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第18話『訪れしもの』

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 その時だった。
(タイラー!)
 突然、オリーブがテレパスで呼びかけてきた。緊迫した声。
 ハッとしたタイラーの行動は素早かった。
 ヨーザンをその場に残し、小屋の中へテレポートした。
「どうした⁈」
「シッ!」
 オリーブは人差し指を唇に当てた。そして、手でタイラーを招くと、窓の外を指差した。
「あれ……!」
「!!」
 台所の窓の外に、乳白色の鎌首をもたげた巨大な蛇が見えた。
「月長蛇だ……!」
「えっ?」
「炎樹の森に棲む幻獣だよ」
 そう小声で説明するタイラーの手のひらに汗が滲む。
 その蛇が五右衛門風呂の周囲を囲った衝立に迫っていたのだ。
 迷っている暇はなかった。
 タイラーはテレポートして月長蛇と対峙した。
「どうしたんですか⁈」
 ヨーザンが慌てて小屋に入ってきた。
 オリーブは先ほどと同じようにヨーザンを誘導した。
「……!!」
 絶句するヨーザン。
 月長蛇は全身が視認できないほどの立派な体躯を誇っていた。
 半透明な鱗を持ち、その名の通り月長石のように淡く輝き明滅している。
 音もなく忍び寄る様は蛇そのもの。
 その顎に捕らえられたら最後、獲物は一飲みだ。
 タイラーは代表、レンナの言葉を思い出していた。
「炎樹の森は幻獣の棲み処。万武の赤は使わないでください」
 すると、残る手段は威嚇のみ。
 その右手に炎のオーラが揺らめく。
 月長蛇は何の反応もしない。いや、目を細めた。
 そして云ったのだ。
「小僧、その手をわずかでも動かしてみろ。生かしてはおかぬぞ」
「!」
 威厳に満ちた声。
 蛇に睨まれた蛙とはこのことだ。
 それでもタイラーは怖気ず戦闘態勢を取っていた。
(オリーブ、逃げろ!)
(そんなこと……!)
 できるわけないでしょ! とオリーブは心の底から叫んでいた。
 ヨーザンは父、サバラスに知らせようと、衝立の中にテレポートした。
(父さん……!)
 サバラス老人はとっくにそのことに気づいていて、風呂の中で成り行きを見守っていた――。
 タイラーの全神経全細胞が月長蛇に集中していた。
 冷たい、冷たい目。
 恐ろしく長い沈黙が、その場を支配していた。
 それを破ったのは月長蛇だった。
「……ほう、我と対峙しても膝を折らぬか。だがその手刀、誰かに向けたことがないだろう?」
「それがどうした」
 なりふり構ってなどいられなかった。
 全身全霊で愛する者のために立ち向かう。
 拳は牙となり、冷たく燃え上がった。
 月長蛇は舌をシャッと出した。紅蓮の炎のような細長い舌を。

















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