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第八話 続き
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ジルメイダがダリオの説明に一つ付け加える。
「この武器は二刀流に向いているのさ」
「なるほど……そうなんだ」
『チンクエディア』とは刀身の部分に溝が掘られた短剣である。
裕福な者が装飾の凝らした物を作らせることがよくあったため、発見される物には高値の付く場合がある。
扱い易く、二刀流に使われることが多い。
ダリオは反応が複数あったことが嬉しかったようで、次の場所へ行こうとすぐに促してきた。
「まだ他の場所もあるからな、次に行くぞ!」
ユラト達は次の場所へと向かった。
再び周囲を警戒しながら、パーティーは進んだ。
そして、2つ目の反応があった場所へ何事も無く、たどり着くことが出来た。
そこには川が流れていた。
幅は両腕を広げた大人2人分ぐらいで流れは緩やかで深さは膝ぐらいまでだった。
所々、苔が付いた大きな石や川の中に水草があり、小さなピンク色の花を咲かせ、水の流れに沿ってゆらゆらと揺れていた。
ジルメイダがダリオに場所の確認をする。
「ここは確か2つとも近い場所だって言ってたところだね?」
「ああ、そうだ。川の近くを探して見てくれ、その辺りだったはずだ」
「みんな行くよ!」
川の水は先ほどまで黒い霧に包まれた場所とは思えないほど澄んでいた。
どうやら水の中までは霧は入り込んでいなかったようだ。
ユラトは川の水を手ですくい飲んだ。
「冷たくて美味しい……」
他のメンバーもみな水を飲もうと川に近づいたとき、リュシアが川の中に光る物を見つけた。
「あっ!ダリオさん!あれってあたし達が探してる物じゃないですか?」
ダリオは、その場所を見た。
「……ん、おっ!よく見つけたな、お前……こういうことは才能あるな」
リュシアは嬉しそうに照れた。
「えへへ……拾ってきますね!」
そしてリュシアが、その光る物を取ろうと近づいたとき、川の水面に変化が起こった。
水が小さな泡を立てながら徐々に盛り上っていく。
そして、それは人の成人女性を連想させる形へと変化した。
その光景を近くで見ていたリュシアが驚き、叫び声を上げた。
「……きゃあ!なんですかあれ!」
レクスがすぐに反応し、リュシアへ呼びかけた。
「リュシア、離れろ!それは『ニンフ』の一つ『闇の水精ナイアード』だ」
この世界にいるニンフとは山や川、森、海などにいる若く美しい女性の姿に偽ることができる闇の精霊達の総称である。
女性が近くにいた場合、効果はないので、本来の姿で攻撃などを仕掛けてくる。
また、ナイアードは主に川や泉、湖など淡水に生息している闇に属する水の精霊である。
少量の泡と川の水で出来た体で美しい女性の形をしている。
近くを歩く旅人や冒険者に対して突然、水中から出現し攻撃を加えたり、引きずり込んだりすることもあれば、その姿に幻影の魔法をかけ、美しい女性が水浴びをしているように見せ、冒険者が近づいたところを水の中に引きずり込み、魂を喰らうことも出来る。
また下級の水の魔法も使用することも可能である。
ナイアードはリュシアを水の中へ引っ張り込もうと両腕を伸ばしてきた。
リュシアはすぐに後退し、メイスを両手で持ち構えた。
「こ、来ないで!」
急いでユラト達は、リュシアがいる所まで走った。
その間にナイアードはリュシアに向けて水の魔法を放っていた。
ナイアードが右手でリュシアに人差し指で、リュシアを指すと、拳ほどの大きさの水の塊が2個ほど空中へ浮き上がり、槍のような形状に変化した。
そしてそれは小さな泡の出るような音を立てながらリュシアに向かって飛んでいく。
リュシアは顔の辺りに飛んできたその魔法をメイスを振り叩きつけて回避したが、もう一発はリュシアの左肩に命中する。
「―――きゃあ!」
リュシアが痛みで肩を抑えながら跪いた。
そしてパーティーがリュシアのところへ集まった。
ユラトはリュシアに近づき声をかけた。
「リュシア!大丈夫か?」
リュシアは肩を押さえながら苦痛に耐え、傷はたいしたことは無い事を伝えた。
「……大丈夫です、肩を擦りむいた程度の傷ですから」
ダリオはリュシアを守るようにロッドを構え、ジルメイダはレクスにナイアードの対処法を聞いていた。
「あいつの弱点はわかるかい?」
レクスは、すぐに答えた。
「ナイアードには火の魔法は、ほとんど効かない。効くのは土の魔法か上半身を切って川から離してやれば倒せるはずだ」
「じゃあ、あたしがこの剣で斬っちまおうかね」
そう言ってジルメイダがナイアードに近づいたとき、闇の水の精は突然、甲高い声で咆哮を上げる。
「アアア゛ア゛ア゛ッ!!」
ユラト達の頭の中に敵の声が痛みとなって走った。
ユラトは、顔を少ししかめた。
「うっ……!、なんだ、今のは?」
ダリオは瞬時に魔力を感じたことを、皆に告げ、警戒を促した。
「―――魔力!?幻惑の魔法かもしれんぞ!気をつけろ!」
「さっさとやっちまったほうがいいね……はあっ!」
ジルメイダが走って一気に間をつめ、剣をナイアードに向かって振る。
ブンッ……。
ナイアードは川の水と同化し、ジルメイダの剣をかわした。
「かわされたか……みんな一旦川から離れるよ!」
そして、川から離れようとした時、森の木々の中から木の姿をした生物と思われるものが現れていた。
それは姿が木そのもので普通の木と違うのは手が人間と同じく2本、足も2本あり、体は草やツルで覆われていた。
