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第21話『思わぬアプローチ』
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「何ですか?」
話の腰を折られて、パティが毅然と対応する。
男は相変わらず人好きのする笑みを浮かべて言った。
「お話の途中、申し訳ありません。土曜日限定でディナーサービスを提供しております。レディは1000Eで、前菜・メイン・デザートを召し上がれます。いかがですか?」
「要りません!」
「待って! いただきます。二人分お願いします」
「畏まりました。このお花はサービスです。どうぞ」
「ありがとう」
男は二人にそれぞれピンクのバラを手渡して、席を離れた。
「……どうしたんですか? リサさん」
「パティはわからなかったと思うけどね。あの人、このカフェの店長さんだよ。ちなにディナーサービスなんて聞いたことないし、レディ限定なんてもったいぶったこともしたことないよ」
「?」
「本当はこのバラも、赤いのがよかったのかもね……」
「リサさんがお目当てってことですか」
「違うと思うけど。あんたに「何ですか?」って言われた時の笑顔がとびっきりチャーミングだったわよ。それに――女性客なら他にもいるのに、いの一番にこの席に来たしね」
「……私⁈」
「他に誰がいるのよ」
「だって……仏頂面でスイーツやけ食いとか、変なとこしか見られてないのに!」
「あら、見る人から見ればわかりやすくてかわいいじゃない? それに、失恋だとしたら絶好のチャンス……」
「そんな……!」
「で、どう? 年上だけど、情熱的で大人で、しかもミステリアスだと思うんだけど」
「えっとぉ……本当に私目当てですか?」
「自信がないの? 絶対パティ目当てよ。厨房をのぞいたら、たぶん自分で前菜盛って、自分好みで血が滴るようなステーキ焼くつもりなんじゃない」
「……!」
「まぁ、さっきの今で気持ちの整理がつかないのはわかるけど、人生一期一会。また会えるかどうかわからないんだから、次の一手が来るわよ。心の準備はいい?」
「ちょ、ちょっと待ってください。私……!」
「ほら、来た!」
リサが言ってすぐに、店長は踊るような足取りでやってきた。
「お待たせしました。季節の野菜とキノコのグリル、マンゴーソース和えです」
見た目に華やかな前菜だった。上品で気が利いていて、女子の心を鷲摑みだ。
「わぁ……」
パティは虚を突かれて、これしか言えなかった。
もちろん、こんな料理はメニュー表には載っていない。
リサが店長に声をかけた。
「レディ限定は効きましたか?」
店長は快活に笑って言った。
「いいえ、お客様だけのスペシャルメニューになってしまいました。ただいま血が滴るようなステーキをお持ちしますよ」
去り際に投げキッスまで飛び出した。
話の腰を折られて、パティが毅然と対応する。
男は相変わらず人好きのする笑みを浮かべて言った。
「お話の途中、申し訳ありません。土曜日限定でディナーサービスを提供しております。レディは1000Eで、前菜・メイン・デザートを召し上がれます。いかがですか?」
「要りません!」
「待って! いただきます。二人分お願いします」
「畏まりました。このお花はサービスです。どうぞ」
「ありがとう」
男は二人にそれぞれピンクのバラを手渡して、席を離れた。
「……どうしたんですか? リサさん」
「パティはわからなかったと思うけどね。あの人、このカフェの店長さんだよ。ちなにディナーサービスなんて聞いたことないし、レディ限定なんてもったいぶったこともしたことないよ」
「?」
「本当はこのバラも、赤いのがよかったのかもね……」
「リサさんがお目当てってことですか」
「違うと思うけど。あんたに「何ですか?」って言われた時の笑顔がとびっきりチャーミングだったわよ。それに――女性客なら他にもいるのに、いの一番にこの席に来たしね」
「……私⁈」
「他に誰がいるのよ」
「だって……仏頂面でスイーツやけ食いとか、変なとこしか見られてないのに!」
「あら、見る人から見ればわかりやすくてかわいいじゃない? それに、失恋だとしたら絶好のチャンス……」
「そんな……!」
「で、どう? 年上だけど、情熱的で大人で、しかもミステリアスだと思うんだけど」
「えっとぉ……本当に私目当てですか?」
「自信がないの? 絶対パティ目当てよ。厨房をのぞいたら、たぶん自分で前菜盛って、自分好みで血が滴るようなステーキ焼くつもりなんじゃない」
「……!」
「まぁ、さっきの今で気持ちの整理がつかないのはわかるけど、人生一期一会。また会えるかどうかわからないんだから、次の一手が来るわよ。心の準備はいい?」
「ちょ、ちょっと待ってください。私……!」
「ほら、来た!」
リサが言ってすぐに、店長は踊るような足取りでやってきた。
「お待たせしました。季節の野菜とキノコのグリル、マンゴーソース和えです」
見た目に華やかな前菜だった。上品で気が利いていて、女子の心を鷲摑みだ。
「わぁ……」
パティは虚を突かれて、これしか言えなかった。
もちろん、こんな料理はメニュー表には載っていない。
リサが店長に声をかけた。
「レディ限定は効きましたか?」
店長は快活に笑って言った。
「いいえ、お客様だけのスペシャルメニューになってしまいました。ただいま血が滴るようなステーキをお持ちしますよ」
去り際に投げキッスまで飛び出した。
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