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第十三話 それぞれの思いと調査の始まり
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夜の闇が広がる森の中。
炎が上がっていた。
それは、小さな炎だった。
炎は時に、人に害を与えるだけではなく、温もりと落ち着きを与える。
そして、硬く閉ざされた心の奥にある闇をも照らす効果が、あるのかもしれない。
今日もまた、その炎に集まる人々がいた。
ユラト達は、赤いブラッド・ウーズの集団がいた場所を避け、森の中で野営をしていた。
彼らが冒険を主に行っていた東側も、かなりの範囲にわたり、聖石によって黒い霧が払われ、既に1日では村に帰れなくなっていた。
そして野営のため、魔物が寄り付かないように木を集め、焚き火をし、敵が来ないか見張りを一人づつたてながら、他の者は眠りについていた。
そんな夜、ユラトはダリオの心の闇の一端を知ることになった。
森の中で、この辺りだけ木が余りなく、大きな岩が2つほどある場所だった。
その岩の間に洞窟のような空間があった。
そして彼らは、その入り口辺りで火を焚き、開いた空間の中で雑魚寝していた。
ユラトはその日の夜、なかなか寝付けなかったので、自分が見張りを代わろうと思い、見張りをしていたダリオの所へ向った。
ダリオは、パーティーから少し離れたところで焚き火の炎を背にして小さな岩に座り、辺りをなんとなく見ていた。
そこへ、ユラトは後ろから近づいた。
すると、ダリオは顔を僅かに動かし、そして目だけを動かした。
来たのがユラトだと分かると、再び視線を元の場所に戻し、静かに話し掛けてきた。
「……まだ、見張りの番じゃねぇだろ。次はレクスだったはずだ。さっさと寝ろ……」
「今日は、なんだか眠れなくて……」
それを聞いたダリオは、ユラトを馬鹿にするような表情で喋り始めた。
「へっ、お前みたいな幸せに生きてきた奴に、眠れないことなんてあるのかよ」
ユラトは、静かに焚き火を見つめながら答えた。
「俺は、ダリオさんが思うような、幸せな人生だった訳じゃないですよ」
「ふんっ……俺はてっきり、甘ったれた家庭で育ったのかと思ったぜ」
「別に不幸を自慢したい訳じゃないですけど、俺には両親は、もういないんですよ……だから……」
ユラトが思いつめたように話しているのを見たダリオは顔を背けた。
「……そうかよ、そりゃ悪かったな……だけどな、今の時代まともに育ってる奴なんてそうそういないんだろうな。リュシアにしたってそうだからな……」
「ええ、そうですね……」
そして、しばらく2人は沈黙していた。
火の粉が舞い上がり、たまに焚き火の中にくべられた水分の含んだ枝が音をたてていた。
そして煙は、真っ暗な夜の森の上空へと一本の帯びのように立ち上っていた。
しばらく無言でいたダリオが、突然今度は語り始めた。
「……俺はよう……ジルメイダが好きなんだ……」
ユラトは、なんとなく分かっていた。
旅をする中でダリオが、ジルメイダに対して友人以上の眼差しを彼女に向けているような場面を、何度か見たことがあった。
ユラトは黙って聞いていた。
「………最初に、ジルメイダを見つけたのは俺なんだ……クライスじゃなかったんだ…………」
ダリオは、その頃を思い出し、少し目を細めると、空を見上げ、話しを続けていた。
「……俺の親父は武器商人でな。黒い霧が晴れだしたために、武器の需要が高まって、そこでひと財産築いたんだ。だが、母は店番をしているときに強盗に襲われてあっけなく死んじまったよ。店にある商品で胸を一突きだったらしい……」
ダリオは自嘲気味に笑った。
「ははっ……てめえの店の商品で殺される馬鹿がいるんだな……」
そしてすぐにダリオの顔から笑顔が消え、彼は苦々しい顔になり話を続けた。
「そのあと親父は、酒に溺れ変わってしまった。そして、新しい女が母親だって言ってやってきたが、俺のことが気に入らないみたいでよ。すぐに親父と出て行ったよ……それで、ばあさんと2人で暮らしていたんだ」
(そうだったのか……)
彼は話を続けていた。
「ばあさんは、足が不自由でよ……おまけに家には金が全くなくて、いつも金が無くなると、親父の所へ俺が取りに行くんだ……酒に酔ったあいつのところにな……毎回罵声を浴びせられ、殴られながら、地面に飛び散った僅かな金を拾って帰るんだ……みっともなく悔しい気持ちを共に背負ってよ……」
やがて女も愛想を尽かして、出て行ったという。
「そんなある日、帰り道で一人のクレリックが俺の傷を魔法で癒してくれたんだ……」
ダリオはその人物を思い出し、懐かしそうに話していた。
「おっさんだったが優しい顔で俺の体中にある傷を見て、何かを悟ったらしく、励ましてもくれたよ。……その時、俺は魔法の偉大さを知ったんだ。震えたね……体に付いた傷だけじゃなくて、心も癒された気がしたんだ。それで俺はこんな糞みてえな現実を忘れたくて、いつしか魔法って言う不思議な力に憧れたんだ……」
そして、彼は魔法に興味を持ち、ただで本が読める図書館に行き、勉強を始めた。
「そんなとき、親父が死にやがったんだ……酒の飲みすぎでな……冷たくなったあいつの手には、母の指輪が握られていたんだ……少年だった俺はそこでやっと気づいたんだ……この男は、最後まで母を愛していたって……そして、ずっと母を忘れたかったんだって……酒に溺れたのも……新しい女と付き合ったのも……俺を殴りやがったのも……全部、母を思い出したくなかったんだってな……」
そしてダリオは、地面に唾を吐き、森の闇を睨み付けながら喋った。
「へっ!……だけど、それは全部逃げてんだよ……あいつは逃げやがったんだ。全てを置いて……弱え奴だったんだ」