更に、木の上部の顔と思われる部分に、大きな口と不気味な鋭い赤い目を持っていた。
また、手と思われる部分は4つに割れていて、指先は鋭く尖っていた。
ユラトは目を凝らして、その木を見ていた。
「トレント……じゃ、ないな……なんだ、あれは?」
ダリオが何かに気づき叫んでいた。
「―――しまった!さっきの咆哮は仲間を呼ぶためのものだったのか!」
ジルメイダがレクスにあの魔物について素早く尋ねていた。
「レクス、あの木の化物は何か分かるかい?」
レクスは細く形の整った眉をひそめ、少しの間を置いてから答えた。
「……あれ……は、恐らく『ドリュアス』だな」
「ドリュアス?」
ドリュアスはナイアードと同じく、ニンフの一種で闇に属している木の精霊である。
そのとき、ドリュアスが群れをなして、ぞろぞろと現れた。
ダリオが敵を睨みつけ、警戒の声を上げた。
「おい!やべぇぞ!囲まれそうだ、気をつけろ!」
一体のドリュアスがこちらに向かって歩いてくる。
レクスが左右に目を配ると、正面から向ってきた敵を警戒しながら説明を続けた。
「あいつの弱点は火に弱いが、本体を倒さなければ意味が無い」
「本体?」
「どこかの木にヤドリギがあって、その木からマナを吸い、寄生して生きている魔物だ。自らを守る為に周りの木や草を取り込んで魔物に変えるんだ。取り込んだ植物によって能力が変わるらしい。植物によっては毒の花粉を撒くものもいるらしいから気をつけるんだ。そして、そのヤドリギが本体だ」
「なら、木の化物は俺に任せてもらおうか、ユラト、お前も来い!」
「はいっ!」
レクスは槍を投げ、近づいてきた一体のドリュアスの足に見事命中させていた。
ドリュアスはバランスを崩し倒れた。
そして、レクスが振り返り、ダリオに告げた。
「数も多い、私もドリュアスをやることにしよう」
ダリオは、ファイアーボールを倒れたドリュアスに放ち、止めを刺すと、ジルメイダにナイアードのことを頼んだ。
「ジルメイダとリュシアはナイアードを頼む!」
ユラトとダリオはドリュアスの方へ向かった。
「わかったよ、要はあいつを川から離しゃいいんだろ」
レクスはやや挑発的にジルメイダに問うた。
「そうだ、できるのか?」
ジルメイダはそれを聞くと笑みを浮かべ、答えていた。
「ふふっ、そっちこそ森の精を倒しちまっていいのかい?」
レクスは冷たい眼差しをドリュアス達に向け、ジルメイダに言い放った。
「奴らは、この森には必要の無い敵だ。構うことなど無い」
「……そうかい、じゃあ、さっさとやっちまうかい!」
ユラトが走り出した瞬間、突然、川の中にいたナイアードが上半身部分だけを形作り現れ、ユラトの背中へ向け水の攻撃魔法を放ってきた。
それは先ほどリュシアへ放ったものよりも、大きな塊であった。
水の塊はすぐに槍状へ形を変え、水しぶきを上げながらユラトへ向け、飛んでいく。
ザシュウワァァ―――
それを見たリュシアがユラトへ叫んだ。
「ユラトさん!避けて!」
それはユラトの背中へ命中したと思われたが、寸前で薄い水の膜のようなものが現れ、ダメージを受けることはなかった。
ユラトは進行方向へ押され体勢を崩し、そして驚いた。
「うわぁ!……。あれ…痛くない…?」
それを見ていたダリオは叫んだ。
「説明はあとだ!ユラト、敵をやっちまうぞ!」
気を取り直し、ユラトはそれに答えた。
「はい!(ダリオさんの言う通りだ!敵を倒すのが先だ!)」
ジルメイダは、この瞬間を逃していなかった。
(―――チャンスだ!逃さないよ!)
現れたナイアードにすごい勢いで走り寄り、剣を横になぎ払った。
「要は水から切り離しゃあ、いいんだろ!ハッ!!」
ナイアードの上半身を根元から切った。
切り離されたナイアードは一瞬、宙に浮く。
ジルメイダは横になぎ払ったときの力を利用し、回転すると間をおかずに切り上げられたナイアードにそのまま回し蹴りを放った。
パァーン!
水面を打ったような音がし、ナイアードの上半身は地面へ叩き付けられた。
釣り上げられ地面で、もがいている魚のようにしているナイアードにリュシアがメイスで一撃を加えるとナイアードは地面に泡となって吸い込まれていった。
ブクブクッ…ブクッ…
ジルメイダはナイアードを倒したのを確認するとリュシアに呼びかけた。
「ふう……やったようだね……リュシア!まだ他にも居るかも知れないからね、川を少し調べるよ!あんたは、あたしの後ろで後方を注意深く見ていておくれ!」
リュシアは倒した後も、まだ生きているのではないかと思い、ジルメイダに名前を呼ばれるまでずっと濡れた地面を見つめていた。
ジルメイダに呼ばれることで我に返り、魔物が倒されたと認識することが出来たようだった。
そして、慌てて返事をした。
「う、うんっ!(怖かった……)」
ユラトとダリオとレクスの男3人は、大勢現れたドリュアスに半包囲されつつあった。
先ほどいた川から少しだけ離れた場所で、木々は今までいた森の中よりも間隔が離れていて、地面は落ち葉の降り積もった所と地肌が見えている場所もあった。
そこに10体前後のドリュアスと言われる、木の魔物が無言でユラト達を包囲しようとしていた。
「ダリオさん、結構な数いますよ、どうします?」
ユラトは包囲されないよう、ファイアーボールの魔法を唱え牽制していた。
「我が体内に宿るマナよ、火弾となりて敵に炎の一撃を!ファイアーボール!」
ボゥワァ!
ドリュアスの肩の部分に火の玉が当たる。
そして、当たった部分が黒く焼き焦げ、脆くなっていた。
ユラトはショートソードを両手で持ち、ドリュアス達を警戒しながら構えた。
(あの部分を狙えば倒せそうだ!)
