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第二十話 フォレシス4
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そこにあったのは、革のブーツだった。
やや赤みがかった茶色の革靴で、全体的に綺麗で光沢があり、保存状態が非常に良い物だった。
ユラトは、木の箱からその靴を取り出した。
木の屑が入っていたため、それがパラパラと落ちていた。
「……まだ、誰も履いていないのかな?」
靴の中を見た。
「まったく汚れていない………」
ダリオがユラトに近づき、しゃがみ込んで靴を見た。
「いいもん見つけたな……ちょっと見せてみろ」
ユラトは、ダリオにその靴の片方を渡した。
「どれ………」
ダリオは、片目を閉じ、開いたほうの目で靴底を見た。
そして驚いていた。
「―――おおっ!こいつは、レア物だ!魔法のルーンがいくつか入っていやがるぜ」
「ほんとうですか!?」
ダリオは、自分が知っているルーンを口に出していた。
「ああ………軽量化に………耐久力……衝撃の緩和……それに汚れにくいのもあるな………あとは………」
そしてダリオは、ルーンの一つに関心を示した。
「……ん、なんだこれは……見たことねぇルーンが入ってやがる………緑色だから大地に関係がある物だな……」
ジルメイダが、腕を組みながら嬉しそうにしていた。
「『ユニーク・ルーン』があるのかい………こりゃあ、良い値が付きそうだねぇ」
【ユニーク・ルーン】
通常の魔法の効果とは違う、特殊な効果があるルーン。
これが入っている物を装備すると、装備者は特殊な効果を発揮させる事ができる。
このルーンがある物は、ユニークアイテムに分類されることが多い。
例えばギルヴァンの持っている双剣の灰になり、元に戻る効果、ベルフレードのスティレットになるメイスの効果など、様々なものがある。
ダリオは靴をユラトに渡すと立ち上がった。
「誰かが、装備してもいいのかもな………この大きさだと……俺やリュシアだと大きすぎるし、ジルメイダだと小さいな………ユラト、お前なら、ちょうどいいんじゃねぇか?」
「俺が履いていいんですか?」
「お前が買い取るのなら、履いてもいいぜ?」
ユラトは考えた。
(うーん………冒険者としてやっていくなら、やっぱり良い装備で身を固めておいた方がいいよな……だったら……迷わず……)
ユラトは決めた。
「これ……俺が買い取りします!」
「そうか、なら履いていいぞ」
リュシアが笑顔でユラトに話しかけてきた。
「良かったですね、ユラトさん!」
「うん、早速、履いてみるかな………」
ユラトは、すぐに自分の靴を脱ぎ、新しい革の靴に履き替えた。
履いてみると、その靴は、ユラトの為に作られたのかと思うほど、彼の足にぴったりと入っていた。
(………すごい、ぴったりだ……)
そしてユラトは、立ち上がった。
足を動かしたり、飛び跳ねてみる。
「おおっ!!―――軽い!」
先ほどまで履いていた靴と比べると、遥かに軽かった。
そして着地時にかかる、足の負担も軽減されているのをユラトは感じた。
「………これはいい!」
ジルメイダは、嬉しそうにしているユラトを見ていた。
「ふふっ、そりゃ良かった。だけど、ユニークルーンの効果は何だろうねぇ………」
地面を飛び跳ねていたユラトは、その事を思い出し、動き回るのを止めた。
「………そうだった……もう一つの効果は、何の効果なんだろう……」
リュシアが、箱の底にあった紙を見つけていた。
「―――あ、なんか書いてある紙が!」
「見せてみな、リュシア」
隣りにいたジルメイダが、紙を受け取り、そこに書かれている文字を読んだ。
「なになに………砂走りの靴………この靴には、砂走り効果ってのがあるみたいだね………」
それを聞いたダリオは、くびを傾げていた。
「なんだそりゃ……初めて聞く効果だな……」
気になったユラトは、ジルメイダに尋ねた。
「ジルメイダ、どうやればいい?」
ジルメイダは、紙に目を通した。
「足に意識を集中させて……魔力を靴に消費させることで、発動できるみたいだ………だけど魔力は、その靴でしばらく大地を歩かないと蓄えられないみたいだね……後は、紙が汚れてて良く分からないねぇ……」
「地面を歩くことで自動的に、貯まっていくのか………じゃあ、すぐには使えないってことか………」
すぐにでも見たかったのか、リュシアはユラトよりも残念そうにしていた。
「残念ですね………」
「まあ、どれぐらい歩いたらいいのか分からないけど、出来るようになったらすぐに、リュシアに見せるよ」
「はい!」
そしてダリオが、何かを思い出した。
「そうだ………箱に見とれていて忘れてたぜ………お前ら、この集落がなんの集落だったかが、なんとなくだが分かったぜ」
リュシアがダリオに尋ねた。
「どう言う事ですか?」
ダリオは、先ほど家を何軒か調べる中で、何かに思い当たったようだった。
「ほとんどの家に瓶詰めと、大きな木の棚があっただろ?」
ユラトは思い出していた。
「(確かにあった気がする……)……はい」
「瓶詰めと、棚を調べたら、それは薬草の粉末だったんだ。どれも黒い灰みてぇになって硬くこびり付いていやがったがな……僅かに残っていた匂いで、わかったんだ」
「なるほど……」
ダリオは話を続けた。
