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第二十話 フォレシス3
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「交渉の余地があるってことかい………いいだろう……みんな、構えを解きな!」
そう言ってジルメイダは、剣を鞘に収めた。
ユラトも剣を仕舞った。
しかし、ユラトはジルメイダが一瞬、視線を送ってきたため、剣をいつでも抜ける状態にしておく事にした。
(油断はできないってことか……いつでも動けるようにしておくか……)
後方にいたダリオがユラトの隣に出てきた。
そして魔物へ向って話しかけた。
「俺らは言ったぜ。今度はそっちが言う番だ。それが礼儀ってもんだろ?」
魔物は、ダリオの言葉を聞き、大きく笑い声を上げた。
「はっはっは!そうだな、人よ。お前の言うとおりだ………我が名は………『フンババ』この集落の奥にある森の木々を守っている番人のようなものだ」
リュシアが怖がりながら、名を呟いていた。
「フンババ?……(この牛さん……怖い……)」
ユラトは、知っていた。
「ファディアスの始まりの伝説に載っていた魔物か……」
【フンババ】
この世界では、背中一面に棘のある鱗をもった緑色の野牛のような姿の生き物。
人の言葉を話すことが出来る。
普段は落ち着いた話し方をする。
ある場所の森の木を守っている。
獅子に近い顔に、鋭い鷹のような爪をもっている。
攻撃は爪の攻撃だけではなく、口から炎を吐く事もできる。
フェイ・ファディアスの初期の冒険譚に現れた。
物語の中では、眠りの花粉を生み出す木『リバンニ』の花粉を手に入れる中で、その森の番人をしていたのが、このフンババだった。
そしてフェイは、花粉を少し分けてくれるように頼んだ。
しかし、フンババはそれを拒否した。
フェイは、恋人を助けるために仕方なく、この魔物と戦うことにした。
その中で、フンババは姿を更に大きく変化させていた。
そして戦いは長時間続き、フェイと仲間は瀕死になるほどだった。
しかし、最終的にはフェイとその仲間によって倒された。
ダリオは目を細めながら、森の番人を見ていた。
(………こいつは、新発見だ………だが……)
新発見とギルドに認定されるには、その魔物を生きたまま捕らえ、連れて行くか、又は、その魔物の特徴を現した部位等を持ち帰らなくてはならない。
証言のみの場合は、その後、誰かがその証拠を持ち帰り、認定された場合にのみ、五分の報酬が手に入る。
九割五分は、認定者に報酬が入るため、冒険者たちは出来る限り、証拠を持ち帰ることにしていた。
そして今回の場合、持ち帰ることは無理だとダリオは判断したようだった。
(こんな、やばそうな奴………それなりの代償を支払わないと無理だろうな………報酬と被害の収支が釣り合わねぇ戦いは、するだけ無駄だ……)
ジルメイダが、名を名乗った魔物に話しかけた。
「それで、森の番人のあんたが、なぜここに?森を守らなくていいのかい?」
フンババは、蛇のように見える尻尾を軽く振りながら答えた。
「森を守っているのは私1人ではない………私は見たのだ……我が森の周辺に大量のペリュトンが死んでいるのをな………こんな事は、今までなかったことだ。何か嫌な予感がしたので、私1人、生き残ったペリュトンを追ってここまで来たのだ」
バルガの女戦士は、眉をひそめた。
「物騒な話だね……」
「だけど、俺たちは関係はないはずだ」
ユラトがそう答えるとフンババは尻尾を振るのを止め、話した。
「……分かっている。お前たちは、あの黒い霧の中では生きられないのだろ?ふっ………脆弱なものだな」
「じゃあ、さっき私達が倒したペリュトンは、その生き残りなのかな?」
リュシアがジルメイダの後ろに隠れながら、少し顔を出して話していた。
フンババは、そんなリュシアに顔を向けると、話しかけた。
「なんだ、倒してしまったのか………恐らく、その通りだろう……人の娘よ」
「―――ひっ!」
森の番人に見つめられたリュシアは、ジルメイダの後ろに顔を引っ込めた。
「それじゃ、あんたどうするんだい?」
ジルメイダがそう聞くと、フンババは立ち上がった。
「私は、我が森に帰ることにする……これ以上この辺りにいたとしても無駄だろうからな……」
「そうか、なら俺たちは、このまま探索を続けさせてもらうぜ」
「この辺りのことは、お前たちの好きにするがいい………だが!」
そして完全に立ち上がったフンババは大きく目を見開くと、ユラトたちに鋭い眼差しを向けた。
「もし、我々の森に入るのならば………ましてや、木を切り倒そうものなら………」
―――グルルルッ!