そしてその後、自分にそれなりの遺産が渡ったと彼は言った。
「俺は嬉しかったね。これで自由になれると思ったし、俺を育ててくれたばあさんに少しはいい暮らしをさせてやれると思ったんだ。だが、ばあさんも親父の後を追うように、すぐに死んじまいやがった……いつも俺に『ダリオ、苦労をかけるね……』って口癖のように言ってやがったよ……今よりは楽しく楽な生活ができただろうによ……」
そこでダリオは肩を落とし、しばらく黙っていたが再び口を開いた。
「そして俺は、たった一人になったんだ……」
そして、彼は一人になった寂しさを消す意味も込めて一層勉強に励んだ。
「孤独で押し潰されそうになる中、魔法学院に入るために、ひたすら勉学に励む日々だったぜ……」
そして彼は無事合格し、魔法学院へ入った。
そこで、友となるクライスと出会った。
「その時の俺は人生で一番輝き、そして楽しかったのを今でも覚えているんだ」
好きな魔法と同年代の仲間たちとの日々。
そしてそんな日々の中、彼はジルメイダと出会うことになった。
「学院でクライスの奴の研究を手伝っていたんだ。すると毎日、バルガ族の奴らが山で採れる石を神殿や学院まで、運んでいるのが見えたんだ。だが、みんな活力の無い、死んだ目をしていたな……」
「……なんでですか?」
「ん、そりゃそうだろう。毎日、鉱山から石を運ぶだけの生活だぞ。それは、冥府の河でひたすら石を積み上げてる奴らと何にもかわらねぇからな……」
「なるほど……」
「だけど、そんな中、一人だけ生きた目をした人がいたんだ……初めて見た時、俺は驚いたぜ……今より髪は短かったけど、こんなにも美しく、良い女がこの世にいるのかと思った……」
ダリオは、嬉しそうに空を見上げていた。
「その後、クライスもジルメイダを見て惚れちまったんだ。彼女はその時には既に家計を助ける為に鉱山で働いていて、石を毎日のように魔法学院に運んでいたよ。頬や服に汚れが付いていても気にするわけでもなく、静かに額の汗だけを拭っていたんだ。凄く綺麗だったよ。化粧なんてしていなくてもな……初めてだったぜ……飾り気なしに美しく、魅力的な人を見たのは……」
そしてダリオは少し、切ない表情になっていた。
(ダリオさん……)
「何か、強い意志を感じたんだ……彼女の真っ直ぐな瞳から……後で聞いたが、なんでもいいから自分の店を持って、家族を楽にしてやりたいって言っていたな……」
(そうか……それで、ワイナリーの話をジルメイダにしていたのか?……)
ダリオは、話を続けていた。
「ジルメイダは、いつも一生懸命で真っ直ぐな女なんだ。自分の事だけを考えて生きてきた俺には凄くそれが眩しく見えたんだ……直視できねえぐれえによ……その時の俺は、魔法学院に入れたことで満足していたんだ。そしてただ親の遺産をかじって何となく生きているだけで、何かを成した訳でもなく、何かをしたい訳でもなかった。容姿も良いわけでもない、性格もこのざまだ……だから自分に自信が無くて、それ以上いけなかったんだ………結局、俺もあいつと同じで、弱え奴だったんだ……なんら変わらなかったんだ!」
空には綺麗な月と星の見える夜空が木々の隙間から見えていた。
その月を見ながらダリオは続きを話した。
「クライスは、俺にとって唯一なんでも話せる友人だった……俺を理解してくれたのはあいつだけだった……見た目も俺なんかよりずっと良かった。だから俺は、引いたんだ……心に思いを秘めたまま……それで、気が付いたら、いつの間にか言えないまま、今に至ってるってわけだ……」
「今なら言えるんじゃ……?」
「言えたら苦労しねぇよ、親友を裏切ることにもなってしまうんだぞ!あいつは俺と違って良い奴だった……だから俺は、あの時、諦めたんだ……心から祝福したんだ……なのに……あいつは逝ってしまった……」
(ジルメイダはダリオさんの事、どう思っているんだろ……)
なぜかユラトは、両親が亡くなった時、食事がしばらく喉を通らなかったことを思い出した。
そのとき、やせ細った体を見た村長が、悲しさや悔しさを押し殺しながら、やさしく頭を撫で自分に言ってくれた。
「生き残った者は今を生きなければならんのだ……ユラト、それは辛く苦しいだろうが、お前の両親が命をかけた思いでもあるんだ……だから、少しづつでいい……食べれる物からでもいい……食べて、そして生きておくれ……」
(生きている人は、今を精一杯生き、そして幸せを求めつづける……だったら……ダリオさんやジルメイダも……)
ユラトはダリオに今のジルメイダの幸せを考えてあげるのは必要だろうと言おうと思ったが、そんなことは既にダリオならば考えていることだろうと思い、言う事を止めた。
(きっと、ずっと前に、俺の言おうとしたことなんて考えているんだろうな……その上で……か……。はぁ……俺があの2人にできる事なんて何もないのかな……)
そして、ダリオは突然ユラトの方に顔を向け、話し掛けてきた。
彼の顔の側面に、焚き火の明かりが当たり、その目には炎が宿っているように見えた。
「お前……時間で積み上げることの恐ろしさってのを、まだ知らねぇみてえだな。これは色んなことに言えるんだ。時間ってものほど恐ろしいものはねぇんだ……良い事ならいいが、悪いことなら絶対に積もらせないほうがいいぜ。例えば金で例えると 少ない額を少しづつ借りる、最初は少ないが時を経るごとに、その額はどんどん大きくなる。そしてあるときを境に感覚が麻痺してくる。この麻痺するって事もやべぇんだ。そして、借りても当初より罪悪感を感じなくなって……しまいにゃ……破産ってやつだ。だが、ここまでは誰でも良く知っているだろ?」
「……はい」
「そこでだ、お金を人に対する思いって奴に変えて見ることは、なかなかしないんじゃねぇか?」
(思い……?)