「それと、小さい家の中も見て回ったんだが、どこの家にも木のパイプがあっただろ?」
リュシアが思い出して答えていた。
「はい、私がさっきまでいた家の2階にも、パイプが壁に架けてありました」
そして今度はジルメイダがダリオに尋ねた。
「……それで、何がわかるんだい?」
「その2つで俺は、ピンときたんだ。ここは恐らく、人間と『ホグミット』が共に住み、薬草を作って生計を立てていた集落じゃねぇかってな」
【ホグミット】
この世界の古代語で『小さい人』を意味する光の種族。
名前の通り、成人した者でも、人間の半分以下の身長にしかないらない。
つぶらな瞳に、少しだけ尖った耳、小さな手足。
彼らは力が弱く、自分たちだけでは生きていけないために、他の光の種族と共に生活することが多かった。
人間と生活することも多かったが、特に仲が良かったのは、ドワーフだった。
大人になったホグミットは、タバコの葉にこだわりを持ち、常に良質の葉を求めることが多い。
そのため、木のパイプをたくさん所持している。
無邪気な性格の者が多く、笑い声を上げ、草原や森など、自然の場所を力いっぱい駆けることが好きな一面を持つ。
手先がドワーフ並みに器用であるため、職人としては、その小さい手を利用したアクセサリーの細工や、裁縫、薬草の栽培や薬の調合、陶器の製造、靴を作ることなどが得意であった。
冒険者としては、スカウトやレンジャー、クレリック、魔道師などが多かった。
また、はみ出し者などは、シーフになったものなどがいた。
有名なものでは、ホグミットのシーフ集団の話が有名なものとしてあった。
他の光の種族の痕跡の発見に、ユラトは驚くと同時に嬉しくも思った。
「ホグミットは、やっぱりいたんですね!」
リュシアも小さい光の種族の事を知っていたのか、嬉しそうにしていた。
(あのちっちゃくて可愛い……奴だよね?………会って見たい……)
ジルメイダが辺りを見回しながら呟いた。
「………だけど、誰も生き残ってはいないみたいだね……」
皆、残念そうに頷いていた。
「うん………」
そしてユラトが探索を再開しようとジルメイダに話しかけようとしたとき、ダリオが喋りだしていた。
「俺はレクスを呼んでくるぜ。お前らは、もう少し調べておいてくれ!」
ジルメイダがユラト達が来た道へ向っているダリオに話しかけた。
「そうだね……使える井戸の水もあるし………ダリオ、頼むよ!」
「ああ……」
そしてダリオは、そこで何かを思い出し、振り返るとリュシアに話しかけていた。
「………そうだ……おい、リュシア!」
ジルメイダと木の家に向おうとしていたリュシアもまた振り返ってダリオに返事を返した。
「えっ………はい?」
そこでダリオが、珍しく照れくさそうに話し始めた。
帽子をずらし、片手で頭をかきながら、リュシアに話しかけていた。
「ちっ……めんどくせぇんだが……まあ、いいか……お前が今進んでいる方の家の裏にもう一つ家がある……そこに、お前がやりたかったことが出来る場所があるから、やりたきゃやれ。ただし、自分で全部準備をするんだぞ!」
突然そう言われたリュシアは何のことだか分からず、キョトンとした表情になっていた。
「え………(なんだろ?………)」
ダリオは照れくさそうにすると、俯き加減に帽子をかぶり直し、すぐにレクスを迎えに茂みの中へ入っていった。
ユラトも何のことか分からなかった。
リュシアに近づき、話しかけていた。
「なんだろうね………リュシア」
リュシアは、なんのことかさっぱり分からなかった。
「さあ………」
そんなリュシアの隣で、ジルメイダは笑っていた。
「ふふふっ………相変わらず、こういうことに関して、あの男は成長がないねぇ……」
笑ったジルメイダを見たリュシアは、何かを知っているのかと思い、彼女に尋ねた。
「ジルメイダ、何かわかるの?」
「具体的に何かは、わからないさ。だけど、あいつの意図している所は、何となくわかるのさ……長い付き合いだからね」
「どういうこと?」
「あの男……さっきにリュシアに少しきつく言い過ぎたって思ったんだよ。それで、詫びのつもりで、あんたに言ったんだろうね」
その言葉を聞いてリュシアは、少しだけダリオを理解したような気がした。
「そうなんだ………」
ユラトは気になったので、リュシアにダリオが言っていた場所へ移動するように促した。
「リュシア、とにかく行って見よう!」
「はい……」
ユラトたちは、ダリオの言っていた場所へ向かった。
そこは、横に枝が広がる大きな木で、外側に木の板で、らせん状の階段が作られており、一番上の所に横に長い大きな樽のような物があった。
ユラトは、木の全体を眺めた。
(大きいな………真ん中に部屋があるみたいだ………なんの部屋なんだろう……)
ジルメイダがリュシアの肩に手を置き話しかけた。
「リュシア、あんたが先に行きな」
「うん………」
リュシアは、神妙な面持ちで、階段を上がり始めた。
すぐに、ユラトとジルメイダも後に続き、上がって行く。
そして、リュシアが、部屋の前にたどり着いた。
部屋の様子を見たリュシアは、嬉しそうに声を上げていたようだった。
「わあー!」
声が階段を上がっている2人にも聞こえていた。
「なんだろう……?」
「ユラト、さっさと上っちまおうか」
「うん」
そしてユラトもたどり着き、部屋に入った。
「………これは………?」