フンババは低いうなり声を上げ、口を開けた。
鋭い歯が見え、そして、赤い炎が口から僅かに放出される。
森の番人の突然の豹変振りにユラトたちは武器に手をかけ、警戒した。
「―――っ!?」
炎を口から軽く放出しながら、フンババは冒険者たちに、自らの決意を言い放った。
「その時は覚悟しろ………我が命に代えても、―――その者を討つ!」
剣の柄に手をかけながらジルメイダがフンババの決意に答えた。
「………分かったよ、あたしらは、あんたの森に入ることはもちろん、森にも危害を加えるつもりはないよ。それから、他の人間にも入らないように、ギルドに報告をしておくから、安心しな」
フンババは、片目だけを細くさせ、ジルメイダを見つめた。
「………その約束………本当だろうな?」
ユラトやダリオもフンババを睨み見ていた。
「ああ、本当だ!」
「約束は守ってやる!」
リュシアは恐怖し、ジルメイダの後ろで震えていた。
しばし、3人と1匹は睨みあった。
そして、最初に睨むのを止めたのはフンババだった。
「………その約束、必ず守ってもらうぞ。―――人間よ!」
「ああ、分かってるよ………」
「………それならば、私から言うことは最早ない………この集落も好きにするがいい………私は、そろそろ森に帰ることにする……」
フンババは、自らが現れた方向へ頭を向け、歩き出した。
そして何かを思い出し、振り返えると、ユラトたちに話しかけた。
「我が森は、花粉と胞子の浮遊する森だ………それが見え始めたら、それ以上は近づかぬことだ………」
ジルメイダが去りゆく森の番人に、声をかけた。
「……ああ、しっかりと覚えておくよ!」
「そうか、ならば話はこれまでだ………」
そしてフンババは、もと来た道へ引き返していった。
引き返していく中、フンババは色々と考えていた。
(結局………分からないままになってしまったな………人間か………そう言えば………このまま、奴らがこの辺りの黒い霧を払っていくのなら……会うことになるだろうな……ふふっ……この森の主に………そしてその先の………まあ、私は我が森を守る事だけを考えるか……人よ……気をつけることだな……主ではなく……様々なことにな………)
緊張から開放された4人は、口から深く息を吐いた。
「ふぅー………」
そして少し落ち着いたところで、ダリオが呟いた。
「おっかねぇ、やろうだったぜ……」
リュシアはその場に座り込んでいた。
「怖かった……」
ユラトは、あの魔物と戦わずに済んで良かったと思っていた。
(力強い意志と能力を感じた………とりあずは、このまま探索がやれそうだ……)
「よし、森の番人との話もおわったし、この集落にある物を見てみようじゃないか!」
ジルメイダの言葉を聞いたユラトは、先ほど自分がしようとしていたマナサーチの魔法を再び使用しようと詠唱に入った。
そして、魔法を発動させた。
「―――マナサーチ!」
ユラトは、周囲にある建物からいくつかの反応を感知した。
(結構あるかな………)
そして効果が切れた。
ダリオがすぐに尋ねてきた。
「おい、どうだった?」
ユラトはダリオに話した。
「えーっと、ほとんどの家に、なんらかしらの小さな反応がありました。あと、周囲に魔物の反応はなかったです」
ユラトの言葉を聞いたジルメイダは、すぐに一軒の家に向って歩き出していた。
「じゃあ、みんなで手分けして探すことにするよ!」
ユラトとダリオも、すぐに木の家に向って歩いた。
リュシアは、キョロキョロと周囲を見渡し、そしてジルメイダに向って小走りで近づくと話しかけていた。
「………ジルメイダ」
「ん………どうしたんだい、リュシア?」
リュシアは人の家の物を取ることに、抵抗を感じていたようだった。
「昔の人で……もう居ないのはわかってるけど………でも……こう言うのって………いいのかな?」
その言葉を聞いたダリオが、すぐにリュシアのもとへやって来た。
「甘いこと抜かしてんじゃねぇ!馬鹿か、てめぇは!」
ジルメイダがダリオを止めた。
「ダリオ!………この子は優しい子なのさ」
ジルメイダは、少しだけ優しい表情になってリュシアに話した。
「リュシア、あたしらの目的はなんだい?」
「………黒い霧を払って魔王の存在を確かめることと、私は……ヴァベルの塔を見つけること………」
「その目的を達成するには、それなりの資金と装備が必要だろ?それらは、待っていたって来るもんじゃないし、オリディオール島にある物なんてたががしれてる。魔族ってのは聞くところによると、この上なく残忍で強力らしいじゃないか。あたしらは、それにいつでも立ち向かえる状態にしておかなきゃならないんだ。あたし達は、そうやって生き延びなきゃならないのが現実なんだ。今を生きるために、古代の人々の知識や道具を借りて、立ち向かってこそ、報いることもできるんじゃないか?昔の人々も、闇の種族に立ち向かっただろ。だったら、今のあたしらも、立ち向かわなくちゃいけないんじゃないのかい?」
ユラトは横で聞いていた。
(あんまり、そう言う事考えなかったけど、ジルメイダの言うとおりだ………)
リュシアは、女戦士の言葉に納得したようだった。
「うん………わかった」
「よし、それじゃ、本格的に調べるよ!」
ユラトたちは、別々に木の家の中へ入った。
ユラトが木の家に入ると、思ったよりも広い空間があった。
部屋は一つのみだったが、部屋の真ん中が円形の広間のようになっており、その周囲にある木の壁にそって家具などが所狭しと置かれていた。
「こんな風になってるのか………」
煙突付きの暖炉と規模の小さいキッチン、壁にはフライパンや料理ナイフ、木の壁をくり貫いた棚、そこに本や食器、瓶詰めの何か、鏡のある化粧台、入り口のドアの上あたりには枯れた花束、木の机と椅子があり、その上にはランプや木で出来た人形、鉢植え、小物などがあった。
壁にはしごが架けられ、そのはしごを登ると、天井にあるハンモックにふかふかの布団が敷かれていた。
そしてそのハンモックの横には窓と食器や本、コップを置いておく場所があり、就寝時に夜空を眺めながら飲食をしたり、読書をすることができるように作れていた。
机の隣には、木の棒にかけられた女物の服やコートがあった。
生活感を感じさせる空間だったが、どれも綺麗に管理されているようで、清潔感があった。
そして置かれている物から、どうやら女性が1人で住んでいた場所のようだった。
ユラトは、部屋に入り、しばらく眺めていた。
(思ったよりも、綺麗な状態だな………黒い霧にはそんな効果もあるんだろうか……)
窓から、昼の暖かく柔らかい光が部屋に差し込んでいたため、思ったよりも明るかった。
光が当たっている場所を良く見ると、埃や塵が薄っすらと積もっているのがわかった。
机に目がいき、そこへ近づくと、引き出しが開いていた。
そこでユラトは何かに気付いた。
(………ん、これは……)
開いた引き出しの下には銀貨が零れ落ち、散らばっているのと、何か小さな生き物の足跡のようなものが大量についているのがわかった。
(ボーグルが持っていったのかな?)
