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第二十話 フォレシス2
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「あーか…………しーろ…………きーい・ろ!」
ようやく朝日が昇ろうとしている森の中、声を響かせて歩いている者がいた。
その人物はこの辺りの風景には、あまり似つかわしくない者だった。
ふわっとした厚みのローブに身を包み、栗色の髪でくりっとした可愛らしい目を持った女の子だった。
ここは、エルフィニア大陸にある非常に広大な面積をもつ森林地帯。
ウッドエルフの住む集落もあり、冒険者たちが彼らのために暗黒世界の黒い霧を払っている場所でもあった。
女の子は、よく見ると手にメイスを持っていた。
そして先ほどから声を出していたのは、彼女が歩いている場所一面に、様々な色の野イチゴが大量に実っていたからだった。
どうやらその女の子は、歩きながら口に出した色の順番にその実を手に取って食べているようだった。
赤や白、黄色や黒っぽい色の野イチゴがたくさん実っていた。
そして今も、朝露のついた黄色い野イチゴを手に取った。
すると、葉や枝に付いていた朝露の雫が跳ねた。
少しだけ、彼女の手にかかっていたが、その人物は気にする事無く食べていた。
「………うん、美味しい!」
彼女が満足げに言うと、今度は茂みの中から別の人物の声が聞こえた。
「リュシア!あんまり食べると、いざって時に動けなくなるよ。だから、腹の中は常に七分か八分ぐらいにしとくんだ!」
声が聞こえた茂みから続々と人が何人か現れた。
先ほどの女の子に声をかけたのは、白い髪で赤褐色の肌をもった女戦士だった。
そして次に現れたのは、左手の甲に青い模様のある黒髪の剣士風の青年だった。
彼が現れると同時に、先ほどの女の子は、戦士の女に答えていた。
「大丈夫、まだ4分ぐらいだもーん!」
そう言って、次の色の野イチゴを採って食べていた。
それを聞いた黒い髪の剣士は、呟いていた。
「あれだけ食べたのに……」
そして、更に2人同時に男が現れた。
1人は魔道師の男だった。
青い玉の付いたロッドを手に持ち、青緑の帽子と魔道師用のローブに身を包んでいた。
帽子を少し斜めにかぶり、つり目の鋭い目をもった人物でもあった。
そしてもう1人は、森の民と言われるウッドエルフの男だった。
直槍を背中に背負い、エルフらしい細く長い耳を持ち、細身の背の高い人物だった。
そう彼らは、エルフィニア大陸でハイエルフの国を探しているユラト・ファルゼインが所属しているパーティーだった。
ダリオは、リュシアを忌々しげに見つめていた。
「馬鹿みたいに食いやがって……ケッ!これだから、育ち盛りのガキは、嫌なんだよ!」
そして、彼は何かを閃いたらしく、意地悪な表情になった。
「へへっ……」
突然走り出し、リュシアの前まで行くと、彼女が採ろうとしていた場所辺りの野イチゴを手当たり次第摘み取り、自らの口へ運んでいた。
自分が今採ろうとしたものまで盗られたため、リュシアは声を上げた。
「あーー!」
そしてすぐに彼女は両方の頬を膨らませ、ダリオを睨みつけていた。
「むぅー……」
彼女の反応に満足したのか、この大人気ない魔道師の男は満足げに口一杯に野イチゴを頬張りながら、笑い声を上げていた。
「ふぇふぇふぇ!」
しかし、突然彼の表情は一変した。
眉を寄せ、苦しげな表情になっていた。
「………!?………うぇ……すっぺぇ……」
どうやら、手当たり次第だったのが災いしたらしく、甘いものだけではなく、まだ未完熟なものまで口の中へ入れていたようだった。
リュシアはダリオに顔を背けた。
「罰が当たったんです!」
ダリオは吐き出した後、口元を拭きながら座り込んでしまった。
「くそっ!……」
そんな2人の下へ、レクスがやって来た。
「2人とも、あまり無駄に食べないでくれ。森の恵みは、この森全体の生き物で分かち合うのが原則なんだ」
リュシアはすぐに返事を返していた。
「はーーい!」
そんなダリオをユラトは呆れ顔で見ていた。
(ダリオさん………何をして……)
ジルメイダは叫んでいた。
「目的の場所が近いってのに……全く……何やってんだい!!」
ユラトたちは、今、冒険者の中で『ラッシュ』と言われる状態の中にあった。
【ラッシュ】
元々は金鉱山などの金脈が見つかり、その金を求めて人々が殺到することをゴールドラッシュと呼んでいた。
しかし、この世界では、いつの間にか冒険者たちが暗黒世界で霧を払っていく中でお金になる物が次々と見つかっていく状態をラッシュを呼ぶようになっていた。
金貨などのお金がたくさん見つかる場合は、その周辺に大量のボーグルが住んでいると言われている。
またアイテムの場合は、ハッグなどがいる場合も多い。
ユラトたちは、『アイテムラッシュ』と言う状態の中にいた。
彼らが今いる場所は、ウディル村から徒歩で一週間はかかる場所だった。
この森一帯を覆っていた黒い霧は、かなりの範囲まで払われ、そして調べられていた。