ドリュアスはやや後退し、警戒を強めた。
ダリオは、本体の場所をレクスに聞いていた。
「レクス、ヤドリギの場所、わかるか?」
「……恐らくあそこだ……」
レクスが指を指した場所の木に、赤紫のヤドリギが広範囲に絡み付いているのが見える。
ダリオは目を細めその場所を見る。
「―――あれか、この位置からのファイアーボールじゃ届かんな……この木の化け物どもをまずは、どうにかせんとだめだな」
「隙を作ってくれれば、私一人ならばなんとか走ってヤドリギにこの槍で一撃を食らわすことぐらいはできるが?」
「一撃で倒せるのか?」
「……どうだろう……恐らくバラバラにするか焼き払うかしなければならないだろうな……」
「なら、目の前のこいつらから倒すか……」
そのときドリュアス達は地面から小さな小石を拾い、ユラト達に投げつけてきた。
ヒュッ―――
ユラト達は武器とフットワークを活かしてそれをかわした。
「くそっ!面倒だな……」
投げられた小石の一つがダリオのロッドを持っていた右手の甲に当たる。
「いてえっ!……このやろう……俺様を怒らせやがるとはな!焼き払ってやる!ユラト、レクス!魔法をする間、しばらく頼むぜ」
「はい!」
レクスは、ダリオの魔法に任せることに同意したが、森の事も気にしているようだった。
「……いいだろう。だが、あまり焼かないでくれ……森に罪は無い」
ダリオが魔法の詠唱に入ると、ユラトは剣を強く両手で握るとドリュアスが2体固まっているところへ斬り込んだ。
「はあっ!」
そして、1体のドリュアスの腕に剣が当たる。
ガンッという固い音がした。
(くぅ……手が少し痺れる。こりゃあ結構固いな……やはり脆くなっている場所を狙ったほうがいいな)
ユラトが剣で斬った場所には一応少しだが切り傷が付いていた。
動きはそれほど速くは無いようだ。
のっそりとした動きで敵は一斉に迫ってきた。
ユラトが後退し、ダリオの守りに付くと、今度はレクスが槍を横にして持ち、柄の部分を使い、複数のドリュアスを押し返した。
そして、レクスが後退するとユラトが前へ出ていた。
二人は交互にダリオを守りながら、ドリュアスを奥へ押しやっていた。
ユラトもレクスのように剣と蹴りでドリュアスを押し返していた。
しかし、ドリュアスの数は多く、いつのまにか側面にいた1匹の一撃がユラトの左肩の後ろ側に鈍い音を立ててヒットする。
ドンッ!
ユラトは少し苦痛で顔を歪め、敵を睨みつけた。
「……くっ!やはり数が多すぎる…」
敵の動きが遅いとは言え、やはり二人では厳しいようだった。
ユラトは左肩を触り、まだ動かせるのを確認すると気合を入れなおし、再び両手で剣を持ち、敵に斬り込んでいった。
「ハアッ!」
そのとき、ダリオが魔法を完成させていた。
辺りに纏わり付くような炎のオーラが漂っていた。
ダリオの左手に持っていたロッドの先に赤々とした炎が宿っていた。
ダリオは帽子を斜めにかぶっていたため、片目だけが見えていたが、その眼光は鋭かった。
ピンっと右手の人差し指を立て顔の近くに持っていく。
炎のオーラを纏ったロッドは左手で持ち、今にも魔法を放つことが出来そうだった。
それを察知したレクスがユラトに呼びかける。
「ユラト、下がれ!」
ユラトはすぐにレクスの叫びの意味を理解し、ダリオの所まで下がった。
ユラトが戻ると同時にダリオは魔法を放った。
「……炎よ壁となれ!―――ファイアーウォール!」
ダリオは辺りに魔法の炎が宿ったロッドで半円を描きながら撒くように火を放った。
ゴオオォォ……
火が撒かれた場所に炎の壁が出現した。
高さはレクスの身長ほどであった。
一瞬にして炎が広がり、そこにあった草や枯れ葉が焼かれていく。
ユラトはダリオが放った魔法の威力に驚くと共に、彼の魔法使いとしての能力の高さに感心していた。
(凄い……これが魔道師の火の魔法か!ダリオさんって口だけの人じゃなかったんだ……)
そして炎の壁が現れた場所はユラトとレクスがドリュアスを押しやって敵を集めていた所であったため、ドリュアス達は炎に包まれ、焼かれていく。
小さな重低音の効いた声を上げながら、ドリュアス達は灰となっていった。
ダリオは自慢げに笑い声をあげながら、敵に言い放った。
「だはははっ!どうだ!ダリオ様の魔法は!」
レクスは半ば呆れていた。
「(……この男は……)森をあまり焼かないでくれと言っただろ……」
残りのドリュアスは3体ほどしか残っていなかったので、ダリオとユラトのファイアーボールでドリュアスを焼き、脆くなった部分を武器を使い、倒すと、すぐに3人はヤドリギの場所へと向っていた。
ヤドリギは3人の目の前にあった。
ユラトはその奇妙な色と形に戸惑っていた。
(これが本体か……ちょっと気持ち悪いな……)
ヤドリギは赤紫でいくつも枝分かれしていて一本の若い木にぐるぐると螺旋状に張り付いていた。
朱色の葉を持ち、少し中が透けていて、青い血管のような物が中に張り巡らされていた。
僅かだが脈打っているようにも見える。
ダリオは顔をしかめ、呟いた。
「うぇ……なんじゃこりゃ。こんな気色悪いやつ、さっさとやっちまったほうがいいな……」
レクスは寄生された木を調べた。
ドリュアスのヤドリギに寄生された木は灰色に近い色になっていた。
「……この木はもはや助からんな……」
ダリオはヤドリギがドリュアスを産み出したり、何かしてきた場合を考え、いつでも魔法を発動できるようにロッドを構えながらレクスに確認をしていた。
「じゃあ、焼いちまっていいんだな?」
「……残念だが、広がる前にやったほうがいい……やってくれ……」
ダリオはファイアーボールを静かに唱え放った。
