Dark world~Adventurers~

yamaken52

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第十五話 2

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そして、2人が馬に乗ったのを確認したカーリオは、相手について話した。

「相手は10人以上います!」

その数にエルディアとクフィンは驚いた。

「―――なんだと!」

「そんなに……」

「この賊の男たちは、諦めて森の奥の道へ進みましょう!」

クフィンは自分なりに、この場に留まり戦えるか、一瞬考えたが流石に無理だと判断したようだった。

「……そうだな……それだけの数だと、流石に……厳しいか……」

そしてエルディアが、2人に声をかけ馬を走らせた。

「どうこうできる数ではないわ……2人とも行こう!」

「ええ、行きましょう!」

「……ちっ、しょうがないか……」

3人は馬を走らせた。

すると、後方から、声が聞こえた。

「へへへっ……覚悟しろよ、お前ら!」

「絶対に逃がさねぇぞ!はははっ!」

先ほどの盗品を扱っていた賊たちの笑い声を背中で受けながら、3人は逃げるように、その場を後にした。



月明かりが差し込む森の中を、2人の人物が徒歩で歩いていた。

全身をフード付きのマントで覆っており、外から見ただけではどんな人物なのかは、わからなかった。

そして2人のうちの一人が、もう一人に強い口調で話しかけていた。

「ギル!あなたは少し、間が抜けすぎてるんじゃないかしら?」

そう言ったのは、女で言われた方は男だった。

「す、すいやせん……ちゃんと縛ったと思ってたんですがねぇ……『ガリトラップ』があったんで、恐らく『ピクシー』に持っていかれちまったのかと……」

【ピクシー】

悪戯好きの小さな風の妖精。

薄い赤い色をした髪を持ち、青白い肌に尖った小さな耳を持っており、大きさはノームと同じぐらいである。

夜目も良く効き、背中に小さな羽根を持っており、ぼんやりと光る鱗粉を撒きながら自由自在に空中を飛び回ることができる。

人間などに悪戯をするのが好きで、地面や壁に輪を描くことが良くある。

飛び回りながらでもあるし、馬に乗って描くこともある。

その時に出来る輪の模様を『ガリトラップ』と言う。

ガリトラップはピクシーの鱗粉が含まれており、僅かに光る。

この光る輪がある場所には、ピクシーがいると言われていた。

そして男のフードから顔が少し見えた。

男の方は具合が悪そうな土色の肌をしていて、やや出っ歯で、目は一重の鋭い目をしていた。

女の方は、深い青紫の髪をした凛とした顔立ちの女性だった。

「いい?ギル、そんなこといって、いつも色々な失敗をあなたはしてるでしょ!今日だってちゃんと確認をしていれば、こんなことにならなかったのよ!」

「へ、へい……ほんとに申し訳ねぇです……」

男はただひたすら謝っていた。

どうやら、力関係は、女の方が上のようだった。

そして女は何かを思い出し、深くため息を付くと、男に話しかけていた。

「はあぁぁ………ここって、町まで結構な距離あったんじゃない?」

「そ、そうですね……馬だとそんなに感じなかったんですが……」

どうやらこの2人は、馬を失い、徒歩で歩いて町まで行くつもりのようだった。

女が辺りを不安そうに見ていた。

「どの辺かしら……」

「まだ、もう少しあるかと……」

それを聞いた女は、苛立ち、声を荒げ、男を叱っていた。

「……全くもうっ!今度からはちゃんとしなさい!」

男は背筋を伸ばして返事をしていた。

「わ、わかりやした!」

「じゃあ、行くわよ……はぁ……」

ため息を再び付くと、2人は歩き出した。

そしてしばらく歩いていると、地面から振動が伝わってきた。

それは地面を叩いたときに起こるような振動だった。

「………ん?」

そして、男は目を細め、道の先を見た。

真っ直ぐ伸びた道を彼らは歩いていた。

辺りは先ほどと変わらず森の中で、明かりと言えば月明かりが僅かに差し込んでいる程度だった。

しばらくすると、奥の方から誰かが近づいてくるのがわかった。

黒い影のような塊が音と振動を出しながら、こちらへ向けて来ていた。

どうやら、振動の大きさからすると馬に乗っているようだった。

「姉さん、なんか向こうから馬に乗った人が来るみたいですよ?」

それを聞いた女は表情を一変させ、明るい声で隣の男に話しかけていた。

「あら、それじゃあ、乗せて行ってもらえないか、聞いてみましょ」