しかし、相変わらずハイエルフの国に関する情報は一つも見つかる事無く、彼らは冒険を続けることになっていた。
今日は昨日と合わせて3つ目の聖石を使用したところだった。
昨日使った聖石で払われた黒い霧の範囲は、かなりの範囲に渡っていたため、丸一日費やすことになっていた。
しかし、様々なアイテムが見つかっていた。
武器や防具、貴金属、高価な雑貨などがあった。
そして今日の朝、先ほど聖石を使用して黒い霧を払い、サーチを試みた結果、この辺りにもいくつかアイテムの反応があった。
しかも、固まって存在しているようだった。
ユラトはダリオに近づき、手を差し伸べた。
「ダリオさん、行きましょう」
「ふんっ!」
ダリオは渋々といった感じで帽子をかぶりなおすと彼の手を取り、立ち上がった。
そして彼らは、目的の場所へと進んだ。
この辺りには、先ほどから実をつけた野イチゴが茂る場所だった。
レクスは、周囲にある野イチゴを見て、何かに気付いているようだった。
(………これは……恐らく、人の手が加えられている場所だ……野イチゴの木の間隔が、人為的なものを感じる……)
朝の光が強くなってきた。
辺りの植物に付着している水滴が輝きを増し、きらきらと朝日によって照らされていた。
ユラトたちは、そんな森の中を歩いた。
そして、目的の場所付近に到着すると、ジルメイダがそのことをダリオに確認していた。
「ダリオ、そろそろ目的の場所辺りだね?」
ダリオは周囲を見回してから答えた。
「ああ……そうだ」
「じゃあ、マナサーチを頼むよ」
ダリオはロッドを手に取り、魔法の詠唱を始めようとしたが、何かを思いついた。
(……そうだ……)
そして、魔法を中断するとリュシアに話しかけた。
「おい、リュシア!お前がマナサーチをやってみろ」
最近ダリオは、リュシアが1人でも生きていけるように、マナサーチの魔法も教えていた。
そして彼女は、マナサーチをなんとか使いこなせるぐらいまで上達していたのだった。
リュシアはメイスを手に取り、返事をした。
「はい!」
そしてリュシアがマナサーチの詠唱を始める。
その様子をジルメイダは、母親の様な表情で見ていた。
(ダリオの奴……ふふ……上手く教えているようだね……しかし……この娘……飲み込みの速さは、かなりのもんだね……)
ダリオは、そんなリュシアを真剣な目で見ていた。
(こいつ……やっぱり俺が思った通り、綿が水を吸収するみてえに、どんどん吸収していきやがる……これが、俗に言う『天賦の才』って奴か……初めて実感したぜ……魔法を覚えるのに俺は、お前の倍以上かかったってのによ………ケッ!)
そしてリュシアは、マナサーチを発動させた。
「―――マナサーチ!」
メイスの先端にあるファルバーンの神像部分から光が四方へ放たれた。
彼女は目を閉じ、周囲の状況を感じていた。
すぐにリュシアのは、何かを感じた。
「………すぐ近くにさっきダリオさんが言ってたアイテムを複数感じます!……えっと……それから……」
そこで彼女の表情が曇った。
「……あっ……なんかいます!そのアイテムの近く……ああっ!こっちに走ってきます!」
ここでサーチの効果は切れた。
リュシアのマナサーチの結果に、他の4人は驚いた。
そしてジルメイダは、すぐにダリオに話しかけていた。
「―――どういうことだい!?」
「俺が調べた時は、アイテム以外何も感じなかったんだが………」
少し離れていたユラトは、ジルメイダやダリオがいる所へ近づき話しかけた。
「ここまで移動しているときに、黒い霧から現れたのかな?」
槍を手に持ったレクスがその問いに答えていた。
「恐らくそうだろう……そろそろ来るのではないか?」
ジルメイダは、すぐに決めていた。
「ここで迎え撃つ!茂みに隠れな!戦いの合図は、あたしが切り込んだら、それが合図だ!」
ダリオは、リュシアと共に、ユラトやジルメイダよりは後方へ隠れた。
そして、大きさについてダリオは尋ねた。
「リュシア、大きさは感じたのか?」
リュシアは、自分が隠れる茂みの前で、メイスを両手で握りしめながら答えた。
「多分ですけど………お馬さんぐらいです……」
それを聞いてユラトは、少し不安に思った。
(結構大きいな………)
すると近くで隠れているジルメイダが、ユラトとレクスに話しかけた。
「あたしが注意を引く、敵の足を狙っておくれ!」
2人は、無言で頷いた。
ここに来るまでにユラトたちのパーティーは、何度か魔物と戦闘があった。
しかし、どれも今回の敵ほどの大きさではなかったため、ユラトは不安に思っていたのだった。
(………一瞬で決まることが多いからな……最初から思いっきり強く、切りつけるか……)
ショートソードを強く握りしめた。
朝の日差しが森の中に差し込み、鳥たちの鳴声もあった。
辺りは、野イチゴと木々の茂る森。
ダリオとリュシアは、魔法の詠唱を始めていた。
そして敵と思われるものは、やってきた。
彼らの目の前の茂みが、ざわついたと思った瞬間、敵は飛び跳ねるように現れた。
(―――来た!)
