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第十七話 2
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家の中に入ると、玄関で人が、うつ伏せに倒れているのが見えた。
「―――これは!?」
そして、エルディア達はすぐに、その人物に近づいた。
その人物が着ている服装からすると、この家の使用人のようだった。
白髪の混じった髪を持った中年の女性だった。
カーリオが、肩に手を置き、軽く揺すりながらその女性に声をかけていた。
「―――大丈夫ですか!」
しかし、返事が無かった。
そして、クフィンがその使用人の女性を仰向けにさせた。
見たところ、特に外傷は無いように見え、目と口は開けたままだった。
エルディアは、その人物の手を取り、脈を測った。
「………だめだわ……死んでいる……」
エルディアは、呆然とその人物を見ていた。
クフィンの目が鋭くなった。
「殺しか?……」
そして、カーリオが叫んだ。
「学院長はどこに!?」
カーリオの叫びで我に返ったエルディアは、学院長の安否が気になった。
「―――そうだわ、探しに行こう!」
エルディアは使用人の女性の目と口を静かに閉じると、立ち上がった。
そしてクフィンがエルディアにサーチを頼んできた。
「何がいるかわからない。エルディア、マナサーチを頼む!」
「わかった!」
クフィンとカーリオは、エルディアを守るように武器を構えた。
そして、彼女は範囲を絞り、すぐに魔法を発動させていた。
「……マナサーチ!」
杖を握り締め、目を閉じ、意識を集中させた。
範囲が狭いため、すぐに状況がわかった。
(……誰も……いない?……いや……微かに何か……いる?)
エルディアは、その事を2人に告げた。
「ここには少なくとも、生きている人はいないみたい……だけど、向うの方に、ほんの少しだけ、魔力のようなものを感じたわ」
「では慎重に、そこへ行きましょう」
「俺が先頭に立つ。2人は俺の後ろからついて来るんだ」
「分かりました!」
「うん……場所は、そこの通路を真っ直ぐに行った、突き当りの部屋よ……」
すぐに3人は、学院長を探すために動いた。
家の中を進むと、通路の両側の壁に、様々な動物の首から上の部分で出来た剥製が、かけられていた。
鹿であったり、まだら模様の厳つい表情の動物、口に2本の大きな牙を持ったものもいた。
この状況で見たためか、3人には不気味に見えた。
そしてカーリオは歩きながら冗談交じりに、つぶやいていた。
「はは、まさか……あれが生きていると言うことはないですよね?」
それを聞いたエルディアは怖くなり、空気を読まないバルガの魔道師に、やめるように言った。
「カーリオ……怖いからやめて……」
ロングソードを構えながら、先頭を歩いていたクフィンも彼を睨みつけていた。
「カーリオ、下らん冗談はよせ」
その剥製たちの目が彼らを見つめる中、3人は慎重に奥の部屋へと向かった。
辺りは静かで、彼らが進む時に生じる音しか、しない場所だった。
奥に進む中、いくつか部屋があり、その様子が分かった。
どこも贅を凝らした部屋になっていた。
高そうな美術品や絵画、そして家具一つ取っても高級感のあるものばかりだった。
それらを見たカーリオは、羨ましく思った。
(羨ましい限りです……随分と蓄財されていますね……審議会のメンバーとは、そんなに儲かるものなんでしょうか?……ふむ……)
そして、何も起こることが無いまま、奥の部屋の前へ彼らはたどり着いた。
「よし、俺が開けるぞ?一応魔法は使えるようにしておいてくれ」
クフィンがそう言うと、ドアノブに手をかけた。
「わかったわ……」
「ええ、いつでもいいですよ」
そして、クフィンは一気にドアを開けた。
3人は部屋の中を覗き込むように慎重に見た。
部屋は書斎のようだった。
沢山の分厚い本が本棚に収納されていて、結構な広さがあった。
薄暗い部屋で、大きな木製の分厚い机があり、そこに金で出来た燭台があって火が灯っていた。
そして目線を下へ向けると、見知った人物が部屋の真ん中の床に倒れていた。
カーリオが、その人物の名を叫んだ。
「ラドラー学院長!」
3人はすぐに倒れている学院長の元へ向かった。
クフィンが、上半身を抱きかかえるようにしながら、肩を揺すっていた。
「おい、学院長!……ダメだ……この男も死んでいる……」
「……そんな……」
カーリオは、冷静に学院長の遺体を見ていた。
「先ほど玄関で見た方と同じで、傷はありませんね……」
クフィンが遺体を床に寝かし、カーリオに尋ねた。
「……毒か?」
クフィンの問いにエルディアが、辺りを見回しながら答えていた。
「この部屋には、飲食をした形跡は無いみたい……」
彼女の言うとおり、この部屋には食べ物はもちろん、コップ一つさえも置いていなかった。
クフィンは、オイゲルの体全体を調べたが、全く傷らしいものはなかった。
「……どういうことだ?」
そして、辺りを見回していたエルディアが、机の上に手紙が開いたまま置いてあるのに気が付いた。
(……手紙?……なんだろう……)
彼女は近づき、書かれている文章を読んだ。
(これは……杖の鑑定書……?)
どうやら、杖の鑑定が終わっていたようだった。
そして、エルディアはカーリオにも、伝えることにした。
「カーリオ、学院長が持っていた杖の詳しい鑑定が終わっていたみたい……これ、鑑定書みたいよ……」
「―――ほう……それは、私も知りたいですねぇ……」
カーリオが机に近づいたとき、突然、この部屋のドアが、ひとりでに閉まった。
―――バタンッ!
エルディア達は、すぐに音のしたドアを見た。
(―――え、何?)