女の機嫌が少し治ったのが嬉しくて、男は元気に返事を返していた。

「へ、へい!わかりやした!」

そして、徐々にその姿が分かり始める。

塊は、3つあるようだった。

2人は、その向かってくる者たちをやや警戒しながら見ていた。

「ギル、一応、いつでも戦えるようにしておくのよ」

女は、警戒を促した。

こんな夜の森の中、普通の人が通るとは、考えられないのは、当然と言えば当然だった。

戦いと聞いた男は不気味な声を出して笑った。

「ケケッ!わかってますよ」

その声を聞いた女は、男を冷たく睨んでいた。

「ギル!!その笑いは不気味だから、やめなさいっていつも言ってるでしょ」

「す、すいやせん……癖なもんでして……へへっ」

男はフードの上から頭をかいて謝っていた。

そして、相手の姿が見えてきた。

それは、夜盗に追われて逃げている真っ最中のエルディア達だった。

謎の2人組みに気づいたのは、先頭にいたクフィンだった。

「―――おい、誰か前にいるぞ!」

「他にも仲間がいたの!?」

マナトーチの魔法の効果はきれており、再びかけようと思ったが、森の中が思いのほか明るかったため、彼らは再使用していなかった。

そのため視界が悪く、ある程度近づかなければ分からないほどだった。

そしてカーリオが眉を寄せ、前方を見ていた。

「2人ですね……待ち伏せでしょうか?」

「エルディア、少し離れていろ……俺が、話してみる……」

そして3人はついに謎の2人組みのところへ着いた。

少し離れて、3人は警戒しながら近づいた。

どうやら向こうも警戒しているようだった。

2人は、固まったように動いていなかった。

フードを深くかぶり、喋りもしない。

そして、顔が見えるところまでクフィンが近づいた時、相手の一人が僅かに顔を上げ、こちらを見た。

顔が見えた。

顔色の悪い男だった。

そして、男の方から話しかけてきた。

「おめぇえら、こんな夜更けにどこに行くつもりだ?」

この男が放つ異様な雰囲気から、3人は警戒を強めた。

「やはり夜盗どもの仲間か!」

クフィンは腰の剣に手をかけた。

カーリオもロッドを握り締め、叫んだ。

「エルちゃん魔法の準備を!」

「わかった……」

しかし、男は状況を理解していないようだった。

「俺たちが賊だと?何を言ってやがんだ……?」

彼はただ呆然とエルディア達を見ているだけだった。

一瞬両者の間で、無言の間があった。

「………」

クフィンが怪訝な表情をし、謎の2人に尋ねていた。

「……違う……のか?」

「やはり、ギルだと人相が悪くて、交渉事はダメね……」

今度はもう一人の人物がフードを上げ、エルディア達に話しかけてきた。

相手は女だった。

そして女は平然と話しかけてきた。

「あなた達、こんな夜更けに、どこへ行くつもり?私たちは、占いの館を出た後、戻ったら、馬をピクシーに持って行かれて仕方なく徒歩で町へ戻るところよ。だから普通の冒険者よ?」

相手が妙齢の女性であったのが分かった瞬間、カーリオが素早く近づき、話しかけていた。

「ほう……これはこれは、またお美しい方が……私は出会ってしまったんですね……闇夜の森の中に咲く、一輪の美しき月光の花に……その花の美しさは、愛と美の女神も嫉妬するほどですね……どうです、今度私と食事でも……私自身が月となり、あなたを照らしつづけますよ、あなたがずっと美しくあるために!」

女の隣にいた謎の男は顔をしかめ、呆れていた。

「姉さんに、お前……怖いもの知らずだな……」

エルディアとクフィンも呆れていた。

「カーリオ……」

「こんなときまで……お前と言う奴は……いい加減にしろ!」

クフィンに怒られたカーリオは、今、自分たちがおかれている状況を謎の2人組みの冒険者に話し始めた。

「……ああ、そうでした。実は我々、盗品の取引現場に遭遇しまして、その後彼らが襲ってきたもので倒してしまいましてね。そうしましたら今度は取引相手が大勢やってきたんです……それで追われることになりまして……もうすぐ、ここにも来るはずですから、逃げられたほうが良いですって……そういや、馬が無いのでしたね……よろしければそちらのお美しいご婦人だけでも、私の馬でお望みの場所へ連れて差し上げますが?」

カーリオの言うことにギルと呼ばれた男は、再び呆れていた。

「なんて野郎だ……」

謎の女の方は、口元に僅かに微笑をたたえながら答えていた。

「へぇ……望みの場所へ連れて行ってくれるの?……それはありがたいわね……だけど、そこは大勢の魔物が蔓延る地獄のような場所かもしれないわよ?それでも付いて来て下さるのかしら?軽薄そうな優男さん」