ユラトが見たものは、初めて見るものだった。
(………あれは……)
その姿は、角を持った牡鹿のようだった。
しかし、通常の鹿とは決定的に違うところがあった。
それは、鹿の背中に二枚の翼があることだった。
大きく立派な牡鹿の象徴である角があり、体は淡い緑色で胸元は羽毛で覆われ、体から翼にかけて色が変わっていき、翼は淡い水色の羽だった。
そして黒い霧の影響からか、真っ赤な瞳をもっていた。
ジルメイダは、すぐに剣を抜き放つと正面へ出て、敵の注目を自分へ向けさせた。
「あたしが、あんたの相手だ!」
そしてレクスが叫んだ。
「そのモンスターは、『ペリュトン』だ!」
ユラトは、ジルメイダに言われた通り、側面から出て、敵の足元を切りつけた。
しかし、「バサッ!」と言う音を立て、ペリュトンは翼を広げ、すでに飛び上がっていた。
その高さは、レクスやジルメイダよりも高かった。
ユラトの攻撃は軽く、かわされた。
しかも、飛び上がるときに、後ろ足でユラトの肩辺りを軽く蹴り上げていた。
ユラトは、後方へ体勢を崩しながら飛ばされそうになった。
「―――くっ!」
彼は、これ以上崩されまいと、剣を地面に刺し、なんとか耐え凌いだ。
敵の跳躍力にユラトは驚いた。
(一瞬で……あんなに高く………)
ジルメイダは、レクスの名を叫んだ。
「レクス!」
ウッドエルフの男は木に飛び上がり、答えた。
「目を見ろ、すでに敵として我々を殺すつもりのようだ。倒しても構わん!それは我々が、肉などを得るときに狩るものでもあるんだ!」
【ペリュトン】
古代にオリディオール島の東に『アトラ大陸』と言う広大な大陸があった。
そこに群れで生息していたと言われている。
見た目は二枚の翼を持った牡鹿。
色は体が緑色で翼は青い。
体は年月が経つほど色が濃くなっていく。
胸元から翼にかけて羽毛が生えている。
人の形の影を持ち、何か生き物を殺すことで、影が通常に戻る。
通常の影の時、ペリュトンは全体の力を上昇させる事ができる。
そしてしばらく時間が経つと、影は再び人の形に戻る。
なぜ影が人の形をしているのかについては、様々な話があり、有力な物としては、はるか遠くへ故郷から離れてしまった人の霊がこの生き物に乗り移り、帰ろうとしていると言う話があった。
魔物図鑑には怪鳥として分類されている。
ダリオがリュシアと共に茂みから現れた。
そして、ダリオが魔法を発動させた。
「―――サンドフェッター!」
ペリュトンが地面に着地すると同時に、砂が一瞬舞い上がったかと思うと、足に纏わり付いた。
ペリュトンは、足を動かし、翼をバタつかせた。
すると風が起こり、地面の砂や落ち葉を巻き上がらせていた。
そんな中、その風を受けながらリュシアが顔をしかめ、ファイアーボールの魔法を放った。
「敵に炎の一撃を!―――ファイアーボール!」
片手でなんとか持てるほどの大きさの火の玉が、魔物へ向った。
リュシアの火の魔法は、見事ペリュトンの頭に命中する。
小さな爆発が起こった。
煙が僅かに出て、それが収まると、ペリュトンの頭部を焦がしていた。
ペリュトンは、馬のいななきような声を出すと、先ほどよりも強く羽根を羽ばたかせ始めた。
「仕留め方は、私が知っている!頭を押さえてくれ!」
レクスが木の上から、そう叫んだ。
それを聞いたジルメイダは、すぐに剣を鞘に収めると、ペリュトンに近づき、角を両手で持った。
しかし、ペリュトンは力強く角を動かし、バルガの女戦士を持ち上げようとしていた。
ジルメイダは、予想を超えた力に驚いた。
「……なんて力なんだい!―――ユラト!手伝っておくれ!」
ペリュトンは、鼻息を荒くさせ、前足を地面に何度も擦り付けていた。
ユラトは、すぐにジルメイダとペリュトンがいる場所へたどり着くと、角の片側を押さえた。
しかし、この牡鹿のような魔物は、頭をすくい上げようと、力いっぱい抵抗してきた。
「ここが踏ん張りどころだ!力を出し続けな!」
ユラトは歯を食いしばりなら、懸命に頭を押さえようとした。
「―――くそっ!凄い力だ………」
ユラトとジルメイダの体が一瞬地面から離れそうになった。
ユラトは思わず声を上げてしまう。
「おっと!……これは……」
その時、リュシアが二発目のファイアーボールを体に放った。
「―――ファイアーボール!」
ペリュトンは、一瞬力を失った。
ユラトとジルメイダは、その隙を逃さず、全体重をかけ、頭を押さえた。
そして頭が地面に近づいた瞬間、レクスが槍先をペリュトンの首に向けながら、木から飛び降りた。
「―――はあ!」
森の戦士の槍は、見事に敵をとらえた。
ペリュトンは、ウッドエルフの男に首を貫かれ、息絶えた。
力が急速に無くなっていくのを感じたユラトとジルメイダは、角から手を離した。
地面に倒れる瞬間のペリュトンの影は人の形をしていた。
ユラトは、倒された魔物を見ながら一息ついた。
「…………ふぅ……」
ジルメイダは、パーティーメンバーの安全を確認すると、先へ進む事を促した。
「みんな大丈夫みたいだね。先へ進むよ!」
ユラトがアイテムが存在している場所へ向って歩こうとしたとき、レクスが彼らを呼び止めた。
「………待ってくれ!」
ユラト達は振り返った。
そして、リュシアが尋ねていた。
「レクスさん……どうしたんですか?」
レクスはペリュトンの亡骸の前で、しゃがみながら話した。
「ペリュトンは、利用価値の高い動物でもあるんだ。肉は食べられるし、羽根は矢羽に使える。それから角は、病気に利き、皮はなめせば良い革の鎧が作れるんだ。だから、とりあえず、肉だけでも手に入れておかないか?」
