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第17話『カエリウスの再会』
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カエリウス上層、因果界炎樹の森——。
サバラス老人は寝酒をちびちびやりながら溜め息をついた。
森の小屋には、ほとんど誰も来ない。
万世の秘法の拠点、民話の里から活動報告書が月一回届くが、そんなものには目を通したこともない。それが乱雑に本棚に積んであった。
暖炉と作り付けのベッド、簡易キッチン、テーブルと椅子四脚、ライティングビューローの他は何もない。
あとは町に降りて買ってくる出来合いのおかずとご飯で飯を食う。
その繰り返し……もうだいぶ慣れた。
妻は若い男を見つけてさっさと出て行った。息子を男手一つで育てたが、事情があって首都のマーチで家族と暮らしている。
頑固な父親のことなど忘れたようだ。
本当は気も狂いそうなほど人恋しい。
そうなってしまったのは、机の上に飾った写真が原因だった。
NWSとサバラスの集合写真——。
今年の初め、突然訪ねてきて、森の小屋を何とも賑やかにしていった、パラティヌスの環境修復団体だった。
仏頂面でロクに挨拶もしない老人の心を、持ち前の明るさで穏やかに包んでいった。
三か月も経つ頃には、親身になって話をするほどになっていた。
写真の日付は、2983.4.1。
その一週間後、彼らは来た時と同じように唐突にいなくなった。
万世の魔女が生命の樹の託宣を受けたのである。
その辺りの事情はよく知っている。
実は家族よりも大切にしている手紙が、机の引き出しにしまってある。
万世の魔女、レンナ・エターナリストからの直筆の手紙が六通、麻ひもで括ってあった。
初めの手紙は、自分の都合でNWSを引き揚げさせなくてはならないことに対する詫び状だった。
それで不承不承納得したのだが、彼女から月一回の頻度で手紙が届くようになった。
時候の挨拶から、健康を気遣う優しい言葉、彼女自身の細々とした日常やニュース。そして、NWSの活動の様子を楽しく綴ってあった。
返事を書いたことはないが、気を悪くした様子もなく、自分を思って届く手紙
——これに勝る宝があるだろうか。
読んでいるうちに、NWSメンバー、一人ひとりの顔が浮かんでくる。
気持ちのいい連中だった。また来てほしいもんだが……。
そう思っては溜め息をつく毎日であった。
寝酒が空になって、やれやれと眠ろうとすると、ドアをノックする音が。
こんな時間に――民話の里の係員だったら、どやしつけてやろうとドアを開けると。
「こんばんは、サバラスさん。NWSです」
人の好い顔をした、白シャツの男が立っていた。
「……」
口をパクパクさせたまま、二の句が継げないサバラス老人。
「おい、じいさん。寝るのはまだ早いぜ。今夜は飲み明かそうじゃねぇか!」
無遠慮な言葉を吐く男には見覚えがなかった。
ひょこひょこと、端正な顔立ちの青年二人が後ろに控えている。
確かに見覚えがある。NWSのリーダーたちだ。
「な、なんじゃあんたら急に! どうしたんじゃ?」
老人の顔にみるみる喜色が宿る。
ランスが一言いった。
「遠くから友が訪ねてきたら?」
「……⁈」
全員がきょとんとなったが、ランスはもう一度質問を繰り返した。
「遠くから友が訪ねてきたら?」
老人ははっとして言った。
「両手を上げてもてなすこと!」
こわごわ老人が手を伸ばすと、ランスは両手伸ばして抱き合った。
「よう来た! よう来た! 待っとったよ」
涙を浮かべる老人の背中をトントンと優しく叩くランス。
「お待たせしてすみませんでした」
ほっと安堵するマルクとアロン。ノリヒトは例によって豪快に言ってのけた。
「なんだい、昔のCMのキャッチコピーじゃねぇか。牧師のくせに洒落てやがんなぁ」
目を真ん丸にするサバラス老人に、ランスは言った。