そして、クフィンが慎重に勝手に閉まったドアの元へ近づいたとき、今度は、ロウソクの炎が、風も無いのに消えた。
フッ―――
そして部屋は、暗闇に包まれた。
突然のことでエルディアは驚き、声を上げそうになった。
「きゃ……」
しかし、すぐに口を手で押さえた。
(何も見えない……いったい……今のは……?)
クフィンが冷静に2人に話しかけていた。
「2人とも無事か?」
エルディアとカーリオはそれぞれ返事をしていた。
「ええ……」
「私も大丈夫ですよ」
2人が無事であるのを確認したクフィンは、マナトーチの魔法を魔道師である、エルディアとカーリオに頼んだ。
「魔法の明かりを頼む」
「分かりました、私がしましょう……」
カーリオがすぐに、自らのロッドにマナトーチの魔法を唱えていた。
部屋に明るさが戻った。
そして今度は、クフィンがすぐに叫んでいた。
「―――ドアが開かないぞ!?」
それを聞いたエルディアとカーリオは驚いた。
「―――え、どういう事?」
「何があったんですか?」
「聞きたいのは俺もだ!」
クフィンは、必死にドアを開けようとしたが、ビクともしなかった。
「……閉じ込められた?」
「わからない……だが、このままここに居る訳にはいかないからな……カーリオ、手伝え。こうなったらドアを体当たりでこじ開けるぞ!」
「わかりました!」
そして2人は息を合わせ、ドアに向かって体当たりした。
ドンッと音がしたが、ドアは相変わらず、何も変化は起きなかった。
そして繰り返し何度か試してみるが、それは相変わらずだった。
「くそっ!どうなっているんだ!?」
「これは……参りました……不味いですね……」
クフィンとカーリオは、壊れることのないドアを忌々しげに見つめていた。
すると今度は、何やら彼らの周りから、微かに音が出始めた。
その音に最初に気づいたのは、エルディアだった。
「……何か……音が聞こえる……」
彼女の言葉に、2人もドアのことを考えるのを止め、意識を耳に集中させた。
すると、何かが擦れる様な音や床を歩く音などが、聞こえ始めていた。
「……確かに、何か音が聞こえるな……」
「なんですかね……」
すると今度は、ドアをノックする音が聞こえた。
誰かが来たと思ったクフィンは、返事を返していた。
「(誰か来たのか?)おい、扉の向うに誰かいるのか?いるなら返事をしてくれ。こちら側からはドアが開かないんだ!」
しかし、ドアの向こう側からは、何も言ってこなかった。
「誰も、いないんですかね?」
「人の気配はしないな……」
「どういうことなんだろ……」
3人は、今この部屋で何が起こっているのか理解できなかった。
そして、彼らの周りでしていた音が、大きくなってきていた。
それに気づいたエルディアは、2人に尋ねていた。
「音が大きくなってきてない?」
「これは……」
そしてエルディアが、音から何かを思い出していた。
「こう言う音って……ひょっとして、『ラップ音』?」
クフィンには、それがなんであるのか分からなかった。
「なんだそれは……」
カーリオは耳を澄まして、今聞こえる音を黙って聞いていた。
「確かに……そうなのかもしれません………と言うことは……」
そして2人は同時に、ここで今起こっている事が何であるのかを理解し、同時に叫んでいた。
「―――『ポルターガイスト』!」
【ポルターガイスト】
この世界では、強い霊力がある場所や、そう言ったものが発生した場合などに、共に現れることがある悪霊の一種。
この霊が現れると、ラップ現象と言う、誰も居ない部屋や何も無い空間などで様々な音を出すことがある。
その時に出る音をラップ音と言う。
一定の空間に縄張りの様なものを作り、そしてその中へ入った者の魔力を命尽きるまで奪い取る。
倒すまでは、その空間から出ることが出来ないと言われている。
「これは、倒すまではここから出ることは出来そうにありませんね……」
「カーリオ、倒す方法はあるのか?」
「先に、ヴァベルの教会に行っていれば………こういったこともエクソシストが得意だったはずです……」
カーリオの言うとおり、エクソシストは悪魔以外にも、怨霊や悪霊などの霊体の敵にも、その力を発揮することが出来た。
そして悪霊は、エルディア達に牙を向けてきた。
彼らの周りにあった分厚い本が、突然本棚から飛び出て宙に浮くと、エルディアたちに向かって飛んできた。
それに気づいたクフィンが本の何冊かを、手に持った剣で叩き落した。
「見える奴となら、俺は勝てる自信がある……しかし、これは厄介だぞ……」
エルディアは、クフィンとカーリオの後ろで、2人に話しかけていた。
「この部屋のどこかに、悪霊の本体が宿っているものがあるはず……」
「エルちゃんが感じた僅かな魔力は、恐らくこれだったんでしょうね」
そして、今度は、ペーパーナイフと数本のペンが回転しながら天井の方まで浮くと、彼らの方へ刃とペン先を向け止まった。
それを見たクフィンは、叫んだ。
「エルディア、机の下へ!」
エルディアはすぐに机の下へ隠れた。
彼女が隠れると同時に、ナイフとペンが彼らへ向け、放たれた矢のような速度で直進してきた。
そのナイフを剣で落とすと、カーリオは身にまとっているクロークを、クフィンはマントを翻し、ペンを叩き落とした。
「おい、カーリオ!倒す方法は?このままだと、きりが無いぞ!」
カーリオは、自分に向かって飛んできた本をロッドを使い、防いでいた。
そして、ポルターガイストを倒す方法を考えていた。
「悪霊に効くものですか……そうですねぇ……神聖なものか……もしくは、魔力を帯びたもので攻撃をすれば、いいはずなんですが……」
それを聞いたエルディアが、何かを思い出し、クフィンに話しかけた。
「(―――そうだ……あれを……)クフィン、私が魔法を使うわ。ちょっとだけ、時間を頂戴!」
クフィンは短く答えた。