「こっちは借金より、もっと怖いぜ……見えねぇんだよ……さわることもできねぇし、どれだけ積もってるのか、相手の積もり具合も自分の積もり具合もな」
ユラトは息を呑んだ。
「いつの間にか、相手に恨みってもんを積もらせてた場合、自分にとって近ければ近い存在ほど、気づき難いもんだ。しかも近い奴ほど付き合う年月は長くなるだろ?ってことは、積もる高さも近い奴ほど高くなりやすいもんなのさ。俺は冒険者をやっている中で負の感情が頂点に達した奴をたくさん見てきた……狂気に駆られた奴だ。これほど恐ろしいもんはねぇぞ。俺はこんな性格だからよ、誰かに恨みをかってるかもしれねぇけどよ……」
ダリオは視線を下へ移し、両手の拳を強く握り締め、ユラトに話していた。
「……だけどよ、今の俺には、もっと怖いもんがあってよ。それは今のジルメイダとあの子供達に会えなくなる事だ。初めて会った時から、ずっと思いつづけているんだ……俺はいつの間にか、凄い高さまでその思いを積み上げていたんだ……彼女と共に冒険の日々を過ごすことで……気づいたときには、その高さは死ぬことの恐ろしさを遥かに超えていやがったんだ……超えていやがったんだよ、畜生!……だから怖えんだよ。色んな修羅場をジルメイダと共に潜り抜けてきたってのによ……でも、これが1番怖えぇんだよ……だから、今はただ傍に居れるだけでいいのさ……それだけで……」
ダリオは本当は復讐の旅をしているジルメイダを止めたかった。
自分も親友の仇を取りたいとも思っていたが、現実的にそして冷静に見て、あのデュラハンに勝てるとは、到底思えなかった。
しかし、彼女は、真っ直ぐで意志の強い人物でもあり、そして誇り高きバルガの戦士でもあった。
だからこそ、戦士である彼女が何もできないまま、愛する人を目の前で殺した相手を絶対に許すはずがないことも分かっていた。
だから、彼は黙ってジルメイダに付いていたのだった。
「ダリオさん……俺……」
ユラトの言葉を遮るようにダリオは組んだ両手の平を自分の後頭部へつけ、夜空を見上げながら、何かを諦めたように話した。
「あ~あ、なんでお前なんかに、べらべらしゃべっちまったんだろうな……この高さにいるのに疲れちまったのかも知れねぇな……」
その時、後ろから落ち葉を踏みしめる音がした。
2人は慌てて振り返った。
そこにはレクスが立っていた。
ダリオは目を細めレクスを睨みつけた。
「……盗み聞きか?レクス」
「レクスさん……」
レクスは無表情のままで答えた。
「……聞くつもりは無かった。だが、会話を邪魔できるような雰囲気では無かったようだったからな。それに、悪いとは思ったが、俺にとっては興味深い話だった」
ダリオは諦めたように2人に話していた。
「ちっ、そうかよ。笑いたきゃ笑えよ。ユラト、お前もだぞ、普段からお前等に悪態ついてるんだ……いいんだぜ?」
「俺は、別に……そんな風には……」
レクスは、ダリオに静かに話し掛けた。
「……ダリオ、森の木を見てみろ。木はたくさんの葉を年月をかけ、大地に落とし、積み上げていく。だが、森が葉で埋まることはない。時をかけ土に返っていくのだ。木々にとって葉に思いはあるのだ。だが彼等は大地を使い、葉を肥やしにするのだ。それは、その木にとってもいいことだし、若い新しい木が生えるのにも役に立つ。お前は 積み上げたものを自分の中で時をかけ、消化しきれていないのではないか?もしくは、正面から見れていないのかもしれんな。それは本当に高く積み上がっているのか?」
ダリオは、またしても自嘲気味に笑った。
「ふふっ……ははっ、ウッドエルフに言われるとはな……確かに、そうかもしれん。俺は逃げている部分があるのかもな……あの野郎と同じようにな……」
ダリオにウッドエルフの視点から助言してみたレクスだったが、それは自分に向けたものでもあった。
(偉そうに言ったが、私はダリオと逆で何も思いを積み上げていなかったのかもしれない。私に積み上げたものなどあったか?彼はただ積み上げただけ……私はすぐになんでも適当に消化してしまっていた……それでは、両方とも木は成長しないのは、同じではないか………)
2人のやり取りを見たユラトは、思ったことを呟いた。
「大切なら、なおさらそこから逃げてはならない……か…」
「ふんっ……お前らに逆に言われるとはな……だが、そういうもんなのかもな……」
3人とも夜空を見上げていた。
それぞれの思いを胸に秘めて。
また、3人の男たちの話は、焚き火の奥で寝ているジルメイダにも話は聞こえていた。
(そんな大きな声で話したら聞こえてるよ!……全く、馬鹿な男達だよ!)
その時、世界の七不思議が書かれた本を大事そうに抱えながら近くで熟睡しているリュシアが寝言を呟いた。
「……むにゃ、やっと……見つけた……むにゃ……猫さんの会議……」
そして、ジルメイダは、静かに目を瞑り、ダリオの事を考えていた。
(ダリオ……あんたの気持ちは嬉しいよ……だけど、今は……デュラハンのことしか考えられないのさ、奴を倒さない限り、前へ進むことができないんだ……あの人の無念を思うとね……許しておくれ……ダリオ……今は……)
そしてジルメイダは、そのまま静かに眠りに付いた。
一人を除いて、それぞれの夜はふけていった。
翌日の昼ごろ、ユラト達はウディル村に着いていた。
そして、ギルドにいつものように報告をしようと向った。
「今日も、人は少ないな……」
東の新大陸発見から、この西の森の冒険者は相変わらず減りつづけていた。
ついこの間まで多くの冒険者で賑わっていた村の中心部は、まばらに人々がいる程度だった。
また、ここで発見された武器や防具などのアイテムを買い取りに来る商人たちも、かなり減っているようだった。
そして、「この森の辺りには目的のハイエルフの国は無いのではないか?」と言う噂が出始めているほどだった。
しかし、残った冒険者達は、あると信じて探索を続けていた。
そしてギルドへの報告を終え、いつもの料理屋兼酒場のある建物へ向い、その建物に入ろうとしたとき、ユラトは思いがけない人物と再開を果たした。
(―――あれは!?)