ユラトは、落ちている銀貨を拾った。
(ここに住んでいた方………申し訳ないですけど………貰っていきます………その代わり、必ず俺たちは、光ある世界を取り戻します……)
立ち上がり、他に何か使える物はないか、ユラトは部屋を見た。
(サーチで感じた物は、多分あのフライパンとか食器だろうな………そうなると、お金とかはボーグルとかが、どこかへ持って行ってるだろうし……これは、あんまり期待できないのかも………)
ユラトは近くにあった黒いコートを手に取った。
それは、胸元に落ち着いたピンク色のリボンの付いたフード付きコートだった。
そして、あることに気が付いた。
「―――これは!?」
その時、家の外から声が聞こえた。
「リュシア!ちょっと出てきておくれ!」
ジルメイダがリュシアを呼んでいるようだった。
ユラトは黒いコートを手に持って、すぐに家から出た。
そして、家から出てきたリュシアとジルメイダの所へ向った。
ユラトがたどり着いたとき、ダリオも家から出てきていた。
彼の顔を見ると悔しそうにしていた。
「ほとんど役に立たねぇもんばっかりだ………。ハッグやらボーグルに、すでに持っていかれちまってるみてぇだぜ………くそっ!」
そう言いながら、ダリオは片手の手の平の上に金貨を何枚か持ち、空中へ少しだけ何度も浮かせながら、やって来ていた。
ジルメイダがリュシアに顔を曇らせ、話していた。
「ちょっと、あたしじゃ、小さすぎて入りにくい家があるんだ。リュシア、悪いけど、あんたが代わりに入ってくれないか?」
「うん、わかった………だけど、私が最初に入った家も小さかったの……子供だけのお家なのかな?……でも木のパイプが一杯あったし……」
「うーん。どうだろうねぇ……とりあえず、さっさと終わらせたいから、見てくれるかい?」
「うん!」
そんな2人にユラトはコートを持って話しかけた。
「みんな!このコートなんだけど……」
ジルメイダとリュシアが振り返り、ユラトを見た。
「ん、どうしたんだい?」
「あ、そのコート………(リボンが可愛いかも……)」
ユラトは、自分が不思議に思った事を叫んだ。
「暖かかったんだ!」
ジルメイダとリュシアは、お互い目を合わせた後、ユラトに話しかけた。
「………そりゃ、あんた、コートを着りゃ暖かいだろうさ」
「ユラトさん………それ女の人のですよ?……着たんですか?」
怪訝な表情で見つめられたユラトは誤解されたと思い、少し慌てた。
「い、いや、そうじゃなくて!………さっきまで誰かが着ていたみたいなんだ!」
その話を聞いたダリオが慌てて駆けつけていた。
「なんだと!?」
そして、ユラトからコートを奪い、手に取っていた。
「確かに………暖けぇな……ん?」
「そうでしょ?言っておきますけど、俺は着てませんよ?」
コートの裏側を見たダリオは、何かに気付いた。
「………ああ、そう言うことか……」
「どう言うことなんですか?」
リュシアがダリオに近づき聞いていた。
ダリオは、説明をし始めた。
「これは、魔法の効果でなっているんだ。コートの裏地に、魔法の糸で縫いつけたルーン文字があるだろ」
コートの裏側をダリオはユラトとリュシアに見せた。
そこには、僅かに光るルーンの刺繍が見えた。
ユラトとリュシアは驚いた。
「ほんとだ………」
「じゃあ、良い物ですか?」
コートを元の姿に戻すと、ダリオは話した。
「そうだな……あんまり見ねぇ物だから……まあ、そこそこだろううな………これは、寒冷地仕様のコートだ。お前らも、聞いたことがあるだろ。古代世界の北の果てに、氷で出来た大地がかつてあったと………」
リュシアは、すぐに思い出していた。
「ドワーフの鍛冶師の話。本で読みました!」
彼女の話を聞いてユラトも思い出していた。
「ああ、『鍛冶職人リルディーフ』か……」
【鍛冶師リルディーフ】
氷の魔剣を生み出すために、氷凍石と言う石を探すため、北の氷の大地へ旅立ったドワーフの男の話。
彼は、自分で石選びから剣を作るところまで、全て自身でやることを自らに課していた。
常に納得のいく作品を生み出すことに人生を捧げた人物。
この男が生み出した作品は、ユニークな物が多かったと言う。
どれも、切れ味は抜群で、歴史上の偉人も何人かが、彼の作品を愛用していた。
現存する物では、ギルヴァン・ゾルヴァが持っているダマスカスの双剣『フラガラッハ』などがあった。
物語では、氷の大地で様々な、魔物と戦い、最後には氷竜と出会う。
そして氷竜と交渉の末、彼は無事、石を手に入れ、氷の魔剣を作り出した。
話の中では、氷の大地を1人歩く時と剣を生み出す時、これは彼にとって、同じことのように描かれていた。
それは孤独と自分との戦いの日々だったと言う。
ダリオは、コートをユラトに返した。
