140 / 276
第14話『マルクの憂いと男の約束』
しおりを挟む
風雷の八月鮮碧の二十日、夕方。
マルクとタイラーがトーマスらを迎えに、メーテス郊外の田んぼに降り立った。
見事に出穂した田んぼが緑の波を作っていた。
畦道の夏草は短く刈られて青臭かった。
そこにランプを手に立つマルクとタイラー。
「まだ来てないな……」
タイラーが呟いた。
このまま来ないことも考えられると思うのだが、二人は三人の人の好さと誠実さを疑ってなかった。
「見てみろよ、タイラー。お天道様の下で育った稲の豊かな色彩、匂い……。この懐かしい風景だけは、生産修法では決して再現できないものだ。もしかしたら日持ちしないことそのものが天の恵みかもしれないな」
タイラーが苦笑する。
「おいおい……それを言ったら俺たちがやってることが、甲斐のないものになっちまうぞ」
マルクも苦笑しながら、青稲を揺らしてみる。
「それもそうだな。この景色に比べたら、俺たちがしていることが人間のエゴなんじゃないかと錯覚を起こす。それが天下晴れて生命の樹のおかげをもって発達した技術だとしても、感情の差を埋めきれないんだよ」
「わかる気がするが――俺なら必要だからある技術なんだと割り切っちまうな。実際フルに使う場面があるんだから、生産修法は全肯定されてるんだろうと。うまく言えないが、神様の思し召しなんじゃないか」
「なるほどね――来たぞ」
遠くから駆けてくる三人に向かって、ランプを左右に揺らす。
近くまで来ると、三人は息が上がりもせず笑っていた。
「な、正夢だろ?」
ノリヒトが開口一番そう言った。
「なんですか?」
マルクが聞くと、ノリヒトがトーマスとルイの肩をど-んと押した。
「こいつら、童話の里に行ったことが夢幻だって言って譲らねぇんだ。「三人同時におんなじ夢見るか」って俺が言っても「おんなじ夢を見ることはあっても、異世界に行くなんて変なことは絶対ない」って言い張ってよぉ」
「ハハハ」
笑うタイラーを見て、トーマスとルイは情けなく笑った。
「でも、来てくれたんですね」
「おうよ、男の約束だからな」
男同士の開放的な空気が流れた。
「ランプとはまた時代がかってるなぁ」
トーマスがランプを指差して言うと、マルクは少し持ち上げて見せた。
「異世界の入口っぽいでしょ」
「またまた!」
混ぜっ返して笑う。
「見事な田んぼですね」
これにはルイが答えた。
「まぁな。俺は毎日田んぼに出て考えたよ。お天道様も病気も気にしないで米を作れる技術があったら楽だろうかってね。でも、やっぱりこの蒸すような大地の匂いからは離れられないなって思ったよ。大地が俺に応えてくれる、黄金色の田んぼほど確かなものはないってな」
「いいこと言うじゃねぇか、このぉ!」
ノリヒトに小突かれるルイ。
「わかる気がします」
「そうかい! まぁ俺も少ない脳みそで考えたんだが。そちらさんは人数多いから、稲刈りの研修にでも来たらいいんじゃねぇかってな」
マルクとタイラーは顔を見合わせた。
「名案です。それは願ってもないことです。というのも、生産修法はイメージトレーニングが要なんです」
「へぇ……まぁ、いいや。今日はそちらさんの事情を教えてくれよ。これはあるかい?」
ノリヒトは指で輪っかを作って、くいっと呷るマネをした。
「ふんだんに用意してあるぜ。何でもござれ、任せてくれ」
タイラーが言って、その手を拳でパーンと叩くノリヒト。
「そうこなくっちゃ! 今日は午前様だぜぇ」
大乗り気で童話の里に向かう三人だった。
マルクとタイラーがトーマスらを迎えに、メーテス郊外の田んぼに降り立った。
見事に出穂した田んぼが緑の波を作っていた。
畦道の夏草は短く刈られて青臭かった。
そこにランプを手に立つマルクとタイラー。
「まだ来てないな……」
タイラーが呟いた。
このまま来ないことも考えられると思うのだが、二人は三人の人の好さと誠実さを疑ってなかった。
「見てみろよ、タイラー。お天道様の下で育った稲の豊かな色彩、匂い……。この懐かしい風景だけは、生産修法では決して再現できないものだ。もしかしたら日持ちしないことそのものが天の恵みかもしれないな」
タイラーが苦笑する。
「おいおい……それを言ったら俺たちがやってることが、甲斐のないものになっちまうぞ」
マルクも苦笑しながら、青稲を揺らしてみる。
「それもそうだな。この景色に比べたら、俺たちがしていることが人間のエゴなんじゃないかと錯覚を起こす。それが天下晴れて生命の樹のおかげをもって発達した技術だとしても、感情の差を埋めきれないんだよ」
