Dark world~Adventurers~

yamaken52

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第九話 禁呪とおとぎ話

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それは、昔の記憶。

ある家の中の暖炉の火が、勢い良く燃えていた。

外は雪景色だった。

夜になって、雪がたくさん降リ始めていた。

「ウェン爺、早くお話聞かせてよ!」

「ユラ坊、そんなに聞きたいのかい?」

「うん!」

「……お前さんが思うような、楽しい話じゃないぞい。それでもいいのかい?」

「うん、いいよ!だって騎士の話なんでしょ?」

「そうじゃが……恐ろしくも悲しい話じゃぞ、エルディアも聞くのかい?」

エルディアは、人形を両手で顔のところまで持っていき、抱きしめ、小さな声で話した。

「……ユラトが聞くなら、私も聞く……」

「なんだよ、エル。聞きたくないなら聞かなくていいんだぞ!」

ユラトに聞かなくていいと言われ、少しむっとした表情で、彼女は答えた。

「……絶対聞く……」

「こりゃ、こりゃ、喧嘩をするでない。仲良く話を聞くんじゃぞ、いいな?」

2人は、静かに話しを聞くことにした。

「うん、わかった!」

「……うん」

2人がおとなしくなったのを見た、ウェン・プロスは、ユラトにせがまれていた話をすることにした。

「じゃあ、話を始めるぞい。ちょっと刺激があるかもしれんからのう。夜中、一人で用を足しに行けなくなっても知らんぞ、いいな?」

「大丈夫!」

「………」

2人は、ウェンに近づき座った。

ユラトは目を輝かせて、話が始まるのを待っていた。

エルディアは、少し不安な面持ちでウェンを見ていた。

そんな2人を見たウェンは、少し微笑んだ。

そしてゆっくり椅子に座り、目を閉じ、静かに語り始めた。

「じゃあ、始めるかの……むかーし、昔の話じゃ……………」

森の中を探索していたユラト達は、かつて葡萄酒を造っていたと思われる廃屋を発見した。

その廃屋の奥に地下への階段があり、そこを下りていくと、そこは葡萄酒の貯蔵庫だった。

そこでユラト達は、スケルトンと言う骨の魔物と交戦することになった。

そして、リュシアが見事にスケルトンの浄化に成功していた。

また更に奥へ進むと、そこには木の箱があり、その中に大量の銀貨と共に謎のスクロールが入っていた。

ユラトはスクロールを確認の意味も込めて、見せてもらおうとダリオに近づいた。

「ダリオさん!そのスクロール見せてもらっていいですか?」

慌てた様子のユラトを見てジルメイダがユラトに話し掛けた。

「どうしたんだい?ユラト、そんなに慌てて」

「なんとなくですけど、予感がするんです!」

スクロールに興味の無いダリオはユラトに巻物を渡すことにした。

「いいけどよ、こりゃあ、まだスクロールに何も書いていない状態のやつだぞ?……ほらよっ」

ユラトはそのスクロールを受け取った。

スクロールの裏側にはユラトの左手の甲に描かれている模様と同じものが描かれていた。

ゴクリッ……

ユラトは息を呑み、緊張しながらスクロールをゆっくりと開いた。

すると、ユラトの予想通り、スクロールの中身が見える。

(……やっぱり!…またしても俺だけに見えた!これは―――)