「温度を暖かいまま、保っておく事が出来るって事だ。まあ、これから先、標高の高い場所や、冬のために持っておいてもいいのかもな。女物だから……リュシア、お前にどうだ?」
リュシアは、考えていた。
「うーん………もうちょっと考えてもいいですか?」
「ああ、かまわねぇ。だが、村に着くまでには決めておけよ」
「はい」
2人のやり取りを見たジルメイダが叫んだ。
「それじゃ、調べるのを再開させるよ!」
ユラト達は、木の家を調べることを再開させた。
ユラトは、先ほど、自分が調べた家の中を見て回ったが、特にこれといった物を見つけることはできなかった。
そして、その家を出て、リュシアとジルメイダが調べている所へ彼は向った。
「ジルメイダ、どう?」
小さな家の入り口から、頭を入れながら、リュシアに話しかけているジルメイダに、ユラトは声をかけた。
すると、ジルメイダは頭を外へ出した。
「ちょうど良いところに来たよ。あんたも、中に入れるだろ。リュシアを手伝ってやっておくれ!」
「うん、わかった」
ユラトはすぐに、ユラトが先ほど入っていた家の半分ほどの大きさの家の中に入った。
入ってすぐに、角度の急な階段があった。
「これは………狭いな………」
横の幅が、ユラトが肩をすぼめてなんとか登れる程の広さしかない場所で、木を削って作ってある階段だった。
痛みが酷く、一部が崩れている場所があった。
そこを彼は一段一段、慎重に登っていった。
リュシアは、すでに階段を登りきっているようだった。
階段を登りきったところで、座りながらユラトに声をかけていた。
「ユラトさん、あと少しです!」
そしてユラトが、階段の後半に差し掛かった時、階段の一部が乾いた高い音を立てた。
―――バキッ!
ユラトは足を踏み外し、階段から転げ落ちそうになった。
「―――うわっ!」
驚いたリュシアが立ち上がり、声を上げていた。
「ユラトさん!大丈夫ですか!?」
しかし、階段の幅が狭かった事が幸いし、彼は両手で壁に手を付き、なんとか持ちこたえた。
「あぶなかった……」
そして彼は、先ほどとは別の階段に足を付けた。
―――バキッ!
ユラトが、なんとか足を付けた階段も、割れてしまったようだった。
「―――うわああああ!」
彼は、階段から崩れるように落ちた。
入り口にいたジルメイダが、埃がたっている家の中へ顔を入れ、ユラトの名を叫んでいた。
「ユラト!どうしたんだい!」
尻餅をついたユラトは、お尻を擦りながら立ち上がった。
「………あいたたた……」
ジルメイダは、状況を理解したようだった。
「………なんだい……落ちちまったのかい。気をつけるんだよ!」
心配そうにリュシアがユラトを階段の上から見ていた。
「怪我は……大丈夫ですか?」
「大丈夫………それにしても……」
ユラトは、階段を見上げた。
(これは……登るの……大変だ………ん?)
そこで、ユラトは何かに気付いた。
(あれは………)
ユラトの視線の先には、崩れた木の階段があった。
「ジルメイダ!リュシア!何か……あるみたいだ!」
ユラトは、2人の名前を叫ぶと、目の前の階段を素早く登り、崩れた階段の中に手を入れた。
ジルメイダもリュシアも彼の叫びに驚いていた。
「どうしたんだい!?」
「何かあったんですか?」
そしてリュシアの目に、それが映った。
それは、やや横に長い木の箱を、ユラトが抱え込むように持っている姿だった。
リュシアは口を開けて呟いた。
「………あ、宝箱……?」
そしてユラトは、階段から下り、外へ出た。
そこで、ユラトは地面に木の箱を置いた。
箱は、表面が加工されており、つるつるとすべり、艶があった。
それ以外は、特に変わったところはなかった。
ユラトは、一応何か罠が仕掛けられていないか、隣りにいるベテランの女戦士に尋ねた。
「ジルメイダ、これって罠とか無いのかな?」
リュシアが手に持ったメイスで、箱を突付こうとしていたのを、ジルメイダが止めていた。
「リュシア、ここは、あたしに任せな」
リュシは、一瞬「ビクッ」とした後、すぐに無言で頷くと、箱から遠ざかった。
そして、ジルメイダが1人、箱に近づいた。
箱を片手で持ち上げ、全体を撫でるように触りながら、彼女は見ていた。
ユラトは、その様子を黙って見ていた。
(なるほど、ああやってみるのか……)
その時、ダリオが彼らの後ろからやってきていた。
「こりゃだめだな……渋い場所だぜ………ん、」
そして、箱を調べているジルメイダに気が付いた彼は表情を緩ませ、急いでやってきた。
「おいおいおいー!なんか見つけたみてぇだな!」
ジルメイダは、調べ終えたようだった。
箱を地面に再び置きなおすと、ユラトに話した。
「………見てみたけど、これといって……罠はないみたいだね……」
それを聞いたユラトは、すぐに箱に近づいた。