その部屋は、床となる部分を大きく丸く削り取った場所だった。
ユラトは、何の部屋か、一瞬分からなかった。
「何だろ……この部屋……」
リュシアは、嬉しそうに、その窪みの中へ入って、寝転がっていた。
そして、2人を見ると立ち上がり叫んだ。
「あ、2人ともやっと来た!ジルメイダ、お風呂に入れる!」
そこでユラトは、気付いた。
「そうか……ここは、この集落の人々の使っていた風呂なのか……」
ユラトは、水の無い風呂のある部屋を見渡した。
よく見ると部屋の壁の部分に、服を入れる場所や、明かりを灯しておく場所、何か飲み物などを、湯船に浮かべておく、大きな木の皿のような物などがあった。
天井を見上げると、先ほど見えた大きな木の樽のような物が真上にあり、その周りを葉の茂る木の枝があって、その隙間からは空が見えた。
大人が7~8人ぐらいが余裕を持って、入れそうな大きさの風呂だった。
そして、リュシアは、部屋の隅へ向い、そこに置いてあったものを持ってきた。
それは何か草を束ねた物だった。
笑顔になり、目を輝かせながら、それを両手で持ち上げると、ユラトとジルメイダに見せた。
「これって、このお風呂に入れる物だよね?」
それを見たジルメイダが、何かに気付いていた。
「………へぇ、ここにもあるんだねぇ……これは、あたしの住んでいるバルガの里にもあるもんだよ。軽く叩いて、お湯に入れると薬湯に使えるものさ。擦り傷やあかぎれに良く効くんだ……ふふふっ………ダリオの奴、リュシアの為に、頑張ったみたいだね………相変わらずだ……あの男は、はっはっは!」
ユラトは、この風呂に水を満たすのは大変だと思った。
「だけど、この大きさの場所に水を入れるのは結構大変かも………それに汚れているから、少し掃除もしないとだめだ……」
「それなんですけど………あれってなんか関係あるのかな?」
リュシアが彼らの頭上にある、大きな樽のようなものを指差した。
2人は、その場所を見た。
「んっ………あれか……なんだろうね……ちょっと見てみないとわからないね……ユラト、あんた木登り、出来るかい?」
「なんとか、やってみるよ!」
そしてユラトは木の家の壁から木に登った。
登ると、すぐに大きな樽の底に手が付いた。
そのまま彼は、樽に手を付け、辺りを探った。
すると、木の梯子を発見した。
そして梯子から樽の上の部分へ向って登ると、すぐにたどり着くことが出来た。
リュシアが下から心配そうに叫んでいた。
「ユラトさーん!大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫!だけど……これって中は、どうなっているんだろ?」
ユラトは、大きな樽の中を覗いた。
(………あっ!―――水だ!)
樽の中は、この木から落ちた葉が大量に浮いていたが、その隙間から水で満たされているのが分かった。
しかも、樽のぎりぎりのところまであった。
ユラトは下にいるジルメイダやリュシアに向って叫んだ。
「水がたっぷり入っているよ!」
リュシアは、喜んでいた。
「やったー!」
ジルメイダは、一瞬、喜んだ。
しかし、すぐに腕を組み、考えだした。
「………だけど、その水。腐ってるんじゃないのかい?」
それを聞いたユラトは調べるため、水面に大量に浮いている木の葉を手で軽くかき出した。
水面が波打ち、落ち葉と共に水が流れ落ちる。
そして彼は、水の状態を見た。
樽の中に、頭上にある木の葉や枝の隙間から入り込んだ昼の日差しが中に差し込んでいた。
(………透明で………綺麗な水だ……)
樽の中全体が見えるほど、水は透き通っていた。
僅かに青味がかっているほどだった。
そして、樽の底に緑色の苔のようなものが生えていた。
その苔全体に小さい気泡が、いくつか付いており、苔は中が黄色く小さい花びらをもった白い花を咲かせていた。
ユラトは、手で水をすくい匂いを嗅いだ。
「………くんくんっ………(変な匂いはしないな………)」
その事を下にいる2人にも告げると、ユラトは更に辺りを調べた。
すると、下にいるジルメイダが、叫んだ。
「そっちはどうだい!こっちは、この風呂に水を入れる樽の栓を見つけたよ!」
「やっぱり、そっちにあったのか………わかった!下りるよ!」
そしてユラトたちは、樽から水を少しだけ入れると、中の汚れを綺麗にした。
掃除にはレクスが教えてくれた木の皮や、家の中にあったホウキなどを使った。
彼らが掃除をしていると、ダリオとレクスがやって来ていた。
「おう!やってるな、お前ら」
3人がいる場所を見たレクスは驚いていた。
「………これは……面白い場所だ………うまく出来ているな……」
家の全体を手で触っていた。
「………あれは……?」
レクスは、大きな樽の存在に気付いた。
そして、先ほどユラトが調べた所へ、一瞬で飛び上がり、たどり着くと、中を見た。
ユラトはレクスに尋ねた。
「レクスさん!その水って使えますか?」
レクスは答えた。
「底に生えているこの苔は、水を常に綺麗に保っておくことの出来るものなんだ!これは、我々も使用しているものだ!」
レクスは、証明とばかりに手で素早く水をすくい、飲んで見せた。
「………うん……いい水だ……」
「井戸から水を持って来なければならないかもしれない」と思っていた3人は安堵した。
「良かった……」
そして、風呂に水を満たすと、彼らはまだ調べ終えていない家の中を調べた。