「わかった……(お前だけは、何としても俺が守る!)」
「じゃあ、私は本体を探すために、サーチを唱えますね」
クフィンが武器を構え、敵の攻撃を防いでいる中、今度は先ほど炎が消えた燭台に、青白い鬼火が宿った。
そして、燭台がいくつかの本に接触していく。
すると、本は青白い炎で包まれた。
クフィンは、それを不愉快そうに見ていた。
「くそっ、色々やるつもりだな!」
そして鬼火を纏った本が、クフィンを襲った。
彼は飛んで来た一冊を避け、床に落ちたところを素早く蹴飛ばした。
そして今度は強く踏み込み、鋭い突きを放った。
すると、空中で2冊の本を貫いた。
そして、素早く横へなぎ払い、本を壁へ飛ばした。
壁に衝突した瞬間、青白い炎は消えた。
「ふんっ、この程度では……」
クフィンがそう言い、周囲を見たそのとき、青白い炎で燃えた一冊の本が、カーリオへ向けて飛んでいた。
「―――カーリオ!」
カーリオが避けきれないと思ったクフィンは、彼に近づき、左の甲でそれを受けた。
あたった場所が、一瞬、炎で包まれる。
「―――っ!?」
しかし、クフィンはすぐに自分のマントで、腕を包み込んだ。
すると、小さな焦げる匂いと共に煙が僅かに出ていた。
魔法を終えたカーリオが、心配そうにクフィンに話しかけていた。
「クフィン、大丈夫ですか!」
クフィンが左手をマントから出すと、彼の皮手袋が、一部焦げていた。
しかし、彼の手にダメージは、ほとんどなかったようだった。
指を動かし、確認していた。
「……大丈夫だ、ちゃんと動く……それより、本体の特定をしてくれ」
「ええ、任せてください……しかし……助かりました、感謝しますよ」
「この部屋には3人しかいない……お前でも、一応戦力だからな……」
そう言って再び剣を握りなおし、見えない敵の攻撃から2人を守るため、クフィンは戦った。
そして、そんな自警団の青年の後ろで、カーリオはマナサーチを唱えていた。
「……マナサーチ!」
若きバルガの魔道師は、部屋の様子を伺った。
(うーん……―――ん、これは……)
そして何かに気づいた。
「クフィン、敵は一定の間隔で物に乗り移っています!」
「手のかかる相手だな……」
クフィンがそう呟き、再び敵と対峙しようとしたとき、エルディアが魔法を完成させていた。
「クフィン、剣を私の前まで!」
「わかった。カーリオ、敵の相手を頼む」
クフィンに頼まれたカーリオだったが、空中に浮いたペンと本の数を見た彼は、早くも嫌気が差しているようだった。
「……あれをですか……」
そして、2人の前に出たカーリオに、それらが一斉に襲ってきた。
カーリオは、壁にかけてあった美しい女性が描かれた絵を素早く手に取り、楯のようにそれを使った。
すると、次々にペンが絵に刺さっていった。
それを見たカーリオは、なぜか後悔しているようだった。
「ああ……絵とは言え、美女を楯にすることを、どうかお許しください……」
そしてそんな中、エルディアはクフィンの剣に右手の指先を軽く付け、魔法を唱えていた。
「……猛き炎よ、剣に宿れ!―――ファイアーエンチャント!」
彼女が魔法を発動させると、クフィンの剣は赤い光りを放った。
そして「ボッ!」と言う音がした後、剣先へ向け、炎がとぐろを巻きながら刃を包み込んだ。
それを見たクフィンは、驚いた。
「……これは……」
カーリオが振り返り、説明していた。
「それは最新の魔法ですよ!その魔法は魔法の炎を武器に与えると言うものです。それで、本体を捕らえることができれば、倒せると思います……(ふふ……しかし、よく使用できましたね……まだ発見されて、そんなに月日が経っていないはず……流石ですよ……学院長が彼女に目をつけた理由が良く分かりました……)」
そして今度は、宿った炎が消え、僅かな熱と共に赤いオーラがゆらゆらと剣から生み出されていた。
この魔法の存在を知ったエルディアは、「きっと、ユラトとの旅に役立つだろう」と思い、学院の西の敷地に出来た、魔法訓練場にしばらく通っていた。
そして必死になって習得していたのだった。
その思いと才能により、彼女は短期間で、ある程度使えるところまで上達していた。
また、実戦で使用したのは、これが初めてだった。
それだけに、上手くいったことが嬉しかった。
(……良かった……これならユラトを手助けできそう……)
クフィンは、彼女がかけてくれた支援魔法を嬉しそうに見ていた。
「これなら、本体にダメージを与えられそうだ……礼を言うぞ!」
「お礼はいいわ……それより、ここから早く出よう……少しだけど、体が痺れる感覚がある……きっと、ポルターガイストに魔力を吸われ続けているのよ……」
「ああ……お前の言うとおりだ……俺にもその感覚はある……カーリオ、何か策はあるか?」
そうクフィンが聞いたとき、分厚い本の角がカーリオが持っていた絵に当たり、壊れてしまった。
「おっと……これは不味いですね………」
カーリオは、やや名残惜しそうに絵を捨てた。
(私は罪深い男です……美女を捨ててしまうなんて……)
そして、もう一枚絵があることに気が付いた。
「おや……」
そして、すぐにそれを手にした。
2枚目の絵は、幸いなことに風景画だった。
「おお!これなら、存分に使えますね!」
そして彼は2枚目の絵を使って、敵の攻撃を防いながらクフィンに答えていた。
「クフィン、私とエルちゃんとで、時間差をつけて、マナサーチをします。そして、本体が移動した瞬間を捕らえるので、そこをあなたに狙ってもらいたいんですが……出来ますか?」
カーリオからそう尋ねられたクフィンは、エルディアの顔を見た。
エルディアは、少し不安げな表情をしていた。
(そんな、心配そうな顔をするな……俺は、お前を守ると……)
そんな彼女の表情を見たクフィンの体から、戦う意志と力が湧いてきた。
(………決めたんだ!)