ヤドリギが炎に包まれる。
するとドリュアスの本体は炎の中、蛇のように動き、のた打ち回った後、木ごと灰となって消え去った。
そして、ジルメイダとリュシアの2人のことが気になったユラト達は、すぐにジルメイダのところへ向おうとしたとき、リュシアが1人で3人のもとへ小走りで現れた。
「あっ、いた!」
ユラトがリュシアに声をかけた。
「俺達の方は片付いたけど、リュシア、そっちはどう?」
呼吸を軽く整えリュシアは答えた。
「はぁはぁ……あたし達もあれから川の辺りを探しましたけどナイアードはさっきのしか、居なかったみたいです」
ユラトは安堵した。
「そうか、よかった……」
「あの、それで川でさっき光ってたのはこれなんですけど……ジルメイダがダリオさんかレクスさんに見せろって……」
リュシアはダリオに川で拾った物を見せた。
ダリオが帽子のツバを上にあげ、渡された物を空の方へ向け、仰ぎ見ていた。
「指輪か……綺麗な宝石がはまってるな……見たことねぇ石だな……」
その宝石を見たレクスが説明をしてきた。
「それは『アマゾナイト』……この森一帯で産出される石だ。ギルドには報告がしてあるはず」
アマゾナイト
エメラルドグリーンの色に乳白色が混ざることによって明るく淡いエメラルドグリーンの色になっている石。
森に堆積する様々な物によって青くなる場合もあり、色の種類がいくつかあると言われている。
精神と体のバランスを整える作用があるらしい。
その明るい色から希望の石『ホープストーン』とも呼ばれる。
「なんだ、新発見じゃねぇのかよ……この石は見つかり難いのか?」
レクスは腕を組み、少し考えてからダリオに答えた。
「……そうだな、我々ウッドエルフでも見ることは稀だ」
それを聞いたダリオは喜んだ。
「おおっ!なら結構な値段が付きそうだぜ!」
「……この石は我々にとっては儀式で使用したり、お守りになる重要な宝石だ。だから私に売って貰えないか?」
「買い取りか、ならその指輪の値段分の報酬は俺達で分配させてもらうぜ?」
「ああ、それでかまわない」
ダリオは指輪をレクスに投げて渡した。
「そうか、それじゃ決まりだな。……では、行く…あっ、そうだ、リュシア!ユラトが少しドリュアスから一撃をもらいやがったから傷を見てやってくれ」
「はい!ユラトさん攻撃された場所を見せてください」
リュシアはユラトに近づいた。
ユラトは特に痛みを感じなかったので、大丈夫だと思っていた。
「大したことはないと思うけど……」
「いいから見てもらえ!」
「……じゃあ」
ユラトは左肩の場所をめくって見せた。
その場所は軽く内出血していた。
ユラトは思ったよりも傷が大きかった事に驚いていた。
(思ったより、ダメージを喰らっていたんだな……ダリオさん、良く分かったな……)
「じゃあ、回復魔法をかけるので動かないで下さい」
リュシアはユラトの後ろに回り、左手をユラトの肩の傷口に乗せ、クレリックの回復魔法を唱えた。
「……主たる光の神ファルバーンよ、我に力と加護を……我がマナを供物とし、主に捧げます……神の御愛と慈悲を!ヒーリング!」
リュシアの手が光り、その光がユラトの肩を照らした。
そして、ユラトの傷が徐々に小さくなり、癒されていく。
ダリオはリュシアがちゃんと回復魔法が使えるか試したようであった。
「ちゃんと回復魔法は使えるみたいだな、よしよし……(こいつは村で鍛えてる時も思ったが、魔力は高そうだな。流石はヴァベルの一族……か)」
ユラトは礼を言った。
「リュシア、少しあった痛みは消えたよ、ありがとう!」
リュシアは小さく首を横に振った。
「いえ、それがわたしのこのパーティーでの主な役割ですから、気にしないで下さい」
ダリオはリュシアの回復魔法に満足したのか、辺りを軽く見回した後、歩き出そうとしていた。
「まぁ、そう言うこった、そろそろここから移動するぞ」
ユラトは例え役割であったとしても、やってくれたことにはちゃんと感謝をしながら冒険をしたいと思っていた。
(全く、ダリオさんは……)
ユラトはリュシアにジルメイダのいる場所を聞いた。
「リュシア、ジルメイダはどこにいるんだい?」
リュシアは宝石の話を夢中になって聞いていたため、忘れていたようだった。
役目を思い出し、慌てて説明をし始めた。
「……あっ!そうでした。ナイアードと戦っていた、さっきの川に沿って歩いていたら、途中に廃屋があったんです。それでジルメイダがユラトさん達を呼んできて欲しいって言ってジルメイダは廃屋の中へ入っていきました」
ダリオが歩みを止め、リュシアに道案内を頼んだ。
「じゃあ、俺達もそこへ行くか!リュシア、案内してくれ」
「はいっ!こっちです!」
リュシアは元気良く返事を返し、ユラト達をジルメイダが入って行った廃屋へ案内するため先頭に立ち、歩き出した。
ユラト達は、先ほどナイアードがいた川に沿って歩いた。
この川の先に目指す廃屋は、あるようだった。
川が近くにあるせいか、たまに頬に当たる風は少し冷たかった。
川の周りは、木々が生い茂っていた。
また、木の周りに雑草が生え、淡く小さな黄色い花を咲かせていた。
鳥たちの鳴き声もまばらに聞こえていた。
ユラトは景色を眺めながら歩いていた。
(綺麗な森だな、ここは……)
レクスは先ほどの指輪を眺めながら歩いていた。
どうやら気に入った様子だった。
時折り、口元が緩んでいるのをユラトは見ていた。
(レクスさん、うれしそうだ……)
そして目的の場所へは、すぐに着く事が出来た。
ドリュアスと戦った場所からそう離れた場所ではなかった。
ダリオは、たどり着いた場所を見回していた。