「わかる気がするが――俺なら必要だからある技術なんだと割り切っちまうな。実際フルに使う場面があるんだから、生産修法は全肯定されてるんだろうと。うまく言えないが、神様の思し召しなんじゃないか」
「なるほどね――来たぞ」
遠くから駆けてくる三人に向かって、ランプを左右に揺らす。
近くまで来ると、三人は息が上がりもせず笑っていた。
「な、正夢だろ?」
ノリヒトが開口一番そう言った。
「なんですか?」
マルクが聞くと、ノリヒトがトーマスとルイの肩をど-んと押した。
「こいつら、童話の里に行ったことが夢幻だって言って譲らねぇんだ。「三人同時におんなじ夢見るか」って俺が言っても「おんなじ夢を見ることはあっても、異世界に行くなんて変なことは絶対ない」って言い張ってよぉ」
「ハハハ」
笑うタイラーを見て、トーマスとルイは情けなく笑った。
「でも、来てくれたんですね」
「おうよ、男の約束だからな」
男同士の開放的な空気が流れた。
「ランプとはまた時代がかってるなぁ」
トーマスがランプを指差して言うと、マルクは少し持ち上げて見せた。
「異世界の入口っぽいでしょ」
「またまた!」
混ぜっ返して笑う。
「見事な田んぼですね」
これにはルイが答えた。
「まぁな。俺は毎日田んぼに出て考えたよ。お天道様も病気も気にしないで米を作れる技術があったら楽だろうかってね。でも、やっぱりこの蒸すような大地の匂いからは離れられないなって思ったよ。大地が俺に応えてくれる、黄金色の田んぼほど確かなものはないってな」
「いいこと言うじゃねぇか、このぉ!」
ノリヒトに小突かれるルイ。
「わかる気がします」
「そうかい! まぁ俺も少ない脳みそで考えたんだが。そちらさんは人数多いから、稲刈りの研修にでも来たらいいんじゃねぇかってな」
マルクとタイラーは顔を見合わせた。
「名案です。それは願ってもないことです。というのも、生産修法はイメージトレーニングが要なんです」
「へぇ……まぁ、いいや。今日はそちらさんの事情を教えてくれよ。これはあるかい?」
ノリヒトは指で輪っかを作って、くいっと呷るマネをした。
「ふんだんに用意してあるぜ。何でもござれ、任せてくれ」
タイラーが言って、その手を拳でパーンと叩くノリヒト。
「そうこなくっちゃ! 今日は午前様だぜぇ」
大乗り気で童話の里に向かう三人だった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
姉の婚約者と結婚しました。
黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。
式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。
今さら式を中止にするとは言えない。
そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか!
姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。
これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。
それどころか指一本触れてこない。
「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」
ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。
2022/4/8
番外編完結
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
婚約破棄されたスナギツネ令嬢、実は呪いで醜くなっていただけでした
宮之みやこ
恋愛
細すぎる一重の目に、小さすぎる瞳の三百眼。あまりの目つきの悪さに、リュシエルが婚約者のハージェス王子に付けられたあだ名は『スナギツネ令嬢』だった。
「一族は皆美形なのにどうして私だけ?」
辛く思いながらも自分にできる努力をしようと頑張る中、ある日ついに公の場で婚約解消を言い渡されてしまう。どうやら、ハージェス王子は弟のクロード王子の婚約者であるモルガナ侯爵令嬢と「真実の愛」とやらに目覚めてしまったらしい。
(この人たち、本当に頭がおかしいんじゃないのかしら!?)
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる