魔法少女はダンプカー運転手？

第一章

第十七部分

高原は人間大の影を音を立てないように追いかけた。影は目立たないように紫色のローブを頭から着ており、顔が見えない。
『待て～！』と普通の警備員なら大声出して侵入者を追尾するが、高原は無言で、ドスドスドスという靴音を響かせて、相手に恐怖心を与えて、逃走意欲を奪うという手法を取っている。
大抵の侵入者は高原よりも走力が劣り、足音が近づくことで、逃げる足がすくんで捕まってしまうのである。しかし、今回の侵入者の脚が速く、高原との差が縮まらない。
「やむを得ないデス。一応ここは敷地内だから、魔法使用許可があるデス。電気操作デス！」
『ダン！』という音がして、教習コースのライトが一斉に灯った。侵入者は眩しさで、一瞬動きが停止した。
「不審者を捕まえたデス。魔法使用は原則禁止デス。そもそも魔法を使える者は魔法少女狩りという迫害を受けた上で生き残った一族だけデス。あなたの名前を言うのデス。」
捕まった侵入者は無言であったが、制圧された様子は窺われない。
「何も喋らないようデス。ならば顔を見せてくださいデス。」
高原は紫色ローブを取って顔を見た。その瞬間、冷静な高原の目がフリーズした。
「オブシディアンさん!?」
侵入者はやはり無言のまま。
「いやそんなことはありえませんデス。オブシディアンさんは、さっき女子寮内にいました。今はトイレに行ってるはずデス。」
無言だったヴァーティ似の侵入者は、高原の耳にチューニングの悪いラジオのような小声で話しかけた。
高原の目が暗い中なのに眩しいぐらいに輝いた。
ふたりはひとけのない場所なのに、極めて小さな声で話をして、やがて握手をしたように見えた。