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第2話『余暇の過ごし方と仕事のすり合わせ』
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リーダーたちはあちこちに散らばって会話している。
円卓ではオリーブとトゥーラの間にランスが立って、打ち合わせをしていた。
「それではお二人には、教区の児童所の裏方スタッフをお願いしてもいいですか? ボランティアですが、なかなか人が集まらなくて困っていたんですよ」
「もちろんOKです。ね、トゥーラ」
「はい、オリーブは子どもと同じ目線で遊べるので適任ですよ」
「あのね、なんで子どもと遊ぶ前提なわけ?」
「だってあなたが子どもを目の前にして、好奇心を掻き立てられないわけがないもの」
「そりゃ子どもは好きだけどさ。トゥーラの言い方だと私がいかにも精神年齢低いって言ってるようで」
「あら、違うの? しかも男の子に交じってチャンバラごっことかするのよ。というか教えたりして」
「ヒドっ! いいよ、じゃあ女らしく、楚々として仕事するから」
「大変、季節外れの雷が落ちるわ。でも一時間も持たないわね」
「どんだけトゥーラの中で堪え性ないわけ? 私」
「場合によっては持続力もあるけれど、相手が悪いわ。だって子どもよ? あなた、波長が合い過ぎて元気倍増よ、きっと」
「どうすりゃいいのよ、わたしゃ」
「いつも通りで」
「結局それ?」
「まぁまぁお二人とも。いつも通り元気いっぱい、優しさいっぱいでお願いします。それで何の問題もありませんから」
「ランスさんには恥をかかせられませんから」
「任せてください」
NWSは土日休みなので、オリーブとトゥーラは余暇をランスの仕事の手伝いに充てたようである。
向かい側ではマルクとタイラーが、濃いブラックコーヒーを片手に立ち飲みしていた。
「いよいよ始まるな……!」
タイラーがコーヒーを見つめながら意気込んだ。
「そうだな、タイラーにとっては腕が鳴る仕事かもしれないな」
マルクは頷いた後、一口コーヒーを飲む。
「代表はカエリウスで仕事することについて、何か言ってたか?」
「それなんだが。代表の修法陣は炎樹の森全域に施すものだから、精度の面で綻びというか、イレギュラーな部分が出るかもしれないそうだ。だから、テレポート前に透視してほしいっていうのと、もう一つ。因果界の炎樹の森は、幻獣の住処だから、あまり騒がせないでほしいの二点だな」
「裏を使うのはもってのほかか……」
裏とは万世の秘法の戦闘技術、万武・六色のことである。
「ああ、そうだ。タイラーに伝言があるぞ」
「なんだ?」
「やむを得ない場合以外は、裏を使わないでください、だとさ。炎樹の森は修法者が手つかずにしている原生林みたいなものだから、裏の波動一つであたりの構成因子が変わっちまうんだと」
「それはそうだろうな。代表の手は煩わせねぇよ」
「うん、俺たちはタイラーの手を煩わせないようにしないとな」
「マルクの心配はしてねぇよ。アロンとかランスさんとか、あと女性陣も問題ないだろ。そういう意味ではルイスの心配もしてねぇ。あいつは仕事が丁寧で慎重だからな。……残りはいろんな意味で問題だな」
「ナタルはビビりっぱなしで注意力がいつも以上に必要になるし。ポールは気が大きいから繊細さに欠けるし。キーツは班の女性が、構われたい症候群だからな」
「そういうことだ。一番の問題はナタルだな。あいつ、修法使って体力で山越えようとしてるが、いざって時の余力がないだろ」
「ナタルが使うなら――ハイドフォグあたりか。それで担当した人数を行く先々で隠すつもりなら、切り替えと仕切り直しで水の精霊が抗議しかねないな。タイラーはどうすればいいと思う?」
マルクがその要領の悪さにこめかみを押さえる。
タイラーはチラッとナタルを見やる。何やらアロンと隅っこで話し込んでいる。
「いざって時だけハイドフォグを使えばいいだろ。自信がないから体力出し切っても安全面を補強するなんざ論外だ。なんのためにヤバそうな気配を察知できる能力が高いのか、そっちも効果的に使った方がメンバーのためだな」
「タイラー、ナタルに指導してくれよ。確かにその方があいつのためだ」
「なに、あいつはアロンと話し込んでるから、どうせその相談だろ。俺から手助けを申し出れば、無敵の防御本能でハリネズミになっちまうからな。この場合はアロンの明晰さの方が受け入れやすいだろうさ」
いつの間にアロンを捕まえていたのか、マルクはタイラーが言うところの防御本能に感心するしかなかった。
「さすがナタル。誰が本気で相談に乗ってくれるか、しっかり計算を働かせてる。あ、いやタイラーが悪いって言ってるわけじゃないんだ」
「わかってるよ。いい仕事をするためには、人を選ぶのも必要なことだ。それに能力には向き不向きもある。俺もナタルの仕事のセンスには一目置いてる」
そうだな、とマルクは頷いた。
円卓ではオリーブとトゥーラの間にランスが立って、打ち合わせをしていた。
「それではお二人には、教区の児童所の裏方スタッフをお願いしてもいいですか? ボランティアですが、なかなか人が集まらなくて困っていたんですよ」
「もちろんOKです。ね、トゥーラ」
「はい、オリーブは子どもと同じ目線で遊べるので適任ですよ」
「あのね、なんで子どもと遊ぶ前提なわけ?」
「だってあなたが子どもを目の前にして、好奇心を掻き立てられないわけがないもの」
「そりゃ子どもは好きだけどさ。トゥーラの言い方だと私がいかにも精神年齢低いって言ってるようで」
「あら、違うの? しかも男の子に交じってチャンバラごっことかするのよ。というか教えたりして」
「ヒドっ! いいよ、じゃあ女らしく、楚々として仕事するから」
「大変、季節外れの雷が落ちるわ。でも一時間も持たないわね」
「どんだけトゥーラの中で堪え性ないわけ? 私」
「場合によっては持続力もあるけれど、相手が悪いわ。だって子どもよ? あなた、波長が合い過ぎて元気倍増よ、きっと」
「どうすりゃいいのよ、わたしゃ」
「いつも通りで」
「結局それ?」
「まぁまぁお二人とも。いつも通り元気いっぱい、優しさいっぱいでお願いします。それで何の問題もありませんから」
「ランスさんには恥をかかせられませんから」
「任せてください」
NWSは土日休みなので、オリーブとトゥーラは余暇をランスの仕事の手伝いに充てたようである。
向かい側ではマルクとタイラーが、濃いブラックコーヒーを片手に立ち飲みしていた。
「いよいよ始まるな……!」
タイラーがコーヒーを見つめながら意気込んだ。
「そうだな、タイラーにとっては腕が鳴る仕事かもしれないな」
マルクは頷いた後、一口コーヒーを飲む。
「代表はカエリウスで仕事することについて、何か言ってたか?」
「それなんだが。代表の修法陣は炎樹の森全域に施すものだから、精度の面で綻びというか、イレギュラーな部分が出るかもしれないそうだ。だから、テレポート前に透視してほしいっていうのと、もう一つ。因果界の炎樹の森は、幻獣の住処だから、あまり騒がせないでほしいの二点だな」
「裏を使うのはもってのほかか……」
裏とは万世の秘法の戦闘技術、万武・六色のことである。
「ああ、そうだ。タイラーに伝言があるぞ」
「なんだ?」
「やむを得ない場合以外は、裏を使わないでください、だとさ。炎樹の森は修法者が手つかずにしている原生林みたいなものだから、裏の波動一つであたりの構成因子が変わっちまうんだと」
「それはそうだろうな。代表の手は煩わせねぇよ」
「うん、俺たちはタイラーの手を煩わせないようにしないとな」
「マルクの心配はしてねぇよ。アロンとかランスさんとか、あと女性陣も問題ないだろ。そういう意味ではルイスの心配もしてねぇ。あいつは仕事が丁寧で慎重だからな。……残りはいろんな意味で問題だな」
「ナタルはビビりっぱなしで注意力がいつも以上に必要になるし。ポールは気が大きいから繊細さに欠けるし。キーツは班の女性が、構われたい症候群だからな」
「そういうことだ。一番の問題はナタルだな。あいつ、修法使って体力で山越えようとしてるが、いざって時の余力がないだろ」
「ナタルが使うなら――ハイドフォグあたりか。それで担当した人数を行く先々で隠すつもりなら、切り替えと仕切り直しで水の精霊が抗議しかねないな。タイラーはどうすればいいと思う?」
マルクがその要領の悪さにこめかみを押さえる。
タイラーはチラッとナタルを見やる。何やらアロンと隅っこで話し込んでいる。
「いざって時だけハイドフォグを使えばいいだろ。自信がないから体力出し切っても安全面を補強するなんざ論外だ。なんのためにヤバそうな気配を察知できる能力が高いのか、そっちも効果的に使った方がメンバーのためだな」
「タイラー、ナタルに指導してくれよ。確かにその方があいつのためだ」
「なに、あいつはアロンと話し込んでるから、どうせその相談だろ。俺から手助けを申し出れば、無敵の防御本能でハリネズミになっちまうからな。この場合はアロンの明晰さの方が受け入れやすいだろうさ」
いつの間にアロンを捕まえていたのか、マルクはタイラーが言うところの防御本能に感心するしかなかった。
「さすがナタル。誰が本気で相談に乗ってくれるか、しっかり計算を働かせてる。あ、いやタイラーが悪いって言ってるわけじゃないんだ」
「わかってるよ。いい仕事をするためには、人を選ぶのも必要なことだ。それに能力には向き不向きもある。俺もナタルの仕事のセンスには一目置いてる」
そうだな、とマルクは頷いた。
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