ダリオは、眉をひそめながらペリュトンに近づくと、レクスに話しかけた。
「こいつ食えるのか?………まあ、鹿肉と思えば、食えるのか……」
レクスは答えた。
「鹿肉と鶏肉を併せ持ったような味だ。干し肉にすると美味いんだ」
それを聞いたリュシアは、嬉しそうにしていた。
「そうなんですか!(ちょっと食べてみたくなった……)」
ユラトは、食料の確保はしておいたほうが良いと思った。
「ジルメイダ、これから先のことを考えると、食料はあった方がいいと思う。村からここまでかなりの距離だし、持ってきた非常食は、出来る限り節約したいしね」
ジルメイダは腕を組み考えていたが、すぐに決めたようだった。
「……そうだね。じゃあ、レクス。悪いけど、その魔物の解体を頼めるかい?」
「ああ、言い出したのは私だ。だが、少し時間がかかる。お前たちは、サーチで感じたアイテムのところへ行ってくれ」
「お宝は手に入るし、肉は食えるし、今日はついてるぜ!ははっ!」
ダリオは、上機嫌になっていた。
そして、ユラトたちはレクスを残し、先へ進んだ。
先ほどと変わらぬ野イチゴが茂る森の中を進むと、草の茂っていない、道のようなものがある場所に出てきた。
ダリオがしゃがんで、その道を手で触っていた。
「こりゃあ、獣道じゃねぇな……」
ジルメイダは、その道を見つめながら、ヴァベルの娘に話しかけた。
「リュシア、アイテムを感じた場所はどこだい?」
リュシアは、すぐに答えた。
「えっと……そっち!」
彼女が指差したのは、彼らの目の前にある道の先にある茂みだった。
ユラトは、リュシアが指差した方向を見ていた。
「この先か……」
そしてダリオが歩き出した。
「よしお前ら、行こうぜ!」
ユラトとリュシアは返事をし、ジルメイダと共に茂みの中へ入った。
そして、茂みはすぐに途切れていて、そこを抜けると、彼らの目の前に見えたのは、人が住んでいたと思われる集落のような場所だった。
森の中の茂みから突然現れた集落に、ユラトは驚いた。
「これは……」
その集落は、木の中をくり貫いて造ってある家が集まっている場所だった。
ダリオは、一つ一つの家を見ながらユラトたちに話しかけていた。
「こりゃあ……昔の奴らが住んでいた場所だな……」
中心の少し窪んだところに地肌の見えた広間のような場所があり、その真ん中に井戸があった。
そして、広間を囲むように木の家がいくつか存在していた。
木の一本一本は、家になるほどであったため、非常に太く大きな木だった。
そして木の家には、ドアや窓や煙突もあった。
全ての木に、びっしりと濃い緑色の苔が生え、枝にはつる草が撒きつき、小さな赤い花を咲かせていた。
良く見ると、どの木も形に違いがあり、その木の形にそって家は造られているようだった。
ジルメイダもダリオと同じように集落の全体を眺めていた。
「この家のどれかにお宝があるってことかい……ちょっと面倒だね……」
リュシアは、嬉しそうに家を見ていた。
(木のお家!………ちょっと住んでみたい……)
ユラトはダリオに話しかけた。
「ダリオさん、どうします?手分けして探しますか?」
ダリオは、少しだけ考えてからユラトに話しかけた。
「(このガキも鍛えて役に立ってもらわなきゃならねえからな………よし……)その前に、ユラト。今度は、お前がマナサーチをやれ」
ダリオは、ユラトのマナサーチの精度を上げさせておくことも忘れていなかったようだった。
ユラトはその事を理解し、サーチを唱えることにした。
「わかりました。やってみます」
そして、精神を魔法に集中させようとしたとき、木の家がある後ろの茂みが、音を立て始めた。
彼らは、すぐにそこへ視線を向けた。
「………?」
ユラトも魔法を中断し、その場所を見つめた。
「………ん。何かいるのか?」
すると茂みの中から、一匹の魔物が現れていた。
木の家の影で、その姿は良くは分からなかったが、かなりの大きさがありそうだった。
その大きさに気付いた4人の表情が強張った。
「―――こいつは……」
ジルメイダが、叫んだ。
「―――敵だ!!リュシアとダリオは、後方へ!ユラトはあたしの隣に!」
すぐにユラトたちは動いた。
ジルメイダとユラトは剣を抜き放ち構え、ダリオはロッドを手に持ち、後方を見た。
リュシアは、メイスを両手で握りしめながら、魔法の準備にはいった。
謎の魔物らしきものは、ユラトたちに気付いたのか一瞬、動きを止めた。
しかし、すぐにゆっくりと冒険者たちの所へ向って歩いてきた。
どうやら相手は四本足の魔物ようだった。
大きさは馬車ほどの大きさがあった。
そして敵と思われるものの姿が見え始めた。
黒い影から現れたのは、野牛のような姿の生き物だった。
頭には左右に分かれた太く鋭い角、体は黒っぽい緑色で背中には棘のある鱗があった。
顔は獅子に近い顔で、足の指先の爪は鷹のような爪を持ち、鋭い眼差しをユラトたちへ向けながら、現れた時と同じ速度で、ゆっくりと近づいてきた。
ジルメイダは、小さな声でダリオに尋ねた。
「ダリオ、こいつは何か知っているかい?」
ダリオは、顔を左右に振り答えた。
「………わからねぇ……見たことも聞いたこともねぇぞ……」
ユラトは、息を呑んだ。
(………2人は知らないのか……レクスさんがいてくれたら……)
ジルメイダは、この未知の相手をどうするか考えようとした。
そのとき、なんと、この謎の生き物がユラトたちに話しかけてきた。
それは低く落ち着いた太い声だった。
「ふむ……その姿……聞いたことがある……お前たちは………人間と言う奴か?………ここで何をしている?」