そこには初めて禁呪を覚えたときを同じように絵と文字が書かれていた。

イメージがユラトの頭の中に入り込んで来る。

そしてユラトは、その禁呪の名を告げる。

「……サモン・ソード…」

すると、スクロールは音を立てることなくバラバラになり、溶けるように消え去った。

そして、ユラトの左手の青い謎の模様が赤黒く光りだした。

ズンッ―――

「うっ……」

ユラトの手にあの時と同じ痛みが走り、思わずよろめく。

それに気づいたジルメイダとリュシアが駆け寄った。

「ユラト!大丈夫かい!」

「ユラトさん!」

ダリオとレクスもゆっくり近づいてきた。

「おいおい、なんだ今のは……」

ユラトは、みんなを安心させる為に、左手の甲を押さえながら、自分は大丈夫であることを静かに伝えた。

「……大丈夫だよ、前にもあったから…」

そんなユラトを見た、ジルメイダは、心配そうに尋ねた。

「ほんとうだろうね?さっきの光はなんだい?」

ユラトは禁呪のことについて、自分が知っていることを説明した。

みな黙ってユラトの説明を聞いていた。

そして、説明が終わると最初に口を開いたのはダリオだった。

「……なるほど、つまりお前は、またしても禁呪とやらを覚えたってことだな?」

「……はい、そうだと思います」

ジルメイダは腕を組み、静かにユラトに質問した。

「どんな魔法なんだい?」

「ソード(剣)を召喚できるみたいですけど……」

それを聞いたダリオは驚いていた。

「―――剣の召喚だと!?『召喚魔法』さえ、まだ一つも見つかってないんだぞ!……どうなってやがるんだ……一体……」

リュシアも驚いていた。

「召喚魔法なんて存在したんですね……」


『召喚魔法』

術者と対象のものが契約することで様々なもの等を呼び出すことが出来ると言われている古代の魔法。

呼び出したものを使役し、戦闘に参加させたり、移動の手段に使うことができたりと用途は色々あるようだ。

まだ人間達は、一つも見つけてはいない。


恐る恐る、リュシアがユラトに聞いていた。

「……それ、もう使えるんですか?」

ユラトは少し不安もあったが、強い力を持ちたいと言う気持ちや好奇心もあり、どんなものなのか見てみたいと思う自分がいることを自覚していた。

そして、思ったことを口にした。

「……出来ると……思う……」

ダリオは、それを聞いて何かを閃いたようだった。

「新たな戦力になるかもしれんからな。よし!外へ出ろ。そして使って見せろ」

「……いいんですか?」

ここまでの話を黙って聞いていたレクスは慎重だった。

「危険はないのか、禁呪なのだろ?」

ダリオは好奇心の方が勝っているようだった。

魔道師として、魔法に関するものは見ておきたいと思っていた。

「魔物とかじゃないんだ、剣を召喚するだけなら大丈夫だろ。古代の書物を読んだことがあるんだが、悪魔や魔物を呼び出す以外は比較的安全だとか書いてあったな……まあ、物の召喚なんて初めて聞いたけどな……それから、術者には逆らえないらしいぞ」

ユラトはジルメイダに判断を委ねることにした。

「ジルメイダ、やってもいいかい?」

ジルメイダは目を瞑って考えていた。

(占いの強い魔力ってのはこのことだったのか……いや、まだあるかもしれないね……ふふっ、しかし、色んなものが今回の旅で見れそうだね。世界は広い……か……)