それは、ブラウンの癖のある短髪の髪型の男で、ファージア冒険者学校で同級生だった、ガイン・ウォードだった。
彼は無事だった。
ユラトは驚き、そして嬉しく思った。
すぐにガインの後ろから声をかけた。
「ガイン!」
その叫びを聞いたガインは、声のした方へ振り向いた。
そして、声の主がユラトであったのを理解したガインの顔は、満面の笑みを浮かべていた。
「ユラト!!」
そしてユラトは、すぐに走ってガインのもとへ近づくと、彼の元気な姿に安心したのか、この前の再開のお返しと言わんばかりに、冗談交じりに話し掛けていた。
「ガイン!やっぱり、生きていたか!ははっ!」
それを聞いたガインは、この前のお返しだと理解したのか、笑っていた。
「はははっ、当たり前さ!」
そう言ってガインはユラトの肩に拳の甲を軽く当てた。
そして、お互いの姿を見た2人は、相手が冒険者として成長したことも感じ取ったようだった。
(ガイン……この森で会ったときより、随分、精悍になった気がする……きっと厳しい戦いがあったんだろうな……でも、無事で良かった……)
(再開したときより、更に強くなってる気がする……なんだろう……この滲み出ている自信と覇気は……ユラト、いつも君は、僕よりずっと先にいるんだね……今回の旅で僕も少しは成長できただろうか?……)
そのとき、近くにいたジルメイダが気を利かせ、先に行くと言い、リュシアを連れてその場所を離れていった。
「ユラト、あたし達は、先に行ってるよ!」
「ごゆっくりー」
「うん、わかった」
そのやり取りを見たガインは、安心したようにユラトへ話し掛けていた。
「ユラト、ちゃんとパーティーメンバー揃ったんだね。良かった、心配していたんだ」
「ああ、ありがとう!いい人たちにめぐり会えたと思ってるんだ……そっちはどうだった?」
「僕のところは……あ、そうだ。ここじゃなんだから、僕たちも席に座ろうよ!」
「ああ、そうだな。そうしよう……」
そして2人は店に入り、席に着いた。
ちょうど、ジルメイダ達の隣りのテーブルだった。
そして食事を注文し、待っている間、2人はこの森での冒険の日々をどう過ごしていたか語り合っていた。
ガインは、ガリバンに鍛えてもらっていたようだった。
(……ということは、やっぱり、ジルメイダの言う賛同者の一人なんだろうな、ガリバンさんは……)
「最初は、新人って僕だけだったからさ、こき使われるのかなって思ってたんだけど、全然そんなことなくて、みんな良い人ばかりだったから、凄いありがたかったさ」
「そうなのか、よかった」
「ウッドエルフの人からも色々森の事を教えてもらったりもあって、ほんとあっという間だったよ」
どうやら、ガインは今回の冒険は楽しく出来ているようだった。
(ガインは、素直すぎるところがあるからな……騙されていないか心配だったけど、大丈夫みたいだな……よかった)
「ユラトの方はどうだった?危険なこととかなかった?」
「んー魔物と何度も戦ったけど、仲間の人達が強いおかげで、今のところ大丈夫さ……そういや、ラグレスって人に会ったよ」
「―――!?ラグレスって、あのラグレス・オリュム?」
「うん、そう」
それを聞いたガインは目を輝かせ、尋ねていた。
「凄いね!どんな人だった?」
ユラトは思った事を述べた。
「噂通りの強さを持った人だったよ……強そうな敵を一撃で倒してた……圧倒されたよ」
ガインは羨ましそうにユラトの話を聞いていた。
「こっちに来ているって聞いたけど……そうか……いいなー。僕も見たかったよ、最強の戦士……」
ユラトは、レクスとラグレスのことやジルメイダから聞いた生い立ちの話しなどがあり、彼に対して複雑な思いがあったため、それ以上話題にしたくはなかった。
「ん、まあ、冒険者を続けていれば見る機会もあるんじゃないかな……そういや、宝とかそう言うの、そっちはどうだった?」
それを聞いたガインは、嬉しそうな表情になっていた。
「僕の方はね、発見した物があるんだ!」
ガインは、小さな袋を取り出し、そこから、乾燥している木片を取り出した。
手のひらに乗るほどしかない大きさだった。
ユラトには、それがその辺りによく転がっているものにしか見えなかった。
「……え、これってただの木じゃ?」
「ははっ、そう思うでしょ。匂いを嗅いでみて、ユラト!」
ユラトは怪訝な顔をしながら、ガインに言われた通り、匂いを嗅いでみた。
「―――これは!……良い香りがする……ただの木なのに……?」
なんと木から、爽やかな甘い香りがした。
「ウッドエルフの人に教えてもらったんだけど、これは『香木』って物らしいよ」
香木
様々な芳香を持つ木材。
種類は様々あり、熱することで香る物やそのままでも香る物もある。
産出地や状態などで内容が変わり、甘い、苦い、辛い、酸っぱいなどの香りもある。
お香や扇子、ブレスレットなどにも使われることもある。
「そんな物もあるのか……」
ガインは嬉しそうだった。
「これは、僕が見つけたんだ!新発見だよ!」
ユラトは目を瞑り、もう一度香りを嗅いでいた。
「へぇ、凄いな……心が落ち着く香りだ……」
「ここの村で作られた、花の香水も買ったんだ。セラリスとシェイミーに渡そうと思ってね」
「きっと喜ぶよ、良い香りだし」
ガインは嬉しそうに返事をした。
「うん!」
「俺の方の新発見は、新しい葡萄の木を発見したんだ、それから、あとは……」
ユラトは、禁呪を前の分のものと合わせて覚えたことなどをガインに説明した。
「ええっ!その青い模様ってそんな意味があったのか……」
「俺もまだ良く分らないんだ……」
「だけど、真実に近づいていることは確実だよね?」