4人は、驚いた。
「―――!?」
そしてジルメイダは、苦笑した。
「ふふっ……こりゃあ、たまげたね………人の言葉を喋るってのかい……」
ユラトは、この魔物と戦いになるのなら、強敵になると思った。
(こいつ……高い知性があるのか………)
ダリオも、更なる危険を察知しているようだった。
(魔法も使用してくるかもしれん……こいつぁ………不味いぞ……)
ユラトたちが警戒している中、謎の魔物は先ほどと同じように、落ち着いた声で話しかけてきた。
「もう一度問う………お前たちは何者で、何が目的でここにいる?」
剣を構えたまま、ジルメイダが答えた。
「あたしたちは、人間と言う光の種族だ。目的は、この世界に漂っている黒い霧を払い、光ある世界を再び取り戻すことだ。そのために、冒険者と言う存在になってここまで来たのさ」
謎の魔物は、小さく笑った。
「ふふっ……やはり人だったか。この辺りに漂っていた霧を晴らしたのもお前たちか………」
ユラトが思わず答えていた。
「そうだ!」
そこで謎の魔物は動きを見せた。
ユラトの声に反応し、警戒するのかと4人は思った。
しかし、彼らの予想に反し、魔物はその場に座り込んだ。
そしてユラトに話しかけてきた。
「……若者よ、そういきり立つな。私は、光にも闇にも属さないものだ。だからまずは、武器を仕舞え……それが礼儀ではないか?」
ようやく朝日が昇ろうとしている森の中、声を響かせて歩いている者がいた。
その人物はこの辺りの風景には、あまり似つかわしくない者だった。
ふわっとした厚みのローブに身を包み、栗色の髪でくりっとした可愛らしい目を持った女の子だった。
ここは、エルフィニア大陸にある非常に広大な面積をもつ森林地帯。
ウッドエルフの住む集落もあり、冒険者たちが彼らのために暗黒世界の黒い霧を払っている場所でもあった。
女の子は、よく見ると手にメイスを持っていた。
そして先ほどから声を出していたのは、彼女が歩いている場所一面に、様々な色の野イチゴが大量に実っていたからだった。
どうやらその女の子は、歩きながら口に出した色の順番にその実を手に取って食べているようだった。
赤や白、黄色や黒っぽい色の野イチゴがたくさん実っていた。
そして今も、朝露のついた黄色い野イチゴを手に取った。
すると、葉や枝に付いていた朝露の雫が跳ねた。
少しだけ、彼女の手にかかっていたが、その人物は気にする事無く食べていた。
「………うん、美味しい!」
彼女が満足げに言うと、今度は茂みの中から別の人物の声が聞こえた。
「リュシア!あんまり食べると、いざって時に動けなくなるよ。だから、腹の中は常に七分か八分ぐらいにしとくんだ!」
声が聞こえた茂みから続々と人が何人か現れた。
先ほどの女の子に声をかけたのは、白い髪で赤褐色の肌をもった女戦士だった。
そして次に現れたのは、左手の甲に青い模様のある黒髪の剣士風の青年だった。
彼が現れると同時に、先ほどの女の子は、戦士の女に答えていた。
「大丈夫、まだ4分ぐらいだもーん!」
そう言って、次の色の野イチゴを採って食べていた。
それを聞いた黒い髪の剣士は、呟いていた。
「あれだけ食べたのに……」
そして、更に2人同時に男が現れた。
1人は魔道師の男だった。
青い玉の付いたロッドを手に持ち、青緑の帽子と魔道師用のローブに身を包んでいた。
帽子を少し斜めにかぶり、つり目の鋭い目をもった人物でもあった。
そしてもう1人は、森の民と言われるウッドエルフの男だった。
直槍を背中に背負い、エルフらしい細く長い耳を持ち、細身の背の高い人物だった。
そう彼らは、エルフィニア大陸でハイエルフの国を探しているユラト・ファルゼインが所属しているパーティーだった。
ダリオは、リュシアを忌々しげに見つめていた。
「馬鹿みたいに食いやがって……ケッ!これだから、育ち盛りのガキは、嫌なんだよ!」
そして、彼は何かを閃いたらしく、意地悪な表情になった。
「へへっ……」
突然走り出し、リュシアの前まで行くと、彼女が採ろうとしていた場所辺りの野イチゴを手当たり次第摘み取り、自らの口へ運んでいた。
自分が今採ろうとしたものまで盗られたため、リュシアは声を上げた。
「あーー!」
そしてすぐに彼女は両方の頬を膨らませ、ダリオを睨みつけていた。
「むぅー……」
彼女の反応に満足したのか、この大人気ない魔道師の男は満足げに口一杯に野イチゴを頬張りながら、笑い声を上げていた。
「ふぇふぇふぇ!」
しかし、突然彼の表情は一変した。
眉を寄せ、苦しげな表情になっていた。
「………!?………うぇ……すっぺぇ……」
どうやら、手当たり次第だったのが災いしたらしく、甘いものだけではなく、まだ未完熟なものまで口の中へ入れていたようだった。
リュシアはダリオに顔を背けた。
「罰が当たったんです!」
ダリオは吐き出した後、口元を拭きながら座り込んでしまった。
「くそっ!……」
そんな2人の下へ、レクスがやって来た。
「2人とも、あまり無駄に食べないでくれ。森の恵みは、この森全体の生き物で分かち合うのが原則なんだ」
リュシアはすぐに返事を返していた。
「はーーい!」
そんなダリオをユラトは呆れ顔で見ていた。
(ダリオさん………何をして……)
ジルメイダは叫んでいた。
「目的の場所が近いってのに……全く……何やってんだい!!」
ユラトたちは、今、冒険者の中で『ラッシュ』と言われる状態の中にあった。
【ラッシュ】
元々は金鉱山などの金脈が見つかり、その金を求めて人々が殺到することをゴールドラッシュと呼んでいた。