そして目を開くと静かに、そして最後の方はニヤリとし、ユラトに言い放った。

「……やりたいならやりな、まあ、やばくなることもないだろ、もしなりそうだったら……この拳であんたを気絶させるだけさ」

ユラトはジルメイダの目が本気だと分かると恐怖を感じた。

「う、うん、わかった。慎重にやるよ……(失敗は絶対に出来ないじゃないか……)」

ダリオは、すぐにでも、この場から離れたいようだった。

眉をひそめ、ここから外へ出ようとユラト達に促してきた。

「よし、とりあえず、このカビ臭せぇところから出ようぜ。臭くてかなわん」

ユラト達は廃屋から出て、ユラトに禁呪を使わせることにした。

ダリオは嬉しそうに叫んでいた。

「やばいかもしれねぇからな、ちょっと離れて見ようぜ!」

ダリオはそう言ってユラトから離れていった。

「え、ダリオさん、さっきやばくないって……」

「んなもん、見てみなきゃわからねぇだろ!」

ジルメイダもダリオの考えに賛同しているようだった。

「悪いね、ユラト!他のみんなも、そうさせてもらうよ!」

「なんだよ……酷いなぁ……まあ、俺もどんなのか分からないし、しょうがないと言えば、しょうがないんだろうけどさ……あっ、ちょっと!離れすぎじゃないですか?」

他のメンバーは全員かなり遠くまで離れ、木の陰に隠れてユラトを見ていた。

「レクスさんやリュシアまで……」

「すまんな……ユラト、私には大切な目的があるんでな」

「ごめんなさい、ユラトさん……けど、やっぱり怖いです!」

「まあ、そんなもんだユラト、諦めろ!そして、早くやれ!」

「はぁ……みんな調子いいことばっかり言って……酷いや……」

ユラトは気持ちを切り替え、静かに深呼吸をすると鞘に入った剣を左手で持ち、禁呪の詠唱に入った。

「ふう……やるか、確か剣を手に持って……こうかな……剣よ、強大なる魔を払う凶刃となり、我が支配に、そして我が肉体の一部となれ!アブゾーブ!」

ユラトの体に変化はなかった。

(……あれ、これでいいのか?)

ユラトは中断するか一瞬迷ったが、とりあえず継続することにした。

「……わが身に宿りし、いにしえの魔剣よ、我がマナを喰らい、万物を切り裂く魔刃となり、現世に形を成せ!サモン・ソード!」

やはり、ユラト自身に変化はない。

(おかしいな……やり方は間違っていないはず……)