しかし、これといってお金になるものや、冒険に役立つ物などを見つけることは出来なかった。
どの家にも、小さな足跡があったため、「恐らく、ボーグル達が持っていったのだろう」と、彼らは結論付けた。
全てを調べ終えた時には日が沈み始める時間であったため、ユラトたちは、今日はここで一晩過ごすことにした。
リュシアとジルメイダは、夕飯の用意と先ほど掃除していた風呂にはいる準備のため、忙しく動いていた。
そして、ユラト達は、薪拾いと他に食べられる食材がないか、集落の辺りを歩いた。
ウッドエルフであるレクスは、次々と食材に使える野草を摘み取っていた。
それを見ていたユラトは感心した。
(流石、森の民と言われるだけはあるな………あの草も食べれるのか……覚えておこう………)
そんなユラトの視線に気付いたレクスが話しかけてきた。
「ユラト、お前とダリオの足元に落ちている木の実は、ペリュトンの肉とあえると臭みも消せて美味しくなるんだ。拾っておいてくれ」
ユラトは拾うことにした。
「はい、わかりました」
ダリオは木の実を一粒拾い上げ、顔の近くまで持ってくると眺めた。
薄い斑模様の先の尖った、指先で摘めるほどの大きさしかないの木の実だった。
「ほう………この実……食えるのか……面倒だが拾うか……」
ユラトとダリオは薪を拾いながら木の実も拾い、自分のポケットの中に入れていた。
そして夕日が沈みかけたころ、ユラト達は集落に戻った。
3人の男たちの腕には、周辺で拾ったものが沢山積み上げられていた。
戻ると、すぐにリュシアがやって来た。
「あの!薪もらっていいですか!?お風呂、あとは火を点けるだけなんで!」
「うん、いいよ、リュシア。俺が運ぶよ」
ユラトは薪を風呂のある場所まで運ぶことにした。
そして、薪をくべ終え、水の張ってある部屋へ行くと木で出来た風呂の床の部分が浮き上がっていた。
それを見たユラトとリュシアは喜んだ。
「ははっ!大きい床板だ。こうなっているのか……」
「ふふっ、楽しみ!」
そこでユラトはリュシアに渡そうと思っていたものがあった事を思い出した。
「……そうだ……リュシア、これ……さっき、薪を拾っているときにレクスさんが教えてくれた物で、拾っておいたんだ。良かったら使って」
そう言ってユラトは、腰に下げていた皮袋をリュシアに渡した。
リュシアはそれを受け取ると、すぐに袋を開き、中を見た。
中を見た瞬間、リュシアは嬉しそうにしていた。
「わー!……良い香り……ありがとうございます!」
袋の中身は、赤やピンクや白の花びらが入っていた。
それは、ウッドエルフの女性たちが風呂や水浴びをするときに、水の中に入れる花々だと言うことだった。
これを入れることで、肌に潤いと、体に良い香りを与えると、レクスが言っていた事をユラトは彼女に話した。
リュシアは、顔を綻ばせながら皮袋に顔を入れて、何度も香りを嗅いでいた。
そんな彼女を見たユラトは、嬉しく思った。
(毎日ダリオさんに厳しく教わっているのに、音を上げず、君は頑張っているよ……だから今日みたいな日があっても俺はいいと思うんだ………たまに、故郷を思い出して、寂しそうな顔をしていたのもあったしね……)
ユラトは、そんなリュシアの事を少し心配していた。
だが彼女は、この森の中で、強く生きることを学んでいるようだった。
そして、それは自分も同じだとユラトは思った。
(楽しく冒険が出来ればいいね………そのためにも……お互い頑張ろう……)
そして辺りは、夜の闇と森の静寂に包まれた。
彼らは、集落の広間に木のテーブルを置き、そこに食事を並べ、食べることにしていた。
静かな森で、僅かに虫の声が聞こえるのみだった。
ユラトは、ジルメイダが作ったペリュトンの肉と木の実をまぶして焼いた肉に、野イチゴのソースをかけたものを食べていた。
木の家にあったフォークを借り、肉を刺すと一気にかぶりついた。
分厚く切られた肉だったが、柔らかく臭みの無い肉でもあった。
口に含むと焼いた肉と木の実の少し焦げた芳ばしい香りを感じた。
そして噛むと肉汁が溢れ出てきた。
野イチゴの甘酸っぱいソースの味と相まって、非常に美味しい肉になっていた。
隣りにいたジルメイダが机に肘を突きながら、穏やかな表情で尋ねてきた。
「………どうだい、美味しいかい?」
「うん、美味しいよ!」
「ふふっ、そうかい………野草と木の実を炒めた物も美味いから食べておくれ」
「うん、食べるよ」
満足げに頷いたジルメイダは、正面に座っているダリオに視線を向けた。
「こりゃあ、うめぇな………うめぇぜ!」
ダリオも肉を口一杯に頬張りながら、美味しそうに食べていた。
(こっちのも、ちゃんと焼けているみたいだね………)
そして彼女は、その隣りに目を向けた。
ダリオの隣りには、机の上で作業をしているレクスがいた。
すでに食べ終えていたレクスは、残った肉を干し肉にするために、植物のツルを使い、肉を結び付けていたのだった。
(流石はウッドエルフ………なれたもんだ………ふふ……)
そして、もう1人の事を思おうとした時、ダリオが話しかけてきた。
「………ジルメイダ、ここの家はほとんどが、まだ使える家ばかりだ。ってことは、ここは、新たな『キャンプ地』になるんじゃねぇか?」
「そうだね………ウディル村から、ずいぶん遠くに来ちまったからね……確かにそろそろ補給地が欲しいところだ………わかった、それじゃ、候補地ってことで、ギルドに言っておくか………」