しかし、この世界では、いつの間にか冒険者たちが暗黒世界で霧を払っていく中でお金になる物が次々と見つかっていく状態をラッシュを呼ぶようになっていた。
金貨などのお金がたくさん見つかる場合は、その周辺に大量のボーグルが住んでいると言われている。
またアイテムの場合は、ハッグなどがいる場合も多い。
ユラトたちは、『アイテムラッシュ』と言う状態の中にいた。
彼らが今いる場所は、ウディル村から徒歩で一週間はかかる場所だった。
この森一帯を覆っていた黒い霧は、かなりの範囲まで払われ、そして調べられていた。
しかし、相変わらずハイエルフの国に関する情報は一つも見つかる事無く、彼らは冒険を続けることになっていた。
今日は昨日と合わせて3つ目の聖石を使用したところだった。
昨日使った聖石で払われた黒い霧の範囲は、かなりの範囲に渡っていたため、丸一日費やすことになっていた。
しかし、様々なアイテムが見つかっていた。
武器や防具、貴金属、高価な雑貨などがあった。
そして今日の朝、先ほど聖石を使用して黒い霧を払い、サーチを試みた結果、この辺りにもいくつかアイテムの反応があった。
しかも、固まって存在しているようだった。
ユラトはダリオに近づき、手を差し伸べた。
「ダリオさん、行きましょう」
「ふんっ!」
ダリオは渋々といった感じで帽子をかぶりなおすと彼の手を取り、立ち上がった。
そして彼らは、目的の場所へと進んだ。
この辺りには、先ほどから実をつけた野イチゴが茂る場所だった。
レクスは、周囲にある野イチゴを見て、何かに気付いているようだった。
(………これは……恐らく、人の手が加えられている場所だ……野イチゴの木の間隔が、人為的なものを感じる……)
朝の光が強くなってきた。
辺りの植物に付着している水滴が輝きを増し、きらきらと朝日によって照らされていた。
ユラトたちは、そんな森の中を歩いた。
そして、目的の場所付近に到着すると、ジルメイダがそのことをダリオに確認していた。
「ダリオ、そろそろ目的の場所辺りだね?」
ダリオは周囲を見回してから答えた。
「ああ……そうだ」
「じゃあ、マナサーチを頼むよ」
ダリオはロッドを手に取り、魔法の詠唱を始めようとしたが、何かを思いついた。
(……そうだ……)
そして、魔法を中断するとリュシアに話しかけた。
「おい、リュシア!お前がマナサーチをやってみろ」
最近ダリオは、リュシアが1人でも生きていけるように、マナサーチの魔法も教えていた。
そして彼女は、マナサーチをなんとか使いこなせるぐらいまで上達していたのだった。
リュシアはメイスを手に取り、返事をした。
「はい!」
そしてリュシアがマナサーチの詠唱を始める。
その様子をジルメイダは、母親の様な表情で見ていた。
(ダリオの奴……ふふ……上手く教えているようだね……しかし……この娘……飲み込みの速さは、かなりのもんだね……)
ダリオは、そんなリュシアを真剣な目で見ていた。
(こいつ……やっぱり俺が思った通り、綿が水を吸収するみてえに、どんどん吸収していきやがる……これが、俗に言う『天賦の才』って奴か……初めて実感したぜ……魔法を覚えるのに俺は、お前の倍以上かかったってのによ………ケッ!)
そしてリュシアは、マナサーチを発動させた。
「―――マナサーチ!」
メイスの先端にあるファルバーンの神像部分から光が四方へ放たれた。
彼女は目を閉じ、周囲の状況を感じていた。
すぐにリュシアのは、何かを感じた。
「………すぐ近くにさっきダリオさんが言ってたアイテムを複数感じます!……えっと……それから……」
そこで彼女の表情が曇った。
「……あっ……なんかいます!そのアイテムの近く……ああっ!こっちに走ってきます!」
ここでサーチの効果は切れた。
リュシアのマナサーチの結果に、他の4人は驚いた。
そしてジルメイダは、すぐにダリオに話しかけていた。
「―――どういうことだい!?」
「俺が調べた時は、アイテム以外何も感じなかったんだが………」
少し離れていたユラトは、ジルメイダやダリオがいる所へ近づき話しかけた。
「ここまで移動しているときに、黒い霧から現れたのかな?」
槍を手に持ったレクスがその問いに答えていた。
「恐らくそうだろう……そろそろ来るのではないか?」
ジルメイダは、すぐに決めていた。
「ここで迎え撃つ!茂みに隠れな!戦いの合図は、あたしが切り込んだら、それが合図だ!」
ダリオは、リュシアと共に、ユラトやジルメイダよりは後方へ隠れた。
そして、大きさについてダリオは尋ねた。
「リュシア、大きさは感じたのか?」
リュシアは、自分が隠れる茂みの前で、メイスを両手で握りしめながら答えた。
「多分ですけど………お馬さんぐらいです……」
それを聞いてユラトは、少し不安に思った。
(結構大きいな………)
すると近くで隠れているジルメイダが、ユラトとレクスに話しかけた。
「あたしが注意を引く、敵の足を狙っておくれ!」
2人は、無言で頷いた。
ここに来るまでにユラトたちのパーティーは、何度か魔物と戦闘があった。
しかし、どれも今回の敵ほどの大きさではなかったため、ユラトは不安に思っていたのだった。
(………一瞬で決まることが多いからな……最初から思いっきり強く、切りつけるか……)
ショートソードを強く握りしめた。
朝の日差しが森の中に差し込み、鳥たちの鳴声もあった。
辺りは、野イチゴと木々の茂る森。
ダリオとリュシアは、魔法の詠唱を始めていた。
そして敵と思われるものは、やってきた。
彼らの目の前の茂みが、ざわついたと思った瞬間、敵は飛び跳ねるように現れた。
(―――来た!)
