魔境放眼は地獄へ行く

木mori

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第一章

第十二話・大ピンチ!

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「ガアアア。」

 野獣のような雄叫びが大悟たちの鼓膜を強烈に震わせた。大悟にキスされて倒れた女子は気絶していたが、いきなり起き上がり大悟に立ち向かってきたのである。すでに人間の姿ではない。

「こいつは饅頭人だったんだ。倒し方は密着?どうすれば?キスなんかじゃないだろう。饅頭人になにか働きかけないと。物理的な攻撃がいるのではないか?」

 スーパーでどれがいちばん単価が安いかを計算するようなおばちゃん的思考を巡らしてるうちに、饅頭人が襲いかかってきた。

 大きな口を開けて迫る饅頭人が楡浬をガブリとやった瞬間、饅頭人の口が止まった。熱魔法が唯一得意である楡浬のからだからわずかに湯気が出ている。熱に饅頭人が怯んだようだ。

「今の隙に饅頭人対策を考えるんだ。」

「・・・うん。」

 楡浬は拙い魔力を使いきり、余裕がなかった。

「おんぶズマンとか言ってたな。態勢のことを言ってるんだよな?おんぶって、こうか?」

「それはお姫様抱っこよ!それにどこ見てるのよ!」

 ミニスカでお姫様だっこすると、スカートめくれ率が急速上昇することは力のモーメント計算でも明らかである。

 楡浬を下ろした大悟は、一休さんポーズ。

「そうか、背中に抱えればいいんだな。」

 当たり前の思考回路に方向転換。背中を楡浬に向けた。

「早く乗れよ。」

 楡浬はやや俯いて、返事をしない。

「おい、今がチャンスなんだぞ。饅頭人が復活したら元の木阿弥だ。」

「でもこの態勢だと大悟が悦楽の境地を堪能して、猥褻の底なし沼という未来へ旅立つだけじゃないの。」

「猥褻目的じゃない!それにおんぶしても背中に肉体的圧力を感知する可能性はナノレベルだ。」

「なんて失礼なことを。いいわよ。やってやるわ。アタシの必殺バストライカーをとことんみせてやるわ。吠え面かいて、大粗相しても知らないわよ。」

「大はない。せいぜい小粗相にとどめてやる。」

「なによ、小って。まあいいわ。背中に乗ってやるわよ。アタシが上に乗るという栄光に浴しなさい。」

「栄光じゃねえ。屈辱だ!」

 楡浬はゆっくりと中腰姿勢の大悟の肩に手をかけた。意外に広い筋肉にちょっと気持ちが揺らいだ楡浬。少しからだを震わせながら大悟の背中に胸を合わせる楡浬。

「しっかり密着してくれ。」

「ちょっと、もう恥ずかしいくらいくっつけてるんだけど。」

「はあ?何の感触もないんだけど。」

「背中ひん剥いて殺すわよ。広背筋は面積が大きくて剥ぎ応えがありそうだわ。」

「があああ。」

 ふたりがまごついている間に饅頭人が大悟に噛みついてきた。

「いてえ!それにネバネバして気持ち悪い!」

 噛まれたショックでおんぶズマンは解体され、ふたりは路上に投げ出された。それを触手のような眼で見ていた饅頭人は四本の脚を蠢かして楡浬のところへ向かう。

「ち、近寄らないで。アタシなんかを食べたらお腹がきれいにすっきりなってからだに良すぎるんだからねっ。」

 ピンチな状況においてもプライドだけは完全キープしている楡浬。

 饅頭人は、上半身から枯れ枝のように伸びる腕を盆踊りするゾンビのように楡浬にじわりじわりと近づける。饅頭人の表情はわからないが、淫靡な空気に包まれているように見える。

「グア、グア、グア。」

 饅頭人の腕が楡浬のスカートの方を指している。

「ちょ、ちょっと、待ってよ。ま、まさか、あんたの狙いって、ここ?い、いやだわ~!」
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