そして箱の前で跪き、蓋に手をかけ、ジルメイダに話しかけた。
「………じゃあ、開けてもいい?」
ジルメイダは立ったまま、答えた。
「……ああ、かまわないよ」
リュシアは期待に満ちた表情で、メイスを握りしめながら見ていた。
(何があるのかなー………)
そして、ユラトは箱を開けた。
どうやら箱は普通の箱だったらしく、何も起こる事無く、蓋は開いていた。
ユラトは、中を覗き込んだ。
「………これは……」
そう言ってジルメイダは、剣を鞘に収めた。
ユラトも剣を仕舞った。
しかし、ユラトはジルメイダが一瞬、視線を送ってきたため、剣をいつでも抜ける状態にしておく事にした。
(油断はできないってことか……いつでも動けるようにしておくか……)
後方にいたダリオがユラトの隣に出てきた。
そして魔物へ向って話しかけた。
「俺らは言ったぜ。今度はそっちが言う番だ。それが礼儀ってもんだろ?」
魔物は、ダリオの言葉を聞き、大きく笑い声を上げた。
「はっはっは!そうだな、人よ。お前の言うとおりだ………我が名は………『フンババ』この集落の奥にある森の木々を守っている番人のようなものだ」
リュシアが怖がりながら、名を呟いていた。
「フンババ?……(この牛さん……怖い……)」
ユラトは、知っていた。
「ファディアスの始まりの伝説に載っていた魔物か……」
【フンババ】
この世界では、背中一面に棘のある鱗をもった緑色の野牛のような姿の生き物。
人の言葉を話すことが出来る。
普段は落ち着いた話し方をする。
ある場所の森の木を守っている。
獅子に近い顔に、鋭い鷹のような爪をもっている。
攻撃は爪の攻撃だけではなく、口から炎を吐く事もできる。
フェイ・ファディアスの初期の冒険譚に現れた。
物語の中では、眠りの花粉を生み出す木『リバンニ』の花粉を手に入れる中で、その森の番人をしていたのが、このフンババだった。
そしてフェイは、花粉を少し分けてくれるように頼んだ。
しかし、フンババはそれを拒否した。
フェイは、恋人を助けるために仕方なく、この魔物と戦うことにした。
その中で、フンババは姿を更に大きく変化させていた。
そして戦いは長時間続き、フェイと仲間は瀕死になるほどだった。
しかし、最終的にはフェイとその仲間によって倒された。
ダリオは目を細めながら、森の番人を見ていた。
(………こいつは、新発見だ………だが……)
新発見とギルドに認定されるには、その魔物を生きたまま捕らえ、連れて行くか、又は、その魔物の特徴を現した部位等を持ち帰らなくてはならない。
証言のみの場合は、その後、誰かがその証拠を持ち帰り、認定された場合にのみ、五分の報酬が手に入る。
九割五分は、認定者に報酬が入るため、冒険者たちは出来る限り、証拠を持ち帰ることにしていた。
そして今回の場合、持ち帰ることは無理だとダリオは判断したようだった。
(こんな、やばそうな奴………それなりの代償を支払わないと無理だろうな………報酬と被害の収支が釣り合わねぇ戦いは、するだけ無駄だ……)
ジルメイダが、名を名乗った魔物に話しかけた。
「それで、森の番人のあんたが、なぜここに?森を守らなくていいのかい?」
フンババは、蛇のように見える尻尾を軽く振りながら答えた。
「森を守っているのは私1人ではない………私は見たのだ……我が森の周辺に大量のペリュトンが死んでいるのをな………こんな事は、今までなかったことだ。何か嫌な予感がしたので、私1人、生き残ったペリュトンを追ってここまで来たのだ」
バルガの女戦士は、眉をひそめた。
「物騒な話だね……」
「だけど、俺たちは関係はないはずだ」
ユラトがそう答えるとフンババは尻尾を振るのを止め、話した。
「……分かっている。お前たちは、あの黒い霧の中では生きられないのだろ?ふっ………脆弱なものだな」
「じゃあ、さっき私達が倒したペリュトンは、その生き残りなのかな?」
リュシアがジルメイダの後ろに隠れながら、少し顔を出して話していた。
フンババは、そんなリュシアに顔を向けると、話しかけた。
「なんだ、倒してしまったのか………恐らく、その通りだろう……人の娘よ」
「―――ひっ!」
森の番人に見つめられたリュシアは、ジルメイダの後ろに顔を引っ込めた。
「それじゃ、あんたどうするんだい?」
ジルメイダがそう聞くと、フンババは立ち上がった。
「私は、我が森に帰ることにする……これ以上この辺りにいたとしても無駄だろうからな……」
「そうか、なら俺たちは、このまま探索を続けさせてもらうぜ」
「この辺りのことは、お前たちの好きにするがいい………だが!」
そして完全に立ち上がったフンババは大きく目を見開くと、ユラトたちに鋭い眼差しを向けた。
「もし、我々の森に入るのならば………ましてや、木を切り倒そうものなら………」
―――グルルルッ!