そう言われてもカーリオは、諦めていないようだった。

謎の綺麗な女の目を見ながら、彼も口元に笑みを浮かべ、返していた。

「ええ、あなたとなら、地獄へも参りましょう。そうすれば軽薄などとは言われなくて済みますからね」

そう言うとカーリオは真剣な目で彼女を見ていた。

想定した返答とは違っていたため、謎の女は少し以外に思っていた。

そしてそれは、彼女の心にほんの少しだけ刺激を与えていたようだった。

しかし、この謎の女は、こういったことに慣れているのか、先ほどと変わらぬ表情で短く答えただけだった。

「あらそう……(ふふっ、思ったより、いい目で返してくるのね……)」

そして女は、カーリオを良く見た。

すると何かに気づいた。

「あなた……よく見れば狂神フュリス、縁の者かしら?その髪と肌の色……」

「ええ、そうです。ですから、私と付き合えば、あなたを狂えるほど、愛と言う美酒で酔わせてあげますよ? ふふふっ……」

「ふうん……ま、そういうのも嫌いじゃないわよ?」

エルディアとクフィンは良く目にした光景であったため、ただ呆れていた。

「よく口のまわる奴だ。これに関しては誉めてやる……」

(いつものカーリオ……)

その時、2回目のマナサーチの魔力をその場にいた5人は同時に感知した。

「―――!?」

クフィンがバルガの魔道師を睨み付け、すぐに叫んだ。

「―――ちっ!おい、カーリオ!お前が下らん話を追加したせいで、捕捉されたぞ!」

「あらら……」

「やっぱり、追ってきたみたいね……」

謎の男も、目つきが鋭くなり、小さな声で隣の女に話しかけていた。

「姉さん、どうやら、こいつらの言ってることは本当なのかもしれませんぜ?」

「……そうみたいね」

姉さんと言われた女は、落ち着いた表情のまま、バルガの魔道師に尋ねていた。

「相手は、馬に乗っているのかしら?」

「かなりの速度で移動していましたからね。そのはずです」

それを聞いた女は、冷たい笑みを浮かべ、隣の男に話しかけていた。

「そう……ふふっ……。じゃあ、彼らの馬を借りることにするわよ、ギル」

一瞬、彼女が残忍な表情をしたのを、ギルと呼ばれた男は見逃さなかった。

「(ふー、おっかねぇ……これだから姉さんは……)へい、わかってます」

謎の2人組が夜盗たちを倒せることを前提に話をしているのを見たエルディアは信じられなかった。

「5人じゃ、無理よ……相手は10人以上もいるのよ?」

エルディアにそう言われた2人は、厳しい表情をするかと思ったが、逆に余裕を見せていた。

「夜盗たちが10人以上……それならば私とギルだけでも、いけそうね」

「へへへっ、そうですね」

「だけど、時間がかかりそうだから、あなたたちも手伝いなさいな」

クフィンもまたエルディアと同じように、謎の2人組みの言うことが信じられなかった。

「話を聞いていたのか?相手はたくさんいるんだぞ」

謎の女は、臆することなく答えた。

「ええ、聞いていたわ。だけど、大丈夫よ。心配なら自分たちのことを心配しなさいな」

そう言われてもクフィンは信じることはできないようだった。

(倒す自信があるほどの腕前なのか?……しかし……)

信じられないといった表情をしていたクフィンの顔を見たギルと呼ばれた男は、淡々といった感じで彼に話しかけていた。

「若造、この道は一本道だ。だから逃げ切れるものではないぜ。相手はサーチも使えるんだろ。だったらどの道、どこかで戦わないといけねえんじゃねぇのか?」

「確かに……だけど……」

カーリオは、2人組みの言うことに早くも納得しているようだった。

「ここでやるしかなさそうですね……エルちゃん、クフィン、ここで彼らと戦ったほうがいいと私も思います。そこのお2人の力を借りればいけないことはないと思いますよ(もっとも、あの2人に実力があればの話ですが……)」

「そうだな……エルディア、安心しろ。お前だけは、俺が何があっても守ってやる」

そんな2人を見たエルディアは、ここで戦う覚悟を決めたようだった。

「カーリオの言うとおりね……わかった。だけど、私も最後まで戦うわ。2人を置いてなんてことはしない……」

そんなエルディアの事を見たクフィンとカーリオはお互い目で合図し、無言で頷いていた。

(……もしもの時は分かっているな?……カーリオ)

(ええ、エルちゃんだけでも……ふふっだけど、そうならないような気がしますし、そんな事態は勘弁してもらいたいですねぇ……)