剣を握りしめ、クフィンはカーリオを真っ直ぐに見つめ、答えた。
「やるしかないんだろ?……なら、やってやる……」
エルディアは魔法についてクフィンに説明していた。
「クフィン、その剣であまり切り付けると、すぐに効果は無くなってしまうの……だから……」
「じゃあ、こうすればいい……」
そう言うとクフィンは、剣を鞘にしまった。
そして、彼らに襲ってくる物に対して、鞘に入ったまま剣を振り、対処していた。
「長くは出来ん……カーリオ、絵を貸せ。それも使ってなんとかサーチの時間を稼いでみる……」
「わかりました。では、お願いします」
そして、クフィンとカーリオは場所を入れ替わった。
2人の魔法の詠唱が始まり、クフィンはポルターガイストの攻撃をなんとか絵と鞘に入った剣を使いながら、エルディアとカーリオを守っていた。
悪霊は先ほどよりも、この部屋にある物を多く浮かせ、それを彼らに投げつけていた。
すぐに、クフィンの持っていた絵も破壊されるほどだった。
「……なるほど、俺たちの魔力を吸って、よりたくさん物が扱えるようになったか……だが、俺はやられんぞ……」
そう言って今度は、クフィンから動いた。
彼は、地面に落ちている本を素早く拾うと、それを物が固まって浮いている場所へ投げつけた。
すると、当てられた本が壁に衝突し、いくつかの本が床へ落ちた。
そして、すぐに机の上に乗り、飛び上がると、鞘の入ったままの剣を両手で握りしめ、天井へ向かって振り上げた。
「―――はっ!」
再び、いくつかの宙に浮いていた本が落ちた。
そして床に着地すると、青白い鬼火の付いた本が彼を襲ってきたため、クフィンはすぐに剣を横になぎ払った。
剣に本が当たり、飛ばされると壁に衝突し、本は鬼火と共に砕けた。
そして2人の魔道師は、詠唱を終えていた。
最初にサーチを発動させたのは、カーリオだった。
彼は魔法を使用すると、すぐに本体の居場所を突き止めた。
「クフィン!敵は、金の燭台に宿っています!」
クフィンはすぐに、そこを見つめた。
(あれか……)
そして、今度はエルディアがマナサーチを使った。
「……マナサーチ!」
彼女は心を落ち着かせ、目を閉じ、周囲を探った。
するとポルターガイストの存在をすぐに感じることができた。
「―――クフィン!浮いている小さな像に、移動したわ!」
それを聞いたクフィンは、剣を鞘から抜き放ち、素早く机に乗ると、飛び上がり、像に向かって鋭い突きを放った。
(―――これで終わらせる!)
彼の炎を宿らせた剣が、木彫りの馬に乗った騎士の像に当たりそうになった瞬間、その像に本が当たった。
(―――なにっ!)
なんと、本体を攻撃されると思ったポルターガイストは、自身が宿った像に本を当て、自らを移動させていた。
クフィンの渾身の突きは外れた。
(……くそっ……だめか……)
彼が諦めかけたとき、エルディアがクフィンに向かって叫んだ。
「クフィン!念じて炎を打ち出して!」
それを聞いたクフィンは剣を強く握りしめ、心の中で叫んだ。
(―――炎よ、敵を撃て!)
すると彼の剣から、火炎の玉が打ち出された。
(―――これは!?)
そして、それは悪霊が宿っている像に、見事命中した。
像は、炎に包まれた。
そして、そこから青白く光る骸骨を想像させるような霊体の顔が現れた。
苦悶の表情をし、口を大きく開けていた。
そして、いくつもの音が合わさったかのような高い声をあげ、横に伸びながら、それは砕け散った。
すると、宙に浮いていた物が全てそのまま、真下へと落下し始めた。
エルディアたちは、無言でその様子を見ていた。
(……倒せたの?)
(やったのか……?)
