魔境放眼は地獄へ行く

木mori

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第三章

第十八話・記憶

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「あらあら、ずいぶん無粋なことをおっしゃるのね。あなたは、実の妹さんでしょ。正妻なんて立場は、法律が異次元緩和でもしないとあり得ないわ。教師だと聞いてるけど、教師ならそれぐらいは教師手帳に書いてあるでしょう。」


「そんな手帳あるか!でも法律の壁はあたしが永遠に破れないノイズキャンセラー。悔しいけど、白旗の下に臥すしかないのかな。」


「それじゃあ、大悟さん。私たちふたりだけの闇を掘って行きましょう。底はありませんわよ。太陽はいつか寿命が来て光は消えますが、闇には限界がありませんから、これから永遠の時を迎えることになるのです。ではみなさん。ごきげんよう。」


建物に戻ろうとした黒霞雨はちらっと振り返った。
楡浬の顔がわずかに黒霞雨の漆黒の瞳を掠めた。いつもの整った楡浬の顔立ちで、ほのかに笑みまで浮かべている。でも本当に辛い時は却って普段通りになってしまう。それが黒霞雨の記憶と一致する。

     
かつて黒霞雨は孤独ではなかった。非常に仲のよい姉と蜜月。たったふたりだけの生活だったが、すごく楽しかった。しかし、突如、袂を分けなければならない事態が現れた。凶悪な桃太郎に襲われた時、姉が自分を犠牲にして、雲の上に逃げ出た。風魔法を使って、海を作り上げた。桃太郎軍は空の海を見て、気勢を削がれ、また海の雨で戦闘起爆剤である吉備団子が多数使用不能になり、黒霞雨の地域から撤退した。やむなく桃太郎軍は陸地の地獄を攻略し、降伏させた。姉白弦はそのまま空に残り、黒霞雨は今の饅頭人居住区へ残った。別れた時の白弦の顔を忘れない。今の楡浬が同じ顔をしている。


「これじゃあ、私の入る余地はなさそうね。あんな顔は二度と見たくないし。」
黒霞雨は黙ったままで、ひとりで工場のドアを開いた。白弦が寂しそうにその背中に視線を当てていた。


「お兄ちゃん!良かったよ、助かったんだよ!これで思う存分、モモのパンチラが堪能できるよ。今ここで御披露目したいよ。」


「本当にオレは解放されたのか?」


「そうじゃないの。あの黒い女はもういないわよ。また許嫁に戻るなんてまっぴらなんだけど、大悟がどうしてもって言うから、リトライをさせてやってもいいわよ。」


「いったい何様なんだよ!」
言い争いをしている割にはマシュマロのような甘さ漂うふたりであった。


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