ユラトが見たものは、初めて見るものだった。
(………あれは……)
その姿は、角を持った牡鹿のようだった。
しかし、通常の鹿とは決定的に違うところがあった。
それは、鹿の背中に二枚の翼があることだった。
大きく立派な牡鹿の象徴である角があり、体は淡い緑色で胸元は羽毛で覆われ、体から翼にかけて色が変わっていき、翼は淡い水色の羽だった。
そして黒い霧の影響からか、真っ赤な瞳をもっていた。
ジルメイダは、すぐに剣を抜き放つと正面へ出て、敵の注目を自分へ向けさせた。
「あたしが、あんたの相手だ!」
そしてレクスが叫んだ。
「そのモンスターは、『ペリュトン』だ!」
ユラトは、ジルメイダに言われた通り、側面から出て、敵の足元を切りつけた。
しかし、「バサッ!」と言う音を立て、ペリュトンは翼を広げ、すでに飛び上がっていた。
その高さは、レクスやジルメイダよりも高かった。
ユラトの攻撃は軽く、かわされた。
しかも、飛び上がるときに、後ろ足でユラトの肩辺りを軽く蹴り上げていた。
ユラトは、後方へ体勢を崩しながら飛ばされそうになった。
「―――くっ!」
彼は、これ以上崩されまいと、剣を地面に刺し、なんとか耐え凌いだ。
敵の跳躍力にユラトは驚いた。
(一瞬で……あんなに高く………)
ジルメイダは、レクスの名を叫んだ。
「レクス!」
ウッドエルフの男は木に飛び上がり、答えた。
「目を見ろ、すでに敵として我々を殺すつもりのようだ。倒しても構わん!それは我々が、肉などを得るときに狩るものでもあるんだ!」
【ペリュトン】
古代にオリディオール島の東に『アトラ大陸』と言う広大な大陸があった。
そこに群れで生息していたと言われている。
見た目は二枚の翼を持った牡鹿。
色は体が緑色で翼は青い。
体は年月が経つほど色が濃くなっていく。
胸元から翼にかけて羽毛が生えている。
人の形の影を持ち、何か生き物を殺すことで、影が通常に戻る。
通常の影の時、ペリュトンは全体の力を上昇させる事ができる。
そしてしばらく時間が経つと、影は再び人の形に戻る。
なぜ影が人の形をしているのかについては、様々な話があり、有力な物としては、はるか遠くへ故郷から離れてしまった人の霊がこの生き物に乗り移り、帰ろうとしていると言う話があった。
魔物図鑑には怪鳥として分類されている。
ダリオがリュシアと共に茂みから現れた。
そして、ダリオが魔法を発動させた。
「―――サンドフェッター!」
ペリュトンが地面に着地すると同時に、砂が一瞬舞い上がったかと思うと、足に纏わり付いた。
ペリュトンは、足を動かし、翼をバタつかせた。
すると風が起こり、地面の砂や落ち葉を巻き上がらせていた。
そんな中、その風を受けながらリュシアが顔をしかめ、ファイアーボールの魔法を放った。
「敵に炎の一撃を!―――ファイアーボール!」
片手でなんとか持てるほどの大きさの火の玉が、魔物へ向った。
リュシアの火の魔法は、見事ペリュトンの頭に命中する。
小さな爆発が起こった。
煙が僅かに出て、それが収まると、ペリュトンの頭部を焦がしていた。
ペリュトンは、馬のいななきような声を出すと、先ほどよりも強く羽根を羽ばたかせ始めた。
「仕留め方は、私が知っている!頭を押さえてくれ!」
レクスが木の上から、そう叫んだ。
それを聞いたジルメイダは、すぐに剣を鞘に収めると、ペリュトンに近づき、角を両手で持った。
しかし、ペリュトンは力強く角を動かし、バルガの女戦士を持ち上げようとしていた。
ジルメイダは、予想を超えた力に驚いた。
「……なんて力なんだい!―――ユラト!手伝っておくれ!」
ペリュトンは、鼻息を荒くさせ、前足を地面に何度も擦り付けていた。
ユラトは、すぐにジルメイダとペリュトンがいる場所へたどり着くと、角の片側を押さえた。
しかし、この牡鹿のような魔物は、頭をすくい上げようと、力いっぱい抵抗してきた。
「ここが踏ん張りどころだ!力を出し続けな!」
ユラトは歯を食いしばりなら、懸命に頭を押さえようとした。
「―――くそっ!凄い力だ………」
ユラトとジルメイダの体が一瞬地面から離れそうになった。
ユラトは思わず声を上げてしまう。
「おっと!……これは……」
その時、リュシアが二発目のファイアーボールを体に放った。
「―――ファイアーボール!」
ペリュトンは、一瞬力を失った。
ユラトとジルメイダは、その隙を逃さず、全体重をかけ、頭を押さえた。
そして頭が地面に近づいた瞬間、レクスが槍先をペリュトンの首に向けながら、木から飛び降りた。
「―――はあ!」
森の戦士の槍は、見事に敵をとらえた。
ペリュトンは、ウッドエルフの男に首を貫かれ、息絶えた。
力が急速に無くなっていくのを感じたユラトとジルメイダは、角から手を離した。
地面に倒れる瞬間のペリュトンの影は人の形をしていた。
ユラトは、倒された魔物を見ながら一息ついた。
「…………ふぅ……」
ジルメイダは、パーティーメンバーの安全を確認すると、先へ進む事を促した。
「みんな大丈夫みたいだね。先へ進むよ!」
ユラトがアイテムが存在している場所へ向って歩こうとしたとき、レクスが彼らを呼び止めた。
「………待ってくれ!」
ユラト達は振り返った。
そして、リュシアが尋ねていた。
「レクスさん……どうしたんですか?」
レクスはペリュトンの亡骸の前で、しゃがみながら話した。
「ペリュトンは、利用価値の高い動物でもあるんだ。肉は食べられるし、羽根は矢羽に使える。それから角は、病気に利き、皮はなめせば良い革の鎧が作れるんだ。だから、とりあえず、肉だけでも手に入れておかないか?」
ダリオは、眉をひそめながらペリュトンに近づくと、レクスに話しかけた。
「こいつ食えるのか?………まあ、鹿肉と思えば、食えるのか……」
レクスは答えた。
「鹿肉と鶏肉を併せ持ったような味だ。干し肉にすると美味いんだ」
それを聞いたリュシアは、嬉しそうにしていた。
「そうなんですか!(ちょっと食べてみたくなった……)」
ユラトは、食料の確保はしておいたほうが良いと思った。
「ジルメイダ、これから先のことを考えると、食料はあった方がいいと思う。村からここまでかなりの距離だし、持ってきた非常食は、出来る限り節約したいしね」
ジルメイダは腕を組み考えていたが、すぐに決めたようだった。
「……そうだね。じゃあ、レクス。悪いけど、その魔物の解体を頼めるかい?」