(体が先ほどより、軽くなった気がします……)
そして、宙に浮いていた美人画の顔の部分が、ひらひらとカーリオの頭に落ち、頬を伝った。
カーリオは、それを手に取った。
「もてる男は、辛いですね……しかし、私は本物が良いので……申し訳ありませんが……」
そう言って、彼はその絵の切れ端を捨てた。
そして、床に倒れている自警団の青年に声をかけながら、手を差し伸べた。
「クフィン、良く倒せましたね。咄嗟の判断、流石でしたよ」
「……ふんっ、面倒な戦いだった……」
クフィンが立ち上がると、エルディアも2人に歩み寄り、話しかけた。
「……倒せたのかな?」
「魔力を吸われる事がなくなって、先ほどより体が楽になっているはずですよ」
クフィンは、炎の支援魔法が無くなった事を確認すると、ロングソードを鞘に収め、右手をぼんやり眺めていた。
「確かにそうだな……」
そして、エルディアに礼を述べた。
「これも、エルディアの魔法のおかげだ……礼を言うぞ……」
エルディアは、少しだけ柔らかな表情になり、そして微笑んだ。
「そうじゃないわ……3人で上手くやったからよ……2人ともありがとう……」
カーリオも笑みを浮かべながら目を閉じ、同じことを思っていた。
「そうですね……」
クフィンは、エルディアに礼を言われた事と、彼女の笑顔が見れたことで、嬉しそうにしていた。
「ふふ……そうか……ふふ……」
「―――これは!?」
そして、エルディア達はすぐに、その人物に近づいた。
その人物が着ている服装からすると、この家の使用人のようだった。
白髪の混じった髪を持った中年の女性だった。
カーリオが、肩に手を置き、軽く揺すりながらその女性に声をかけていた。
「―――大丈夫ですか!」
しかし、返事が無かった。
そして、クフィンがその使用人の女性を仰向けにさせた。
見たところ、特に外傷は無いように見え、目と口は開けたままだった。
エルディアは、その人物の手を取り、脈を測った。
「………だめだわ……死んでいる……」
エルディアは、呆然とその人物を見ていた。
クフィンの目が鋭くなった。
「殺しか?……」
そして、カーリオが叫んだ。
「学院長はどこに!?」
カーリオの叫びで我に返ったエルディアは、学院長の安否が気になった。
「―――そうだわ、探しに行こう!」
エルディアは使用人の女性の目と口を静かに閉じると、立ち上がった。
そしてクフィンがエルディアにサーチを頼んできた。
「何がいるかわからない。エルディア、マナサーチを頼む!」
「わかった!」
クフィンとカーリオは、エルディアを守るように武器を構えた。
そして、彼女は範囲を絞り、すぐに魔法を発動させていた。
「……マナサーチ!」
杖を握り締め、目を閉じ、意識を集中させた。
範囲が狭いため、すぐに状況がわかった。
(……誰も……いない?……いや……微かに何か……いる?)
エルディアは、その事を2人に告げた。
「ここには少なくとも、生きている人はいないみたい……だけど、向うの方に、ほんの少しだけ、魔力のようなものを感じたわ」
「では慎重に、そこへ行きましょう」
「俺が先頭に立つ。2人は俺の後ろからついて来るんだ」
「分かりました!」
「うん……場所は、そこの通路を真っ直ぐに行った、突き当りの部屋よ……」
すぐに3人は、学院長を探すために動いた。
家の中を進むと、通路の両側の壁に、様々な動物の首から上の部分で出来た剥製が、かけられていた。
鹿であったり、まだら模様の厳つい表情の動物、口に2本の大きな牙を持ったものもいた。
この状況で見たためか、3人には不気味に見えた。
そしてカーリオは歩きながら冗談交じりに、つぶやいていた。
「はは、まさか……あれが生きていると言うことはないですよね?」
それを聞いたエルディアは怖くなり、空気を読まないバルガの魔道師に、やめるように言った。
「カーリオ……怖いからやめて……」
ロングソードを構えながら、先頭を歩いていたクフィンも彼を睨みつけていた。
「カーリオ、下らん冗談はよせ」
その剥製たちの目が彼らを見つめる中、3人は慎重に奥の部屋へと向かった。
辺りは静かで、彼らが進む時に生じる音しか、しない場所だった。
奥に進む中、いくつか部屋があり、その様子が分かった。
どこも贅を凝らした部屋になっていた。
高そうな美術品や絵画、そして家具一つ取っても高級感のあるものばかりだった。
それらを見たカーリオは、羨ましく思った。
(羨ましい限りです……随分と蓄財されていますね……審議会のメンバーとは、そんなに儲かるものなんでしょうか?……ふむ……)
そして、何も起こることが無いまま、奥の部屋の前へ彼らはたどり着いた。
「よし、俺が開けるぞ?一応魔法は使えるようにしておいてくれ」
クフィンがそう言うと、ドアノブに手をかけた。
「わかったわ……」
「ええ、いつでもいいですよ」
そして、クフィンは一気にドアを開けた。
3人は部屋の中を覗き込むように慎重に見た。
部屋は書斎のようだった。
沢山の分厚い本が本棚に収納されていて、結構な広さがあった。
薄暗い部屋で、大きな木製の分厚い机があり、そこに金で出来た燭台があって火が灯っていた。
そして目線を下へ向けると、見知った人物が部屋の真ん中の床に倒れていた。
カーリオが、その人物の名を叫んだ。
「ラドラー学院長!」
3人はすぐに倒れている学院長の元へ向かった。
クフィンが、上半身を抱きかかえるようにしながら、肩を揺すっていた。
「おい、学院長!……ダメだ……この男も死んでいる……」
「……そんな……」
カーリオは、冷静に学院長の遺体を見ていた。
「先ほど玄関で見た方と同じで、傷はありませんね……」
クフィンが遺体を床に寝かし、カーリオに尋ねた。
「……毒か?」
クフィンの問いにエルディアが、辺りを見回しながら答えていた。
「この部屋には、飲食をした形跡は無いみたい……」
彼女の言うとおり、この部屋には食べ物はもちろん、コップ一つさえも置いていなかった。
クフィンは、オイゲルの体全体を調べたが、全く傷らしいものはなかった。
「……どういうことだ?」
そして、辺りを見回していたエルディアが、机の上に手紙が開いたまま置いてあるのに気が付いた。
(……手紙?……なんだろう……)
彼女は近づき、書かれている文章を読んだ。
(これは……杖の鑑定書……?)
どうやら、杖の鑑定が終わっていたようだった。
そして、エルディアはカーリオにも、伝えることにした。
「カーリオ、学院長が持っていた杖の詳しい鑑定が終わっていたみたい……これ、鑑定書みたいよ……」
「―――ほう……それは、私も知りたいですねぇ……」
カーリオが机に近づいたとき、突然、この部屋のドアが、ひとりでに閉まった。
―――バタンッ!
エルディア達は、すぐに音のしたドアを見た。
(―――え、何?)