「まあ、そうだといいけど……」
炎が上がっていた。
それは、小さな炎だった。
炎は時に、人に害を与えるだけではなく、温もりと落ち着きを与える。
そして、硬く閉ざされた心の奥にある闇をも照らす効果が、あるのかもしれない。
今日もまた、その炎に集まる人々がいた。
ユラト達は、赤いブラッド・ウーズの集団がいた場所を避け、森の中で野営をしていた。
彼らが冒険を主に行っていた東側も、かなりの範囲にわたり、聖石によって黒い霧が払われ、既に1日では村に帰れなくなっていた。
そして野営のため、魔物が寄り付かないように木を集め、焚き火をし、敵が来ないか見張りを一人づつたてながら、他の者は眠りについていた。
そんな夜、ユラトはダリオの心の闇の一端を知ることになった。
森の中で、この辺りだけ木が余りなく、大きな岩が2つほどある場所だった。
その岩の間に洞窟のような空間があった。
そして彼らは、その入り口辺りで火を焚き、開いた空間の中で雑魚寝していた。
ユラトはその日の夜、なかなか寝付けなかったので、自分が見張りを代わろうと思い、見張りをしていたダリオの所へ向った。
ダリオは、パーティーから少し離れたところで焚き火の炎を背にして小さな岩に座り、辺りをなんとなく見ていた。
そこへ、ユラトは後ろから近づいた。
すると、ダリオは顔を僅かに動かし、そして目だけを動かした。
来たのがユラトだと分かると、再び視線を元の場所に戻し、静かに話し掛けてきた。
「……まだ、見張りの番じゃねぇだろ。次はレクスだったはずだ。さっさと寝ろ……」
「今日は、なんだか眠れなくて……」
それを聞いたダリオは、ユラトを馬鹿にするような表情で喋り始めた。
「へっ、お前みたいな幸せに生きてきた奴に、眠れないことなんてあるのかよ」
ユラトは、静かに焚き火を見つめながら答えた。
「俺は、ダリオさんが思うような、幸せな人生だった訳じゃないですよ」
「ふんっ……俺はてっきり、甘ったれた家庭で育ったのかと思ったぜ」
「別に不幸を自慢したい訳じゃないですけど、俺には両親は、もういないんですよ……だから……」
ユラトが思いつめたように話しているのを見たダリオは顔を背けた。
「……そうかよ、そりゃ悪かったな……だけどな、今の時代まともに育ってる奴なんてそうそういないんだろうな。リュシアにしたってそうだからな……」
「ええ、そうですね……」
そして、しばらく2人は沈黙していた。
火の粉が舞い上がり、たまに焚き火の中にくべられた水分の含んだ枝が音をたてていた。
そして煙は、真っ暗な夜の森の上空へと一本の帯びのように立ち上っていた。
しばらく無言でいたダリオが、突然今度は語り始めた。
「……俺はよう……ジルメイダが好きなんだ……」
ユラトは、なんとなく分かっていた。
旅をする中でダリオが、ジルメイダに対して友人以上の眼差しを彼女に向けているような場面を、何度か見たことがあった。
ユラトは黙って聞いていた。
「………最初に、ジルメイダを見つけたのは俺なんだ……クライスじゃなかったんだ…………」
ダリオは、その頃を思い出し、少し目を細めると、空を見上げ、話しを続けていた。
「……俺の親父は武器商人でな。黒い霧が晴れだしたために、武器の需要が高まって、そこでひと財産築いたんだ。だが、母は店番をしているときに強盗に襲われてあっけなく死んじまったよ。店にある商品で胸を一突きだったらしい……」
ダリオは自嘲気味に笑った。
「ははっ……てめえの店の商品で殺される馬鹿がいるんだな……」
そしてすぐにダリオの顔から笑顔が消え、彼は苦々しい顔になり話を続けた。
「そのあと親父は、酒に溺れ変わってしまった。そして、新しい女が母親だって言ってやってきたが、俺のことが気に入らないみたいでよ。すぐに親父と出て行ったよ……それで、ばあさんと2人で暮らしていたんだ」
(そうだったのか……)
彼は話を続けていた。
「ばあさんは、足が不自由でよ……おまけに家には金が全くなくて、いつも金が無くなると、親父の所へ俺が取りに行くんだ……酒に酔ったあいつのところにな……毎回罵声を浴びせられ、殴られながら、地面に飛び散った僅かな金を拾って帰るんだ……みっともなく悔しい気持ちを共に背負ってよ……」
やがて女も愛想を尽かして、出て行ったという。
「そんなある日、帰り道で一人のクレリックが俺の傷を魔法で癒してくれたんだ……」
ダリオはその人物を思い出し、懐かしそうに話していた。
「おっさんだったが優しい顔で俺の体中にある傷を見て、何かを悟ったらしく、励ましてもくれたよ。……その時、俺は魔法の偉大さを知ったんだ。震えたね……体に付いた傷だけじゃなくて、心も癒された気がしたんだ。それで俺はこんな糞みてえな現実を忘れたくて、いつしか魔法って言う不思議な力に憧れたんだ……」
そして、彼は魔法に興味を持ち、ただで本が読める図書館に行き、勉強を始めた。
「そんなとき、親父が死にやがったんだ……酒の飲みすぎでな……冷たくなったあいつの手には、母の指輪が握られていたんだ……少年だった俺はそこでやっと気づいたんだ……この男は、最後まで母を愛していたって……そして、ずっと母を忘れたかったんだって……酒に溺れたのも……新しい女と付き合ったのも……俺を殴りやがったのも……全部、母を思い出したくなかったんだってな……」
そしてダリオは、地面に唾を吐き、森の闇を睨み付けながら喋った。
「へっ!……だけど、それは全部逃げてんだよ……あいつは逃げやがったんだ。全てを置いて……弱え奴だったんだ」
そしてその後、自分にそれなりの遺産が渡ったと彼は言った。