「NWSの特別顧問のノリヒトさんです。彼の忠言でやってきました」
サバラス老人は寝酒をちびちびやりながら溜め息をついた。
森の小屋には、ほとんど誰も来ない。
万世の秘法の拠点、民話の里から活動報告書が月一回届くが、そんなものには目を通したこともない。それが乱雑に本棚に積んであった。
暖炉と作り付けのベッド、簡易キッチン、テーブルと椅子四脚、ライティングビューローの他は何もない。
あとは町に降りて買ってくる出来合いのおかずとご飯で飯を食う。
その繰り返し……もうだいぶ慣れた。
妻は若い男を見つけてさっさと出て行った。息子を男手一つで育てたが、事情があって首都のマーチで家族と暮らしている。
頑固な父親のことなど忘れたようだ。
本当は気も狂いそうなほど人恋しい。
そうなってしまったのは、机の上に飾った写真が原因だった。
NWSとサバラスの集合写真——。
今年の初め、突然訪ねてきて、森の小屋を何とも賑やかにしていった、パラティヌスの環境修復団体だった。
仏頂面でロクに挨拶もしない老人の心を、持ち前の明るさで穏やかに包んでいった。
三か月も経つ頃には、親身になって話をするほどになっていた。
写真の日付は、2983.4.1。
その一週間後、彼らは来た時と同じように唐突にいなくなった。
万世の魔女が生命の樹の託宣を受けたのである。
その辺りの事情はよく知っている。
実は家族よりも大切にしている手紙が、机の引き出しにしまってある。
万世の魔女、レンナ・エターナリストからの直筆の手紙が六通、麻ひもで括ってあった。
初めの手紙は、自分の都合でNWSを引き揚げさせなくてはならないことに対する詫び状だった。
それで不承不承納得したのだが、彼女から月一回の頻度で手紙が届くようになった。
時候の挨拶から、健康を気遣う優しい言葉、彼女自身の細々とした日常やニュース。そして、NWSの活動の様子を楽しく綴ってあった。
返事を書いたことはないが、気を悪くした様子もなく、自分を思って届く手紙
——これに勝る宝があるだろうか。
読んでいるうちに、NWSメンバー、一人ひとりの顔が浮かんでくる。
気持ちのいい連中だった。また来てほしいもんだが……。
そう思っては溜め息をつく毎日であった。
寝酒が空になって、やれやれと眠ろうとすると、ドアをノックする音が。
こんな時間に――民話の里の係員だったら、どやしつけてやろうとドアを開けると。
「こんばんは、サバラスさん。NWSです」
人の好い顔をした、白シャツの男が立っていた。
「……」
口をパクパクさせたまま、二の句が継げないサバラス老人。
「おい、じいさん。寝るのはまだ早いぜ。今夜は飲み明かそうじゃねぇか!」
無遠慮な言葉を吐く男には見覚えがなかった。
ひょこひょこと、端正な顔立ちの青年二人が後ろに控えている。
確かに見覚えがある。NWSのリーダーたちだ。
「な、なんじゃあんたら急に! どうしたんじゃ?」
老人の顔にみるみる喜色が宿る。
ランスが一言いった。
「遠くから友が訪ねてきたら?」
「……⁈」
全員がきょとんとなったが、ランスはもう一度質問を繰り返した。
「遠くから友が訪ねてきたら?」
老人ははっとして言った。
「両手を上げてもてなすこと!」
こわごわ老人が手を伸ばすと、ランスは両手伸ばして抱き合った。
「よう来た! よう来た! 待っとったよ」
涙を浮かべる老人の背中をトントンと優しく叩くランス。
「お待たせしてすみませんでした」
ほっと安堵するマルクとアロン。ノリヒトは例によって豪快に言ってのけた。
「なんだい、昔のCMのキャッチコピーじゃねぇか。牧師のくせに洒落てやがんなぁ」
目を真ん丸にするサバラス老人に、ランスは言った。
「NWSの特別顧問のノリヒトさんです。彼の忠言でやってきました」
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