やや赤みがかった茶色の革靴で、全体的に綺麗で光沢があり、保存状態が非常に良い物だった。
ユラトは、木の箱からその靴を取り出した。
木の屑が入っていたため、それがパラパラと落ちていた。
「……まだ、誰も履いていないのかな?」
靴の中を見た。
「まったく汚れていない………」
ダリオがユラトに近づき、しゃがみ込んで靴を見た。
「いいもん見つけたな……ちょっと見せてみろ」
ユラトは、ダリオにその靴の片方を渡した。
「どれ………」
ダリオは、片目を閉じ、開いたほうの目で靴底を見た。
そして驚いていた。
「―――おおっ!こいつは、レア物だ!魔法のルーンがいくつか入っていやがるぜ」
「ほんとうですか!?」
ダリオは、自分が知っているルーンを口に出していた。
「ああ………軽量化に………耐久力……衝撃の緩和……それに汚れにくいのもあるな………あとは………」
そしてダリオは、ルーンの一つに関心を示した。
「……ん、なんだこれは……見たことねぇルーンが入ってやがる………緑色だから大地に関係がある物だな……」
ジルメイダが、腕を組みながら嬉しそうにしていた。
「『ユニーク・ルーン』があるのかい………こりゃあ、良い値が付きそうだねぇ」
【ユニーク・ルーン】
通常の魔法の効果とは違う、特殊な効果があるルーン。
これが入っている物を装備すると、装備者は特殊な効果を発揮させる事ができる。
このルーンがある物は、ユニークアイテムに分類されることが多い。
例えばギルヴァンの持っている双剣の灰になり、元に戻る効果、ベルフレードのスティレットになるメイスの効果など、様々なものがある。
ダリオは靴をユラトに渡すと立ち上がった。
「誰かが、装備してもいいのかもな………この大きさだと……俺やリュシアだと大きすぎるし、ジルメイダだと小さいな………ユラト、お前なら、ちょうどいいんじゃねぇか?」
「俺が履いていいんですか?」
「お前が買い取るのなら、履いてもいいぜ?」
ユラトは考えた。
(うーん………冒険者としてやっていくなら、やっぱり良い装備で身を固めておいた方がいいよな……だったら……迷わず……)
ユラトは決めた。
「これ……俺が買い取りします!」
「そうか、なら履いていいぞ」
リュシアが笑顔でユラトに話しかけてきた。
「良かったですね、ユラトさん!」
「うん、早速、履いてみるかな………」
ユラトは、すぐに自分の靴を脱ぎ、新しい革の靴に履き替えた。
履いてみると、その靴は、ユラトの為に作られたのかと思うほど、彼の足にぴったりと入っていた。
(………すごい、ぴったりだ……)
そしてユラトは、立ち上がった。
足を動かしたり、飛び跳ねてみる。
「おおっ!!―――軽い!」
先ほどまで履いていた靴と比べると、遥かに軽かった。
そして着地時にかかる、足の負担も軽減されているのをユラトは感じた。
「………これはいい!」
ジルメイダは、嬉しそうにしているユラトを見ていた。
「ふふっ、そりゃ良かった。だけど、ユニークルーンの効果は何だろうねぇ………」
地面を飛び跳ねていたユラトは、その事を思い出し、動き回るのを止めた。
「………そうだった……もう一つの効果は、何の効果なんだろう……」
リュシアが、箱の底にあった紙を見つけていた。
「―――あ、なんか書いてある紙が!」
「見せてみな、リュシア」
隣りにいたジルメイダが、紙を受け取り、そこに書かれている文字を読んだ。
「なになに………砂走りの靴………この靴には、砂走り効果ってのがあるみたいだね………」
それを聞いたダリオは、くびを傾げていた。
「なんだそりゃ……初めて聞く効果だな……」
気になったユラトは、ジルメイダに尋ねた。
「ジルメイダ、どうやればいい?」
ジルメイダは、紙に目を通した。
「足に意識を集中させて……魔力を靴に消費させることで、発動できるみたいだ………だけど魔力は、その靴でしばらく大地を歩かないと蓄えられないみたいだね……後は、紙が汚れてて良く分からないねぇ……」
「地面を歩くことで自動的に、貯まっていくのか………じゃあ、すぐには使えないってことか………」
すぐにでも見たかったのか、リュシアはユラトよりも残念そうにしていた。
「残念ですね………」
「まあ、どれぐらい歩いたらいいのか分からないけど、出来るようになったらすぐに、リュシアに見せるよ」
「はい!」
そしてダリオが、何かを思い出した。
「そうだ………箱に見とれていて忘れてたぜ………お前ら、この集落がなんの集落だったかが、なんとなくだが分かったぜ」
リュシアがダリオに尋ねた。
「どう言う事ですか?」
ダリオは、先ほど家を何軒か調べる中で、何かに思い当たったようだった。
「ほとんどの家に瓶詰めと、大きな木の棚があっただろ?」
ユラトは思い出していた。
「(確かにあった気がする……)……はい」
「瓶詰めと、棚を調べたら、それは薬草の粉末だったんだ。どれも黒い灰みてぇになって硬くこびり付いていやがったがな……僅かに残っていた匂いで、わかったんだ」
「なるほど……」
ダリオは話を続けた。
「それと、小さい家の中も見て回ったんだが、どこの家にも木のパイプがあっただろ?」
リュシアが思い出して答えていた。
「はい、私がさっきまでいた家の2階にも、パイプが壁に架けてありました」