それから何度か試してみるが特に何も変わることも無く、時だけが過ぎて行く。

業を煮やしたダリオが隠れるのを止め、文句を言いながらユラトに近づいてきた。

「おいおい、何1人で叫んでんだよ。……お前滑稽だったぞ?……それで、禁呪の方はどうなったんだ。何も変化が無いように見えるんだが?」

他の者たちもぞろぞろと木の陰から姿を現し、ユラトの下へ来る。

集まったところでユラトは説明をした。

「それが、どうも発動しないみたいなんです……」

ジルメイダが腕を組み、眉をひそめ、ユラトの左手を見ながら話す。

「……一体、どう言うことだい。あんた禁呪を覚えたんじゃないのかい?」

「覚えたことは確かなんだ…だけど、まだ他にも条件があるのかもしれない。何も反応がないんだ…」

レクスは顎に手を当て、考えてみたが、特に思い付かなかったようだった。

「他の条件か……思いつかんな……」

パーティーは条件を色々考えてみた。

「違う剣で試してみるとか?」

「魔力の強い剣とかが必要なのか?……だけど、誰も持っていないからね……」

「お前の魔力じゃ足りないのかもしれんな」

「それなら、覚えられないんじゃないのか?」

「ユラトさん!気持ちをもっと、こう、奮い立たせて燃やしちゃいましょう!」

「おめぇは黙ってろ、リュシア……」

皆、口々に思ったことを述べていた。

その後、しばしユラト達は無言になり、色々試してみたが特に解決することは出来なかったため、この禁呪はしばらく様子を見るということで落ち着いたのであった。

そして、ジルメイダが探索の再開を告げる。

「とにかく、今は聖石を使って探索しようじゃないか。ありがたいことに黒い霧はすぐそこさ。みんな行くよ!」

その時、リュシアがある提案をパーティーにしてきた。

「あの……さっきのスケルトンの人のお墓を作ってあげてもいいですか?」

レクスが珍しく、その意見に素早く賛同してきた。

「それはいい考えだ、私も手伝おう」

森と共に正しく生きた者は、静かにその森の中で眠らせてやると言うのがウッドエルフ達の考え方らしい。

他の者も墓を作ることに異論はなかった。

そして、すぐに皆行動に移った。

ユラトは住居の近くに穴を掘り、リュシアとジルメイダが骨をその穴に埋め、ダリオが土を盛る。

また、調査済みの印であるホークスアイも近くに埋めておいた。

そしてレクスが、どこからか拾ってきた木の枝に草のツルを使い、枝をクロスさせたのを盛られた土の上に刺し込んだ。

ウッドエルフ達の森での埋葬法らしい。

そして、住居の裏に人知れず咲いていた、小さな黄色い花をリュシアは、そこに添えると、その場所で自分の両手を握り、しゃがみ込んだ。

(あの暗く冷たい地下室でずっと……1人で……いたんですもんね……また泣きそうになっちゃう……)

あの父親は、きっと最後まで家族を思っていた。

リュシアは早くに亡くなってしまった父親の事を思っていた。

リュシアの父は、彼女が産まれてから、すぐに向ったヴァベルの塔探索の冒険中に命を落としている。

だからリュシアは、父親と言うものを知ること無く、育った。

自分の父もきっと、あんな風に自分を思っていてくれた事だろうと思い、親に感謝すると共に、この名前も分からない人が、あの世で家族と会えるようにと、心から思いを込め祈った。

「ファルバーン……ディール」

それは短い言葉だったが、古代の言葉で光の神ファルバーンと、そして『光と共に』という意味の言葉だった。

(……家族の方とこれでようやく会えますね。安心して眠ってください……)

ユラト達も同じように目を瞑り祈った。

(……遥か昔、この地で精一杯生きた、名もなきひとよ……どうか、安らかに……)

まるで天に魂が召されていくかのように、墓に添えられた花の辺りに小さな木漏れ日が当たり、静かに揺らいでいた。

ユラト達は次の聖石を使うため、黒い霧の場所まで移動していた。

そこへは先ほどの廃屋からは、目と鼻の先であったため、すぐに到着することが出来た。

そして聖石を埋め、その力を発動させていた。

ユラトが石の力を発動させる。

「……イディスよ、邪気を払い給え!」

そして、ユラト達冒険者の目の前に先ほどまであった黒い霧が払われていく。

すると、目の前に現れたのは、なだらかな丘だった。

そして、その丘には大量の葡萄が実っている葡萄の木が、たくさん生えていた。

腰ぐらいまでの草が辺り一面に生え、葡萄の木には、大量のつる草が巻きついていた。

みな一瞬、さきほどのスケルトンになってしまった男と家族を思い出していた。

ユラトも思わず呟いた。

「この葡萄から葡萄酒を造っていたんだな……」

リュシアが丘の頂を見つめ、静かに答えた。

「はい、そうだと思います……」

そして葡萄を近くで見ようと思い、葡萄の実を見たレクスが驚きの声をあげた。

「……あれはっ!?……白葡萄!!」

葡萄の実は良く見ると皮の表面が、薄く黄緑がかった白い色をしていた。

レクスは葡萄に駆け寄り、実を一つ取り皮をむき、安全であるのを確認すると口に入れて味を見た。

そして、驚きの声をあげた。

「―――こ、これはっ!恐らくシュナーブと言われる品種だ!」

他のメンバーも次々レクスの近くに寄り、同じように葡萄の実を取り口にする。

リュシアがその味に喜び、声をあげた。

「甘くて、美味しい!」

ユラトもこの葡萄の実を美味しいと思った。

「酸味に刺がない、すっきりとしていて、まろやかな甘味だ」

更にレクスが、やや興奮しながら、パーティーにとって嬉しい情報をもたらした。

「この葡萄はまだ見つかっていないはずだ。我々ウッドエルフが森で狩りをしたときに得た動物の腹の中に、この白い葡萄が入っていた事があった程度だ。だから直接、実になっている姿を目にするのは初めてなんだ!」

