魔境放眼は地獄へ行く

木mori

文字の大きさ
14 / 116
第一章

第十三話・饅頭人との対決

しおりを挟む
 クロワッサンのようにねじ曲がった指は後ずさりする楡浬の下腹部をフォーカスして、トッププロゴルファーのパットのように正確にアプローチしていく。さらに恐怖で震えるスカートを容赦なくめくりあげ、その下にある無抵抗なウサミミイラストのゴムに指をかけた。

「オレは饅頭大食い選手権で優勝したスーパーヒーローだぁ。矢でも饅頭でも持って来い。食べるのは饅頭。矢で串刺しして饅頭三姉妹でも四姉妹でも食い尽くして萌え尽くしてやるぞぉ~。」

 楡浬から5メートル離れた地点で倒れていた大悟は頭を強く打って意識が泳いでいた。ちなみに饅頭大食い選手権なる大会は実在しない。苦悶する楡浬は横目で大悟を見ながら唇を噛みしめている。

「あのバカ。こんな時にアタシを助けないでいつ助けるのよ。」

饅頭人は楡浬のパンツをがっしりと掴んで、下ろそうと少し肌から引き離した。

「大悟っ。許嫁として認めるから、助けて~!」

「認める、許嫁だと?」

 聞き飽きていたフレーズだったが、楡浬の断末魔の叫びは大悟の魂を揺り動かすのに十分だった。
大悟は圧倒的な瞬発力で立ち上がり、楡浬を襲う饅頭人を捕まえて、からだを引きちぎった。腕をもがれた饅頭人はたまらず横転した。

『ぐにゃぐにゃぐにゃ』という耳障りな雑音と共に千切れた部分はすぐに再生された。大悟はふたたび自分の手をカギ爪のように使って、饅頭人の胴体を引き裂いた。やはり饅頭人のからだはすぐに復活した。

「このままじゃ埒があかないわ。大悟の日常と同じじゃない。この役立たずの昼行灯。許嫁って言葉なんて歩かない辞書にしか載ってないわ。」

 歩かない辞書はごく普通にどこの家にもある。助けられたことにお礼もなく悪口雑言を大悟に浴びせる楡浬。

「そんなこと言われても、オレは魔法を持ってないし。むしろ楡浬の方が髪の毛一本くらいは攻撃力があるだろう。」

「どこが髪の毛一本よ。三本ぐらいはあるわよ。」

「そういう意味じゃねえ!何かやってくれよ。オレの許嫁だろ。無価値なものだけど、無価値はカネでは買えないぞ。不等価交換だからな。」

「何正しいロジックを展開してるのよ。無意味な会話はなんだかアタマに来るわ。」

 楡浬のからだから、いい湯加減の蒸気が出てきた。

「大悟。シワが少なくて、味噌汁にすら使えないあんたの脳みそを壊してやるわ。」

「脳みそは味噌汁には使えないぞ。ダシを取るだけにしろ。」

「またまた人をバカにして~。」

 饅頭人そっちのけで、大悟を襲撃しようと足を踏み出しする楡浬。

 その時、楡浬のローファーが転がっていた饅頭人の千切れたパーツを踏んでしまい、楡浬のからだは滑って宙に舞い、C難度の空中回転をクリア。そのまま大悟の背中にドッキング。楡浬子亀を載せた親亀大悟は饅頭人を熱烈ハグ。その瞬間、大悟は背中を強くプッシュされた。大悟の脊髄から何かの信号が大脳へ奔流した。

「この異物感。キタ~!これが背中スイッチ(バックコード)だ!」

 大悟の背中に電気のような波が流れ、楡浬と大悟の全身は真っ赤に変色した。そのまま大悟は饅頭人を抱き締めると、饅頭人は悲鳴のような叫び声を上げてからだから、『シューシュー』と音を出して、消えた。

「やった。饅頭人を倒したぞ。こいつは熱に弱いのか。そこは饅頭らしいな。」

「そうね。これがアタシたちの最初の共同作業ってとこかしら。ホントに許嫁っぽいわね。・・・。い、いつまでこんな羞恥プレイポーズとってるのよ。早く下ろしなさいよ。」

「ゴメン。もう背中にプレッシャーは感じないし。さっきはどうして、異物感があったんだろうか。」

「そんなの上から飛びかかったからに決まってるでしょ。って、常にアタシの大海はボリュームに満ち溢れてるハズなんだからねっ。」

 大悟から降りた楡浬は背を向けて大悟に声を発していた。大悟には見えなかったが緩んだ表情には笑みがあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...