パイオニアオブエイジ~NWSかく語りき〜

どん

文字の大きさ
37 / 276

第4話『紅森』

しおりを挟む
 ルビーウッズ、マーカー・ランス班/ツリー・ルイス班
 作業開始から10分が経過した。
 腕時計型のオービット・アクシスには、マーカー・ランス班104本/0.001㎢、ツリー・ルイス班37本/0.0001㎢と表示されている。
 全体ではマーカー班553本/0.024㎢、ツリー班155本/0.008㎢くらいである。
 ランスとルイスは手分けして現場の安全確認をしつつ、メンバーの状況に気を配る。
 メンバーは女性ばかりだが、初めての班編成が効いているのか、問題とされていた7班と9班の女性たちも非常に協力的だ。
「……順調な滑り出しですね」
 ランスがルイスに話しかける。
「はい、紅森は一番作業しやすい場所ですから」
 ルビーウッズでガーネットラヴィーンで必要だった体重減殺も必要ない。
「下生えの低木がとても多い場所ですし、地盤もそれだけ安定していますからね。危険動物の活動も制限されて、私たちの仕事には大変有利ですが、こういうところには逆に幻獣が棲み処にしているものなんですよ」
「どんな幻獣が棲んでいるんでしょうか?」
ガーネットベアー赤熊ゴールデンフォックス金毛狐サンドラビット砂兎、双頭鷲もいるという話です。ただ、近年は激減したと聞いていますが」
 そこに「キャッ」と誰かの悲鳴が聞こえた。
「どうしました⁈」
 ルイスが慌てて声の主を辿ると、7班の女性だった。
「す、すみません。ネズミが横切ったので、びっくりして……」
「わかりました、作業を続けてください」
「修復しているのはナラ類ですからね。どんぐりを求めてネズミやリスくらいは普通に出ますよ」
「それもそうですね」
 ランスはオービット・アクシスで気温を確認した。
「-7℃か……雪山の気温ですね。でも、さっきより2℃下がってる。アルペンディー大山脈の吹き下ろしのせいか。私はこんなものを用意したんですが」
 ランスがテレキネシスから取り寄せたのは使い捨てカイロだった。
「皆さん、気合いを入れて防寒対策なさったでしょうが、意外と盲点なのがお腹の冷えです。お腹を下しやすくなりますし、血流も悪くなる。私はこれから様子見がてら、カイロを配って歩きます。よかったらルイスさんも配りませんか?」
「えっ、いいんですか」
「ええ、人数分はありますから……」
「はい、ではお言葉に甘えて」
 ランスから渡された人数分の使い捨てカイロを持って、ルイスはメンバー一人ひとりをテレポートで見回って歩く。
 ランスの読みは当たっていた。
 メンバーは早くも指先がかじかんで、火の精霊を呼んで暖を取りながら作業していた。
 手袋をしながらではツリーリジェネレーションの精度が下がるからだが、予想以上に吹きっさらしの風が冷たい。
 ランスからの差し入れだと言って使い捨てカイロを渡すと、みんな迷わず服の上からお腹に貼った。
 防寒対策は個人に任されていたが、雪山の気温を想定していた者は少数で、みんな雪山を甘く見ていた、と口を揃えた。
 明日からはカイロを用意します、と言いながら仕事に戻った。
 素晴らしいサポート力に、ルイスはランスを尊敬するしかなかった。
 テレポートして元の場所に戻ってみると、ランスはオービット・アクシスを操作中だった。
「あ、ルイスさん。皆さんどうでしたか」
「はい、みんな仕事の不明点はないんですが、寒さは思った以上で、カイロを手に持ってランスさんを拝んでました」
「そうでしたか、お役に立ててよかったです」
「ランスさんは何をしていたんですか?」
「これですか? ルビーウッズの気温変動を記録するために、班の皆さんのオービット・アクシスと同期していたところです。後で参考にしてもらおうと思って」
「なるほど……俺もそうしていいですか?」
「ええ。それから今日は初日ですから、防寒対策を改めてもらうのに外出許可を出しました。パラティヌスよりカエリウスのホームセンターの方が、雪山対策は充実してますから。我慢できない時は迷わず防寒着を購入してもいいことにさせてもらいましたよ」
「ええっ、それじゃ能率が落ちてしまうんでは……」
「何でも最初が肝心です。我慢して体を冷やしたら士気まで冷え込んでしまいます。それに風邪を引いてしまったら……それこそ能率どころではありませんよ。みんな思い思いの恰好をしたらいいんです。その方が安心できますし、逆に能率も上がりますからね」
「……俺ももう一回、みんなに外出許可を出してきます」
「わかりました、みなさんによろしく」
 ランスの柔和な笑みに見送られて、ルイスはテレポートした。
 俺もまだまだだな、と反省を込めて。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...