魔境放眼は地獄へ行く

木mori

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第三章

第十七話・正妻

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「ふう。甘い匂いは好きだけど、すべてが甘いと気持ち悪いなあ。デレデレの新婚生活がすぐに崩壊することがよくわかるなあ。お兄ちゃんとの甘い未来では、気を付けよう。」


軽く屈伸運動をしてリラックスムードの桃羅。からだは元の適度な肉付きのスタイルを披露している。


「大悟妹!無事じゃったか。そちがいなくなったらメシが食えなくなるでのう。少々心配したぞ。」
 白弦たちも元の体型で復活していた。


「あたしより食べ物が大事なのか。食い意地の張ってるつるぺた幼女め。あたしは、ワザと食べられて、饅頭人の中でノイズを出して、超音波破壊してやったよ。」


「どうでもよいが、妾たちのからだがバラバラに食われていたようじゃが、手品でも使ったのか?」


「その通り。これは桃羅マジックで、種明かしはしないよ。これだけでもお金が取れるんだから。」


「それはそちらしい殊勝なことじゃ。それでは、強力な魔力のある方へ向かうとするかの。」白弦は風でリボンをアンテナにして、動き出す。白弦小隊は、しばらく街を彷徨して、ようやく目的地に着いた。


「これって、何かの工場じゃないの?」


楡浬が指差した方向には、『饅頭本舗黒霞雨工場』という看板が見えた。二階建ての郊外型大型書店並みの建築物が鎮座している。


「これは饅頭工場かの。しかし饅頭人は生き物じゃ。作れるものではないぞ。」


「そうね。大昔は人間だったと聞いてるわ。その子孫が饅頭人であり、アタシたちウサミミ族は角のある鬼の末裔だわね。」


「となると、この工場の役割はなんじゃ?」


「それは饅頭人のからだと心のケアよ。」


 長い黒髪を風に揺らしている黒霞雨が白弦たちの前に忽然と現われた。


「あんたが、お兄ちゃんを拐かした張本人だね。片目隠して、いかにも犯罪者面してるよ。お兄ちゃんを返してよ。」


「返す?大悟さんは自分の意思で私の嫁になったんだから、とんだ思い違いだわ。」


「嫁って言うな!それを言っていいのは、あたしと愛人二号だけだよ。愛人二号はオオマケだけどね。お兄ちゃんはモモの木偶でセイドレイなはずだよ。」


「違うわ!オレが結婚に同意したのは事実。」


「お兄ちゃん!」「大悟!」


 白いタキシードを着た大悟。髪は七三に分けられている。


「わははは。私の勝利ね。みんな立ち去りなさい。」


完勝宣言の黒霞雨。片手を振って、桃羅たちの退出を促すポーズである。


「大悟がそういうならそれでいいわ。所詮は名ばかりの許嫁。ハリボテはハリーポッターのように、いずれ新しいものに敗れて破れるものよ。」


「ハリポタファンに怒られるぞ。」


「あら。意外にあっさりしてるのね。いくら洗っても落ちないカメムシの臭いかと思ってたけど。」


「まさに虫けら扱いね。饅頭人らしい底辺の考えはウサミミ族には理解不能ね。」


「あなたがいいならすべて解決だわ。」


「ちょっと待ってよ。正妻はあたしなんだから、今の発言はあくまで愛人二号のもの。正妻がいる以上、あんたは愛人三号なんだからねっ!」
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