そして、クフィンが慎重に勝手に閉まったドアの元へ近づいたとき、今度は、ロウソクの炎が、風も無いのに消えた。
フッ―――
そして部屋は、暗闇に包まれた。
突然のことでエルディアは驚き、声を上げそうになった。
「きゃ……」
しかし、すぐに口を手で押さえた。
(何も見えない……いったい……今のは……?)
クフィンが冷静に2人に話しかけていた。
「2人とも無事か?」
エルディアとカーリオはそれぞれ返事をしていた。
「ええ……」
「私も大丈夫ですよ」
2人が無事であるのを確認したクフィンは、マナトーチの魔法を魔道師である、エルディアとカーリオに頼んだ。
「魔法の明かりを頼む」
「分かりました、私がしましょう……」
カーリオがすぐに、自らのロッドにマナトーチの魔法を唱えていた。
部屋に明るさが戻った。
そして今度は、クフィンがすぐに叫んでいた。
「―――ドアが開かないぞ!?」
それを聞いたエルディアとカーリオは驚いた。
「―――え、どういう事?」
「何があったんですか?」
「聞きたいのは俺もだ!」
クフィンは、必死にドアを開けようとしたが、ビクともしなかった。
「……閉じ込められた?」
「わからない……だが、このままここに居る訳にはいかないからな……カーリオ、手伝え。こうなったらドアを体当たりでこじ開けるぞ!」
「わかりました!」
そして2人は息を合わせ、ドアに向かって体当たりした。
ドンッと音がしたが、ドアは相変わらず、何も変化は起きなかった。
そして繰り返し何度か試してみるが、それは相変わらずだった。
「くそっ!どうなっているんだ!?」
「これは……参りました……不味いですね……」
クフィンとカーリオは、壊れることのないドアを忌々しげに見つめていた。
すると今度は、何やら彼らの周りから、微かに音が出始めた。
その音に最初に気づいたのは、エルディアだった。
「……何か……音が聞こえる……」
彼女の言葉に、2人もドアのことを考えるのを止め、意識を耳に集中させた。
すると、何かが擦れる様な音や床を歩く音などが、聞こえ始めていた。
「……確かに、何か音が聞こえるな……」
「なんですかね……」
すると今度は、ドアをノックする音が聞こえた。
誰かが来たと思ったクフィンは、返事を返していた。
「(誰か来たのか?)おい、扉の向うに誰かいるのか?いるなら返事をしてくれ。こちら側からはドアが開かないんだ!」
しかし、ドアの向こう側からは、何も言ってこなかった。
「誰も、いないんですかね?」
「人の気配はしないな……」
「どういうことなんだろ……」
3人は、今この部屋で何が起こっているのか理解できなかった。
そして、彼らの周りでしていた音が、大きくなってきていた。
それに気づいたエルディアは、2人に尋ねていた。
「音が大きくなってきてない?」
「これは……」
そしてエルディアが、音から何かを思い出していた。
「こう言う音って……ひょっとして、『ラップ音』?」
クフィンには、それがなんであるのか分からなかった。
「なんだそれは……」
カーリオは耳を澄まして、今聞こえる音を黙って聞いていた。
「確かに……そうなのかもしれません………と言うことは……」
そして2人は同時に、ここで今起こっている事が何であるのかを理解し、同時に叫んでいた。
「―――『ポルターガイスト』!」
【ポルターガイスト】
この世界では、強い霊力がある場所や、そう言ったものが発生した場合などに、共に現れることがある悪霊の一種。
この霊が現れると、ラップ現象と言う、誰も居ない部屋や何も無い空間などで様々な音を出すことがある。
その時に出る音をラップ音と言う。
一定の空間に縄張りの様なものを作り、そしてその中へ入った者の魔力を命尽きるまで奪い取る。
倒すまでは、その空間から出ることが出来ないと言われている。
「これは、倒すまではここから出ることは出来そうにありませんね……」
「カーリオ、倒す方法はあるのか?」
「先に、ヴァベルの教会に行っていれば………こういったこともエクソシストが得意だったはずです……」
カーリオの言うとおり、エクソシストは悪魔以外にも、怨霊や悪霊などの霊体の敵にも、その力を発揮することが出来た。
そして悪霊は、エルディア達に牙を向けてきた。
彼らの周りにあった分厚い本が、突然本棚から飛び出て宙に浮くと、エルディアたちに向かって飛んできた。
それに気づいたクフィンが本の何冊かを、手に持った剣で叩き落した。
「見える奴となら、俺は勝てる自信がある……しかし、これは厄介だぞ……」
エルディアは、クフィンとカーリオの後ろで、2人に話しかけていた。
「この部屋のどこかに、悪霊の本体が宿っているものがあるはず……」
「エルちゃんが感じた僅かな魔力は、恐らくこれだったんでしょうね」
そして、今度は、ペーパーナイフと数本のペンが回転しながら天井の方まで浮くと、彼らの方へ刃とペン先を向け止まった。
それを見たクフィンは、叫んだ。
「エルディア、机の下へ!」
エルディアはすぐに机の下へ隠れた。
彼女が隠れると同時に、ナイフとペンが彼らへ向け、放たれた矢のような速度で直進してきた。
そのナイフを剣で落とすと、カーリオは身にまとっているクロークを、クフィンはマントを翻し、ペンを叩き落とした。
「おい、カーリオ!倒す方法は?このままだと、きりが無いぞ!」
カーリオは、自分に向かって飛んできた本をロッドを使い、防いでいた。
そして、ポルターガイストを倒す方法を考えていた。
「悪霊に効くものですか……そうですねぇ……神聖なものか……もしくは、魔力を帯びたもので攻撃をすれば、いいはずなんですが……」
それを聞いたエルディアが、何かを思い出し、クフィンに話しかけた。
「(―――そうだ……あれを……)クフィン、私が魔法を使うわ。ちょっとだけ、時間を頂戴!」
クフィンは短く答えた。