「……ここが、そうか……ちょうど、俺がマナサーチで感じた場所の一つだな」
リュシアは、すぐに到着するとメイスを両手で持ち、頭を左右に素早く動かし、ユラト達を連れてきた事を伝える為にジルメイダを探し始めていた。
そして、ジルメイダの名を叫ぶ。
「ジルメイダ~!みんなを連れてきたよー!」
「この武器は二刀流に向いているのさ」
「なるほど……そうなんだ」
『チンクエディア』とは刀身の部分に溝が掘られた短剣である。
裕福な者が装飾の凝らした物を作らせることがよくあったため、発見される物には高値の付く場合がある。
扱い易く、二刀流に使われることが多い。
ダリオは反応が複数あったことが嬉しかったようで、次の場所へ行こうとすぐに促してきた。
「まだ他の場所もあるからな、次に行くぞ!」
ユラト達は次の場所へと向かった。
再び周囲を警戒しながら、パーティーは進んだ。
そして、2つ目の反応があった場所へ何事も無く、たどり着くことが出来た。
そこには川が流れていた。
幅は両腕を広げた大人2人分ぐらいで流れは緩やかで深さは膝ぐらいまでだった。
所々、苔が付いた大きな石や川の中に水草があり、小さなピンク色の花を咲かせ、水の流れに沿ってゆらゆらと揺れていた。
ジルメイダがダリオに場所の確認をする。
「ここは確か2つとも近い場所だって言ってたところだね?」
「ああ、そうだ。川の近くを探して見てくれ、その辺りだったはずだ」
「みんな行くよ!」
川の水は先ほどまで黒い霧に包まれた場所とは思えないほど澄んでいた。
どうやら水の中までは霧は入り込んでいなかったようだ。
ユラトは川の水を手ですくい飲んだ。
「冷たくて美味しい……」
他のメンバーもみな水を飲もうと川に近づいたとき、リュシアが川の中に光る物を見つけた。
「あっ!ダリオさん!あれってあたし達が探してる物じゃないですか?」
ダリオは、その場所を見た。
「……ん、おっ!よく見つけたな、お前……こういうことは才能あるな」
リュシアは嬉しそうに照れた。
「えへへ……拾ってきますね!」
そしてリュシアが、その光る物を取ろうと近づいたとき、川の水面に変化が起こった。
水が小さな泡を立てながら徐々に盛り上っていく。
そして、それは人の成人女性を連想させる形へと変化した。
その光景を近くで見ていたリュシアが驚き、叫び声を上げた。
「……きゃあ!なんですかあれ!」
レクスがすぐに反応し、リュシアへ呼びかけた。
「リュシア、離れろ!それは『ニンフ』の一つ『闇の水精ナイアード』だ」
この世界にいるニンフとは山や川、森、海などにいる若く美しい女性の姿に偽ることができる闇の精霊達の総称である。
女性が近くにいた場合、効果はないので、本来の姿で攻撃などを仕掛けてくる。
また、ナイアードは主に川や泉、湖など淡水に生息している闇に属する水の精霊である。
少量の泡と川の水で出来た体で美しい女性の形をしている。
近くを歩く旅人や冒険者に対して突然、水中から出現し攻撃を加えたり、引きずり込んだりすることもあれば、その姿に幻影の魔法をかけ、美しい女性が水浴びをしているように見せ、冒険者が近づいたところを水の中に引きずり込み、魂を喰らうことも出来る。
また下級の水の魔法も使用することも可能である。
ナイアードはリュシアを水の中へ引っ張り込もうと両腕を伸ばしてきた。
リュシアはすぐに後退し、メイスを両手で持ち構えた。
「こ、来ないで!」
急いでユラト達は、リュシアがいる所まで走った。
その間にナイアードはリュシアに向けて水の魔法を放っていた。
ナイアードが右手でリュシアに人差し指で、リュシアを指すと、拳ほどの大きさの水の塊が2個ほど空中へ浮き上がり、槍のような形状に変化した。
そしてそれは小さな泡の出るような音を立てながらリュシアに向かって飛んでいく。
リュシアは顔の辺りに飛んできたその魔法をメイスを振り叩きつけて回避したが、もう一発はリュシアの左肩に命中する。
「―――きゃあ!」
リュシアが痛みで肩を抑えながら跪いた。
そしてパーティーがリュシアのところへ集まった。
ユラトはリュシアに近づき声をかけた。
「リュシア!大丈夫か?」
リュシアは肩を押さえながら苦痛に耐え、傷はたいしたことは無い事を伝えた。
「……大丈夫です、肩を擦りむいた程度の傷ですから」
ダリオはリュシアを守るようにロッドを構え、ジルメイダはレクスにナイアードの対処法を聞いていた。
「あいつの弱点はわかるかい?」
レクスは、すぐに答えた。
「ナイアードには火の魔法は、ほとんど効かない。効くのは土の魔法か上半身を切って川から離してやれば倒せるはずだ」
「じゃあ、あたしがこの剣で斬っちまおうかね」
そう言ってジルメイダがナイアードに近づいたとき、闇の水の精は突然、甲高い声で咆哮を上げる。
「アアア゛ア゛ア゛ッ!!」
ユラト達の頭の中に敵の声が痛みとなって走った。
ユラトは、顔を少ししかめた。
「うっ……!、なんだ、今のは?」
ダリオは瞬時に魔力を感じたことを、皆に告げ、警戒を促した。
「―――魔力!?幻惑の魔法かもしれんぞ!気をつけろ!」
「さっさとやっちまったほうがいいね……はあっ!」
ジルメイダが走って一気に間をつめ、剣をナイアードに向かって振る。
ブンッ……。
ナイアードは川の水と同化し、ジルメイダの剣をかわした。
「かわされたか……みんな一旦川から離れるよ!」
そして、川から離れようとした時、森の木々の中から木の姿をした生物と思われるものが現れていた。
それは姿が木そのもので普通の木と違うのは手が人間と同じく2本、足も2本あり、体は草やツルで覆われていた。