そして今度はジルメイダがダリオに尋ねた。
「……それで、何がわかるんだい?」
「その2つで俺は、ピンときたんだ。ここは恐らく、人間と『ホグミット』が共に住み、薬草を作って生計を立てていた集落じゃねぇかってな」
【ホグミット】
この世界の古代語で『小さい人』を意味する光の種族。
名前の通り、成人した者でも、人間の半分以下の身長にしかないらない。
つぶらな瞳に、少しだけ尖った耳、小さな手足。
彼らは力が弱く、自分たちだけでは生きていけないために、他の光の種族と共に生活することが多かった。
人間と生活することも多かったが、特に仲が良かったのは、ドワーフだった。
大人になったホグミットは、タバコの葉にこだわりを持ち、常に良質の葉を求めることが多い。
そのため、木のパイプをたくさん所持している。
無邪気な性格の者が多く、笑い声を上げ、草原や森など、自然の場所を力いっぱい駆けることが好きな一面を持つ。
手先がドワーフ並みに器用であるため、職人としては、その小さい手を利用したアクセサリーの細工や、裁縫、薬草の栽培や薬の調合、陶器の製造、靴を作ることなどが得意であった。
冒険者としては、スカウトやレンジャー、クレリック、魔道師などが多かった。
また、はみ出し者などは、シーフになったものなどがいた。
有名なものでは、ホグミットのシーフ集団の話が有名なものとしてあった。
他の光の種族の痕跡の発見に、ユラトは驚くと同時に嬉しくも思った。
「ホグミットは、やっぱりいたんですね!」
リュシアも小さい光の種族の事を知っていたのか、嬉しそうにしていた。
(あのちっちゃくて可愛い……奴だよね?………会って見たい……)
ジルメイダが辺りを見回しながら呟いた。
「………だけど、誰も生き残ってはいないみたいだね……」
皆、残念そうに頷いていた。
「うん………」
そしてユラトが探索を再開しようとジルメイダに話しかけようとしたとき、ダリオが喋りだしていた。
「俺はレクスを呼んでくるぜ。お前らは、もう少し調べておいてくれ!」
ジルメイダがユラト達が来た道へ向っているダリオに話しかけた。
「そうだね……使える井戸の水もあるし………ダリオ、頼むよ!」
「ああ……」
そしてダリオは、そこで何かを思い出し、振り返るとリュシアに話しかけていた。
「………そうだ……おい、リュシア!」
ジルメイダと木の家に向おうとしていたリュシアもまた振り返ってダリオに返事を返した。
「えっ………はい?」
そこでダリオが、珍しく照れくさそうに話し始めた。
帽子をずらし、片手で頭をかきながら、リュシアに話しかけていた。
「ちっ……めんどくせぇんだが……まあ、いいか……お前が今進んでいる方の家の裏にもう一つ家がある……そこに、お前がやりたかったことが出来る場所があるから、やりたきゃやれ。ただし、自分で全部準備をするんだぞ!」
突然そう言われたリュシアは何のことだか分からず、キョトンとした表情になっていた。
「え………(なんだろ?………)」
ダリオは照れくさそうにすると、俯き加減に帽子をかぶり直し、すぐにレクスを迎えに茂みの中へ入っていった。
ユラトも何のことか分からなかった。
リュシアに近づき、話しかけていた。
「なんだろうね………リュシア」
リュシアは、なんのことかさっぱり分からなかった。
「さあ………」
そんなリュシアの隣で、ジルメイダは笑っていた。
「ふふふっ………相変わらず、こういうことに関して、あの男は成長がないねぇ……」
笑ったジルメイダを見たリュシアは、何かを知っているのかと思い、彼女に尋ねた。
「ジルメイダ、何かわかるの?」
「具体的に何かは、わからないさ。だけど、あいつの意図している所は、何となくわかるのさ……長い付き合いだからね」
「どういうこと?」
「あの男……さっきにリュシアに少しきつく言い過ぎたって思ったんだよ。それで、詫びのつもりで、あんたに言ったんだろうね」
その言葉を聞いてリュシアは、少しだけダリオを理解したような気がした。
「そうなんだ………」
ユラトは気になったので、リュシアにダリオが言っていた場所へ移動するように促した。
「リュシア、とにかく行って見よう!」
「はい……」
ユラトたちは、ダリオの言っていた場所へ向かった。
そこは、横に枝が広がる大きな木で、外側に木の板で、らせん状の階段が作られており、一番上の所に横に長い大きな樽のような物があった。
ユラトは、木の全体を眺めた。
(大きいな………真ん中に部屋があるみたいだ………なんの部屋なんだろう……)
ジルメイダがリュシアの肩に手を置き話しかけた。
「リュシア、あんたが先に行きな」
「うん………」
リュシアは、神妙な面持ちで、階段を上がり始めた。
すぐに、ユラトとジルメイダも後に続き、上がって行く。
そして、リュシアが、部屋の前にたどり着いた。
部屋の様子を見たリュシアは、嬉しそうに声を上げていたようだった。
「わあー!」
声が階段を上がっている2人にも聞こえていた。
「なんだろう……?」
「ユラト、さっさと上っちまおうか」
「うん」
そしてユラトもたどり着き、部屋に入った。
「………これは………?」
その部屋は、床となる部分を大きく丸く削り取った場所だった。
ユラトは、何の部屋か、一瞬分からなかった。
「何だろ……この部屋……」
リュシアは、嬉しそうに、その窪みの中へ入って、寝転がっていた。