ギルと呼ばれる男が話しかけてきた。

「バルガの優男とそこのねーちゃんは、魔道師だろ?」

「はい……」

「ええ、そうですが?」

「なら俺たちの後ろから援護を頼むぜ。青い鎧を着たお前は戦士か剣士だな?」

「……そうだ」

「なら俺と前へ出ろ。姉さんはどうしやす?」

「私は、相手を見てからどうするか考えるわ」

「わかりやした」

「作戦でもたてますか?」

カーリオがそう尋ねたとき、謎の女が敵の到着を告げた。

「……駄目みたいよ、相手がきたわ」

謎の女の言うとおり、エルディア達を追いかけていた集団が彼らの前に現れた。

そして、次々と馬から降り、エルディアたち5人に近づいてきた。

皆、ニヤついており、目をギラつかせているように見えた。

ギルと呼ばれた男は敵を知ろうと、鋭い一重の目を薄くさせ、全体を観察していた。

「……こいつらか……」

続々と現れた夜盗たちは、全員武器や防具を装備していた。

ハチェットと言われる片手で扱える小さめの手斧や短剣にショートソードなどを持っていた。

エルディアは、ガラの悪い者たちにここまで囲まれそうになったことはなかったため、恐怖に心が支配されそうになった。

(流石にあの謎の2人が手練れだったとしても、やっぱりこの数じゃ……ユラト……)

ユラトのことを思い、必死に恐怖に対して抗った。

(大丈夫……こんなところで………)

自分は冒険者になって彼の後に付いて行くのではなかったか?

そのために魔法学院に入り、様々なことを学び、そして体得してきたはずだ。

また、話の通じない獰猛で邪悪な姿かたちをした魔物たちとも、命を懸けて渡り合わなければならないのだ。

(そう……何のために、魔道の道へ進んだの?……覚悟を決めないと!)

そして杖を強く握り締め、彼女はいつでも魔法ができる状態に入った。

エルディアは、見事に恐怖に打ち勝ったようだった。

そして相手の集団の中から1人の中年の男が出てきた。

どうやらこの一団を率いている者のようだった。

鎖かたびらに、ロングソードをぶら下げ、顔には傷がいくつかあった。

男も他の者達と同じように顔をニヤつかせ、話しかけてきた。

「知り合いが世話になったみたいだな」

クフィンは普段と変わることなく、相手を睨み付けながら答えていた。

「知り合い?……ああ、あのクズどもか」

慌ててカーリオが小さな声でクフィンに話しかけていた。

「クフィン、挑発してはいけませんよ!」

男は笑っていた。

「ははっ、そうだな。お前らにとっちゃあ、そうなのかもなぁ」

そして今度は謎の女が澄ました顔で、クフィンと同じように挑戦的な言いまわしで男に尋ねていた。

「自覚があるのね。なら、少しはまともに生きてみたらどうかしら?」

しかし、男はその挑発に乗ることなく、普段どおりの口調で答えた。

「それはできんなぁ……こんな旨い稼業は早々ないからな。ははっ」

話をしながら、この頭目の男は、相手の構成を見ていた。

(魔道師2人……それから、戦士か剣士が2人……あとは……あの女のクラスは、なんだろうな……あれでは、わからんな……)

謎の女だけ、顔しか見えなかったため、どんなクラスなのか分からなかった。

(しかし、こちらが有利なことには代わりはないか……ふふっ)

男は心の中でほくそ笑むと、余裕を持ってエルディアたちに話しかけた。

「まあ、俺も基本的には殺しは、したくはないんだが、見られちまった上に、刃向かったそうじゃねぇか。大人しく金目の物を渡してりゃあ、お前らも命ぐらいは失わずにすんだだろうになあ……この稼業ってのは、舐められたら終わりなんでな。悪いがここで死んでもらうぞ」

謎の女がギルと呼ばれた男の後から少しだけ前進すると、夜盗のリーダー格らしき男に再び話しかけた。

「今のうちに言っておくけど、馬を2頭ほど貸してくれるなら、見逃してあげてもいいわよ、どうかしら?」

女の提案に男は笑い声を上げた。

「はははっ!この状況で、よく言えるな、あんた」

しかし、男はすぐに女の言う事に一抹の不安を感じた。

(よほど自信があるのか?警戒はしとくか……)

