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第8話『マーメイドリーフの人魚たち』
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童話の里には世界各地の童話が集められている。
NWSのメンバーらが集まる集会所には、主だった童話が集められているが、今は生産修法の作業に使っているから、放っておかれていた。
童話は生きている。
居並ぶ大人たちの注意を引くために、突然反乱を起こす。
朝、集会所に来て見ると、異変は誰の目にも明らかだった。
——本が棚から何冊もはみ出している。
そして、本特有の脂が酸化したような臭い。
「……虫干ししろとさ」
アロンが意を汲んで言った。
というわけで、落雨の六月には珍しい上天気に、虫干し作業が追加されることになった。
引き受けたのは、ナタル・オリーブ・ランス・キーツ・ルイスの5人である。
本といっても童話なので、ページは少ないがわざわざ里に収められるくらいだから、どれも装丁は立派である。
それに普通の本と違って、虫干しと言えど雑に扱うと手酷い目に遭う。
そんなわけで運び出すのも一苦労であった。
「なんだかな―、やっぱり童話の里の中核を担うだけあって、粗雑な扱いに黙ってられない王侯貴族みたいだね」
50冊くらい運びたいところを、10冊しか運べない事情に、キーツはそう漏らした。
ブルーシートに目録順に並べていたオリーブが苦笑する。
「そうだよね。なんか拗ねたお姫さまって感じ」
「本のご機嫌取りも楽じゃないね。——いてっ!」
キーツがページとページの間に指を挟まれた。本の逆襲である。
「空気が読めないところが、ホントお姫様なんだから……わっ!」
オリーブの後ろで本が崩れた。
「何やってんだよ、オリーブ」
本を運んできたナタルが言った。
執事よろしく、大きな図体で本を10冊恭しく持つ様は、そう見えなくもなかった。
「そんなこと言ったって、ちっとも大人しくないのよ、この本たちは!」
ぷりぷりしながら、本を積み直すオリーブ。
「あーあ、そんなことしてるとまた……」
ナタルが言うが早いか、本があちこちで崩れる。
「もー、どうしろって言うのよ!」
げんなりするオリーブ。彼女は元気いっぱいの子どもの相手をするのは得意だが、駄々っ子をなだめすかすのは苦手だった。
「本は手をかけてほしい、って訴えてるんだから、世話を惜しんじゃダメだよ。赤ん坊だと思ってさ、何もかもしてあげないと。おっと」
ナタルが本をシートに下ろすと、パタタッと跳ねた。
「やっぱし?」
キーツが気分を変えて言った。
「はいはい、私が悪うございました」
オリーブが本を撫でながら、また積み直す。
そう、彼らはテレポートできるから、テレキネシスもまた領分だったが、本はそれで運ぶのを嫌がった。
キーツじゃないが、王侯貴族のように気位が高いのだった。
NWSのメンバーらが集まる集会所には、主だった童話が集められているが、今は生産修法の作業に使っているから、放っておかれていた。
童話は生きている。
居並ぶ大人たちの注意を引くために、突然反乱を起こす。
朝、集会所に来て見ると、異変は誰の目にも明らかだった。
——本が棚から何冊もはみ出している。
そして、本特有の脂が酸化したような臭い。
「……虫干ししろとさ」
アロンが意を汲んで言った。
というわけで、落雨の六月には珍しい上天気に、虫干し作業が追加されることになった。
引き受けたのは、ナタル・オリーブ・ランス・キーツ・ルイスの5人である。
本といっても童話なので、ページは少ないがわざわざ里に収められるくらいだから、どれも装丁は立派である。
それに普通の本と違って、虫干しと言えど雑に扱うと手酷い目に遭う。
そんなわけで運び出すのも一苦労であった。
「なんだかな―、やっぱり童話の里の中核を担うだけあって、粗雑な扱いに黙ってられない王侯貴族みたいだね」
50冊くらい運びたいところを、10冊しか運べない事情に、キーツはそう漏らした。
ブルーシートに目録順に並べていたオリーブが苦笑する。
「そうだよね。なんか拗ねたお姫さまって感じ」
「本のご機嫌取りも楽じゃないね。——いてっ!」
キーツがページとページの間に指を挟まれた。本の逆襲である。
「空気が読めないところが、ホントお姫様なんだから……わっ!」
オリーブの後ろで本が崩れた。
「何やってんだよ、オリーブ」
本を運んできたナタルが言った。
執事よろしく、大きな図体で本を10冊恭しく持つ様は、そう見えなくもなかった。
「そんなこと言ったって、ちっとも大人しくないのよ、この本たちは!」
ぷりぷりしながら、本を積み直すオリーブ。
「あーあ、そんなことしてるとまた……」
ナタルが言うが早いか、本があちこちで崩れる。
「もー、どうしろって言うのよ!」
げんなりするオリーブ。彼女は元気いっぱいの子どもの相手をするのは得意だが、駄々っ子をなだめすかすのは苦手だった。
「本は手をかけてほしい、って訴えてるんだから、世話を惜しんじゃダメだよ。赤ん坊だと思ってさ、何もかもしてあげないと。おっと」
ナタルが本をシートに下ろすと、パタタッと跳ねた。
「やっぱし?」
キーツが気分を変えて言った。
「はいはい、私が悪うございました」
オリーブが本を撫でながら、また積み直す。
そう、彼らはテレポートできるから、テレキネシスもまた領分だったが、本はそれで運ぶのを嫌がった。
キーツじゃないが、王侯貴族のように気位が高いのだった。
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