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第2話『ビビりなナタルと会議再開』
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みんなに背中を向けるように壁を正面にして、ひそひそ話しているのは、ナタルとアロンである。
「ハイドフォグって、どのくらいまで解像度下げられるかな?」
ナタルが大きな体を屈めて言うので、アロンは呆れてしまった。
「なに、本気で仕事中、ずっとハイドフォグかけてるつもりかい?」
「アレに見つかる事態よりはよっぽどいいよ」
「レンナちゃんの修法陣もあって、ハイドフォグかけるなら、99.9%その事態は招かないよ」
「そうか、よかったぁ……」
のっぺりした顔が伸び切るのを見て、アロンは釘を打った。
「あんまり賢い方法とは言えないと思うよ。いざっていう時どうするのさ」
「いざっていう時って?」
「班の誰かの急病とか、現場離れて童話の里に戻ることになったりとか。修法者じゃあるまいし、ハイドフォグの精度は格段に下がるよ。まさかメンバーごと移動するつもりじゃないだろうね。効率悪すぎるよ」
「……考えてなかった!」
「だろうね。いざっていう時に使うんならハイドフォグも有効だと思うよ。極端に言えば万一、呪界法信奉者に見つかったって、童話の里にテレポートすればあっちは追跡不可能なんだから。どっちがよりメンバーのためになるか考えた方がいいよ」
「……うーん」
「そんなに呪界法信奉者と鉢合わせるのが怖いかい?」
「当たり前じゃないか!」
「怖がってると余計に寄ってくるよ。因果界ってそういう……」
「やめてくれー! 考えたくもない」
「そんなんでこの先どうするんだよ。NWSが世界的に展開していこうって時に」
「だから――リーダー辞めようかと」
「バカだな! そんなの認められるわけないだろ。大体、家族はどうするのさ」
「——」
「でっかい図体して泣くなよ! しょうがないなぁ、安心できるハイドフォグの効率的な使い方、一緒に考えてやるから」
「ホントに? ホントのホントだな」
「……俺がそう言い出すの待ってただろ?」
「——てへ」
アロンはナタルのだだっ広い額を、思いっきりデコピンしてやった。
「そろそろ始めましょうか」
会議再開。
トゥーラの合図でみんな席に戻る。
「ここからは追跡マーカー班、ツリーリジェネレーション班、アースフォローアップ班、それぞれに問題提起してもらいたいと思います。考えられる限りの対策を打ち立て、仕事に臨む態勢を整えることは、先方の信頼を得るために必須の条件です。各自協議に移ってください」
その発言を受けて、10人が3班に分かれる。
――追跡マーカー班——
「マーカー班って、結局何人いるんだっけ?」
キーツが言うとトゥーラが答えた。
「ツリー班がリーダーを除いて43人、アース班が同じく7人。両方っていうメンバーが2人いて、この人たちはアース班へ。だから、マーカー班は私たちを含めて38人よ」
「10人いる班が2つに、9人の班が2つなわけだ。えっと、初めはマーカー設置に総出で取り掛かって、進捗見ながら講習に入るんだったよね」
キーツの言葉に頷いてアロンが言った。
「ツリー班に先行して能率を上げたいからね。設置は……そうだな、1班単純計算で一日5千本はやっておきたいな」
「すると4班で一日2万本。通常は150日で完了するところを、講習を組み込んでいきますから、予定をずらしていくことになりますね」
ランスが言って、アロンが「そうですね」と答える。
「日割りで2万本ってことは、一人526本くらいか。1時間65本……まぁ、分布図をオービット・アクシスにリロードすれば、ナラは探知できるんだしね。マーカー設置の作業時間はものの数秒だし、うん、イケるんじゃない」
キーツが楽観的に言った。
「ツリー班の進捗によりますけど、どのタイミングで講習を受けてもらいますか? ツリー班は1日6千本ぐらいですから、先行している私たちは、様子を見ながらどこかで切り替える必要がありますが」
ランスの問いに、トゥーラが唇の下に人差し指を曲げ、当てて答える。
「20日(1か月)というところではないでしょうか。2か月目に1班から講習を受けてもらって、完全マスターまで1か月余裕を見ればいいと思います。マーカー設置がありますから、その後はマーカー班に戻ってもらわなくてはなりませんが」
「うん、3か月目には同様に2班が講習に入って、1か月交替で3班と4班も。とにかくマーカー設置は1万5千本以下には落とさないでいかないとな」
「全然時間に遊びがないけど……ついてこれるかな?」