「やっぱり、無理みたいね……はぁ……」

女は軽くため息を付くと、腰から武器を取り出した。

それは先端が膨らんでおり、そこに細かいルーン文字と言う古代の魔法の印が彫り込まれ、全てが銀色に輝くメイスだった。

そして右手でそれを持つと、顔の前まで持っていき、縦に構えると叫んだ。

「光の神ファルバーンの名において、あなた達の心に巣食う、黒き野心を浄化します!」

それを見た、頭目の男は、すぐに相手を倒す計画を立て終えた。

「(―――あの女、クレリックか!!なら簡単だ!!)ギディン、バズ、リガー、ビーゴ!お前らは、前の前衛どもの相手をしろ、俺は魔道師どもを始末する!あとは半分に分かれて……」

そのとき謎の女が突然、夜盗たちが一番集まっている場所へ向け、単身走り出した。

「―――女が来たぞ!?」

「―――馬鹿な、クレリックが!?」

頭目の男は驚いた。

そして、女は走りながら自分の背中へ左手を伸ばした。

するとそこから、なんと銀色に輝き、豪華な装飾が施された大きな楯を取り出していた。

楕円形で表面には馬に乗り、槍を持った戦乙女と言われる『ヴァルキリー』が色鮮やかに描かれている楯だった。

【ヴァルキリー】

この世界においては、戦の神『ヴォーディン』の娘を言う。

光の霊体になった、デミゴッド(半神)。

戦場で死んだ優秀な者を、神々の戦いに備えるために、天界の宮殿へ導く役目を負っていると言われている。

黄金の長い髪と鎧を着た、凛々しい顔の美しい女性で描かれることが多い。

そして同時に彼女が着ていた外套が脱げる。

彼女の全身は楯と同じように、豪華な装飾が施された輝く銀色の鎧に包まれていた。

そして、そのまま楯を構え、敵の集団へ突っ込んだ。

『シールドチャージ』と言う、楯を構え、敵に当たる近接戦闘クラスが使う技術だった。

頭目の男は驚き、そして気づいた。

「しまった!!こいつ、クレリックじゃねぇ!アコライトだ!!」

そして彼女が構えた楯に接触した者たちの手に持った武器が地面に落ちた。

「―――なんだこれは!?」

「―――腕が痺れやがった!」

そして、その効果に気づいた者が叫んだ。

「これは、―――パラライズ(麻痺)効果だ!!」

「あの楯、パラライズ効果があるのか!!」

「―――遅い!!」

女は、銀色に白く輝くメイスを素早く真横に振りぬいた。

近くにいた賊3人に、メイスが直撃する。

ドンッ―――

鈍い音がし、3人の男が吹っ飛んだ。

「ぎゃああああ!」

「骨が……いてぇ……」

男たちとは違い、アコライトの女は澄ました顔でさらりと言ってのけた。

「あら、ごめんなさい。だけど、殺されなかっただけでも有難いと思いなさいな。あなた達が魔物だったら、もっと強く叩いていたわよ?」

「その女からやっちまえ!」

女のもとへ賊たちが何人か向かった。

アコライトの女は、もう1人の仲間の男へ向け叫ぶと、再びシールドチャージを行った。

「ギル!!あなたも手伝いなさい!―――はっ!!」

何人かの男たちが弾き飛ばされ、麻痺効果によって一瞬だが、楯と接触した部分が痺れていた。

そしてチャージのあと、彼女はメイスに魔力を込め、横になぎ払った。

再び辺りに男たちの悲鳴が響いた。

「へいへい……わかってますよ」

渋々といった感じで、ギルと呼ばれた男はゆっくり敵に近づいた。

そして立ち止まり、ほんの少しの間俯くと今度は顔を上げ、一重の鋭い目と口を大きく開き、嬉しそうにしていた。

「許可が出たぜぇ!お前ら覚悟しろよ、ケケケッ!」

笑い声を上げながら、男も敵の集団へ向かい、飛び上がった。

そして、空中で腕を交差させ、腰の左右にあった2本の剣を抜いた。

すると剣の刀身が見えた。

それを見たカーリオは、驚いていた。

「―――あ、あれは!」

その2本の剣の形状はチンクエディアと呼ばれるもので、特に印象深いのは両方とも色が違い、濃い茶色と深紅の色でそれぞれ異なった模様が付いており、茶色の方はまるで木で出来ているように見えた。

ギルと呼ばれた男は、空中でその2本の剣を投げ、2人の賊の足に命中させていた。

「……ぎゃあ!」

そして、着地と同時に謎の男は叫んだ。

「アッシュ!!」

すると、彼が投げた剣の刀身に刻まれたルーン文字が光った。

そしてなんと夜盗の足に刺さっていた、2本の剣は灰となって地面に崩れ落ちた。

すぐに彼は敵の下へ走ると、素手のまま今度は横に回転しながら飛び上がった。

そして、再び彼は叫んだ。

「リロード!!」
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