それを聞いたダリオは喜んだ。

「ほんとか!?やったぜ、今日はついてやがる!」

ジルメイダも笑みを浮かべ、レクスに質問していた。

「これは良いワインが造れるのかい?」

土を触りながら、レクスは嬉しそうに答えた。

「ああ、土地が水はけの良い土だ。ちょうど丘になっていて日が良く当たっているみたいだし、ここは寒暖の差もありそうだ。だから甘くて良い品質の葡萄が実る。しかも、この葡萄は『高貴なる腐敗のワイン』が出来るんだ!」

それは貴腐ワインと言われるものであった。

葡萄の実が菌に感染することによって糖度が高まり、強い芳香を帯びる現象が起こる。

それを貴腐化と言う。

そして、その貴腐化した実を用いてワインを造ったものが貴腐ワインと言われるものになる。

甘味や香りの強いワインで、食前、食後に飲まれたりすることが多いようだ。

レクスの嬉しそうな表情を見ると、どうやらウッドエルフ達の大好きなワインのようだ。

ダリオは何か思いついたようでジルメイダに話を持ちかけた。

「ジルメイダ、この土地を買って、さっきの施設を再利用してワイナリー(土地、建物、生産施設など、ワインに関わる事業のこと)を造れば大儲けできるんじゃねぇか?」

だがジルメイダはため息を付き、ダリオを諭すように言い放った。

「はぁ……ダリオ、忘れちまったのかい?残念だけど、聖石で霧を払った森の土地に関しては全てウッドエルフに属するって審議会がそういう盟約を結んだはずだっただろ」

ダリオはジルメイダに言われて、その事実を思い出した。

「そうだったな……くそっ!ウッドエルフどもが全部持っていっちまうのか……」

レクスはニヒルな笑みを浮かべ、ダリオに話し掛けた。

「ふふっ、悪いな。我々もこれからは外の世界にも目を向けなければならないからな、そうなると貨幣も必要になる。従来の物々交換では厳しいだろうからな……それに、あの亡くなった者の為にも、我々ウッドエルフが責任を持って、ここを元の素晴らしい葡萄畑に戻し、最高のワインを造り、毎年あの墓に供えることを誓おう」