更に、木の上部の顔と思われる部分に、大きな口と不気味な鋭い赤い目を持っていた。
また、手と思われる部分は4つに割れていて、指先は鋭く尖っていた。
ユラトは目を凝らして、その木を見ていた。
「トレント……じゃ、ないな……なんだ、あれは?」
ダリオが何かに気づき叫んでいた。
「―――しまった!さっきの咆哮は仲間を呼ぶためのものだったのか!」
ジルメイダがレクスにあの魔物について素早く尋ねていた。
「レクス、あの木の化物は何か分かるかい?」
レクスは細く形の整った眉をひそめ、少しの間を置いてから答えた。
「……あれ……は、恐らく『ドリュアス』だな」
「ドリュアス?」
ドリュアスはナイアードと同じく、ニンフの一種で闇に属している木の精霊である。
そのとき、ドリュアスが群れをなして、ぞろぞろと現れた。
ダリオが敵を睨みつけ、警戒の声を上げた。
「おい!やべぇぞ!囲まれそうだ、気をつけろ!」
一体のドリュアスがこちらに向かって歩いてくる。
レクスが左右に目を配ると、正面から向ってきた敵を警戒しながら説明を続けた。
「あいつの弱点は火に弱いが、本体を倒さなければ意味が無い」
「本体?」
「どこかの木にヤドリギがあって、その木からマナを吸い、寄生して生きている魔物だ。自らを守る為に周りの木や草を取り込んで魔物に変えるんだ。取り込んだ植物によって能力が変わるらしい。植物によっては毒の花粉を撒くものもいるらしいから気をつけるんだ。そして、そのヤドリギが本体だ」
「なら、木の化物は俺に任せてもらおうか、ユラト、お前も来い!」
「はいっ!」
レクスは槍を投げ、近づいてきた一体のドリュアスの足に見事命中させていた。
ドリュアスはバランスを崩し倒れた。
そして、レクスが振り返り、ダリオに告げた。
「数も多い、私もドリュアスをやることにしよう」
ダリオは、ファイアーボールを倒れたドリュアスに放ち、止めを刺すと、ジルメイダにナイアードのことを頼んだ。
「ジルメイダとリュシアはナイアードを頼む!」
ユラトとダリオはドリュアスの方へ向かった。
「わかったよ、要はあいつを川から離しゃいいんだろ」
レクスはやや挑発的にジルメイダに問うた。
「そうだ、できるのか?」
ジルメイダはそれを聞くと笑みを浮かべ、答えていた。
「ふふっ、そっちこそ森の精を倒しちまっていいのかい?」
レクスは冷たい眼差しをドリュアス達に向け、ジルメイダに言い放った。
「奴らは、この森には必要の無い敵だ。構うことなど無い」
「……そうかい、じゃあ、さっさとやっちまうかい!」
ユラトが走り出した瞬間、突然、川の中にいたナイアードが上半身部分だけを形作り現れ、ユラトの背中へ向け水の攻撃魔法を放ってきた。
それは先ほどリュシアへ放ったものよりも、大きな塊であった。
水の塊はすぐに槍状へ形を変え、水しぶきを上げながらユラトへ向け、飛んでいく。
ザシュウワァァ―――
それを見たリュシアがユラトへ叫んだ。
「ユラトさん!避けて!」
それはユラトの背中へ命中したと思われたが、寸前で薄い水の膜のようなものが現れ、ダメージを受けることはなかった。
ユラトは進行方向へ押され体勢を崩し、そして驚いた。
「うわぁ!……。あれ…痛くない…?」
それを見ていたダリオは叫んだ。
「説明はあとだ!ユラト、敵をやっちまうぞ!」
気を取り直し、ユラトはそれに答えた。
「はい!(ダリオさんの言う通りだ!敵を倒すのが先だ!)」
ジルメイダは、この瞬間を逃していなかった。
(―――チャンスだ!逃さないよ!)
現れたナイアードにすごい勢いで走り寄り、剣を横になぎ払った。
「要は水から切り離しゃあ、いいんだろ!ハッ!!」
ナイアードの上半身を根元から切った。
切り離されたナイアードは一瞬、宙に浮く。
ジルメイダは横になぎ払ったときの力を利用し、回転すると間をおかずに切り上げられたナイアードにそのまま回し蹴りを放った。
パァーン!
水面を打ったような音がし、ナイアードの上半身は地面へ叩き付けられた。
釣り上げられ地面で、もがいている魚のようにしているナイアードにリュシアがメイスで一撃を加えるとナイアードは地面に泡となって吸い込まれていった。
ブクブクッ…ブクッ…
ジルメイダはナイアードを倒したのを確認するとリュシアに呼びかけた。
「ふう……やったようだね……リュシア!まだ他にも居るかも知れないからね、川を少し調べるよ!あんたは、あたしの後ろで後方を注意深く見ていておくれ!」
リュシアは倒した後も、まだ生きているのではないかと思い、ジルメイダに名前を呼ばれるまでずっと濡れた地面を見つめていた。
ジルメイダに呼ばれることで我に返り、魔物が倒されたと認識することが出来たようだった。
そして、慌てて返事をした。
「う、うんっ!(怖かった……)」
ユラトとダリオとレクスの男3人は、大勢現れたドリュアスに半包囲されつつあった。
先ほどいた川から少しだけ離れた場所で、木々は今までいた森の中よりも間隔が離れていて、地面は落ち葉の降り積もった所と地肌が見えている場所もあった。
そこに10体前後のドリュアスと言われる、木の魔物が無言でユラト達を包囲しようとしていた。
「ダリオさん、結構な数いますよ、どうします?」
ユラトは包囲されないよう、ファイアーボールの魔法を唱え牽制していた。
「我が体内に宿るマナよ、火弾となりて敵に炎の一撃を!ファイアーボール!」
ボゥワァ!
ドリュアスの肩の部分に火の玉が当たる。
そして、当たった部分が黒く焼き焦げ、脆くなっていた。
ユラトはショートソードを両手で持ち、ドリュアス達を警戒しながら構えた。
(あの部分を狙えば倒せそうだ!)