キーツがタイトな日程を心配したが、アロンがこう押し切った。
「遅れを残業で取り戻すくらいの情熱は当然だろ」
「ハイドフォグって、どのくらいまで解像度下げられるかな?」
ナタルが大きな体を屈めて言うので、アロンは呆れてしまった。
「なに、本気で仕事中、ずっとハイドフォグかけてるつもりかい?」
「アレに見つかる事態よりはよっぽどいいよ」
「レンナちゃんの修法陣もあって、ハイドフォグかけるなら、99.9%その事態は招かないよ」
「そうか、よかったぁ……」
のっぺりした顔が伸び切るのを見て、アロンは釘を打った。
「あんまり賢い方法とは言えないと思うよ。いざっていう時どうするのさ」
「いざっていう時って?」
「班の誰かの急病とか、現場離れて童話の里に戻ることになったりとか。修法者じゃあるまいし、ハイドフォグの精度は格段に下がるよ。まさかメンバーごと移動するつもりじゃないだろうね。効率悪すぎるよ」
「……考えてなかった!」
「だろうね。いざっていう時に使うんならハイドフォグも有効だと思うよ。極端に言えば万一、呪界法信奉者に見つかったって、童話の里にテレポートすればあっちは追跡不可能なんだから。どっちがよりメンバーのためになるか考えた方がいいよ」
「……うーん」
「そんなに呪界法信奉者と鉢合わせるのが怖いかい?」
「当たり前じゃないか!」
「怖がってると余計に寄ってくるよ。因果界ってそういう……」
「やめてくれー! 考えたくもない」
「そんなんでこの先どうするんだよ。NWSが世界的に展開していこうって時に」
「だから――リーダー辞めようかと」
「バカだな! そんなの認められるわけないだろ。大体、家族はどうするのさ」
「——」
「でっかい図体して泣くなよ! しょうがないなぁ、安心できるハイドフォグの効率的な使い方、一緒に考えてやるから」
「ホントに? ホントのホントだな」
「……俺がそう言い出すの待ってただろ?」
「——てへ」
アロンはナタルのだだっ広い額を、思いっきりデコピンしてやった。
「そろそろ始めましょうか」
会議再開。
トゥーラの合図でみんな席に戻る。
「ここからは追跡マーカー班、ツリーリジェネレーション班、アースフォローアップ班、それぞれに問題提起してもらいたいと思います。考えられる限りの対策を打ち立て、仕事に臨む態勢を整えることは、先方の信頼を得るために必須の条件です。各自協議に移ってください」
その発言を受けて、10人が3班に分かれる。
――追跡マーカー班——
「マーカー班って、結局何人いるんだっけ?」
キーツが言うとトゥーラが答えた。
「ツリー班がリーダーを除いて43人、アース班が同じく7人。両方っていうメンバーが2人いて、この人たちはアース班へ。だから、マーカー班は私たちを含めて38人よ」
「10人いる班が2つに、9人の班が2つなわけだ。えっと、初めはマーカー設置に総出で取り掛かって、進捗見ながら講習に入るんだったよね」
キーツの言葉に頷いてアロンが言った。
「ツリー班に先行して能率を上げたいからね。設置は……そうだな、1班単純計算で一日5千本はやっておきたいな」
「すると4班で一日2万本。通常は150日で完了するところを、講習を組み込んでいきますから、予定をずらしていくことになりますね」
ランスが言って、アロンが「そうですね」と答える。
「日割りで2万本ってことは、一人526本くらいか。1時間65本……まぁ、分布図をオービット・アクシスにリロードすれば、ナラは探知できるんだしね。マーカー設置の作業時間はものの数秒だし、うん、イケるんじゃない」
キーツが楽観的に言った。
「ツリー班の進捗によりますけど、どのタイミングで講習を受けてもらいますか? ツリー班は1日6千本ぐらいですから、先行している私たちは、様子を見ながらどこかで切り替える必要がありますが」
ランスの問いに、トゥーラが唇の下に人差し指を曲げ、当てて答える。
「20日(1か月)というところではないでしょうか。2か月目に1班から講習を受けてもらって、完全マスターまで1か月余裕を見ればいいと思います。マーカー設置がありますから、その後はマーカー班に戻ってもらわなくてはなりませんが」
「うん、3か月目には同様に2班が講習に入って、1か月交替で3班と4班も。とにかくマーカー設置は1万5千本以下には落とさないでいかないとな」
「全然時間に遊びがないけど……ついてこれるかな?」
キーツがタイトな日程を心配したが、アロンがこう押し切った。
「遅れを残業で取り戻すくらいの情熱は当然だろ」
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