「俺は嬉しかったね。これで自由になれると思ったし、俺を育ててくれたばあさんに少しはいい暮らしをさせてやれると思ったんだ。だが、ばあさんも親父の後を追うように、すぐに死んじまいやがった……いつも俺に『ダリオ、苦労をかけるね……』って口癖のように言ってやがったよ……今よりは楽しく楽な生活ができただろうによ……」
そこでダリオは肩を落とし、しばらく黙っていたが再び口を開いた。
「そして俺は、たった一人になったんだ……」
そして、彼は一人になった寂しさを消す意味も込めて一層勉強に励んだ。
「孤独で押し潰されそうになる中、魔法学院に入るために、ひたすら勉学に励む日々だったぜ……」
そして彼は無事合格し、魔法学院へ入った。
そこで、友となるクライスと出会った。
「その時の俺は人生で一番輝き、そして楽しかったのを今でも覚えているんだ」
好きな魔法と同年代の仲間たちとの日々。
そしてそんな日々の中、彼はジルメイダと出会うことになった。
「学院でクライスの奴の研究を手伝っていたんだ。すると毎日、バルガ族の奴らが山で採れる石を神殿や学院まで、運んでいるのが見えたんだ。だが、みんな活力の無い、死んだ目をしていたな……」
「……なんでですか?」
「ん、そりゃそうだろう。毎日、鉱山から石を運ぶだけの生活だぞ。それは、冥府の河でひたすら石を積み上げてる奴らと何にもかわらねぇからな……」
「なるほど……」
「だけど、そんな中、一人だけ生きた目をした人がいたんだ……初めて見た時、俺は驚いたぜ……今より髪は短かったけど、こんなにも美しく、良い女がこの世にいるのかと思った……」
ダリオは、嬉しそうに空を見上げていた。
「その後、クライスもジルメイダを見て惚れちまったんだ。彼女はその時には既に家計を助ける為に鉱山で働いていて、石を毎日のように魔法学院に運んでいたよ。頬や服に汚れが付いていても気にするわけでもなく、静かに額の汗だけを拭っていたんだ。凄く綺麗だったよ。化粧なんてしていなくてもな……初めてだったぜ……飾り気なしに美しく、魅力的な人を見たのは……」
そしてダリオは少し、切ない表情になっていた。
(ダリオさん……)
「何か、強い意志を感じたんだ……彼女の真っ直ぐな瞳から……後で聞いたが、なんでもいいから自分の店を持って、家族を楽にしてやりたいって言っていたな……」
(そうか……それで、ワイナリーの話をジルメイダにしていたのか?……)
ダリオは、話を続けていた。
「ジルメイダは、いつも一生懸命で真っ直ぐな女なんだ。自分の事だけを考えて生きてきた俺には凄くそれが眩しく見えたんだ……直視できねえぐれえによ……その時の俺は、魔法学院に入れたことで満足していたんだ。そしてただ親の遺産をかじって何となく生きているだけで、何かを成した訳でもなく、何かをしたい訳でもなかった。容姿も良いわけでもない、性格もこのざまだ……だから自分に自信が無くて、それ以上いけなかったんだ………結局、俺もあいつと同じで、弱え奴だったんだ……なんら変わらなかったんだ!」
空には綺麗な月と星の見える夜空が木々の隙間から見えていた。
その月を見ながらダリオは続きを話した。
「クライスは、俺にとって唯一なんでも話せる友人だった……俺を理解してくれたのはあいつだけだった……見た目も俺なんかよりずっと良かった。だから俺は、引いたんだ……心に思いを秘めたまま……それで、気が付いたら、いつの間にか言えないまま、今に至ってるってわけだ……」
「今なら言えるんじゃ……?」
「言えたら苦労しねぇよ、親友を裏切ることにもなってしまうんだぞ!あいつは俺と違って良い奴だった……だから俺は、あの時、諦めたんだ……心から祝福したんだ……なのに……あいつは逝ってしまった……」
(ジルメイダはダリオさんの事、どう思っているんだろ……)
なぜかユラトは、両親が亡くなった時、食事がしばらく喉を通らなかったことを思い出した。
そのとき、やせ細った体を見た村長が、悲しさや悔しさを押し殺しながら、やさしく頭を撫で自分に言ってくれた。
「生き残った者は今を生きなければならんのだ……ユラト、それは辛く苦しいだろうが、お前の両親が命をかけた思いでもあるんだ……だから、少しづつでいい……食べれる物からでもいい……食べて、そして生きておくれ……」
(生きている人は、今を精一杯生き、そして幸せを求めつづける……だったら……ダリオさんやジルメイダも……)
ユラトはダリオに今のジルメイダの幸せを考えてあげるのは必要だろうと言おうと思ったが、そんなことは既にダリオならば考えていることだろうと思い、言う事を止めた。
(きっと、ずっと前に、俺の言おうとしたことなんて考えているんだろうな……その上で……か……。はぁ……俺があの2人にできる事なんて何もないのかな……)
そして、ダリオは突然ユラトの方に顔を向け、話し掛けてきた。
彼の顔の側面に、焚き火の明かりが当たり、その目には炎が宿っているように見えた。
「お前……時間で積み上げることの恐ろしさってのを、まだ知らねぇみてえだな。これは色んなことに言えるんだ。時間ってものほど恐ろしいものはねぇんだ……良い事ならいいが、悪いことなら絶対に積もらせないほうがいいぜ。例えば金で例えると 少ない額を少しづつ借りる、最初は少ないが時を経るごとに、その額はどんどん大きくなる。そしてあるときを境に感覚が麻痺してくる。この麻痺するって事もやべぇんだ。そして、借りても当初より罪悪感を感じなくなって……しまいにゃ……破産ってやつだ。だが、ここまでは誰でも良く知っているだろ?」
「……はい」
「そこでだ、お金を人に対する思いって奴に変えて見ることは、なかなかしないんじゃねぇか?」
(思い……?)