ドリュアスはやや後退し、警戒を強めた。
ダリオは、本体の場所をレクスに聞いていた。
「レクス、ヤドリギの場所、わかるか?」
「……恐らくあそこだ……」
レクスが指を指した場所の木に、赤紫のヤドリギが広範囲に絡み付いているのが見える。
ダリオは目を細めその場所を見る。
「―――あれか、この位置からのファイアーボールじゃ届かんな……この木の化け物どもをまずは、どうにかせんとだめだな」
「隙を作ってくれれば、私一人ならばなんとか走ってヤドリギにこの槍で一撃を食らわすことぐらいはできるが?」
「一撃で倒せるのか?」
「……どうだろう……恐らくバラバラにするか焼き払うかしなければならないだろうな……」
「なら、目の前のこいつらから倒すか……」
そのときドリュアス達は地面から小さな小石を拾い、ユラト達に投げつけてきた。
ヒュッ―――
ユラト達は武器とフットワークを活かしてそれをかわした。
「くそっ!面倒だな……」
投げられた小石の一つがダリオのロッドを持っていた右手の甲に当たる。
「いてえっ!……このやろう……俺様を怒らせやがるとはな!焼き払ってやる!ユラト、レクス!魔法をする間、しばらく頼むぜ」
「はい!」
レクスは、ダリオの魔法に任せることに同意したが、森の事も気にしているようだった。
「……いいだろう。だが、あまり焼かないでくれ……森に罪は無い」
ダリオが魔法の詠唱に入ると、ユラトは剣を強く両手で握るとドリュアスが2体固まっているところへ斬り込んだ。
「はあっ!」
そして、1体のドリュアスの腕に剣が当たる。
ガンッという固い音がした。
(くぅ……手が少し痺れる。こりゃあ結構固いな……やはり脆くなっている場所を狙ったほうがいいな)
ユラトが剣で斬った場所には一応少しだが切り傷が付いていた。
動きはそれほど速くは無いようだ。
のっそりとした動きで敵は一斉に迫ってきた。
ユラトが後退し、ダリオの守りに付くと、今度はレクスが槍を横にして持ち、柄の部分を使い、複数のドリュアスを押し返した。
そして、レクスが後退するとユラトが前へ出ていた。
二人は交互にダリオを守りながら、ドリュアスを奥へ押しやっていた。
ユラトもレクスのように剣と蹴りでドリュアスを押し返していた。
しかし、ドリュアスの数は多く、いつのまにか側面にいた1匹の一撃がユラトの左肩の後ろ側に鈍い音を立ててヒットする。
ドンッ!
ユラトは少し苦痛で顔を歪め、敵を睨みつけた。
「……くっ!やはり数が多すぎる…」
敵の動きが遅いとは言え、やはり二人では厳しいようだった。
ユラトは左肩を触り、まだ動かせるのを確認すると気合を入れなおし、再び両手で剣を持ち、敵に斬り込んでいった。
「ハアッ!」
そのとき、ダリオが魔法を完成させていた。
辺りに纏わり付くような炎のオーラが漂っていた。
ダリオの左手に持っていたロッドの先に赤々とした炎が宿っていた。
ダリオは帽子を斜めにかぶっていたため、片目だけが見えていたが、その眼光は鋭かった。
ピンっと右手の人差し指を立て顔の近くに持っていく。
炎のオーラを纏ったロッドは左手で持ち、今にも魔法を放つことが出来そうだった。
それを察知したレクスがユラトに呼びかける。
「ユラト、下がれ!」
ユラトはすぐにレクスの叫びの意味を理解し、ダリオの所まで下がった。
ユラトが戻ると同時にダリオは魔法を放った。
「……炎よ壁となれ!―――ファイアーウォール!」
ダリオは辺りに魔法の炎が宿ったロッドで半円を描きながら撒くように火を放った。
ゴオオォォ……
火が撒かれた場所に炎の壁が出現した。
高さはレクスの身長ほどであった。
一瞬にして炎が広がり、そこにあった草や枯れ葉が焼かれていく。
ユラトはダリオが放った魔法の威力に驚くと共に、彼の魔法使いとしての能力の高さに感心していた。
(凄い……これが魔道師の火の魔法か!ダリオさんって口だけの人じゃなかったんだ……)
そして炎の壁が現れた場所はユラトとレクスがドリュアスを押しやって敵を集めていた所であったため、ドリュアス達は炎に包まれ、焼かれていく。
小さな重低音の効いた声を上げながら、ドリュアス達は灰となっていった。
ダリオは自慢げに笑い声をあげながら、敵に言い放った。
「だはははっ!どうだ!ダリオ様の魔法は!」
レクスは半ば呆れていた。
「(……この男は……)森をあまり焼かないでくれと言っただろ……」
残りのドリュアスは3体ほどしか残っていなかったので、ダリオとユラトのファイアーボールでドリュアスを焼き、脆くなった部分を武器を使い、倒すと、すぐに3人はヤドリギの場所へと向っていた。
ヤドリギは3人の目の前にあった。
ユラトはその奇妙な色と形に戸惑っていた。
(これが本体か……ちょっと気持ち悪いな……)
ヤドリギは赤紫でいくつも枝分かれしていて一本の若い木にぐるぐると螺旋状に張り付いていた。
朱色の葉を持ち、少し中が透けていて、青い血管のような物が中に張り巡らされていた。
僅かだが脈打っているようにも見える。
ダリオは顔をしかめ、呟いた。
「うぇ……なんじゃこりゃ。こんな気色悪いやつ、さっさとやっちまったほうがいいな……」
レクスは寄生された木を調べた。
ドリュアスのヤドリギに寄生された木は灰色に近い色になっていた。
「……この木はもはや助からんな……」
ダリオはヤドリギがドリュアスを産み出したり、何かしてきた場合を考え、いつでも魔法を発動できるようにロッドを構えながらレクスに確認をしていた。
「じゃあ、焼いちまっていいんだな?」
「……残念だが、広がる前にやったほうがいい……やってくれ……」
ダリオはファイアーボールを静かに唱え放った。
ヤドリギが炎に包まれる。
するとドリュアスの本体は炎の中、蛇のように動き、のた打ち回った後、木ごと灰となって消え去った。