ウッドエルフの村では、これまで物々交換で物が取引されていた。

しかし、冒険者としてやっていくことや、人間達の作った良いものも手に入れる為には貨幣が必要になる。

そこで族長はウッドエルフの社会にも貨幣制度を導入することにしたのだった。

今は混乱が生じているが徐々に落ち着いていくだろうとレクスはそう前向きに貨幣について思っていた。

ダリオは悔しさを滲ませた表情でレクスに話し掛けていた。

「発見したのは俺達なのにな……ちっ、しょうがねぇか……レクス、俺が村に行った時は、たらふく飲ませろよな!」

「ふふっ、いいだろう。わたしが村にいるときは安く飲ませてやろう」

リュシアはたくさん葡萄を食べていた。

そしてお腹をさすり、座った。

「はぁ……もうおなかいっぱい……」

それを見たジルメイダは呆れていた。

「……リュシア、あんた食べ過ぎるんじゃないよ!聖石は、後一つ残っているんだからね。全く、ピクニックじゃないんだよ……」

リュシアは口元を尖らせて反論した。

「……だって、お腹減ってたし…お昼まだだし……」

「このガキんちょめっ!いい加減にしろ!……はぁ……全く、いらんことで疲れさすんじゃねぇ」

リュシアはダリオに怒られる事に慣れてきたようで、あまり気にしている様子はなかった。

また、彼女の言うように昼の時刻は、とうに過ぎていた。

だからユラトは、リュシアの言うことも理解できたのでジルメイダに昼食を取るように提案した。

「そういや、昼ご飯まだだったね。ジルメイダ、リュシアの言う通り食べようよ」

ジルメイダは辺りを見回しながら少し考えた後、答えた。

「……そうだね、だけどその前に、この葡萄の丘にお宝とか魔物がいないか調べてからにしようか。ダリオ、悪いけどマナサーチ頼むよ」

ダリオはわかったと、短く言うと、マナサーチの魔法を唱えた。

そして、何か反応が無いか調べたが、葡萄の丘には何もないことがわかると確認済みの印であるホークスアイを丘の頂上あたりに埋めると、辺りの景色が見える所まで移動した。

リュシアは嬉しそうに、丘を駆け上がっていた。

そして、たまにユラト達の方へ振り返り、楽しそうに叫んでいた。

「みんなー、はやくー!」

その後をユラト、ジルメイダ、レクスが続き、最後にダリオが帽子を押さえながら、辺りを見回して登っていた。

「全く……元気な奴だ……」

丘の上は木が殆ど無く、青い空と白い雲が見え、広がっていた。

そして丘の頂上に、大きな木が一本だけ生えていて、その木陰に小さな岩がいくつかある場所があったので、そこでパーティーは昼食を食べることにした。

ユラトは小さな岩の上に座り、ウッドエルフの村で採取され、そして作られた野イチゴのジャムが塗られた細長いパンをかじっていた。

勢いよくかじると、たくさん中に入っていたので、少しはみ出してくる。

ユラトは慌てて、こぼさないように、すぐにかぶりついていた。

赤い色の甘酸っぱく、酸味が丁度良い味のジャムだった。

(美味しい!ここは黒い霧さえなければ、豊かな土地なんだな……)

眼下には、ユラト達が今日霧を払ってきた場所が見えていた。

ユラトは、ぼんやりと景色を眺めていた。

時折り、穏やかな風が吹き、ユラトの前髪と鎧の上に羽織っているマントが僅かに揺れていた。

そして上空には、ユラトがパーティーを待っているときにウッドランドの町の空で見た、黄色と濃い緑色をした大きめの鳥が遠くの方で旋回しているのが見える。

レクスが食事を終えたのか、近くに生えている長細い草の葉を1枚取ると口元へ持っていき、二本の指で葉を押さえ、息を吹きかけると高い音が鳴った。

音は、この辺り一帯にまで広がった。

飛んでいる鳥に向って呼びかけているようだった。

すると鳥は、その音に答えるかのように、ユラト達のいる場所の上空に飛来し、旋回をし始めた。

ユラトは空を見上げ、その鳥を良く見た。

鳥は、たまにユラト達と同じ目線のところまで来ては高度を上げたり、下げたりもしていたため、姿を良く見ることが出来た。

長い尾羽を持ち、トサカの部分や羽先は鮮やかな明るい黄色で、それ以外の部分は深い緑色だった。

また鳥の背中に赤く、人間の目のように見える模様があった。

そして、クチバシや爪は青く鋭かった。

翼を広げた姿は、ユラトが両手を広げるよりも遥かに大きかった。

レクスが、この大きな鳥を草笛で呼んでいるのを見ていたリュシアは、声をあげ喜び、自分もレクスと同じように葉を取り、口に当て音をたててみるが、なかなか出ないようだった。

そして、それを見たダリオは、リュシアを馬鹿にするような目で見るとダリオも葉を取り、同じように鳴らして見るが、掠れた音しか出なかった。

ダリオが苦戦している中、リュシアはすぐに慣れたのか、口に当てた草の葉から音が出始める。

リュシアは得意げな表情になり、音を鳴らせないでいるダリオを横目で見ていた。

そして、そのまま草笛を誇らしげに鳴らしていた。

それに気づいたダリオは怒り、リュシアの葉を奪い取ると、両手で葉を丸め、投げ捨てていた。

リュシアは突然のことで驚き、両目を開き、口をぱくぱくさせ、両手は開いたままだった。

それを見た、ダリオは満足げな顔をし、ゆっくり座ると再び音を出そうと試みていた。

しかし、リュシアはすぐに気を取り直し、ダリオに負けじと再び葉を取り、音を出していた。
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