そして、2人を見ると立ち上がり叫んだ。
「あ、2人ともやっと来た!ジルメイダ、お風呂に入れる!」
そこでユラトは、気付いた。
「そうか……ここは、この集落の人々の使っていた風呂なのか……」
ユラトは、水の無い風呂のある部屋を見渡した。
よく見ると部屋の壁の部分に、服を入れる場所や、明かりを灯しておく場所、何か飲み物などを、湯船に浮かべておく、大きな木の皿のような物などがあった。
天井を見上げると、先ほど見えた大きな木の樽のような物が真上にあり、その周りを葉の茂る木の枝があって、その隙間からは空が見えた。
大人が7~8人ぐらいが余裕を持って、入れそうな大きさの風呂だった。
そして、リュシアは、部屋の隅へ向い、そこに置いてあったものを持ってきた。
それは何か草を束ねた物だった。
笑顔になり、目を輝かせながら、それを両手で持ち上げると、ユラトとジルメイダに見せた。
「これって、このお風呂に入れる物だよね?」
それを見たジルメイダが、何かに気付いていた。
「………へぇ、ここにもあるんだねぇ……これは、あたしの住んでいるバルガの里にもあるもんだよ。軽く叩いて、お湯に入れると薬湯に使えるものさ。擦り傷やあかぎれに良く効くんだ……ふふふっ………ダリオの奴、リュシアの為に、頑張ったみたいだね………相変わらずだ……あの男は、はっはっは!」
ユラトは、この風呂に水を満たすのは大変だと思った。
「だけど、この大きさの場所に水を入れるのは結構大変かも………それに汚れているから、少し掃除もしないとだめだ……」
「それなんですけど………あれってなんか関係あるのかな?」
リュシアが彼らの頭上にある、大きな樽のようなものを指差した。
2人は、その場所を見た。
「んっ………あれか……なんだろうね……ちょっと見てみないとわからないね……ユラト、あんた木登り、出来るかい?」
「なんとか、やってみるよ!」
そしてユラトは木の家の壁から木に登った。
登ると、すぐに大きな樽の底に手が付いた。
そのまま彼は、樽に手を付け、辺りを探った。
すると、木の梯子を発見した。
そして梯子から樽の上の部分へ向って登ると、すぐにたどり着くことが出来た。
リュシアが下から心配そうに叫んでいた。
「ユラトさーん!大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫!だけど……これって中は、どうなっているんだろ?」
ユラトは、大きな樽の中を覗いた。
(………あっ!―――水だ!)
樽の中は、この木から落ちた葉が大量に浮いていたが、その隙間から水で満たされているのが分かった。
しかも、樽のぎりぎりのところまであった。
ユラトは下にいるジルメイダやリュシアに向って叫んだ。
「水がたっぷり入っているよ!」
リュシアは、喜んでいた。
「やったー!」
ジルメイダは、一瞬、喜んだ。
しかし、すぐに腕を組み、考えだした。
「………だけど、その水。腐ってるんじゃないのかい?」
それを聞いたユラトは調べるため、水面に大量に浮いている木の葉を手で軽くかき出した。
水面が波打ち、落ち葉と共に水が流れ落ちる。
そして彼は、水の状態を見た。
樽の中に、頭上にある木の葉や枝の隙間から入り込んだ昼の日差しが中に差し込んでいた。
(………透明で………綺麗な水だ……)
樽の中全体が見えるほど、水は透き通っていた。
僅かに青味がかっているほどだった。
そして、樽の底に緑色の苔のようなものが生えていた。
その苔全体に小さい気泡が、いくつか付いており、苔は中が黄色く小さい花びらをもった白い花を咲かせていた。
ユラトは、手で水をすくい匂いを嗅いだ。
「………くんくんっ………(変な匂いはしないな………)」
その事を下にいる2人にも告げると、ユラトは更に辺りを調べた。
すると、下にいるジルメイダが、叫んだ。
「そっちはどうだい!こっちは、この風呂に水を入れる樽の栓を見つけたよ!」
「やっぱり、そっちにあったのか………わかった!下りるよ!」
そしてユラトたちは、樽から水を少しだけ入れると、中の汚れを綺麗にした。
掃除にはレクスが教えてくれた木の皮や、家の中にあったホウキなどを使った。
彼らが掃除をしていると、ダリオとレクスがやって来ていた。
「おう!やってるな、お前ら」
3人がいる場所を見たレクスは驚いていた。
「………これは……面白い場所だ………うまく出来ているな……」
家の全体を手で触っていた。
「………あれは……?」
レクスは、大きな樽の存在に気付いた。
そして、先ほどユラトが調べた所へ、一瞬で飛び上がり、たどり着くと、中を見た。
ユラトはレクスに尋ねた。
「レクスさん!その水って使えますか?」
レクスは答えた。
「底に生えているこの苔は、水を常に綺麗に保っておくことの出来るものなんだ!これは、我々も使用しているものだ!」
レクスは、証明とばかりに手で素早く水をすくい、飲んで見せた。
「………うん……いい水だ……」
「井戸から水を持って来なければならないかもしれない」と思っていた3人は安堵した。
「良かった……」
そして、風呂に水を満たすと、彼らはまだ調べ終えていない家の中を調べた。
しかし、これといってお金になるものや、冒険に役立つ物などを見つけることは出来なかった。
どの家にも、小さな足跡があったため、「恐らく、ボーグル達が持っていったのだろう」と、彼らは結論付けた。