「こっちは借金より、もっと怖いぜ……見えねぇんだよ……さわることもできねぇし、どれだけ積もってるのか、相手の積もり具合も自分の積もり具合もな」
ユラトは息を呑んだ。
「いつの間にか、相手に恨みってもんを積もらせてた場合、自分にとって近ければ近い存在ほど、気づき難いもんだ。しかも近い奴ほど付き合う年月は長くなるだろ?ってことは、積もる高さも近い奴ほど高くなりやすいもんなのさ。俺は冒険者をやっている中で負の感情が頂点に達した奴をたくさん見てきた……狂気に駆られた奴だ。これほど恐ろしいもんはねぇぞ。俺はこんな性格だからよ、誰かに恨みをかってるかもしれねぇけどよ……」
ダリオは視線を下へ移し、両手の拳を強く握り締め、ユラトに話していた。
「……だけどよ、今の俺には、もっと怖いもんがあってよ。それは今のジルメイダとあの子供達に会えなくなる事だ。初めて会った時から、ずっと思いつづけているんだ……俺はいつの間にか、凄い高さまでその思いを積み上げていたんだ……彼女と共に冒険の日々を過ごすことで……気づいたときには、その高さは死ぬことの恐ろしさを遥かに超えていやがったんだ……超えていやがったんだよ、畜生!……だから怖えんだよ。色んな修羅場をジルメイダと共に潜り抜けてきたってのによ……でも、これが1番怖えぇんだよ……だから、今はただ傍に居れるだけでいいのさ……それだけで……」
ダリオは本当は復讐の旅をしているジルメイダを止めたかった。
自分も親友の仇を取りたいとも思っていたが、現実的にそして冷静に見て、あのデュラハンに勝てるとは、到底思えなかった。
しかし、彼女は、真っ直ぐで意志の強い人物でもあり、そして誇り高きバルガの戦士でもあった。
だからこそ、戦士である彼女が何もできないまま、愛する人を目の前で殺した相手を絶対に許すはずがないことも分かっていた。
だから、彼は黙ってジルメイダに付いていたのだった。
「ダリオさん……俺……」
ユラトの言葉を遮るようにダリオは組んだ両手の平を自分の後頭部へつけ、夜空を見上げながら、何かを諦めたように話した。
「あ~あ、なんでお前なんかに、べらべらしゃべっちまったんだろうな……この高さにいるのに疲れちまったのかも知れねぇな……」
その時、後ろから落ち葉を踏みしめる音がした。
2人は慌てて振り返った。
そこにはレクスが立っていた。
ダリオは目を細めレクスを睨みつけた。
「……盗み聞きか?レクス」
「レクスさん……」
レクスは無表情のままで答えた。
「……聞くつもりは無かった。だが、会話を邪魔できるような雰囲気では無かったようだったからな。それに、悪いとは思ったが、俺にとっては興味深い話だった」
ダリオは諦めたように2人に話していた。
「ちっ、そうかよ。笑いたきゃ笑えよ。ユラト、お前もだぞ、普段からお前等に悪態ついてるんだ……いいんだぜ?」
「俺は、別に……そんな風には……」
レクスは、ダリオに静かに話し掛けた。
「……ダリオ、森の木を見てみろ。木はたくさんの葉を年月をかけ、大地に落とし、積み上げていく。だが、森が葉で埋まることはない。時をかけ土に返っていくのだ。木々にとって葉に思いはあるのだ。だが彼等は大地を使い、葉を肥やしにするのだ。それは、その木にとってもいいことだし、若い新しい木が生えるのにも役に立つ。お前は 積み上げたものを自分の中で時をかけ、消化しきれていないのではないか?もしくは、正面から見れていないのかもしれんな。それは本当に高く積み上がっているのか?」
ダリオは、またしても自嘲気味に笑った。
「ふふっ……ははっ、ウッドエルフに言われるとはな……確かに、そうかもしれん。俺は逃げている部分があるのかもな……あの野郎と同じようにな……」
ダリオにウッドエルフの視点から助言してみたレクスだったが、それは自分に向けたものでもあった。
(偉そうに言ったが、私はダリオと逆で何も思いを積み上げていなかったのかもしれない。私に積み上げたものなどあったか?彼はただ積み上げただけ……私はすぐになんでも適当に消化してしまっていた……それでは、両方とも木は成長しないのは、同じではないか………)
2人のやり取りを見たユラトは、思ったことを呟いた。
「大切なら、なおさらそこから逃げてはならない……か…」
「ふんっ……お前らに逆に言われるとはな……だが、そういうもんなのかもな……」
3人とも夜空を見上げていた。
それぞれの思いを胸に秘めて。
また、3人の男たちの話は、焚き火の奥で寝ているジルメイダにも話は聞こえていた。
(そんな大きな声で話したら聞こえてるよ!……全く、馬鹿な男達だよ!)
その時、世界の七不思議が書かれた本を大事そうに抱えながら近くで熟睡しているリュシアが寝言を呟いた。
「……むにゃ、やっと……見つけた……むにゃ……猫さんの会議……」
そして、ジルメイダは、静かに目を瞑り、ダリオの事を考えていた。
(ダリオ……あんたの気持ちは嬉しいよ……だけど、今は……デュラハンのことしか考えられないのさ、奴を倒さない限り、前へ進むことができないんだ……あの人の無念を思うとね……許しておくれ……ダリオ……今は……)
そしてジルメイダは、そのまま静かに眠りに付いた。
一人を除いて、それぞれの夜はふけていった。
翌日の昼ごろ、ユラト達はウディル村に着いていた。
そして、ギルドにいつものように報告をしようと向った。
「今日も、人は少ないな……」
東の新大陸発見から、この西の森の冒険者は相変わらず減りつづけていた。
ついこの間まで多くの冒険者で賑わっていた村の中心部は、まばらに人々がいる程度だった。
また、ここで発見された武器や防具などのアイテムを買い取りに来る商人たちも、かなり減っているようだった。
そして、「この森の辺りには目的のハイエルフの国は無いのではないか?」と言う噂が出始めているほどだった。
しかし、残った冒険者達は、あると信じて探索を続けていた。
そしてギルドへの報告を終え、いつもの料理屋兼酒場のある建物へ向い、その建物に入ろうとしたとき、ユラトは思いがけない人物と再開を果たした。
(―――あれは!?)
