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第20話『ノリヒトたちの危惧』

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「おーっ、なかなか優秀じゃねぇの」
 ノリヒトがNWSの仕事ぶりを見て言った。
「これなら教えて回る必要もないな」
 トーマスが確かな手応えに頷いた。
「何人かは農家にスカウトしたいくらい筋がいいな」
 ルイがふむふむと考え込む。
「特にナタルっていうがたいのいい兄ちゃん、腰が入っていい仕事するな」
 トーマスが前に、ナタルが農家に生まれたかった、と言っていたのを思い出してそう評価した。
「そうだなぁ、見てくれだけじゃなくて、胆力もあるようだし、農家向きなんだと思うぜ」
 ルイも受け合った。
「いっそ本腰入れればいいのにな……例のやつが終わった後でもいいじゃないか。近くの休耕田管理してる国に掛け合って、NWS名義で借りる、とかさ」
「そいつはいいかもなぁ。こっちも人手が足りない時、手配してもらったりできるじゃないか」
「パーマカルチャー運動の事業化も、彼らの手を借りられるんなら事務や経理を任せてもいいし」
「そうだな。若いやつらが地に足をつけてないのも考えもんだしな」
 それを聞いてノリヒトがムキになって言った。
「なにも現実に仕事持ってるやつが、地に足をつけてるとは限んねぇぜ。運がいい分、おろそかになることもあらぁな。連中はそういう面で苦労してる分、変なあざとさがねぇ。連中が作ったもん食ったろ? あれも天のお恵みよ。頭でっかちになってるところがあるとすりゃ、不便ってもんの活かし方を知らねぇってことだろ。なぁに、そいつは俺たちが嫌って言うほど教えてやれる」
「それはそうだが。たぶん、彼らは社会人として横一列なところがあるんじゃないか? 有り体に言うと、人間に揉まれてないとか、挫折を知らないとか」
 トーマスが言って、ルイも頷く。
「なるほど、なまじ生活が保障されてる分、応用力に欠けるか……」
「片手間に農業やられちゃ困るからな。こうして見ていても、農業に向いてるのは10分の1……あとは興味本位か勉強がてら、ってとこで止まってる。それだけじゃ俺たちの仕事は務まらない」
「うん」
 トーマスの言葉に、ノリヒトも渋々頷いた。
「まぁ確かに、連中の中核が、代表に引き立てられるばっかりで何もしねぇって、説教ぶたれてたけどな」
「そうか……しかし、それはおまえも言ってた通り、俺たちが嫌っていうほど教えてやれる。自分から行かなくちゃいけないことが、山と積まれてるのが仕事だからな。人が自然が思い通りにならないってことを思い知ってからが本当の自立だ。ものになるかどうかは、結局彼ら次第、ということだな」
 トーマスの畳掛けに、ノリヒトはパタッと手を上げて下ろした。
 するとルイが思いついて言った。
「今思ったんだが……俺たちが童話の里に3人揃って呼ばれたのも、彼らの教育を担ってほしいっていう、天の思し召しなんじゃないか? 例のやつの中枢を任せるには、彼らは俺たちから見てあまりにも脆弱すぎるんだよ。成功の鍵はイメージ力って言うが、横風には滅法弱いのに、訳のわからん力に押し流されでもしたら、それこそ甚大な被害が出るぜ。——正直、この世界を掬い上げるのに、根本的なことが欠けてる気がするのは俺だけかな?」
「そいつは――それこそ組合長にでも掛け合わねぇことには、動かねぇことだと思うぞ?」
「ノリヒトはこのままでいいと思うか? 彼らの代表が世界の命運を握ってるんだぞ。それだけ共鳴しやすいってことだろう? 彼らが作った作物みたいに、奇跡だけで出来たもので世の中は成り立ってない。それを支える混沌とした土台があって、生き物の営みは連綿と続いてる。彼らに掬えるのは、その小さな完結した環の中だけ。少なくとも俺たちが共感できる世界じゃないと思わないか?」
 ルイの言葉に、ノリヒトは腕を組んで考えていたが、やがて言った。
「あのよ……俺たちが思し召しを食ってもしょうがねぇんじゃねぇか?」
「というと?」
「人には役割ってもんがある。連中が課せられてる、あるいは課してんのは、代表にクリアなイメージを届けるって特化したお題だろ? 混沌とした世の中ってのは、それとは相容れないもんだ。そいつを補うのは、他の誰でもない。生命の樹の役割だ。……もう神さんって言ってもいいだろうな」
「つまり、俺たちの領分じゃない?」
 トーマスが問い返す。
「こればっかりは勘繰ってもしょうがねぇと思うぜ。知ってることが正解だろうが間違いだろうが、なるようにしかならない! 世の中ってのは扱いが難しい。知らないものの強みってこともあるじゃねぇか。むしろ、その方が雑多なものを掬い上げるには向いてるかもしれねぇぜ」
 ノリヒトは班によって並び方が違う稲架掛を見て、落ち着くところに落ち着いた。


















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