「わかった……(お前だけは、何としても俺が守る!)」
「じゃあ、私は本体を探すために、サーチを唱えますね」
クフィンが武器を構え、敵の攻撃を防いでいる中、今度は先ほど炎が消えた燭台に、青白い鬼火が宿った。
そして、燭台がいくつかの本に接触していく。
すると、本は青白い炎で包まれた。
クフィンは、それを不愉快そうに見ていた。
「くそっ、色々やるつもりだな!」
そして鬼火を纏った本が、クフィンを襲った。
彼は飛んで来た一冊を避け、床に落ちたところを素早く蹴飛ばした。
そして今度は強く踏み込み、鋭い突きを放った。
すると、空中で2冊の本を貫いた。
そして、素早く横へなぎ払い、本を壁へ飛ばした。
壁に衝突した瞬間、青白い炎は消えた。
「ふんっ、この程度では……」
クフィンがそう言い、周囲を見たそのとき、青白い炎で燃えた一冊の本が、カーリオへ向けて飛んでいた。
「―――カーリオ!」
カーリオが避けきれないと思ったクフィンは、彼に近づき、左の甲でそれを受けた。
あたった場所が、一瞬、炎で包まれる。
「―――っ!?」
しかし、クフィンはすぐに自分のマントで、腕を包み込んだ。
すると、小さな焦げる匂いと共に煙が僅かに出ていた。
魔法を終えたカーリオが、心配そうにクフィンに話しかけていた。
「クフィン、大丈夫ですか!」
クフィンが左手をマントから出すと、彼の皮手袋が、一部焦げていた。
しかし、彼の手にダメージは、ほとんどなかったようだった。
指を動かし、確認していた。
「……大丈夫だ、ちゃんと動く……それより、本体の特定をしてくれ」
「ええ、任せてください……しかし……助かりました、感謝しますよ」
「この部屋には3人しかいない……お前でも、一応戦力だからな……」
そう言って再び剣を握りなおし、見えない敵の攻撃から2人を守るため、クフィンは戦った。
そして、そんな自警団の青年の後ろで、カーリオはマナサーチを唱えていた。
「……マナサーチ!」
若きバルガの魔道師は、部屋の様子を伺った。
(うーん……―――ん、これは……)
そして何かに気づいた。
「クフィン、敵は一定の間隔で物に乗り移っています!」
「手のかかる相手だな……」
クフィンがそう呟き、再び敵と対峙しようとしたとき、エルディアが魔法を完成させていた。
「クフィン、剣を私の前まで!」
「わかった。カーリオ、敵の相手を頼む」
クフィンに頼まれたカーリオだったが、空中に浮いたペンと本の数を見た彼は、早くも嫌気が差しているようだった。
「……あれをですか……」
そして、2人の前に出たカーリオに、それらが一斉に襲ってきた。
カーリオは、壁にかけてあった美しい女性が描かれた絵を素早く手に取り、楯のようにそれを使った。
すると、次々にペンが絵に刺さっていった。
それを見たカーリオは、なぜか後悔しているようだった。
「ああ……絵とは言え、美女を楯にすることを、どうかお許しください……」
そしてそんな中、エルディアはクフィンの剣に右手の指先を軽く付け、魔法を唱えていた。
「……猛き炎よ、剣に宿れ!―――ファイアーエンチャント!」
彼女が魔法を発動させると、クフィンの剣は赤い光りを放った。
そして「ボッ!」と言う音がした後、剣先へ向け、炎がとぐろを巻きながら刃を包み込んだ。
それを見たクフィンは、驚いた。
「……これは……」
カーリオが振り返り、説明していた。
「それは最新の魔法ですよ!その魔法は魔法の炎を武器に与えると言うものです。それで、本体を捕らえることができれば、倒せると思います……(ふふ……しかし、よく使用できましたね……まだ発見されて、そんなに月日が経っていないはず……流石ですよ……学院長が彼女に目をつけた理由が良く分かりました……)」
そして今度は、宿った炎が消え、僅かな熱と共に赤いオーラがゆらゆらと剣から生み出されていた。
この魔法の存在を知ったエルディアは、「きっと、ユラトとの旅に役立つだろう」と思い、学院の西の敷地に出来た、魔法訓練場にしばらく通っていた。
そして必死になって習得していたのだった。
その思いと才能により、彼女は短期間で、ある程度使えるところまで上達していた。
また、実戦で使用したのは、これが初めてだった。
それだけに、上手くいったことが嬉しかった。
(……良かった……これならユラトを手助けできそう……)
クフィンは、彼女がかけてくれた支援魔法を嬉しそうに見ていた。
「これなら、本体にダメージを与えられそうだ……礼を言うぞ!」
「お礼はいいわ……それより、ここから早く出よう……少しだけど、体が痺れる感覚がある……きっと、ポルターガイストに魔力を吸われ続けているのよ……」
「ああ……お前の言うとおりだ……俺にもその感覚はある……カーリオ、何か策はあるか?」
そうクフィンが聞いたとき、分厚い本の角がカーリオが持っていた絵に当たり、壊れてしまった。
「おっと……これは不味いですね………」
カーリオは、やや名残惜しそうに絵を捨てた。
(私は罪深い男です……美女を捨ててしまうなんて……)
そして、もう一枚絵があることに気が付いた。
「おや……」
そして、すぐにそれを手にした。
2枚目の絵は、幸いなことに風景画だった。
「おお!これなら、存分に使えますね!」
そして彼は2枚目の絵を使って、敵の攻撃を防いながらクフィンに答えていた。
「クフィン、私とエルちゃんとで、時間差をつけて、マナサーチをします。そして、本体が移動した瞬間を捕らえるので、そこをあなたに狙ってもらいたいんですが……出来ますか?」
カーリオからそう尋ねられたクフィンは、エルディアの顔を見た。
エルディアは、少し不安げな表情をしていた。
(そんな、心配そうな顔をするな……俺は、お前を守ると……)
そんな彼女の表情を見たクフィンの体から、戦う意志と力が湧いてきた。
(………決めたんだ!)
