特売フイギュアワゴンの中に手を入れたら、人生変わるので注意してください。

木mori

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第一章

第九話

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「はあはあはあ。カイカン~。」
 生徒会長は涎を流しながら、アスファルトに横たわっている。真っ白だった頬はすっかり紅潮し、鋭い目も呆けている。

その姿を見た楡浬と大悟は目を白黒させている。フィギュアもその程度の機能は有している。

「この人、いったいどうしたのかしら。自分で電撃を浴びるなんて、電池で動く天使なのかしら?」

(電池で動く天使などいるものか!あれはきっとノーマルではないスイッチを持っているに違いないぞ。)

「ノーマル?スイッチ?やっぱり電気仕掛けのヒューマノイドじゃない、エンジェルノイドじゃないの?」

(エンジェルノイド?どこの通販フィギュアだ?・・・。思い出したくない。これはワゴンの罠だ。)
 大悟の体は急に萎んだように見えたが、実際は直立不動であった。

「華莉奈お嬢様。また堕落しましたね。これで今日何回目ですか。快楽への逃避行もいい加減にしてくださいませ。苦苦苦四十苦。」
 華莉奈生徒会長のすぐ後ろに控えていた濃紺のロングスカートのメイド服を着た女子が、不気味な笑みを浮かべながら姿を見せた。純白のエプロンドレスとヘッドドレスを付けているグレーのショートカット。左右の紺色の瞳は鋭く吊り上がっており、唇もそれに合わせているのか、同じ角度である。華莉奈と同じくしっかりと羽根を伸ばしており、天使であることは間違いない。

「穂扶良。メイドの分際で、このワタクシに指示するのですか。身分を弁えないと、お仕置きしますわよ。」
 ボクシングで、チャンピオンにダウンを取られながらも、9カウントで立ち上がったチャレンジャーのように、口元を拭いながら、ファイティングポーズを取った華莉奈。

「お嬢様。これは失礼しました。では今一度。はッ。」
 メイドの穂扶良は華莉奈の背中を押して、校門レールを通過させた。

「きゃあああ!痺れる~!カイカン~。二度漬けだから、さっきより気持ちいいですわ~!バタン。」

「お嬢様。二度目ではありません。今日10回目です。また立ち上がってくださいませ。さあ、さあ、さあ。苦苦苦四十苦。」
 メイド穂扶良は、目つきは変わらないが、口元だけを猥雑に歪めながら、倒れていた華莉奈をクレーン車のように引き上げては、レールを超えさせて、電撃の餌食とするという罰ゲームカテゴリーをはるか超越した行為をリフレインした。

「はあはあはあはあはあ。穂扶良。もうこれぐらいで勘弁してあげますわ。」

「お嬢様もよく頑張りました。10点満点を差し上げます。苦苦苦四十苦。」
 華莉奈・穂扶良は額に大汗をかきながら、満足気な表情である。

「ちょっと、あんたたち。ひとり、いや二人芝居に勤しむのは勝手だけど、アタシの処遇はどうなるのよ?」

「これは失礼しましたわ。不法侵入者の裁きを失念しておりました。死刑ですわ。」

「何よそれ。どこにそんな規則があるのよ。ここは愚鈍な者が集う人間界。不法侵入にはすごくゆるゆる、ゆるゆりだと聞いてるわよ。」

「何がゆるゆりですの?ワタクシが死刑と言ったらそれですべてが決まるのですわ。あなた、どこから見ても悪魔でしょう。悪魔と言えば、天使を滅ぼすことが生きがいであるはず。そんな危険人物の侵入を許すはずがありませんわ。死刑が嫌なら、即刻ここから立ち去りなさい。」

「いやだわ。せっかくここまで来たのに。何かアイデアないの?大悟はそのためにここにいるんでしょ?」

(仕方ない。この手を使おう。今からオレの言う通りに喋るんだ。)

「家賃も払わない居候の分際で、アタシに命令するって言うの?」

(これは命令なんかじゃない。楡浬が死刑になったら、体が繋がっているオレも死んでしまう。だったら、オレが生徒会長と交渉して、家賃を払えるような結果を出してやる、ということならどうだ?)

「家賃代わりねえ。わかったわ。でも失敗したら、家賃どころか、命をもらうわよ。ほとんど無価値、プライスレスだけど。」

(プライスレスはいい意味で使用される用語だが。まあいいさ。どうせ失敗すれば死刑になるのは必定だからな。)

「ほとんど脅しだわ。アタシはリベンジの主役なのよ。」

(いいからオレの言う通りにしろ!)

「ヒドいわ。このひとでなし!悪魔!」

(オレは善良系天使だ!)
 こうして天使大悟が囁いて、それを悪魔楡浬が実行するというバケツリレーが始まった。
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