フンババは低いうなり声を上げ、口を開けた。
鋭い歯が見え、そして、赤い炎が口から僅かに放出される。
森の番人の突然の豹変振りにユラトたちは武器に手をかけ、警戒した。
「―――っ!?」
炎を口から軽く放出しながら、フンババは冒険者たちに、自らの決意を言い放った。
「その時は覚悟しろ………我が命に代えても、―――その者を討つ!」
剣の柄に手をかけながらジルメイダがフンババの決意に答えた。
「………分かったよ、あたしらは、あんたの森に入ることはもちろん、森にも危害を加えるつもりはないよ。それから、他の人間にも入らないように、ギルドに報告をしておくから、安心しな」
フンババは、片目だけを細くさせ、ジルメイダを見つめた。
「………その約束………本当だろうな?」
ユラトやダリオもフンババを睨み見ていた。
「ああ、本当だ!」
「約束は守ってやる!」
リュシアは恐怖し、ジルメイダの後ろで震えていた。
しばし、3人と1匹は睨みあった。
そして、最初に睨むのを止めたのはフンババだった。
「………その約束、必ず守ってもらうぞ。―――人間よ!」
「ああ、分かってるよ………」
「………それならば、私から言うことは最早ない………この集落も好きにするがいい………私は、そろそろ森に帰ることにする……」
フンババは、自らが現れた方向へ頭を向け、歩き出した。
そして何かを思い出し、振り返えると、ユラトたちに話しかけた。
「我が森は、花粉と胞子の浮遊する森だ………それが見え始めたら、それ以上は近づかぬことだ………」
ジルメイダが去りゆく森の番人に、声をかけた。
「……ああ、しっかりと覚えておくよ!」
「そうか、ならば話はこれまでだ………」
そしてフンババは、もと来た道へ引き返していった。
引き返していく中、フンババは色々と考えていた。
(結局………分からないままになってしまったな………人間か………そう言えば………このまま、奴らがこの辺りの黒い霧を払っていくのなら……会うことになるだろうな……ふふっ……この森の主に………そしてその先の………まあ、私は我が森を守る事だけを考えるか……人よ……気をつけることだな……主ではなく……様々なことにな………)
緊張から開放された4人は、口から深く息を吐いた。
「ふぅー………」
そして少し落ち着いたところで、ダリオが呟いた。
「おっかねぇ、やろうだったぜ……」
リュシアはその場に座り込んでいた。
「怖かった……」
ユラトは、あの魔物と戦わずに済んで良かったと思っていた。
(力強い意志と能力を感じた………とりあずは、このまま探索がやれそうだ……)
「よし、森の番人との話もおわったし、この集落にある物を見てみようじゃないか!」
ジルメイダの言葉を聞いたユラトは、先ほど自分がしようとしていたマナサーチの魔法を再び使用しようと詠唱に入った。
そして、魔法を発動させた。
「―――マナサーチ!」
ユラトは、周囲にある建物からいくつかの反応を感知した。
(結構あるかな………)
そして効果が切れた。
ダリオがすぐに尋ねてきた。
「おい、どうだった?」
ユラトはダリオに話した。
「えーっと、ほとんどの家に、なんらかしらの小さな反応がありました。あと、周囲に魔物の反応はなかったです」
ユラトの言葉を聞いたジルメイダは、すぐに一軒の家に向って歩き出していた。
「じゃあ、みんなで手分けして探すことにするよ!」
ユラトとダリオも、すぐに木の家に向って歩いた。
リュシアは、キョロキョロと周囲を見渡し、そしてジルメイダに向って小走りで近づくと話しかけていた。
「………ジルメイダ」
「ん………どうしたんだい、リュシア?」
リュシアは人の家の物を取ることに、抵抗を感じていたようだった。
「昔の人で……もう居ないのはわかってるけど………でも……こう言うのって………いいのかな?」
その言葉を聞いたダリオが、すぐにリュシアのもとへやって来た。
「甘いこと抜かしてんじゃねぇ!馬鹿か、てめぇは!」
ジルメイダがダリオを止めた。
「ダリオ!………この子は優しい子なのさ」
ジルメイダは、少しだけ優しい表情になってリュシアに話した。
「リュシア、あたしらの目的はなんだい?」
「………黒い霧を払って魔王の存在を確かめることと、私は……ヴァベルの塔を見つけること………」
「その目的を達成するには、それなりの資金と装備が必要だろ?それらは、待っていたって来るもんじゃないし、オリディオール島にある物なんてたががしれてる。魔族ってのは聞くところによると、この上なく残忍で強力らしいじゃないか。あたしらは、それにいつでも立ち向かえる状態にしておかなきゃならないんだ。あたし達は、そうやって生き延びなきゃならないのが現実なんだ。今を生きるために、古代の人々の知識や道具を借りて、立ち向かってこそ、報いることもできるんじゃないか?昔の人々も、闇の種族に立ち向かっただろ。だったら、今のあたしらも、立ち向かわなくちゃいけないんじゃないのかい?」
ユラトは横で聞いていた。
(あんまり、そう言う事考えなかったけど、ジルメイダの言うとおりだ………)
リュシアは、女戦士の言葉に納得したようだった。
「うん………わかった」
「よし、それじゃ、本格的に調べるよ!」
ユラトたちは、別々に木の家の中へ入った。
ユラトが木の家に入ると、思ったよりも広い空間があった。
部屋は一つのみだったが、部屋の真ん中が円形の広間のようになっており、その周囲にある木の壁にそって家具などが所狭しと置かれていた。
「こんな風になってるのか………」
煙突付きの暖炉と規模の小さいキッチン、壁にはフライパンや料理ナイフ、木の壁をくり貫いた棚、そこに本や食器、瓶詰めの何か、鏡のある化粧台、入り口のドアの上あたりには枯れた花束、木の机と椅子があり、その上にはランプや木で出来た人形、鉢植え、小物などがあった。
壁にはしごが架けられ、そのはしごを登ると、天井にあるハンモックにふかふかの布団が敷かれていた。
そしてそのハンモックの横には窓と食器や本、コップを置いておく場所があり、就寝時に夜空を眺めながら飲食をしたり、読書をすることができるように作れていた。
机の隣には、木の棒にかけられた女物の服やコートがあった。
生活感を感じさせる空間だったが、どれも綺麗に管理されているようで、清潔感があった。
そして置かれている物から、どうやら女性が1人で住んでいた場所のようだった。
ユラトは、部屋に入り、しばらく眺めていた。
(思ったよりも、綺麗な状態だな………黒い霧にはそんな効果もあるんだろうか……)
窓から、昼の暖かく柔らかい光が部屋に差し込んでいたため、思ったよりも明るかった。
光が当たっている場所を良く見ると、埃や塵が薄っすらと積もっているのがわかった。
机に目がいき、そこへ近づくと、引き出しが開いていた。
そこでユラトは何かに気付いた。
(………ん、これは……)
開いた引き出しの下には銀貨が零れ落ち、散らばっているのと、何か小さな生き物の足跡のようなものが大量についているのがわかった。
(ボーグルが持っていったのかな?)
