パイオニアオブエイジ~NWSかく語りき〜

どん

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第3話『ツリーリジェネレーション』

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「みんな、外に集合してくれって!」
 窓の外でキーツが集会所のメンバーを呼び出す。
 ワイワイ言いながら噴水広場に出て見ると、集会所側の石畳の上にコナラの木がすっくと立っていた。
 ちゃんと5×5メートルの植桝の中に褐色森林土が入っていて、根が保護された状態で佇立している。木の高さは10メートルほど。
 どうやら、どこかの産地の樹木をサイコキネシスとテレポートで運び込んだらしい。
 コナラと言えば、仕事の保護対象の樹種の一つで、高さ15メートルから20メートルになる落葉高木だ。
 問題のナラ枯れとは、正式にはブナ科樹木萎凋病といい、コナラの他、クリ、シイ、マテバシイ、ミズナラなどが枯死する病気である。
 カシノナガキクイムシ(通称カシナガ)という体長5ミリほどの養菌性キクイムシの雄が飛来して一夫一婦で幹に孔道を開けてしまう。
 この孔道を利用して、カシナガから媒介された糸状菌が分布拡大する。
 糸状菌の感染で細胞が死ぬと、導管が詰まって通水障害が起こる。
 カシナガの雄は、孔道をあけた際の木屑に集合フェロモンを付着させ、両性の成虫を誘引する。
 そして糸状菌に感染した細胞を餌に幼虫は越冬・羽化する。6月~8月に木を脱出する時、糸状菌を媒介して、健全な宿主のナラを探すのである――。
 噴水広場に出現したコナラにもカシナガの穿孔跡があった。
 これの意図するものは明らかだった。
 タイラーが幹に手をかけて声を張り上げた。
「これから、ツリーリジェネレーションの模擬試験を行う。これをツリー班の最終研修とする。ツリー班から選抜で一人に一本の木をすべて再生してもらう。我こそはと思う者は?」
 しん、と水を打ったように静かになる。予想通りだ。
「というわけで、ツリー班全員にくじを引いてもらう。ルイスが回るから、必ず引くように」 
 一気に戦々恐々となるツリー班。43本あるくじ棒のうち、先端が赤い棒を引いたものが1人受験する。
 そして――引いたのはコノミ・ベクトラーだった。
 出来過ぎの展開に口を挟む余地は与えられず、コノミは女性メンバーの包囲網から、おずおずと出てきた。
 タイラーが2メートルある植桝の上にのぼるように指示し、コノミはテレポートでコナラの根元に立った。
「よし、他のツリー班のメンバーの復習の意味もあるから、ゆっくりやってくれ」
「はい」
 意外にもコノミの声はしっかりしていて、タイラーはこの修法の最適受験者であることを知った。
 まず、コノミは体重を軽くして木を一周した。根元に木屑=フラスがあることを確認する。植桝に上がる時に、体重減殺をしていなかったら、別の者に交代させられていただろう。
 孔道は全部で3つ。
 カシナガの掘る孔道は潜入孔から水平に分岐しており、その上1センチほどに幼虫孔(蛹室)がある。よって、潜入孔の上下3センチに見当をつけて、指で幅を立ち位置からだけなぞる。そして、幅分を手で横に押すと、スライドして輪切りされ孔道が一目瞭然になる。
 そこで成虫と幼虫を送還=大地の精霊界に送り返す。
 同様に高さの違う二つの孔道の成虫らも処理する。
 ここからがツリーリジェネレーションの真骨頂だ。
 蟻の巣穴のような水平孔を、同じく大地の精霊界から供給される、木の種類ごとの精基材と呼ばれる木の部材で修復する。技術者の透視によって誘導される、緻密かつ繊細な作業だ。
 孔道を修復したら、輪切りの幹を元に戻して、終了の合図として幹を外側から手を垂直に下ろす。
 さらに、孔道を利用して木内部に侵入した糸状菌の処理に、幹に両手を当てる。そして、生命の樹の加護を願って、生命エネルギーの源、始原の光を照射する。同時に糸状菌の活動は停止・死滅する。
 最後に木屑をダストシューターと呼ばれる掃除機のような箱にホースがついたもので吸い込み、箱を火で焼却処理すれば作業完了だ。
 コノミはこの作業を5分かけてやり遂げた。
 確認のためにタイラーを見上げる。頷くタイラー。
「よくできた、合格だ。この修法の標準作業時間は?」
「3分です」
「そう3分だ。みんなわかったか? 彼女のようにきちんと丁寧に手順を踏んで、観察を怠らず確実に作業すること。雑にこなせば、その結果はカシナガの送還失敗として跳ね返ってくる。気を抜かず集中して仕事するように」
 タイラーが話している間に植桝から降りたコノミは、みんなに笑顔と拍手で迎えられた。コノミはものすごく恥ずかしかったが、それ以上に誇らしかった。
 その場の取り仕切りはマルクに戻され、閉会の挨拶となった。
「明日の講習会の参加者は、朝9時集会所集合だから遅れないように。仕事開始日は昇陽の一月和歩の十六日、こちらは朝8時集合だから間違えるなよ。以上、結団式を閉会します。解散!」
「お疲れさまでした――!!」
 嫌が上にも盛り上がる若人たちであった。
 













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