そして、ジルメイダとリュシアの2人のことが気になったユラト達は、すぐにジルメイダのところへ向おうとしたとき、リュシアが1人で3人のもとへ小走りで現れた。
「あっ、いた!」
ユラトがリュシアに声をかけた。
「俺達の方は片付いたけど、リュシア、そっちはどう?」
呼吸を軽く整えリュシアは答えた。
「はぁはぁ……あたし達もあれから川の辺りを探しましたけどナイアードはさっきのしか、居なかったみたいです」
ユラトは安堵した。
「そうか、よかった……」
「あの、それで川でさっき光ってたのはこれなんですけど……ジルメイダがダリオさんかレクスさんに見せろって……」
リュシアはダリオに川で拾った物を見せた。
ダリオが帽子のツバを上にあげ、渡された物を空の方へ向け、仰ぎ見ていた。
「指輪か……綺麗な宝石がはまってるな……見たことねぇ石だな……」
その宝石を見たレクスが説明をしてきた。
「それは『アマゾナイト』……この森一帯で産出される石だ。ギルドには報告がしてあるはず」
アマゾナイト
エメラルドグリーンの色に乳白色が混ざることによって明るく淡いエメラルドグリーンの色になっている石。
森に堆積する様々な物によって青くなる場合もあり、色の種類がいくつかあると言われている。
精神と体のバランスを整える作用があるらしい。
その明るい色から希望の石『ホープストーン』とも呼ばれる。
「なんだ、新発見じゃねぇのかよ……この石は見つかり難いのか?」
レクスは腕を組み、少し考えてからダリオに答えた。
「……そうだな、我々ウッドエルフでも見ることは稀だ」
それを聞いたダリオは喜んだ。
「おおっ!なら結構な値段が付きそうだぜ!」
「……この石は我々にとっては儀式で使用したり、お守りになる重要な宝石だ。だから私に売って貰えないか?」
「買い取りか、ならその指輪の値段分の報酬は俺達で分配させてもらうぜ?」
「ああ、それでかまわない」
ダリオは指輪をレクスに投げて渡した。
「そうか、それじゃ決まりだな。……では、行く…あっ、そうだ、リュシア!ユラトが少しドリュアスから一撃をもらいやがったから傷を見てやってくれ」
「はい!ユラトさん攻撃された場所を見せてください」
リュシアはユラトに近づいた。
ユラトは特に痛みを感じなかったので、大丈夫だと思っていた。
「大したことはないと思うけど……」
「いいから見てもらえ!」
「……じゃあ」
ユラトは左肩の場所をめくって見せた。
その場所は軽く内出血していた。
ユラトは思ったよりも傷が大きかった事に驚いていた。
(思ったより、ダメージを喰らっていたんだな……ダリオさん、良く分かったな……)
「じゃあ、回復魔法をかけるので動かないで下さい」
リュシアはユラトの後ろに回り、左手をユラトの肩の傷口に乗せ、クレリックの回復魔法を唱えた。
「……主たる光の神ファルバーンよ、我に力と加護を……我がマナを供物とし、主に捧げます……神の御愛と慈悲を!ヒーリング!」
リュシアの手が光り、その光がユラトの肩を照らした。
そして、ユラトの傷が徐々に小さくなり、癒されていく。
ダリオはリュシアがちゃんと回復魔法が使えるか試したようであった。
「ちゃんと回復魔法は使えるみたいだな、よしよし……(こいつは村で鍛えてる時も思ったが、魔力は高そうだな。流石はヴァベルの一族……か)」
ユラトは礼を言った。
「リュシア、少しあった痛みは消えたよ、ありがとう!」
リュシアは小さく首を横に振った。
「いえ、それがわたしのこのパーティーでの主な役割ですから、気にしないで下さい」
ダリオはリュシアの回復魔法に満足したのか、辺りを軽く見回した後、歩き出そうとしていた。
「まぁ、そう言うこった、そろそろここから移動するぞ」
ユラトは例え役割であったとしても、やってくれたことにはちゃんと感謝をしながら冒険をしたいと思っていた。
(全く、ダリオさんは……)
ユラトはリュシアにジルメイダのいる場所を聞いた。
「リュシア、ジルメイダはどこにいるんだい?」
リュシアは宝石の話を夢中になって聞いていたため、忘れていたようだった。
役目を思い出し、慌てて説明をし始めた。
「……あっ!そうでした。ナイアードと戦っていた、さっきの川に沿って歩いていたら、途中に廃屋があったんです。それでジルメイダがユラトさん達を呼んできて欲しいって言ってジルメイダは廃屋の中へ入っていきました」
ダリオが歩みを止め、リュシアに道案内を頼んだ。
「じゃあ、俺達もそこへ行くか!リュシア、案内してくれ」
「はいっ!こっちです!」
リュシアは元気良く返事を返し、ユラト達をジルメイダが入って行った廃屋へ案内するため先頭に立ち、歩き出した。
ユラト達は、先ほどナイアードがいた川に沿って歩いた。
この川の先に目指す廃屋は、あるようだった。
川が近くにあるせいか、たまに頬に当たる風は少し冷たかった。
川の周りは、木々が生い茂っていた。
また、木の周りに雑草が生え、淡く小さな黄色い花を咲かせていた。
鳥たちの鳴き声もまばらに聞こえていた。
ユラトは景色を眺めながら歩いていた。
(綺麗な森だな、ここは……)
レクスは先ほどの指輪を眺めながら歩いていた。
どうやら気に入った様子だった。
時折り、口元が緩んでいるのをユラトは見ていた。
(レクスさん、うれしそうだ……)
そして目的の場所へは、すぐに着く事が出来た。
ドリュアスと戦った場所からそう離れた場所ではなかった。
ダリオは、たどり着いた場所を見回していた。
「……ここが、そうか……ちょうど、俺がマナサーチで感じた場所の一つだな」
リュシアは、すぐに到着するとメイスを両手で持ち、頭を左右に素早く動かし、ユラト達を連れてきた事を伝える為にジルメイダを探し始めていた。
そして、ジルメイダの名を叫ぶ。
「ジルメイダ~!みんなを連れてきたよー!」
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