「ああ、言い出したのは私だ。だが、少し時間がかかる。お前たちは、サーチで感じたアイテムのところへ行ってくれ」
「お宝は手に入るし、肉は食えるし、今日はついてるぜ!ははっ!」
ダリオは、上機嫌になっていた。
そして、ユラトたちはレクスを残し、先へ進んだ。
先ほどと変わらぬ野イチゴが茂る森の中を進むと、草の茂っていない、道のようなものがある場所に出てきた。
ダリオがしゃがんで、その道を手で触っていた。
「こりゃあ、獣道じゃねぇな……」
ジルメイダは、その道を見つめながら、ヴァベルの娘に話しかけた。
「リュシア、アイテムを感じた場所はどこだい?」
リュシアは、すぐに答えた。
「えっと……そっち!」
彼女が指差したのは、彼らの目の前にある道の先にある茂みだった。
ユラトは、リュシアが指差した方向を見ていた。
「この先か……」
そしてダリオが歩き出した。
「よしお前ら、行こうぜ!」
ユラトとリュシアは返事をし、ジルメイダと共に茂みの中へ入った。
そして、茂みはすぐに途切れていて、そこを抜けると、彼らの目の前に見えたのは、人が住んでいたと思われる集落のような場所だった。
森の中の茂みから突然現れた集落に、ユラトは驚いた。
「これは……」
その集落は、木の中をくり貫いて造ってある家が集まっている場所だった。
ダリオは、一つ一つの家を見ながらユラトたちに話しかけていた。
「こりゃあ……昔の奴らが住んでいた場所だな……」
中心の少し窪んだところに地肌の見えた広間のような場所があり、その真ん中に井戸があった。
そして、広間を囲むように木の家がいくつか存在していた。
木の一本一本は、家になるほどであったため、非常に太く大きな木だった。
そして木の家には、ドアや窓や煙突もあった。
全ての木に、びっしりと濃い緑色の苔が生え、枝にはつる草が撒きつき、小さな赤い花を咲かせていた。
良く見ると、どの木も形に違いがあり、その木の形にそって家は造られているようだった。
ジルメイダもダリオと同じように集落の全体を眺めていた。
「この家のどれかにお宝があるってことかい……ちょっと面倒だね……」
リュシアは、嬉しそうに家を見ていた。
(木のお家!………ちょっと住んでみたい……)
ユラトはダリオに話しかけた。
「ダリオさん、どうします?手分けして探しますか?」
ダリオは、少しだけ考えてからユラトに話しかけた。
「(このガキも鍛えて役に立ってもらわなきゃならねえからな………よし……)その前に、ユラト。今度は、お前がマナサーチをやれ」
ダリオは、ユラトのマナサーチの精度を上げさせておくことも忘れていなかったようだった。
ユラトはその事を理解し、サーチを唱えることにした。
「わかりました。やってみます」
そして、精神を魔法に集中させようとしたとき、木の家がある後ろの茂みが、音を立て始めた。
彼らは、すぐにそこへ視線を向けた。
「………?」
ユラトも魔法を中断し、その場所を見つめた。
「………ん。何かいるのか?」
すると茂みの中から、一匹の魔物が現れていた。
木の家の影で、その姿は良くは分からなかったが、かなりの大きさがありそうだった。
その大きさに気付いた4人の表情が強張った。
「―――こいつは……」
ジルメイダが、叫んだ。
「―――敵だ!!リュシアとダリオは、後方へ!ユラトはあたしの隣に!」
すぐにユラトたちは動いた。
ジルメイダとユラトは剣を抜き放ち構え、ダリオはロッドを手に持ち、後方を見た。
リュシアは、メイスを両手で握りしめながら、魔法の準備にはいった。
謎の魔物らしきものは、ユラトたちに気付いたのか一瞬、動きを止めた。
しかし、すぐにゆっくりと冒険者たちの所へ向って歩いてきた。
どうやら相手は四本足の魔物ようだった。
大きさは馬車ほどの大きさがあった。
そして敵と思われるものの姿が見え始めた。
黒い影から現れたのは、野牛のような姿の生き物だった。
頭には左右に分かれた太く鋭い角、体は黒っぽい緑色で背中には棘のある鱗があった。
顔は獅子に近い顔で、足の指先の爪は鷹のような爪を持ち、鋭い眼差しをユラトたちへ向けながら、現れた時と同じ速度で、ゆっくりと近づいてきた。
ジルメイダは、小さな声でダリオに尋ねた。
「ダリオ、こいつは何か知っているかい?」
ダリオは、顔を左右に振り答えた。
「………わからねぇ……見たことも聞いたこともねぇぞ……」
ユラトは、息を呑んだ。
(………2人は知らないのか……レクスさんがいてくれたら……)
ジルメイダは、この未知の相手をどうするか考えようとした。
そのとき、なんと、この謎の生き物がユラトたちに話しかけてきた。
それは低く落ち着いた太い声だった。
「ふむ……その姿……聞いたことがある……お前たちは………人間と言う奴か?………ここで何をしている?」
4人は、驚いた。
「―――!?」
そしてジルメイダは、苦笑した。
「ふふっ……こりゃあ、たまげたね………人の言葉を喋るってのかい……」
ユラトは、この魔物と戦いになるのなら、強敵になると思った。
(こいつ……高い知性があるのか………)
ダリオも、更なる危険を察知しているようだった。
(魔法も使用してくるかもしれん……こいつぁ………不味いぞ……)
ユラトたちが警戒している中、謎の魔物は先ほどと同じように、落ち着いた声で話しかけてきた。
「もう一度問う………お前たちは何者で、何が目的でここにいる?」
剣を構えたまま、ジルメイダが答えた。
「あたしたちは、人間と言う光の種族だ。目的は、この世界に漂っている黒い霧を払い、光ある世界を再び取り戻すことだ。そのために、冒険者と言う存在になってここまで来たのさ」
謎の魔物は、小さく笑った。
「ふふっ……やはり人だったか。この辺りに漂っていた霧を晴らしたのもお前たちか………」
ユラトが思わず答えていた。
「そうだ!」
そこで謎の魔物は動きを見せた。
ユラトの声に反応し、警戒するのかと4人は思った。
しかし、彼らの予想に反し、魔物はその場に座り込んだ。
そしてユラトに話しかけてきた。
「……若者よ、そういきり立つな。私は、光にも闇にも属さないものだ。だからまずは、武器を仕舞え……それが礼儀ではないか?」
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