剣を握りしめ、クフィンはカーリオを真っ直ぐに見つめ、答えた。
「やるしかないんだろ?……なら、やってやる……」
エルディアは魔法についてクフィンに説明していた。
「クフィン、その剣であまり切り付けると、すぐに効果は無くなってしまうの……だから……」
「じゃあ、こうすればいい……」
そう言うとクフィンは、剣を鞘にしまった。
そして、彼らに襲ってくる物に対して、鞘に入ったまま剣を振り、対処していた。
「長くは出来ん……カーリオ、絵を貸せ。それも使ってなんとかサーチの時間を稼いでみる……」
「わかりました。では、お願いします」
そして、クフィンとカーリオは場所を入れ替わった。
2人の魔法の詠唱が始まり、クフィンはポルターガイストの攻撃をなんとか絵と鞘に入った剣を使いながら、エルディアとカーリオを守っていた。
悪霊は先ほどよりも、この部屋にある物を多く浮かせ、それを彼らに投げつけていた。
すぐに、クフィンの持っていた絵も破壊されるほどだった。
「……なるほど、俺たちの魔力を吸って、よりたくさん物が扱えるようになったか……だが、俺はやられんぞ……」
そう言って今度は、クフィンから動いた。
彼は、地面に落ちている本を素早く拾うと、それを物が固まって浮いている場所へ投げつけた。
すると、当てられた本が壁に衝突し、いくつかの本が床へ落ちた。
そして、すぐに机の上に乗り、飛び上がると、鞘の入ったままの剣を両手で握りしめ、天井へ向かって振り上げた。
「―――はっ!」
再び、いくつかの宙に浮いていた本が落ちた。
そして床に着地すると、青白い鬼火の付いた本が彼を襲ってきたため、クフィンはすぐに剣を横になぎ払った。
剣に本が当たり、飛ばされると壁に衝突し、本は鬼火と共に砕けた。
そして2人の魔道師は、詠唱を終えていた。
最初にサーチを発動させたのは、カーリオだった。
彼は魔法を使用すると、すぐに本体の居場所を突き止めた。
「クフィン!敵は、金の燭台に宿っています!」
クフィンはすぐに、そこを見つめた。
(あれか……)
そして、今度はエルディアがマナサーチを使った。
「……マナサーチ!」
彼女は心を落ち着かせ、目を閉じ、周囲を探った。
するとポルターガイストの存在をすぐに感じることができた。
「―――クフィン!浮いている小さな像に、移動したわ!」
それを聞いたクフィンは、剣を鞘から抜き放ち、素早く机に乗ると、飛び上がり、像に向かって鋭い突きを放った。
(―――これで終わらせる!)
彼の炎を宿らせた剣が、木彫りの馬に乗った騎士の像に当たりそうになった瞬間、その像に本が当たった。
(―――なにっ!)
なんと、本体を攻撃されると思ったポルターガイストは、自身が宿った像に本を当て、自らを移動させていた。
クフィンの渾身の突きは外れた。
(……くそっ……だめか……)
彼が諦めかけたとき、エルディアがクフィンに向かって叫んだ。
「クフィン!念じて炎を打ち出して!」
それを聞いたクフィンは剣を強く握りしめ、心の中で叫んだ。
(―――炎よ、敵を撃て!)
すると彼の剣から、火炎の玉が打ち出された。
(―――これは!?)
そして、それは悪霊が宿っている像に、見事命中した。
像は、炎に包まれた。
そして、そこから青白く光る骸骨を想像させるような霊体の顔が現れた。
苦悶の表情をし、口を大きく開けていた。
そして、いくつもの音が合わさったかのような高い声をあげ、横に伸びながら、それは砕け散った。
すると、宙に浮いていた物が全てそのまま、真下へと落下し始めた。
エルディアたちは、無言でその様子を見ていた。
(……倒せたの?)
(やったのか……?)
(体が先ほどより、軽くなった気がします……)
そして、宙に浮いていた美人画の顔の部分が、ひらひらとカーリオの頭に落ち、頬を伝った。
カーリオは、それを手に取った。
「もてる男は、辛いですね……しかし、私は本物が良いので……申し訳ありませんが……」
そう言って、彼はその絵の切れ端を捨てた。
そして、床に倒れている自警団の青年に声をかけながら、手を差し伸べた。
「クフィン、良く倒せましたね。咄嗟の判断、流石でしたよ」
「……ふんっ、面倒な戦いだった……」
クフィンが立ち上がると、エルディアも2人に歩み寄り、話しかけた。
「……倒せたのかな?」
「魔力を吸われる事がなくなって、先ほどより体が楽になっているはずですよ」
クフィンは、炎の支援魔法が無くなった事を確認すると、ロングソードを鞘に収め、右手をぼんやり眺めていた。
「確かにそうだな……」
そして、エルディアに礼を述べた。
「これも、エルディアの魔法のおかげだ……礼を言うぞ……」
エルディアは、少しだけ柔らかな表情になり、そして微笑んだ。
「そうじゃないわ……3人で上手くやったからよ……2人ともありがとう……」
カーリオも笑みを浮かべながら目を閉じ、同じことを思っていた。
「そうですね……」
クフィンは、エルディアに礼を言われた事と、彼女の笑顔が見れたことで、嬉しそうにしていた。
「ふふ……そうか……ふふ……」
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