの回りにはめでたい話が転がっている。シンとライカに子供ができたのもそうだし、部下の若い者達も所帯を持つとガイツに報告にくる者がやたらといるのだ。
「春だからな」
リリカがガイツの元から去って二年が過ぎていた。ガイツはまだリリカを忘れていない。 もう誰もリリカの事を言う者もいないし、ガイツもあれからリリカの名前を出す事はなかったが、リリカはガイツの中でまだ笑っているのだ。リリカを忘れるのにはまだ時間がかかりそうだし、そうしなければ他の女など受け入れられない。
ガイツはまたため息をついた。
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