ユラトは、落ちている銀貨を拾った。
(ここに住んでいた方………申し訳ないですけど………貰っていきます………その代わり、必ず俺たちは、光ある世界を取り戻します……)
立ち上がり、他に何か使える物はないか、ユラトは部屋を見た。
(サーチで感じた物は、多分あのフライパンとか食器だろうな………そうなると、お金とかはボーグルとかが、どこかへ持って行ってるだろうし……これは、あんまり期待できないのかも………)
ユラトは近くにあった黒いコートを手に取った。
それは、胸元に落ち着いたピンク色のリボンの付いたフード付きコートだった。
そして、あることに気が付いた。
「―――これは!?」
その時、家の外から声が聞こえた。
「リュシア!ちょっと出てきておくれ!」
ジルメイダがリュシアを呼んでいるようだった。
ユラトは黒いコートを手に持って、すぐに家から出た。
そして、家から出てきたリュシアとジルメイダの所へ向った。
ユラトがたどり着いたとき、ダリオも家から出てきていた。
彼の顔を見ると悔しそうにしていた。
「ほとんど役に立たねぇもんばっかりだ………。ハッグやらボーグルに、すでに持っていかれちまってるみてぇだぜ………くそっ!」
そう言いながら、ダリオは片手の手の平の上に金貨を何枚か持ち、空中へ少しだけ何度も浮かせながら、やって来ていた。
ジルメイダがリュシアに顔を曇らせ、話していた。
「ちょっと、あたしじゃ、小さすぎて入りにくい家があるんだ。リュシア、悪いけど、あんたが代わりに入ってくれないか?」
「うん、わかった………だけど、私が最初に入った家も小さかったの……子供だけのお家なのかな?……でも木のパイプが一杯あったし……」
「うーん。どうだろうねぇ……とりあえず、さっさと終わらせたいから、見てくれるかい?」
「うん!」
そんな2人にユラトはコートを持って話しかけた。
「みんな!このコートなんだけど……」
ジルメイダとリュシアが振り返り、ユラトを見た。
「ん、どうしたんだい?」
「あ、そのコート………(リボンが可愛いかも……)」
ユラトは、自分が不思議に思った事を叫んだ。
「暖かかったんだ!」
ジルメイダとリュシアは、お互い目を合わせた後、ユラトに話しかけた。
「………そりゃ、あんた、コートを着りゃ暖かいだろうさ」
「ユラトさん………それ女の人のですよ?……着たんですか?」
怪訝な表情で見つめられたユラトは誤解されたと思い、少し慌てた。
「い、いや、そうじゃなくて!………さっきまで誰かが着ていたみたいなんだ!」
その話を聞いたダリオが慌てて駆けつけていた。
「なんだと!?」
そして、ユラトからコートを奪い、手に取っていた。
「確かに………暖けぇな……ん?」
「そうでしょ?言っておきますけど、俺は着てませんよ?」
コートの裏側を見たダリオは、何かに気付いた。
「………ああ、そう言うことか……」
「どう言うことなんですか?」
リュシアがダリオに近づき聞いていた。
ダリオは、説明をし始めた。
「これは、魔法の効果でなっているんだ。コートの裏地に、魔法の糸で縫いつけたルーン文字があるだろ」
コートの裏側をダリオはユラトとリュシアに見せた。
そこには、僅かに光るルーンの刺繍が見えた。
ユラトとリュシアは驚いた。
「ほんとだ………」
「じゃあ、良い物ですか?」
コートを元の姿に戻すと、ダリオは話した。
「そうだな……あんまり見ねぇ物だから……まあ、そこそこだろううな………これは、寒冷地仕様のコートだ。お前らも、聞いたことがあるだろ。古代世界の北の果てに、氷で出来た大地がかつてあったと………」
リュシアは、すぐに思い出していた。
「ドワーフの鍛冶師の話。本で読みました!」
彼女の話を聞いてユラトも思い出していた。
「ああ、『鍛冶職人リルディーフ』か……」
【鍛冶師リルディーフ】
氷の魔剣を生み出すために、氷凍石と言う石を探すため、北の氷の大地へ旅立ったドワーフの男の話。
彼は、自分で石選びから剣を作るところまで、全て自身でやることを自らに課していた。
常に納得のいく作品を生み出すことに人生を捧げた人物。
この男が生み出した作品は、ユニークな物が多かったと言う。
どれも、切れ味は抜群で、歴史上の偉人も何人かが、彼の作品を愛用していた。
現存する物では、ギルヴァン・ゾルヴァが持っているダマスカスの双剣『フラガラッハ』などがあった。
物語では、氷の大地で様々な、魔物と戦い、最後には氷竜と出会う。
そして氷竜と交渉の末、彼は無事、石を手に入れ、氷の魔剣を作り出した。
話の中では、氷の大地を1人歩く時と剣を生み出す時、これは彼にとって、同じことのように描かれていた。
それは孤独と自分との戦いの日々だったと言う。
ダリオは、コートをユラトに返した。
「温度を暖かいまま、保っておく事が出来るって事だ。まあ、これから先、標高の高い場所や、冬のために持っておいてもいいのかもな。女物だから……リュシア、お前にどうだ?」
リュシアは、考えていた。
「うーん………もうちょっと考えてもいいですか?」