それは、ブラウンの癖のある短髪の髪型の男で、ファージア冒険者学校で同級生だった、ガイン・ウォードだった。
彼は無事だった。
ユラトは驚き、そして嬉しく思った。
すぐにガインの後ろから声をかけた。
「ガイン!」
その叫びを聞いたガインは、声のした方へ振り向いた。
そして、声の主がユラトであったのを理解したガインの顔は、満面の笑みを浮かべていた。
「ユラト!!」
そしてユラトは、すぐに走ってガインのもとへ近づくと、彼の元気な姿に安心したのか、この前の再開のお返しと言わんばかりに、冗談交じりに話し掛けていた。
「ガイン!やっぱり、生きていたか!ははっ!」
それを聞いたガインは、この前のお返しだと理解したのか、笑っていた。
「はははっ、当たり前さ!」
そう言ってガインはユラトの肩に拳の甲を軽く当てた。
そして、お互いの姿を見た2人は、相手が冒険者として成長したことも感じ取ったようだった。
(ガイン……この森で会ったときより、随分、精悍になった気がする……きっと厳しい戦いがあったんだろうな……でも、無事で良かった……)
(再開したときより、更に強くなってる気がする……なんだろう……この滲み出ている自信と覇気は……ユラト、いつも君は、僕よりずっと先にいるんだね……今回の旅で僕も少しは成長できただろうか?……)
そのとき、近くにいたジルメイダが気を利かせ、先に行くと言い、リュシアを連れてその場所を離れていった。
「ユラト、あたし達は、先に行ってるよ!」
「ごゆっくりー」
「うん、わかった」
そのやり取りを見たガインは、安心したようにユラトへ話し掛けていた。
「ユラト、ちゃんとパーティーメンバー揃ったんだね。良かった、心配していたんだ」
「ああ、ありがとう!いい人たちにめぐり会えたと思ってるんだ……そっちはどうだった?」
「僕のところは……あ、そうだ。ここじゃなんだから、僕たちも席に座ろうよ!」
「ああ、そうだな。そうしよう……」
そして2人は店に入り、席に着いた。
ちょうど、ジルメイダ達の隣りのテーブルだった。
そして食事を注文し、待っている間、2人はこの森での冒険の日々をどう過ごしていたか語り合っていた。
ガインは、ガリバンに鍛えてもらっていたようだった。
(……ということは、やっぱり、ジルメイダの言う賛同者の一人なんだろうな、ガリバンさんは……)
「最初は、新人って僕だけだったからさ、こき使われるのかなって思ってたんだけど、全然そんなことなくて、みんな良い人ばかりだったから、凄いありがたかったさ」
「そうなのか、よかった」
「ウッドエルフの人からも色々森の事を教えてもらったりもあって、ほんとあっという間だったよ」
どうやら、ガインは今回の冒険は楽しく出来ているようだった。
(ガインは、素直すぎるところがあるからな……騙されていないか心配だったけど、大丈夫みたいだな……よかった)
「ユラトの方はどうだった?危険なこととかなかった?」
「んー魔物と何度も戦ったけど、仲間の人達が強いおかげで、今のところ大丈夫さ……そういや、ラグレスって人に会ったよ」
「―――!?ラグレスって、あのラグレス・オリュム?」
「うん、そう」
それを聞いたガインは目を輝かせ、尋ねていた。
「凄いね!どんな人だった?」
ユラトは思った事を述べた。
「噂通りの強さを持った人だったよ……強そうな敵を一撃で倒してた……圧倒されたよ」
ガインは羨ましそうにユラトの話を聞いていた。
「こっちに来ているって聞いたけど……そうか……いいなー。僕も見たかったよ、最強の戦士……」
ユラトは、レクスとラグレスのことやジルメイダから聞いた生い立ちの話しなどがあり、彼に対して複雑な思いがあったため、それ以上話題にしたくはなかった。
「ん、まあ、冒険者を続けていれば見る機会もあるんじゃないかな……そういや、宝とかそう言うの、そっちはどうだった?」
それを聞いたガインは、嬉しそうな表情になっていた。
「僕の方はね、発見した物があるんだ!」
ガインは、小さな袋を取り出し、そこから、乾燥している木片を取り出した。
手のひらに乗るほどしかない大きさだった。
ユラトには、それがその辺りによく転がっているものにしか見えなかった。
「……え、これってただの木じゃ?」
「ははっ、そう思うでしょ。匂いを嗅いでみて、ユラト!」
ユラトは怪訝な顔をしながら、ガインに言われた通り、匂いを嗅いでみた。
「―――これは!……良い香りがする……ただの木なのに……?」
なんと木から、爽やかな甘い香りがした。
「ウッドエルフの人に教えてもらったんだけど、これは『香木』って物らしいよ」
香木
様々な芳香を持つ木材。
種類は様々あり、熱することで香る物やそのままでも香る物もある。
産出地や状態などで内容が変わり、甘い、苦い、辛い、酸っぱいなどの香りもある。
お香や扇子、ブレスレットなどにも使われることもある。
「そんな物もあるのか……」
ガインは嬉しそうだった。
「これは、僕が見つけたんだ!新発見だよ!」
ユラトは目を瞑り、もう一度香りを嗅いでいた。
「へぇ、凄いな……心が落ち着く香りだ……」
「ここの村で作られた、花の香水も買ったんだ。セラリスとシェイミーに渡そうと思ってね」
「きっと喜ぶよ、良い香りだし」
ガインは嬉しそうに返事をした。
「うん!」
「俺の方の新発見は、新しい葡萄の木を発見したんだ、それから、あとは……」
ユラトは、禁呪を前の分のものと合わせて覚えたことなどをガインに説明した。
「ええっ!その青い模様ってそんな意味があったのか……」
「俺もまだ良く分らないんだ……」
「だけど、真実に近づいていることは確実だよね?」
「まあ、そうだといいけど……」
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