全てを調べ終えた時には日が沈み始める時間であったため、ユラトたちは、今日はここで一晩過ごすことにした。
リュシアとジルメイダは、夕飯の用意と先ほど掃除していた風呂にはいる準備のため、忙しく動いていた。
そして、ユラト達は、薪拾いと他に食べられる食材がないか、集落の辺りを歩いた。
ウッドエルフであるレクスは、次々と食材に使える野草を摘み取っていた。
それを見ていたユラトは感心した。
(流石、森の民と言われるだけはあるな………あの草も食べれるのか……覚えておこう………)
そんなユラトの視線に気付いたレクスが話しかけてきた。
「ユラト、お前とダリオの足元に落ちている木の実は、ペリュトンの肉とあえると臭みも消せて美味しくなるんだ。拾っておいてくれ」
ユラトは拾うことにした。
「はい、わかりました」
ダリオは木の実を一粒拾い上げ、顔の近くまで持ってくると眺めた。
薄い斑模様の先の尖った、指先で摘めるほどの大きさしかないの木の実だった。
「ほう………この実……食えるのか……面倒だが拾うか……」
ユラトとダリオは薪を拾いながら木の実も拾い、自分のポケットの中に入れていた。
そして夕日が沈みかけたころ、ユラト達は集落に戻った。
3人の男たちの腕には、周辺で拾ったものが沢山積み上げられていた。
戻ると、すぐにリュシアがやって来た。
「あの!薪もらっていいですか!?お風呂、あとは火を点けるだけなんで!」
「うん、いいよ、リュシア。俺が運ぶよ」
ユラトは薪を風呂のある場所まで運ぶことにした。
そして、薪をくべ終え、水の張ってある部屋へ行くと木で出来た風呂の床の部分が浮き上がっていた。
それを見たユラトとリュシアは喜んだ。
「ははっ!大きい床板だ。こうなっているのか……」
「ふふっ、楽しみ!」
そこでユラトはリュシアに渡そうと思っていたものがあった事を思い出した。
「……そうだ……リュシア、これ……さっき、薪を拾っているときにレクスさんが教えてくれた物で、拾っておいたんだ。良かったら使って」
そう言ってユラトは、腰に下げていた皮袋をリュシアに渡した。
リュシアはそれを受け取ると、すぐに袋を開き、中を見た。
中を見た瞬間、リュシアは嬉しそうにしていた。
「わー!……良い香り……ありがとうございます!」
袋の中身は、赤やピンクや白の花びらが入っていた。
それは、ウッドエルフの女性たちが風呂や水浴びをするときに、水の中に入れる花々だと言うことだった。
これを入れることで、肌に潤いと、体に良い香りを与えると、レクスが言っていた事をユラトは彼女に話した。
リュシアは、顔を綻ばせながら皮袋に顔を入れて、何度も香りを嗅いでいた。
そんな彼女を見たユラトは、嬉しく思った。
(毎日ダリオさんに厳しく教わっているのに、音を上げず、君は頑張っているよ……だから今日みたいな日があっても俺はいいと思うんだ………たまに、故郷を思い出して、寂しそうな顔をしていたのもあったしね……)
ユラトは、そんなリュシアの事を少し心配していた。
だが彼女は、この森の中で、強く生きることを学んでいるようだった。
そして、それは自分も同じだとユラトは思った。
(楽しく冒険が出来ればいいね………そのためにも……お互い頑張ろう……)
そして辺りは、夜の闇と森の静寂に包まれた。
彼らは、集落の広間に木のテーブルを置き、そこに食事を並べ、食べることにしていた。
静かな森で、僅かに虫の声が聞こえるのみだった。
ユラトは、ジルメイダが作ったペリュトンの肉と木の実をまぶして焼いた肉に、野イチゴのソースをかけたものを食べていた。
木の家にあったフォークを借り、肉を刺すと一気にかぶりついた。
分厚く切られた肉だったが、柔らかく臭みの無い肉でもあった。
口に含むと焼いた肉と木の実の少し焦げた芳ばしい香りを感じた。
そして噛むと肉汁が溢れ出てきた。
野イチゴの甘酸っぱいソースの味と相まって、非常に美味しい肉になっていた。
隣りにいたジルメイダが机に肘を突きながら、穏やかな表情で尋ねてきた。
「………どうだい、美味しいかい?」
「うん、美味しいよ!」
「ふふっ、そうかい………野草と木の実を炒めた物も美味いから食べておくれ」
「うん、食べるよ」
満足げに頷いたジルメイダは、正面に座っているダリオに視線を向けた。
「こりゃあ、うめぇな………うめぇぜ!」
ダリオも肉を口一杯に頬張りながら、美味しそうに食べていた。
(こっちのも、ちゃんと焼けているみたいだね………)
そして彼女は、その隣りに目を向けた。
ダリオの隣りには、机の上で作業をしているレクスがいた。
すでに食べ終えていたレクスは、残った肉を干し肉にするために、植物のツルを使い、肉を結び付けていたのだった。
(流石はウッドエルフ………なれたもんだ………ふふ……)
そして、もう1人の事を思おうとした時、ダリオが話しかけてきた。
「………ジルメイダ、ここの家はほとんどが、まだ使える家ばかりだ。ってことは、ここは、新たな『キャンプ地』になるんじゃねぇか?」
「そうだね………ウディル村から、ずいぶん遠くに来ちまったからね……確かにそろそろ補給地が欲しいところだ………わかった、それじゃ、候補地ってことで、ギルドに言っておくか………」
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