「ああ、かまわねぇ。だが、村に着くまでには決めておけよ」
「はい」
2人のやり取りを見たジルメイダが叫んだ。
「それじゃ、調べるのを再開させるよ!」
ユラト達は、木の家を調べることを再開させた。
ユラトは、先ほど、自分が調べた家の中を見て回ったが、特にこれといった物を見つけることはできなかった。
そして、その家を出て、リュシアとジルメイダが調べている所へ彼は向った。
「ジルメイダ、どう?」
小さな家の入り口から、頭を入れながら、リュシアに話しかけているジルメイダに、ユラトは声をかけた。
すると、ジルメイダは頭を外へ出した。
「ちょうど良いところに来たよ。あんたも、中に入れるだろ。リュシアを手伝ってやっておくれ!」
「うん、わかった」
ユラトはすぐに、ユラトが先ほど入っていた家の半分ほどの大きさの家の中に入った。
入ってすぐに、角度の急な階段があった。
「これは………狭いな………」
横の幅が、ユラトが肩をすぼめてなんとか登れる程の広さしかない場所で、木を削って作ってある階段だった。
痛みが酷く、一部が崩れている場所があった。
そこを彼は一段一段、慎重に登っていった。
リュシアは、すでに階段を登りきっているようだった。
階段を登りきったところで、座りながらユラトに声をかけていた。
「ユラトさん、あと少しです!」
そしてユラトが、階段の後半に差し掛かった時、階段の一部が乾いた高い音を立てた。
―――バキッ!
ユラトは足を踏み外し、階段から転げ落ちそうになった。
「―――うわっ!」
驚いたリュシアが立ち上がり、声を上げていた。
「ユラトさん!大丈夫ですか!?」
しかし、階段の幅が狭かった事が幸いし、彼は両手で壁に手を付き、なんとか持ちこたえた。
「あぶなかった……」
そして彼は、先ほどとは別の階段に足を付けた。
―――バキッ!
ユラトが、なんとか足を付けた階段も、割れてしまったようだった。
「―――うわああああ!」
彼は、階段から崩れるように落ちた。
入り口にいたジルメイダが、埃がたっている家の中へ顔を入れ、ユラトの名を叫んでいた。
「ユラト!どうしたんだい!」
尻餅をついたユラトは、お尻を擦りながら立ち上がった。
「………あいたたた……」
ジルメイダは、状況を理解したようだった。
「………なんだい……落ちちまったのかい。気をつけるんだよ!」
心配そうにリュシアがユラトを階段の上から見ていた。
「怪我は……大丈夫ですか?」
「大丈夫………それにしても……」
ユラトは、階段を見上げた。
(これは……登るの……大変だ………ん?)
そこで、ユラトは何かに気付いた。
(あれは………)
ユラトの視線の先には、崩れた木の階段があった。
「ジルメイダ!リュシア!何か……あるみたいだ!」
ユラトは、2人の名前を叫ぶと、目の前の階段を素早く登り、崩れた階段の中に手を入れた。
ジルメイダもリュシアも彼の叫びに驚いていた。
「どうしたんだい!?」
「何かあったんですか?」
そしてリュシアの目に、それが映った。
それは、やや横に長い木の箱を、ユラトが抱え込むように持っている姿だった。
リュシアは口を開けて呟いた。
「………あ、宝箱……?」
そしてユラトは、階段から下り、外へ出た。
そこで、ユラトは地面に木の箱を置いた。
箱は、表面が加工されており、つるつるとすべり、艶があった。
それ以外は、特に変わったところはなかった。
ユラトは、一応何か罠が仕掛けられていないか、隣りにいるベテランの女戦士に尋ねた。
「ジルメイダ、これって罠とか無いのかな?」
リュシアが手に持ったメイスで、箱を突付こうとしていたのを、ジルメイダが止めていた。
「リュシア、ここは、あたしに任せな」
リュシは、一瞬「ビクッ」とした後、すぐに無言で頷くと、箱から遠ざかった。
そして、ジルメイダが1人、箱に近づいた。
箱を片手で持ち上げ、全体を撫でるように触りながら、彼女は見ていた。
ユラトは、その様子を黙って見ていた。
(なるほど、ああやってみるのか……)
その時、ダリオが彼らの後ろからやってきていた。
「こりゃだめだな……渋い場所だぜ………ん、」
そして、箱を調べているジルメイダに気が付いた彼は表情を緩ませ、急いでやってきた。
「おいおいおいー!なんか見つけたみてぇだな!」
ジルメイダは、調べ終えたようだった。
箱を地面に再び置きなおすと、ユラトに話した。
「………見てみたけど、これといって……罠はないみたいだね……」
それを聞いたユラトは、すぐに箱に近づいた。
そして箱の前で跪き、蓋に手をかけ、ジルメイダに話しかけた。
「………じゃあ、開けてもいい?」
ジルメイダは立ったまま、答えた。
「……ああ、かまわないよ」
リュシアは期待に満ちた表情で、メイスを握りしめながら見ていた。
(何があるのかなー………)
そして、ユラトは箱を開けた。
どうやら箱は普通の箱だったらしく、何も起こる事無く、蓋は開いていた。
ユラトは、中を覗き込んだ。
「………これは……」
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